実録! ブンヤ日誌

第6回 羽生善治流カレーライスの食べ方

2010.04.19更新

4月から担当に将棋が加わりました。これで現在、政治・社会・事件・人物・書評・街ネタ・将棋・etc・・・を担当していることになります。逆説を説けば、担当などない、ということですね。ちなみに囲碁担当なるものは存在しません。

将棋と言えばハブさん。羽生善治名人(厳密に言うと、現在は名人・王座・棋聖のタイトル3冠を保持)です。誰もが知っている唯一の棋士でしょう。

16日、東京は千駄ヶ谷の将棋会館で昨年度の将棋大賞表彰式がありました。羽生名人は3年連続17回目(!)の最優秀棋士賞を受賞です。式が終わった後、スキを見て名刺を渡し、挨拶しました。

「はぶ先生、ホーチの北野といいます。新しく記者会に入りました」

「あ、どーもー。それはそれは。よろしくどーもお願いします」

スッとフトコロから名刺を出し、頭を下げる名人。1秒の沈黙の後、恐れていた問い掛けがやってきました。

「ちなみに将棋の方は・・・やられるのですか」

「イ、イヤ、これが恥ずかしいんですけど、ズブの素人でして。正直、ルールを知ってる程度です。ホント、神をも恐れぬ・・・。勉強します!」

「いやまあ、十分じゃないですか。よろしくお願いします」。満面の笑み。羽生名人はとっても優しい人のようです。いろいろ質問もしてみましたが、すべて誠実に答えてくれました。

その後、研修室という名の味も素っ気もない部屋で祝賀会が始まりました。主催者でもない僕が「ささやか」と言うのもなんですが、ささやかな立食パーティーでした。そこで僕は、恐るべき光景を次々と目にしたのです。

関係者と歓談しながら、いろんなものをつまんではパクパク食べている羽生名人が取り皿を片手に持ちながら、もう片方の手でテーブル上のビール瓶、オレンジジュースの瓶、ウーロン茶の瓶を美しく並べ直し、すべてラベルが手前を向くように揃えていくのです。おそらく、盤上の駒を操るように、目の前のものを理路整然と並べないと気が済まなくなってしまうのでしょう。まさに職業病。こりゃすごい、と唸っていたら、次の瞬間でした。

カレーをよそおうとする羽生名人が、皿の中央に広げたご飯の、さらに真ん中にルーをかけていくのです。米からこぼれないように、慎重な手つきでお玉を3すくい。通常、カレーというものは、若干片側に寄せたご飯の逆サイドからルーを流し込んでいくもの。なんじゃこれ、と思っていたら、さらに度肝を抜かれました。羽生善治がカレーライスをハシで食べたのです。すぐ隣でスプーンたちが鎮座しているにもかかわらず、です。器用な手つきで実においしそうに食べているのです。

しばし考えてみると、合点がいきました。あえてご飯の上にルーを完全にオンさせることで、ハシで食べることを可能にしたのです。ならば、なぜあえてハシを。おそらく、羽生名人は、日頃から指先を使うことで少しでも脳をトレーニングするということを己に課しているのではないでしょうか。恐るべし・・・。

今後、羽生名人と世間話をするチャンスがあれば、こっそり聞いてみたいと思っています。「なんでカレーをハシで食べるんですか」と。新しい担当における密かな、そして下らなくも大切な目標が生まれました。

【追記】

前回の本コラムで記述した後、巨人・木村拓也内野守備走塁コーチが亡くなりました。心よりご冥福をお祈りいたします。

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北野新太(きたの・あらた)

1980年1月、石川県七尾市生まれ。
学習院大学法学部政治学科在籍中に雑誌「SWITCH」で雑誌編集を学び、卒業後の2002年に報知新聞社入社。以来、編集局勤務。担当遍歴は、日韓W杯—常総学院—柏レイソル—社会—映画—音楽—アテネ五輪—社会—読売巨人軍—和田アキ子 —NHK—社会(現所属)とムチャクチャ。猫背の完治が生涯の目標だが、巨人・原辰徳監督に「生き方が曲がってなければいいんだ!」とエールを送られたため、とりあえず先延ばし中。好きな言葉は「人間には、燃え尽きる人間と、そうでない人間と、いつか燃え尽きたいと望み続ける3つのタイプがあるのだ」

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