実録! ブンヤ日誌

第9回 王者たちの踊り

2010.06.07更新

さてさてW杯です。さあ、いよいよW杯!と元気よく気勢を上げることのできない心中は、お察し下さい。奇妙なほど盛り上がっておりません。南アは遠いし、岡田ジャパンは弱いし、カズはいないし・・・。ただただ、日本戦で右肘を骨折したドログバの出場を願うのみです。仮に全戦欠場なんて事態になろうもんなら、在コートジボワールの邦人はどんな顔して天下の往来を歩けばいいのでしょう? むしろ生きた心地がしないでしょう。闘莉王を責めることはできませんが、とりあえずオウンゴールへの嗅覚だけは封印してもらいたいものです。

02年に入社して、すぐ迎えたのが日韓W杯でした。あの6月は列島全体が熱に浮かされていました。ベッカムヘアに大五郎ヘア、もう大騒ぎです。僕も運動部の一員として、ヒデを取材・・・いや、スタンドで「100人アンケート 俊輔は必要だったか否か」などに奔走しておりました。

決勝でブラジルがドイツに勝った夜のことです。期間中最後の新聞を作り終え、ビールと柿ピーによる打ち上げが終了した午前2時にデスクから指令を受けました。「おいルーキー、ブラジルが千駄ヶ谷のブラジル料理屋でドンチャン騒ぎしてるらしいから見てこい」

先輩に連れられ、スタコラサッサと現場に行くと、いるわいるわのセレソン祭です。店の中には入れなかったのですが、ロナウドだのリバウドだのカフーだのが、夜風に吹かれに外に出てくるのです。どこに掛けるのか、携帯電話でハイテンションにしゃべりまくっていたロベルト・カルロスは、我々2人を発見すると「おいお前ら、なんてシケた顔してやがんだ。いいよ、店に入れよ。踊りまくろうぜ! オレが許す!」(ジェスチャーから想像されたポルトガル語翻訳)と誘ってくれるではありませんか。ためらいがちにドアのすき間から店内の様子をのぞき込むと、まさに「リオのカーニバル緊急増刊号」的なカオスが展開されています。大五郎ヘアのロナウド、たった数時間前に決勝のピッチで優勝と得点王を決定するゴールを奪った男はホロ酔い加減で踊りまくっています。ジーコもいました。どっから調達したのか、わけのわかんない美女もたくさんいました。みんなが勝利の美酒に酔い、肩を組んで歌い、終わりなきダンスに狂っていました。

空気を読んで入店は断念しましたが、先輩から悪魔のささやきが。「サインもらっちまう?」。完全な職権濫用ですが、むろん異存はありません。刷り上がった新聞を持ってきていた我々は「ここに書いてくれ」とジェスチャーすると、我がスポーツ報知が店内を回覧したのです。ロナウド、リバウド、ロナウジーニョ、ロベカル、カカ、カフー・・・。うおおおお!

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あれから8年。人や物事に変化を及ぼすには十分な月日です。当時パリ・サンジェルマンという1.5流のクラブに所属していたロナウジーニョは、バルセロナで世界最高のファンタジスタとなった後に輝きを失い、南ア大会の選にもれました。パーティーに居合わせたジーコは直後から日本代表の指揮を執り、そしてドイツW杯で惨敗します。今は・・・何してるんでしたっけ?

そして月日が経つに連れ、変化するものと言えば・・・サインの価値。「開運! なんでも鑑定団」に評価をお願いしたいなあ、とボチボチ思い始めた今日この頃であります。

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北野新太(きたの・あらた)

1980年1月、石川県七尾市生まれ。
学習院大学法学部政治学科在籍中に雑誌「SWITCH」で雑誌編集を学び、卒業後の2002年に報知新聞社入社。以来、編集局勤務。担当遍歴は、日韓W杯—常総学院—柏レイソル—社会—映画—音楽—アテネ五輪—社会—読売巨人軍—和田アキ子 —NHK—社会(現所属)とムチャクチャ。猫背の完治が生涯の目標だが、巨人・原辰徳監督に「生き方が曲がってなければいいんだ!」とエールを送られたため、とりあえず先延ばし中。好きな言葉は「人間には、燃え尽きる人間と、そうでない人間と、いつか燃え尽きたいと望み続ける3つのタイプがあるのだ」

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