実録! ブンヤ日誌

第45回 名手に会う

2012.04.09更新

朝、目覚めて「あ、今日は木曜日だ」と知ると、ちょっぴりうれしい気分になります。何のことはありません。週刊文春の発売日だからです。学生時代から読んでおりましたから、購読歴はかれこれ10数年になりますでしょうか。理由は細かく言えばいろいろあるんですけど、まあ人間同士の相性のようなもので、なんか好きなんですね。なかでも、毎週変わらず楽しみにしているのが阿川佐和子さんの対談連載「阿川佐和子のこの人に会いたい」です。読んで面白いのはもちろんのこと、インタビューの教材としても参考になりますので、どんな談話に対し、どんな問い掛けをしているかを、いつも注視しながら読んでいます。
過去の対談を集めた文庫本まで読破するほどのフリークなのですが、とりわけ我がマスターピースとして君臨するのは2002年、初めて監督になった原辰徳の対談です。

阿川 ヘッドコーチ時代と比べると、生活が変わられましたか。
  いや、まだキャンプの時期だから。シーズンが始まって勝ち負け的な部分が入るとどういうふうになるのか、ま、これも楽しみですね。僕はいつも人生楽しみで生きてる感じがします。
阿川 辛かった時期はないですか。
  ありますよ。でも、それを乗り越えるのも一つの楽しみじゃないですか。
阿川 原さんは長嶋監督の下で選手をしてらしたとき、一番辛かったんじゃないですか。
  うーん(と考えた後で)、・・・いえ、選手のときは辛いと思ったこともあるけど、楽しかったですよ。
   <中略>
阿川 今年はサッカーのワールドカップもありますけど、意識はされますか。
  意識はありますし、僕も今から楽しみではあるんですよ。
阿川 何でも楽しみなのね(笑)。
  僕の前には、いつでも太陽が燦々と昇ってる状態なんですよ。沈むことを知らない太陽が。
阿川 夕日はないの?
  ないです。60過ぎたら、夕日を見ながらのんびりするほうがいいですけどね。今はいつでも沈まない太陽がいて、ホント楽しみばっかりだなあ。

(『阿川佐和子のワハハのハ この人に会いたい4』阿川佐和子)

長嶋茂雄の存在を示唆するかのような「沈むことを知らない太陽」という言葉を引き出して、原の最大の魅力である先天的楽観性を描きつつ「夕日はないの?」と叙情的に切り返すセンス・・・。達人の域です。
さらに、読めば読むほどキュートな一面にも惹かれていきますから、当然のごとく「この人に会いたい」との思いを以前より募らせていました。そして、ようやく今回、いろんなタイミングがうまくいき、会いに行くことになりました。

<4月3日本紙掲載分より>
 作家・エッセイストの阿川佐和子さん(58)の新刊『聞く力 心をひらく35のヒント』(文春新書、840円)が発売約2か月で20万部を突破するベストセラーになっている。週刊文春の対談連載で知られるインタビューの名手が明かす極意「2秒の法則」とは何か。(北野新太)

 「インタビューとは〇〇である。〇〇に入る言葉は」という質問に「う~ん。何かな~」と7分間も考えた末、阿川さんは答える。「インタビューとは、普段いかに人の話を聞いていないかを気付ける行為である、かな」。カッコイイとは言い難い回答に、謙虚な人柄が表れていた。
 週刊文春の対談連載「阿川佐和子のこの人に会いたい」で知られる名インタビュアーが人に話を聞くヒントを初公開。とはいえ、いわゆるノウハウ本ではない。城山三郎、北野武、笑福亭鶴瓶、松井秀喜、黒柳徹子、遠藤周作ら著名人との逸話(失敗談も多数)をたっぷり盛り込んだ読み物に仕上がっている。「いつも『失敗したらどうしよう』と恐怖なんですけど、大抵は会ってみれば『いい人じゃな~い♪』ってなる。洗脳されやすいのかな。生身の人間に2時間会うと、だいたい情は移りますよ」
 そんな阿川さんに「究極の極意は?」と尋ねると「ないス」と即答しつつ「2秒の法則」を披露してくれた。「たとえばね『私、もうシワだらけよ・・・』って言ったとき、すぐ1秒後に『そんなことないですよ』と返されても、3秒待って『いやいや』と言われてもウソっぽい。ちょうどいいのは2秒くらい。話す上で、間(ま)はとっても大事なんです。別に2秒は絶対数値じゃないですけどね」
 最後に、聞き手としての記者の力を評価してもらうと「・・・よろしいんじゃないですか? スポーツ新聞だから警戒した方がいいのかなと思いつつ、好意を持てましたから。いま最初の間が3秒あったけど大丈夫?・・・ウソウソ。2秒2秒」。ショボいインタビューを展開したにもかかわらず、心地良く帰途に就かせてくれたのも、これまた名手の妙技だった。


インタビューを始める前に、いかに阿川対談を愛読しているかを伝えました。「2002年の原さんのとか、最高ス」などと申すと「あ~、僕の目の前には沈まない太陽が・・・ってヤツ?」と正確に記憶されていたので「巨人担当をしていた時も原さんの口からあんな言葉は聞いたことないですよ」と返すと「えっ! 四六時中あんなこと言ってるのかと思ってた!」。謙遜のようでもありつつ、本心で言っているように目を丸くしていました。
不思議なもので、初めて会ったにもかかわらず、過去に何度か会っていて、久しぶりに再会したような錯覚を与えてくれる人でした。

「私、対談が何年か続いた時に新聞に『阿川の人柄もさることながら、構成をする書き手が素晴らしい』と書かれたんです。ひがんだんですけど、人柄がホメられるだけで十分じゃないかと今なら思えるんですよ。信頼できるかどうかというのは、話をしたり聞いたりする上で、とっても大事なことだと思います。素晴らしい質問をする以前に、好意を持てるか持てないか。コイツは悪人じゃなさそうだ、から心を開いていく。初対面で会った時に本能でわかるものですよ」

取材は午後6時に始まり、同席した編集者はすぐに「じゃあ7時まででお願いします」と言い残して中座しました。結局、終わったのは7時半。「内緒にしときますからね」。笑顔で言う阿川さんとともに文春の社屋を出ると、別れ際に彼女は手を振ってくれました。「じゃあまたねー。さようならー。記事楽しみにしてまーす」
また会いたいなあと思って、ついつい笑顔になっちゃいました。そんな力が名手の名手たる所以なんですね。


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北野新太(きたの・あらた)

1980年1月、石川県七尾市生まれ。
学習院大学法学部政治学科在籍中に雑誌「SWITCH」で雑誌編集を学び、卒業後の2002年に報知新聞社入社。以来、編集局勤務。担当遍歴は、日韓W杯—常総学院—柏レイソル—社会—映画—音楽—アテネ五輪—社会—読売巨人軍—和田アキ子 —NHK—社会(現所属)とムチャクチャ。猫背の完治が生涯の目標だが、巨人・原辰徳監督に「生き方が曲がってなければいいんだ!」とエールを送られたため、とりあえず先延ばし中。好きな言葉は「人間には、燃え尽きる人間と、そうでない人間と、いつか燃え尽きたいと望み続ける3つのタイプがあるのだ」

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