実録! ブンヤ日誌

第50回 実録ブンヤ日誌

2012.06.20更新

6月1日(金)
いきなり休日。
休日なのに京都市で行われている将棋の第70期名人戦第5局に赴く。
森内俊之名人、挑戦者の羽生善治2冠が両者2勝で臨んだ正念場は、先手の森内が貴乃花の寄り切りみたいに手堅い寄せで勝利。

終局後、対局室のスミッコで1時間半ほど感想戦を眺める。
羽生は立会人や副立会人から指し手についての別意見が出る度に「そうでしたか~」と感心してみせるのだが、手を進めていくと別意見には必ず破綻があり、羽生の指し手こそ最善手だったことが判明する。

僕の前方では谷川浩司九段が微動だにせず正座を続け、じっと盤上を見ている。
視界のなかに17世、18世、19世と3人の永世名人がいる。
ほとんどの人には通じないだろうが、すさまじく壮観な光景である。

感想戦が終わった後、谷川は菩薩のような笑顔で「あれ、今日はまた」と声を掛けてくれる。
「将棋が大好きなので来ました」と答える。
まごうことなき本心だ。会場のウェスティン都ホテルからタクシーを飛ばして京都駅まで戻り、深夜バスに乗り込む。

翌朝5時40分、八王子到着。体のフシブシが痛い。
自費で何やってんだ、オレ。

6月2日(土)
家に戻って身支度して再出発。昼、サザエさんの地元・桜新町。
1本髪をいたずらで抜かれてしまった波平さん銅像の植毛式を取材。
植え役を務めたやくみつるの「ボクの方が植毛の先輩ですから」発言に一同沈黙・・・。
その後、すぐさま竹橋のマイナビへ。
将棋(またかよ)のマイナビ女子オープンチャレンジマッチで里見香奈女流4冠の妹・咲紀ちゃんらを取材。

6月3日(日)
夜に異変。
共同通信の配信放送で「キンコンカンコーン!!」と鐘が鳴り響く(重大ニュースの判明時に鳴る)。

「オウム真理教・菊地直子容疑者を確保」。

さあ大変。
会社に社会部員はひとりしかおらず、とにかく材料をかき集めて全部書く。
マラソンが得意な菊地が麻原彰晃からアトランタ五輪出場に向けたスパルタ特訓を受けていたことを知る。へ~。

6月4日(月)
菊地余波。午後は白夜書房で野々村直通さんのインタビュー。
2年前のセンバツで「21世紀枠に負けたのは末代までの恥。腹を切る」とおっしゃった監督さんです。
人がよく言う「死ぬ気で~をする」という言葉の本当の意味を知る。後、夜勤。

6月5日(火)
翌日のAKB総選挙に備え、群馬・上武大で田中秀臣教授を取材。
「AKB48の経済学」の著書がある田中教授からは、AKBのことだけでなく、誠実であることの大切さをあらためて教わった。

6月6日(水)
AKB総選挙。武道館に出向く。
将棋界随一のアイドルフリーク・高橋道雄九段の観戦記を担当。
柏木由紀が推しメンの高橋九段からはAKBのことだけをたっぷりと教わった。
2位が渡辺麻友に決まった瞬間、つまり大島優子がセンターに決まった瞬間から5分以内に提稿。プロ野球担当時代を思い出す。

6月7日(木)
終日、菊地余波。

6月8日(金)  
早朝から東京湾岸署を張り込む。
担当の滝本太郎弁護士を待っていると「滝本解任」の一報が舞い込む。おいおい。

移動し、将棋会館の隣のビルで行われていた「棋士総会」を最後の5分間だけ取材。
金を巡る議論で紛糾していた。閉会後、中村太地六段と再会。

「記事、ありがとうございました!」。

タイチくんは24歳ながら現在、棋聖戦で羽生2冠に挑戦中という有望イケメン棋士なのだが、実に腰が低い。

「高橋先生の観戦記も読みました。あれ・・・すごいですね・・・」。

なにやら我が観戦記のコピーが棋士の間で出回ったとか。実に嬉しい。
高橋九段とも2日ぶりに再会。感謝される。ホッ。
棋士は皆とても優しい。

6月9日(土)、10日(日)
渾身の連休。今度は休む。
山梨・清里で地元民から「クマが出るから気をつけて」と事前に言われた森のなかでテント泊。怖い。

6月11日(月)
終日、高橋逮捕間近関連。

6月12日(火)
内勤。高橋逮捕間近関連。後、夜勤。

6月13日(水)
終日、横浜・関内で「セクシー居酒屋ふじこちゃん」摘発取材。
18歳未満の女の子にTバックをはかせて腰を振らせていた、などと警察から聞き出す・・・。

6月14日(木)
終日、浦和学院野球部員がJR高崎線内で痴漢した件の取材。
センバツベスト8メンバーがどのように女の子の尻をまさぐったのか、などをやはり警察から聞く・・・。

6月15日(金)
午前10時、テレビのテロップで「高橋容疑者とみられる男を確保」の一報が流れると同時にデスクから電話。とにかく蒲田へ急行。

最後の潜伏先である漫画喫茶には、既に報道陣が殺到。
混み合う現場で3時間も身動きが取れず。脱水死寸前。

漫喫の店長が取材に応じる、とのことで100人ほどの報道陣はずっと店外で待っていたのだが、途中で日テレの情報番組「ミヤネ屋」のみが店内での中継を開始。
全報道機関がブチギレ。「突入しますよー!」「なんでミヤネ屋だけなんスかー!」。
暴言が飛び交う。一段落したのを見計らって、将棋連盟へ。

生きた伝説・加藤一二三九段インタビュー。
さすがに元名人に「取材日ずらして下さい」とは言えない。
内容は新聞未掲載につきヒミツ。ふたたび蒲田へ。

夜、漫喫の店長が店内を報道陣に公開。潜入すると、目の前には「克也シート」。
たった数時間前、ヤツはここに・・・。帰社。
そういえば朝から何も食べてない。カップラーメンをすする。
27時に帰宅。

6月16日(土)
終日、高橋余波。懸賞金1000万円の行方などを調べる。

6月17日(日)
「当選無効問題の渦中にある美人すぎる市議に、美人すぎる区議が苦言」という予定通りの記事をつくることに成功。

港区の小田亜紀区議は初当選の前からの仲だが、相変わらず優しい。
新座市の立川明日香市議に爪の垢を煎じて飲ませてあげたくなる。
気合入れて撮った写真が異例の7段ブチ抜き。翌朝、小田さんに感謝される。
「田舎の母がビックリしてました」。夜勤。
27時に帰宅後、33時まで別のインタビュー記事を書く。

6月18日(月)
終日、高橋の潜伏先だった鶴見周辺を取材。眼鏡をつくった眼鏡屋でガッツリ取材。

「両手をグーにしてカードに記入してましたよ。指紋を付けたくなかったんですかねえ」

キター。翌日の紙面はイラストつきで「高橋グーで書いた」の見出しに。
「ミシマガジン」のネタに困る。AKBとオウムを候補として頭に浮かべながらも、残念ながら、さしこにも高橋にも直接話を聞いたことがない。
断念。残念。無念。どうしよう・・・どうしよう・・・締め切りは明日の朝だよ・・・。

帰宅途中の電車内、羽生2冠の「先を読む頭脳」を読む。
羽生が藤井猛九段考案の戦型「藤井システム」を「何十年かに一度の大発見」と評し、児玉孝一七段の「カニカニ銀」に至っては「100年間将棋を指しても思いつかない」としたくだりを読んでいた瞬間、神の啓示を受けるように「新手」を思いつく。

「あ、タイトル通りに日誌スタイルで書けばいいんじゃないか・・・」。

刻んでいけば、浅い取材をゴマかせるかもしれない。
過去の当コラムを読んで「全然、日誌じゃねーじゃん」と思われた方へのささやかな反論にもなるのではなかろうか・・・。

題名は「実録ブンヤ日誌」としよう。アルバムのタイトルチューンみたいで、ちょっとオシャレな空気を醸し出せるかもしれない。
よおし決まった。書き始めるぞう・・・と思ったら書き終わっていた。

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北野新太(きたの・あらた)

1980年1月、石川県七尾市生まれ。
学習院大学法学部政治学科在籍中に雑誌「SWITCH」で雑誌編集を学び、卒業後の2002年に報知新聞社入社。以来、編集局勤務。担当遍歴は、日韓W杯—常総学院—柏レイソル—社会—映画—音楽—アテネ五輪—社会—読売巨人軍—和田アキ子 —NHK—社会(現所属)とムチャクチャ。猫背の完治が生涯の目標だが、巨人・原辰徳監督に「生き方が曲がってなければいいんだ!」とエールを送られたため、とりあえず先延ばし中。好きな言葉は「人間には、燃え尽きる人間と、そうでない人間と、いつか燃え尽きたいと望み続ける3つのタイプがあるのだ」

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