実録! ブンヤ日誌

第53回 作家・イチロー・五輪とその周辺

2012.08.06更新

7月23日(月)
受賞決定からわずか6日の新直木賞作家・辻村深月さんインタビュー。同じ1980年の早生まれで、初めて劇場で見た映画が共に「ドラえもん のび太と鉄人兵団」であることが判明。彼女の藤子・F・不二雄ラブは尋常ではなく「パーマン」を史上最高のラブストーリーと称するほどだ。ドラえもん話は、制さなければ一晩中でも話すだろう。思わず「宇宙小戦争(リトルスターウォーズ)の主題歌『少年期』(武田鉄矢)が死ぬほど好きなんですけど」などと口を滑らせると「あれは名曲。名曲すぎて1年に1回しか聴かないようにしています」と、おおいに同意を得る。「好きなアイテムは?」との問い掛けへの答えが素敵だ。

「マニアックなアイテムを挙げる人も、どこでもドアが欲しいに決まってるんですよ。でも、即物的に一足飛びで行くどこでもドアではなく、6時間飛んだら2時間休まないといけないタケコプターのような人生でありたいんです。空を飛んでみたいという憧れを持ち続けることの方が大事なんだって。どこでもドアがどれだけ欲しくても、頑なにタケコプターで飛ぶ人生であろうと」

つい、空高く舞い上がって飛行する新直木賞作家の姿を想像する。


7月24日(火)
朝、目が覚めてテレビをつけるとイチローの会見。なんとヤンキースに電撃移籍。時間があったので、初打席のセンター前ヒットを見届けた後、西日暮里の開成高校に出向く。「偏差値38のスマイリーキクチの著書が東大合格者数31年連続1位の超難関校の教材&中間テスト問題に採用!」取材。人生で開成学園の門に足を踏み入れることがあろうとは・・・。先生たちは勉強至上主義などではさらさらなく、自由な感じでした。なんせスマイリーを教材にするくらいですし。

帰り際、なにかイチローネタはないだろうかと熟考を重ねた結果、新背番号にビビッ。「あ、31と言えばアイスクリームじゃないか」。さっそく電話。目黒の「サーティワンアイスクリーム」本社に走る。担当氏は「背番号が31と聞いた瞬間は会社が沸きました」と笑顔。これしかない。翌日の紙面はイチローの後ろ姿とともに「31アイスクリーム 超おいしい」の大見出し。Yahoo!トピックスに。よーしよしよし。


7月25日(水)
北区のナショナルトレーニングセンターへ。各競技の強化指定選手が日頃食べている食堂の試食会。「チキンのポテトサラダ焼」なる一皿が美味。意外にも濃い目な味付けなのは「いくら健康にいいものでも、食べていただかないと始まりませんので」(管理栄養士)。なるほど。勝手に「金メダリスト養成メニュー」などと称して書く。


7月26日(木)
なでしこ初戦で先制ゴールを挙げた川澄ネタについて思案した結果、彼女が最も愛するファッションブランド「ローリーズファーム」への取材を決断。しかし、当方は「CUTiE」でも「mina」でもなく「スポーツ報知」ゆえ、難航。しかし「5分だけでも!」と5時間ほど粘りまくって担当者の若き女性と会わせていただくと、わりかしウマが合う。女子の皆様、この秋はスタジャンが流行するらしいですぞ。そして「川澄さん限定で秋冬新作試着会開催します」なる苦しい原稿が紙面に。


7月27日(金)
新芥川賞作家・鹿島田真希さんインタビュー。ドストエフスキーの作品に魅了されて17歳でロシア正教の洗礼を受けた彼女は、意外にも「名探偵コナン」好き。辻村さんとの「新芥川・直木賞作家はアニメ好き」との見出しが浮かぶ(後日、実際にそうなった)。鹿島田さんの話で最も驚いたのは、推敲のすさまじさ。「受賞作は110枚書いては捨て、を10回繰り返しました。だから110枚を書くために1年間で1000枚以上は書いたんですね。ここまで長く書き直したことはありません。 深いこと、大きなことを簡単な言葉、身近な題材で表現するのはとても難しいです」。軽い推敲で「ファーストタッチこそ最上だ」などとゴーサインを出す我が身を恥じる。


7月28日(土)
五輪開幕。開会式でポール・マッカートニーが「ヘイ・ジュード」を歌った話をなぜか書く。

「実は演奏直前に機材トラブルが発生。事前録音の音源が流れない状況だったが、顔色ひとつ変えず生演奏に切り替え、歌詞のメッセージを選手たちに伝えた。
♪さあ始めるんだ 誰かが助けてくれるのを待つのかい? ダメだよ やるのは君なんだ やるべきことは君自身が抱えているんだ
 『ヘイ・ジュード』は1968年、ジョン・レノンが当時の妻と不仲になった際、息子のジュリアンを励ますためにポールが作曲。計1300万枚を売り上げ、今も世界中で歌い継がれる名曲だ」(抜粋)

書くのが楽しくってしょうがないという記事が稀に存在するが、上記は典型例である。


7月30日(月)
日本選手団の銀メダルを獲得した重量挙げ・三宅宏美の所属先「いちごグループホールディングス」を取材。岩崎謙治代表執行役社長がわざわざ時間を設けてくれて、話を聞く。「いちご」はストロベリーではなく「一期一会」が由来。「彼女はものすごく謙虚で礼儀正しいんです。ロンドン行きの前にご両親も一緒に焼肉を食べに行ったんですけど、焼けたものから全員に取り分けてくれるような女性です。帰り際も見えなくなるまでお辞儀していたり」。目に浮かぶようだ。

8月1日(水)
金メダル1号となった柔道・松本薫が住む東京都多摩市を取材すると、行きつけの整体院を発見。担当の整体師に話を聞いたついでに、猫背を矯正してもらうべく施術していただく。「こりゃ相当疲れてるねー」などと声を掛けられつつ、パキッポキッ。心身ともに癒され「・・・これが金メダルマッサージですか・・・」

8月2日(木)
内村が体操個人総合で金。小平市の「有楽製菓」を訪ね、世界王者が偏愛するチョコレート菓子「ブラックサンダー」について話を聞く。五輪前の差し入れで発売前の豪華バージョン「ブラックサンダーX」を送り届けていたことが明らかに。だから何なのだ、と言ってはならないことにしている。金メダリストについては些細なことでも事件なのだ。と信じたい。

8月3日(金)
競泳平泳ぎで銀・銅メダルを獲得した鈴木聡美の幼少期の頃の恩師に電話してみると「5月に電話したんですけどね、あいつ、メダル取ります、とかじゃなくて、私、声優になります、とか言い出すんですよ」と衝撃の逸話を披露。調べてみると、彼女は「戦国BASARA」の長曾我部元親の大ファン。長曾我部の声を担当し、鈴木とも親交のある声優さんにコメントを取り、執筆。よーし。

8月6日(月)
ミシマガジンの締め切りは迫っても五輪は続く。フェンシング男子団体銀、卓球女子団体銀以上確定、室伏銅メダル、ボルト2連覇・・・。さて困った。今日は何を取材すべきか。どうしよう・・・どうしよう・・・。

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北野新太(きたの・あらた)

1980年1月、石川県七尾市生まれ。
学習院大学法学部政治学科在籍中に雑誌「SWITCH」で雑誌編集を学び、卒業後の2002年に報知新聞社入社。以来、編集局勤務。担当遍歴は、日韓W杯—常総学院—柏レイソル—社会—映画—音楽—アテネ五輪—社会—読売巨人軍—和田アキ子 —NHK—社会(現所属)とムチャクチャ。猫背の完治が生涯の目標だが、巨人・原辰徳監督に「生き方が曲がってなければいいんだ!」とエールを送られたため、とりあえず先延ばし中。好きな言葉は「人間には、燃え尽きる人間と、そうでない人間と、いつか燃え尽きたいと望み続ける3つのタイプがあるのだ」

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