実録! ブンヤ日誌

第61回 総理のバックドロップ、総裁のジャーマン

2012.12.11更新

11月14日(水)
民自の党首討論で野田首相が16日の電撃解散を宣言。おいおい。選挙だよ。立候補者の戦いの幕が開き、取材者の戦いの号砲が鳴る。休日という概念は消滅する。ふう。

16日(金)
衆院解散。よ~いドン。私にとっては4度目の国政選挙取材だ。

21日(水)
自民党の政権公約発表。「美しい国」の文字はなく、目に着いたのは「新しい朝」。55年体制下の派閥間闘争の舞台となった党本部8F「リバティー」で安倍総裁が挨拶をしようした瞬間、どこかのカメラマンが蛍光灯のスイッチにぶつかって暗くなるアクシデント。「あ、すいません!」。パチッ。再び明るくなった部屋で、総裁はニヤリと笑う。「ほらね、日本の新しい朝であります」。一同爆笑。オナカの具合が良くなってトークセンスも向上したもよう。数多ある公約の中には「鍼、灸、按摩、マッサージ、指圧治療の充実」なんてユル~イいものも。いっそのこと争点にしてみてはどうでしょうかね。高齢者票が流れ・・・ないか。

24日(土)
選挙区内に居住実態がなかったとのことで当選無効の裁定を受けている美人すぎる市議こと埼玉県新座市の立川明日香市議が国政進出のウワサ。裏を取って紙面化。各方面から噴出する「そんな言うほど美人か~?」という指摘については・・・。

25日(日)
本コラム第8回で紹介しました「必殺仕分け人」こと蓮舫参院議員が「ミスター年金」こと長妻昭衆院議員の応援に。あの頃は新宿とか銀座で見渡す限りの有権者を動員できた蓮舫議員も、今は中野で聴衆10人。盛者必衰の理を現しておりました。その後、スイス出身なのに永田町に詳しいハーフタレント・春香クリスティーンさん取材。「このまま選挙の小沢が黙っているわけない」と不吉な予言。本当に20歳なのか・・・?

26日(月)
なんと、春クリちゃんの予言が即的中。小沢一郎議員率いる「国民の生活が第一」は、滋賀県の嘉田由紀子知事が結党した「日本未来の党」への合流を表明。春クリちゃんに連絡を取ると「言ったでしょー!」。恐るべし・・・。

27日(火)
日本サッカー協会名誉会長の川淵三郎さんが、都知事選に立候補した猪瀬直樹前副知事の選対事務所に就任するとかで会見。猪瀬氏は橋下徹氏や石原慎太郎氏並みに報道陣に噛みつくのが大好きなので、安易に質問できない。案の定、朝日新聞の女性記者の質問に「君ねぇ~質問が具体的じゃないんだよ! 答えにくいよ!」とダメ出し。こ、こえー。ワタクシ、恐る恐る川淵さんに「優勢が伝えられる選挙戦ですが、サッカーの試合に例えるとどんな試合だと思いますか? またどう戦いたいと思いますか?」と聞く。

猪瀬氏は私をジロリ。川淵さんは答える。「サッカーで言うと天皇杯みたいなものだと思っています。つまりジャイアントキリングはあり得る。油断大敵。気を引き締めて、一票一票を積み重ねていきますよ」。やっぱJリーグつくった人は違いますなー。原稿にしやすいことを言ってくれる。帰社後、美人すぎる市議が急転の出馬回避。もー知らんわい。

29日(木)
猪瀬氏の第一声に橋下氏、石原氏が駆け付ける。橋下氏は猪瀬氏の応援なのに「石原首相を!」と連呼したため、8分28秒の演説を徹底調査。「石原」と15回言ったのに対して「猪瀬」とは11回しか言わなかったことなどを材料に書く。

30日(金)
「選挙保険」なるものが誕生したこと聞きつけ、あいおいニッセイ同和損保を取材。お洒落タウン恵比寿にある、たいそう立派な本社に乗り込むと、ものすごく美しい女性秘書さんにガラス張りの会議室に通される。むろんコーヒーも運んできてくれる。弊社とはエライ違いだ。

12月1日(土)
前夜、デスクから神のような一言が。「明日、なんとか足りそうだからお前休む?」。緩みそうになる頬をグッと噛み締めつつ「だ・・・大丈夫なんすか・・・?」。当然諦めていた選挙期間中の休日! しかも土曜日ゆえ、図らずも家族3人水入らずタイムが到来した。我が家からほど近い吉祥寺まで行き、お気に入りのピザ屋さんでランチ。舌鼓を打った後、パルコの本屋へ。前から買おうと思っていた絵本『バムとケロのにちようび』を娘に読み聞かせて上々の反応を確認していた途中、悪夢のような着信音がけたたましく鳴り響いた。液晶には「社会部」との文字。「スマン。今から現場行ってくれ」。・・・オレにはバムとケロにも与えられた休日など存在しないのだ。オレにはバムとケロにも与えられた休日など存在しないのだ・・・。呪文のように言い聞かせ、絵本をレジへ。帰宅し、支度し、現場へ。小沢一郎氏と嘉田由紀子氏の公開対談。「熟年離婚経験者同士のラブラブ会談」なる怪談みたいな記事がでっかい紙面に。

2日(日)
選挙について小田嶋隆さんにインタビュー。名著『コラム道』がミシマ社より絶賛発売中のコラムニストは、実は5年ほど前から本紙にも度々登場してもらっている。2年前のW杯前は、ガンダムがセンターバックを務めるドリームチーム「オダジマジャパン」を紙面上に緊急召集させ、物議を醸したくらいだ。いつも取材場所になるファミレスでドリンクバーのコーヒーを注ぎながら「いかにも小田嶋さんに酷評されそうな原稿(当コラム)を書いちゃってます」などと本心を漏らすと、コラムの神はフフッと笑う。頑張ります・・・。

その後、民主党本部に移動して野田首相インタビュー。6分40秒の取材時間をくれた時の総理大臣は「他党党首にどんなプロレス技を仕掛けるか?」との問いに、満を持して答えた。

「安倍さんとストロングスタイルの力勝負を一騎打ちで(討論などを)やりたいんですけど、なかなか受けてくれない。12党のバトルロイヤルの中でも、最後は本命同士が戦う構図に持っていきたい。最後は一騎打ち。ジャンボ鶴田が好きなので、まず安倍さんの技は受けて、(一発逆転を狙い)最後は伝家の宝刀バックドロップで決めに入る。最後は普通の体固めではつまらないですから、逆エビ固めであぶくを吹かせたい。負けるつもりはありません。維新の石原さんは、『暴走老人』というくらいのお年寄りなんで荒技は気の毒。スリーパーホールドで静かに眠ってもらいたい。嘉田(由紀子代表)さんは女性ですから格闘技で喩えるのはどうかと思いますけど、あの人は選挙に出ないからリングに上がらないんですよ。(未来にいる)周りの魔界倶楽部は全部ラリアットでなぎ倒していきたい。小沢(一郎)さんの場合はどっちかというと魔界倶楽部系ですからね・・・もうやめときましょう」

3日(月)
朝刊の「首相動静」で「午後7時11分、スポーツ紙取材」と記載されているのを確認してちょっぴりうれしくなった後、みんなの党へ。渡辺喜美代表インタビューを終え、お次は自民党本部へ。安倍総裁インタビュー。17分もくれた。「安倍にバックドロップ」との大見出しが打たれた紙面を手渡すと、総裁は言った。

「バックドロップは(1950~60年代に活躍した米プロレスラーの)ルー・テーズの得意技だったんですね。昔は、一発で相手をフォールした技だったんですけども、時代とともにだんだん効かなくなった。今、バックドロップが効くと思ったら大間違い。もう効かないぞって。(野田首相に掛けるのは)ジャーマンスープレックス。バックドロップよりも、即フォールできますから」

記事を書き終え、ゲラをチェックし終えると、最終の東北新幹線に乗り込んで福島へ。明日は公示日。震災後に全村避難となった飯舘村で第一声を行う嘉田氏の取材だ。投開票日までまだ2週間近くもあるよ・・・。オレにはバムとケロにも与えられた休日など存在しないのさ・・・。

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北野新太(きたの・あらた)

1980年1月、石川県七尾市生まれ。
学習院大学法学部政治学科在籍中に雑誌「SWITCH」で雑誌編集を学び、卒業後の2002年に報知新聞社入社。以来、編集局勤務。担当遍歴は、日韓W杯—常総学院—柏レイソル—社会—映画—音楽—アテネ五輪—社会—読売巨人軍—和田アキ子 —NHK—社会(現所属)とムチャクチャ。猫背の完治が生涯の目標だが、巨人・原辰徳監督に「生き方が曲がってなければいいんだ!」とエールを送られたため、とりあえず先延ばし中。好きな言葉は「人間には、燃え尽きる人間と、そうでない人間と、いつか燃え尽きたいと望み続ける3つのタイプがあるのだ」

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