実録! ブンヤ日誌

第65回 編集者の愉悦

2013.02.04更新

昨年末、社内で「来年1年間、箱根駅伝の出場大学を追い掛ける大型隔週連載をやるぞ」との企画が発案された。読売新聞、日本テレビとともに、あの正月の風物詩を主催している弊紙。爽やかでいいなあ、などと他人事として聞いていたが、なんと私のもとに仕事が回ってきた。あれ? ボク・・・今、運動部じゃなくて文化社会部なんですけど。運動部長の指令は、意外なところを突いてくる。
「連載の題字を三浦しをんさんにお願いしたいんだよね。ひいてはお前、なんとかしてくんない?」
なるほど。確かに当代きっての人気作家の代表作「風が強く吹いている」は箱根駅伝を題材にした作品だ。なかなか文化的な人選ではある。しかし、私は三浦さんと会ったこともしゃべったこともないのです。何故ゆえ?
「『風が強く吹いている』は新潮社から出てる。お前、新潮社の人ぐらい知ってるだろ?」
ええ一応は・・・。そして、大役を担うことになった。

時は年末。何本もの小説連載を抱えているであろう三浦さんだけに、難航必至と覚悟していたが、それこそ「風が強く吹いている」の担当編集者さんの尽力により、題字を頂けることになった。後日送付されてきた直筆の文字は、うねるような字体で「箱根への道」と書かれたもの。聖地を目指す道の険しさと、山道を走る厳しさを表現したもののようで、なんとタスキのイラストまで添えられていた。おおいに感動する。さらに嬉しかったのは三浦さんから直接メールを頂いたことだ。

「よろしいようにお使いいただければと存じます。
 まことにお恥ずかしいかぎりの字ですが・・・・・・。
 どうぞよろしくお願いいたします。
 楽しいご依頼を、どうもありがとうございました。」

なんと丁寧な言葉だろう。失礼ながら未読だった「舟を編む」を即座に購入したことは言うまでもない。

これにて一件落着。いや~いい仕事したなあ、なんて思ってたらムチャぶりが飛んできた。
「やっぱさあ、題字もらえたんだから連載第1回に『題字を書いて』みたいなエッセイももらいたいよなあ」
あの、掲載は1週間後なのですよ!さすがにムリです! ・・・と言いつつおそるおそるお願いしたら、なんとなんと書いていただけることになった。締め切りを掲載前日の正午にお願いしたら、9分前にピシッとメールが送られてきた。

「北野新太さま
 こんにちは。
 お世話になっております。三浦しをんです。
 お菓子をどうもありがとうございました。
 お気づかいいただき恐縮です。
 遅くなってすみません。原稿を送ります。
 中身は同じです。
 ひらきやすいほうをお使いいただければと存じます。
 なにかございましたら、ご一報ください。」

丁寧に2種類に分けられた添付ファイルを開けようとした瞬間、妙な高揚感が襲ってきた。あの三浦さんが書いた原稿を、オレは世界でいちばん早く読めるんだ。編集者の方がよく言う、あの感情を記者である私はまさに今、体験していた。仮に「三浦しをん全エッセイ」に収録でもされてみろ。最初の読者はオレってことになるな、などと悦に入った。

原稿用紙2枚分。転載はできないが、これがまた洒脱かつ情緒にあふれるエッセイで、読みながら思わずニンマリしてしまった。吹き抜ける風のような読後感。作家の筆だと思った。ご多忙ゆえ、まだ実現していないが、直接会って感謝を伝える日が楽しみだ。そしたら次は取材をして、三浦さんのことを書きたいと思う。一応そっちが本業なので・・・。

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北野新太(きたの・あらた)

1980年1月、石川県七尾市生まれ。
学習院大学法学部政治学科在籍中に雑誌「SWITCH」で雑誌編集を学び、卒業後の2002年に報知新聞社入社。以来、編集局勤務。担当遍歴は、日韓W杯—常総学院—柏レイソル—社会—映画—音楽—アテネ五輪—社会—読売巨人軍—和田アキ子 —NHK—社会(現所属)とムチャクチャ。猫背の完治が生涯の目標だが、巨人・原辰徳監督に「生き方が曲がってなければいいんだ!」とエールを送られたため、とりあえず先延ばし中。好きな言葉は「人間には、燃え尽きる人間と、そうでない人間と、いつか燃え尽きたいと望み続ける3つのタイプがあるのだ」

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