近くて遠いこの身体

第58回 セオリーからの逸脱〜今年の「花園」と大学選手権から

2018.01.11更新

 毎年のことながら年末年始はラグビー三昧の日々である。スタジアムに行くことはほとんどなく、今年も自宅でテレビ観戦を決め込んだ。チャンネルを合わせればほぼ毎日ラグビーを観ることができる幸せを噛み締めながら、新年を迎えたのであった。
 今年もその白熱ぶりには手に汗を握った。その興奮いまだ冷めやらぬうちに、観戦記を書いておきたい。


 東大阪市にある花園ラグビー場で行われるため通称「花園」と呼ばれる高校の全国大会は、毎年12月27日に開幕し、1月8日に閉幕する。今年度は、初めて決勝進出を果たした大阪桐蔭を27−20で下した東海大仰星が頂点に輝いた。
 大阪桐蔭は、体格に優れたFWを前面に押し出してラックサイドを執拗に攻める効率的な戦い方で勝ち進んだ。いうなればセオリー重視の大人びたチームで、リスキーなプレーを避ける堅実な戦いぶりは観る者にある種の安心感を与えた。

 対する東海大仰星は、FWとBKが一体となった展開ラグビーでトライを量産し、試合ごとにチーム力を高めていった。3回戦で対戦した秋田工業にスコアで引き分けながらトライ数で勝ち上がるなど大会序盤はもたついたものの、最後まで勝ち切った。持ち味である積極的にパスをつなぐ展開ラグビーには相応のリスクがある。それをものともしないチャレンジングな姿勢に観る者は心を躍らせた。ある新聞は、この戦い方に日本代表は学ぶべきであると最大級の賛辞を送った。見事だった。

 12月中旬に開幕した大学選手権は1月7日に決勝が行われ、19年ぶりに決勝進出を果たした明治大学の猛攻を凌いだ帝京大学が21−20というスコアで勝利し、前人未到の9連覇を果たした。

 絶対王者の名を欲しいままにする帝京を相手に、試合序盤から猛攻を仕掛けた明治の戦いぶりは挑戦者らしい積極性がみてとれた。実力に劣るチームが勝利を手にするためには先制点を奪い、点差が広がらないように食らいつくのがセオリーだ。たとえわずかであってもリードする展開が望ましい。残り時間が少なくなればなるほど、上位チームには焦りが生まれる。この焦りを引き出すことができればアップセットの確率が高まる。
 この点で明治の戦い方は満点だった。
 だが、帝京は落ち着きを失わなかった。
 ターニングポイントは後半半ばだった。自陣22mライン付近で得たペナルティを素早くリスタートして、そのままトライに結びつけた。本来ならばタッチキックで確実に前進するのがセオリーなのだが、帝京大学は果敢にも攻めた。リスキーなプレーを選択してそれを成功させたのだ。明治大学のディフェンスラインに生じたわずかな隙を冷静に見極めた帝京はさすがだった。
 このタップキックからのリスタートは一人の判断だけではできない。一人のひらめきに周囲が瞬時に呼応しなければ成就しない。たとえば結束力に欠けるチームは、セオリーとは異なる仲間のひらめきに「なんでタップキックやねん」と疑義を挟んでしまう。ペナルティを得た瞬間に「ここはタッチキックやな」と、その後の展開をつい決めつけてしまう。だからフォローするのが一歩も二歩も遅れる。その結果、トライまでには至らない。大幅にゲインできたとしても仕留め切ることはできない。
 この何気ないプレーに8連覇をする中で帝京大学が培った結束力を見た。この日の明治は優勝してもおかしくないほど充実していた。というよりも優勝チームとしての実力は十分に備えていた。だが、帝京の方が一枚上手だった。チームとしての成熟度という点で卓越していた。
 惜しむらくはゴールキックの精度である。トライ後のコンバージョンをすべて成功させた帝京に対し、明治は2本外している。1点差だっただけに、せめて一本だけでも決めていればと悔やまれる。でもそれも含めて勝負である。キッカーを責めることはできない。 


 高校、大学に続いてトップリーグの試合も行われた。今季絶好調のパナソニックワイルドナイツと前年度優勝チームのサントリーサンゴリアスが対戦する決勝戦は1月13日に予定されている。多くのファンがシーズン前に予想した通りのカードになった。
 パナソニックは、総合順位決定トーナメント準決勝で新監督を迎えて格段にチーム力を高めたトヨタ自動車ヴェルブリッツに17−11と苦戦を強いられた。リーグ戦を圧倒的な強さで全勝し、盤石だと思われていただけにやや陰りがみえるのは否めない。
 対するサントリーは、ヤマハ発動機ジュビロを相手に49−7と快勝して駒を進めた。王者として臨んだリーグ戦はやや本調子を欠く戦いぶりだったものの、それでもパナソニックに負けた以外は勝利を積み重ねた。ここにきて、まるでプレーオフトーナメントに照準を合わせてきたかのように調子を上げてきている。

 今の日本ではこの2チームは頭一つ、いや二つくらい抜けている。スターティングメンバーだけでなくリザーブメンバーにも日本代表選手が名を連ねるほど層が厚く、世界に名だたる外国人選手も所属する。紛れもなく日本最高峰であるこの両チームの試合は、スキルフルで気持ちのこもった試合になることは疑い得ない。


 高校、大学ともに明暗を分けたのはセオリーからのわずかな逸脱である。原理原則であるセオリー重視では「ある壁」を突破できないものだ。当たり前なこととして共通認識されているセオリーを絶対視する戦い方は、ともすれば対戦相手に予測されるからである。セオリーは競技レベルが上がればそれ自体がリスクとなる。

 勝利を手中に収めるためにはリスクをとることを厭わず、積極果敢にプレーを選択しなければならない。セオリーを重視しながらときにそれを無視する、つまり「型破り」なプレーを成功させることで停滞局面を打開し、勝利を手繰り寄せることができる。
 これが勝負の醍醐味である。
 それを見極める視点をもって、国内リーグを締めくくる1月13日の試合をぜひ観ていただきたい。ラグビーを通して勝負の醍醐味を味わってほしい。

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平尾剛(ひらお・つよし)

1975年大阪生まれ。神戸親和女子大学講師。元ラグビー選手の大学教員だが、現役時から7kg痩せたものだから当時の面影は残っておらず。マラソンは大の苦手。

同志社大学時代は長髪にあご髭を生やしてグラウンドを疾走。卒業後は三菱自動車京都を経て神戸製鋼所に入社。ウェールズで行われたW杯日本代表メンバーに選出され(1999)、社会人大会&日本選手権で優勝(2000−01)、新たに創設された日本ラグビートップリーグでは初代チャンピオンのメンバーとして活躍。(2003−04)。

引退時期がちらつき始めた頃に自らの怪我が引き金となって「身体」への興味が湧き、あれこれ研究を開始する。毎日新聞関西版の夕刊でコラムを連載(「平尾剛の身体観測」2006-2011)。その後は『ラグビークリニック』(ベースボールマガジン社)や『考える人』(新潮社)に寄稿するなど、楕円球をペンに持ち替えて奮闘中。

著書に『近くて遠いこの身体』(ミシマ社)、『合気道とラグビーを貫くもの』(内田樹氏との共著、朝日新書)がある。

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