小さな会社でぼくは育つ

第1回 いま、中小企業で働くって?

2016.12.04更新

 はじめまして。神吉直人といいます。苗字は「かんき」と読みます。兵庫県の姫路市出身です。同じ西播地方の加古川市に神吉町という地域があり、戦国時代にはお城もあったのですが、初見で読める方は少ないのではないでしょうか。神様の"神"に"吉"っておめでたいですね、とよく言われます。確かに頭はお気楽でおめでたいのかもしれませんが、人生としてはごくありふれたものかと思います。
 仕事は、大阪府茨木市にある、追手門学院大学という中堅私学の経営学部で、経営組織論と経営倫理という授業を主に担当しつつ、元気な学部学生の相手をしています。大学教員としても、ごくありふれた存在です。

 そんな僕に、今年の7月半ば頃、突然「中小企業で働く(働きたい)若い人に、寄り添うようなビジネス書を作りたいんです。神吉さん書いてください」という話が舞い込んできました。なぜこのような話がきたかというと、この「みんなのミシマガジン」を運営しているミシマ社のミシマ社長と編集のみっきーさんとは、旧知の仲だからです。
 ミシマ社長とは合気道仲間で、このサイトでもおなじみの内田樹先生門下です(現在、2人とも弐段です)。みっきーさんは、僕が友人たちと主宰しているフットサルチームに参加してくれています(当然、飲み仲間でもあります)。また、紙版ミシマガジンを、初期からサポートさせてもらっています。

 話はみっきーさんから届きました。まさに青天の霹靂で、甚だびっくりした次第です。もちろんうれしい話でしたが、同時にちょっと考えました。組織論の中でも、学習論やネットワーク論といった分野に関心をもって、これまで研究してきましたが、中小企業には、それほど明るいわけではありません。経営学者として、昔読んだ書籍や耳学問を通じてなんとなく知っていることはあるとしても、1冊の本としてまとめるだけの、知見が自分にあるとは思えませんでした。

 でも、ふとまわりを見てみると、大企業で働いている人ももちろんいますが、若くして小さな会社でいきいきと(でも忙しそうに)働いている友人がたくさんいることに気がつきました。楽しそうなその姿が「いいな」と思える人たちです(ミシマ社長とみっきーさんも、もちろんその中に含まれています)。あらためて、そういう人たちの話を聞きながら進められるのであれば、とても魅力的なオファーだと思いました。

 この連載は決して、大企業勤めへのアンチではありません。また、中小企業礼賛を意図したものでもありません。どちらにも良さがあり、そして人によって合う・合わないがあると考えています。
ただ、極論として存在する、大企業が勝ち組であり、中小企業勤めは少し劣る、という議論に対して、はっきり「No!」と言いたい気持ちはあります。この点からは、少々中小企業に肩入れするような位置からの話も必要なのだと考えています。必ずしも大企業に勤めることだけが正解であるとはかぎらないということや、中小企業で働くことの可能性について、考えたいと思います。


 現在、日本に存在する企業のうち、99.7%は中小企業が占めています 。従業員数でも約7割です。なお、従業員数による中小企業の定義は、製造業で300人以下、卸売業とサービス業は100人以下、小売りであれば50人以下となっています(加えて、資本金の額による条件もあります)。
 これらの数字は上限ですから、実際はもっと少ない人数で仕事を回している企業がほとんどと言えます。
 逆に、大企業は割合にして0.3%にすぎません。日本の企業数は全体で約421万社とされているので、大企業の数は約1万2000社です。

 また、2015年の春には、約56万3000人が大学を卒業し、そのうち約39万7000人が何らかの形で就職 しています。
 『会社四季報』を発行している東洋経済新報社の上場企業3085社を対象とした調査 では、2300人を採用したイオングループを筆頭に、1年に1000人以上の内定者を出している企業の存在が示されていますが、500位の企業では60人ほどであり、大企業への就職が狭き門であることがわかります。

 「狭き門」という言葉を用いましたが、この表現は門の先に貴重な機会や明るい未来が待っていることを暗に前提としています。
 多くの人は、ここでいう機会や明るさを金(ゴールドではなくマネー)の話として捉えているのではないでしょうか。

 再び統計上の数字ですが、たとえば製造企業においては、割合にして0.3%にすぎない大企業が、売上高の約六五パーセントを占めています。
 ビジネスとしての規模が大きいということは、より多くの金銭的リターンを伴う可能性があると考えられます(なお、巨大なビジネスは応分のコストがかかりますから、売上が多くても利益は僅かということはあります)。
 金銭的リターンの代表は、言わずもがなで給料です。
 この連載に際して、「大企業 中小企業 年収」というキーワードでグーグル検索してみたところ、約80万5000件の検索結果が表示 されました。また「大企業 中小企業」と打ち込んだ段階での検索項目の予測には、「~ 格差」や「~ メリット」のようなものがありました。
 これは、このような検索ワードが多く用いられているということであり、大企業と中小企業の金銭面における待遇の違いに関心を持っている人が、一定数存在することがわかります。

 統計によれば、中小企業から得られる収入が、大企業と比べると少ないことは明らかなように見えます。
 収入の多寡をはじめ、金銭に関する言説の多くには、一見、もっともらしい力があります。
 仕事の条件に関する話を、お金のことを抜きにして語ることはできません。
 世の中の潮目は変化しているものの、今なお「理想は30代で年収1000万円」などといった言葉を若い人の口から聞くことがあります(バブル期に掲げられた結婚相手の理想である「三高(高学歴・高収入・高身長)」を思い出させてくれます)。
 大企業勤めの人の中には、早くにそのような年収を手にする人もいるとはいえ、そう簡単に実現できるものではありません。
 しかし、そうした価値観で生きている人(およびその人の影響を受ける人たち)にとっては、大企業への信仰は続いていくように思われます。

 また、これもバブル期から90年代にかけてのトレンディードラマの残像ですが、小奇麗なオフィス街に勤め、首に社員証をぶら下げてランチ(もしくはオープンカフェでラップトップを開く)といったような仕事スタイルや、『半沢直樹』に描かれたような熾烈でドラマチックな出世競争も大企業でなければ味わうことはできません。
 他にも中小企業に比して手厚い福利厚生をはじめ、大企業勤めのメリットを列挙することはできます。


 そして、大企業信奉の背後にある強力な要因は、いわゆる安定志向です。
 給与所得や福利厚生の充実が求められるのも、それらが安定した生活を送るために必要な原資と考えられているからでしょう。大学生と話していても、安定が就職活動における重要なキーワードであることがよくわかります。

 それでは、安定とはいったいどういう状況を指すのでしょうか。


本連載へのリクエストやメッセージを募集しています。

「中小企業のこんなところがいい!」「ここがしんどい!」という働いている実感から、「実際、こういうところはどうなの?」なんていう疑問まで......
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神吉直人(かんき・なおと)

1978年兵庫県姫路市生まれ。京都大学経済学研究科修了。博士(経済学)。専門は経営組織論。神戸大学、香川大学を経て、現在は追手門学院大学経営学部経営学科准教授。研究の傍ら合気道にも足しげく通い、フットサルもお酒も(麻雀も)たしなむ。

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