小さな会社でぼくは育つ

第6回 「まずは」身につけたい 能力って何だろう?

2017.01.28更新

 職場における戦力として、「まずは」求められることについて、経営学の視点からも考えてみます。

 北海道大学・松尾睦先生の著書『職場が生きる 人が育つ「経験学習」入門』(ダイヤモンド社)の中に、成長についての議論があります。松尾先生は成長させる(する)ものの内容に着目し、精神的成長と能力的成長に区別しています。

精神的成長は、仕事に対して適切な「思い」や考え方を持つことです。適切な思いとは、自分のことだけでなく、他者のことも配慮できること、と定義されています。人のことを考えて働くのも巷でよく言われる当たり前の一つといえるでしょう。若いうちは、大切なこととして頭の片隅に常に置いておけば十分で(それもとても難しいので)、ちょっと経験を積んだ後にできるようになればよいと思います。

 一方の能力的成長は、"熟達"という言葉で表現されるもので、業務を遂行するための能力が高まることを指します。松尾先生は、これに関連して、ロバート・カッツ(ハーバード大学)による「熟達につながる3つの能力」というコンセプトを引用しています。それは、テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルの3つの能力からなります。

 テクニカルスキルとは、仕事を円滑に進めるために必要となる、専門的な知識や技能をいいます。社会人として適切なビジネスメールが書けること、敬語を正しく話せること、パソコンを使って資料を作れること、経費の精算ができることなどが例として挙げられるでしょう。
 このようなことのうち、所属する職場で求められる事柄を身につけていくことが、初期の当たり前としての目標になります。

 ヒューマンスキルは、他者とコミュニケーションしたり、集団を統率したりする力であり、人間関係を構築する力という説明もされます。
 これも若いうちから目指すべき対象として心に留めておきたい「当たり前」ですが、一朝一夕に得られるものではありません。習得を意図すべきでありながら、その意図が相手に見えることは逆に作用してしまうケースもあります。このスキルは意図的に獲得して活用するものではなく、自ずと身につき発揮されるものなのかもしれません。

 そして、コンセプチュアルスキルは、組織を取り囲む環境の動きを察知し、戦略的に物事を考える力のことをいいます。抽象的な感覚を言語化したり、概念化したりしていくことでもあります。
 皆が漠然と肌感覚としてはわかっているけど、うまく言葉にできないことをびしっと表して共有を進めることは、リーダーに必須のスキルです。いつか必ず身につけたいところですが、「まずは」の段階で求められるものではありません。

 まず、中小企業にかぎらず、新社会人として必要な事柄について考えることから始めてみました。小さな頃からの積み重ねの延長にある、いわゆるモラルに類する事柄と、少しの職業訓練で習得できる基礎的な技術(テクニカルスキル)。これらが基礎になるという、至極当たり前の話でした。

 しかし、スポーツや音楽などさまざまなことと同じく、当たり前は基礎であり入り口であると同時に、その道の奥義でもあるわけです。人としての当たり前を果たすことが会社の成功(優良企業になること)につながるという知見は、しっかり胸に刻み込みたいところです(ぼくも、もちろん)。


しっかりメモをとるって、超重要!

 そのうえで、さらに「まずは」の話を重ねていきます。これも知人の企業人の言葉ですが、職場のルーキーには、「ヒットを打つよりも、エラーをしないこと」を心がけてほしいというものがありました。

 『仕事のミスが絶対なくなる頭の使い方』(宇都出雅巳、クロスメディア・パブリッシング)というビジネス書では、仕事におけるミスが、大きく4つに分類されています。それらは、「忘れてしまった」というメモリーミス、見落としを意味するアテンションミス、「聞いてないよ!」など伝達に関わるコミュニケーションミス、そして判断の誤りであるジャッジメントミスの4つです。

 できる人には言うまでもないことですが、忘却によるミス(メモリーミス)の予防には、メモがかなりの効果を発揮します。仕事はマルチタスク(複数の案件が同時に進むこと)が常です。覚えられると過信せず、そのとき、その場で記録の手間を惜しまないことが肝要です(ミスの多い人は、この過信度合が強いように思います)。

 メモを習慣化し、その技術を自分のものにすることは、「まずは」の能力として優先順位の高い案件でしょう。そして、そのメモの確認も含めて、大切なことを見落とさないこと(アテンションミスの削減)も、仕事が不慣れなうちからでも、しっかり意識したいものです。


失敗することも、覚悟しなくちゃ

 "コミュニケーション能力(コミュ力)"という言葉の流布を例にとるまでもなく、意思伝達は重要であり、同時にとても難しいことです。伝言ゲームが楽しい遊びとして 成立することが、コミュニケーションの困難さを表しています。

 某大企業に勤めている先輩は、残念な同僚(後輩)の例として、"言いっぱなし人間" を挙げていました。その先輩の職場では、社内の他部門や外部の業者など、多くの関係者との調整が必要だそうですが、言いっぱなしの後輩は「やっておいてください」と言うのみで、詳細の確認を怠ってしまうそうです。

 「何を」「いつまでに」「どのように」といったことを網羅的かつ正確に伝えられないため、各所に滞りが発生するようですが、彼は「言いましたよ」という言い訳にとどまり、反省の色が見えないのだとか。これはまさにコミュニケーションミスです。

 中小企業の場合、関わる人の範囲は狭いかもしれませんが、伝えるべきことを伝える必要があるということは同じです。必要な項目をすべて正しく伝達する前提として、「何を」「いつ」「どのように」といったことは想起しなければなりませんが、それには経験を要します(頭に浮かばないことは、言葉では伝えられません)。

 さらに、前述した4つのミスに関して、コミュニケーションだけでなく、物事の判断や見落としてはならないポイントの見極めにも、すべて応分の慣れが要求されます。つまり、経験の乏しい新人にエラーしないことを求めても、それはそもそも難しいわけです。

 "トライ&エラー"という言葉があります。耳学問ですが、これを「本番で致命な失敗をしないために、事前にさまざまなことを試し、エラーの仕方を学んでおくこと」とする見解があります。
つまり、失敗しないためには、失敗をする必要があるということです。これを踏まえると、初心のうちは、初めての失敗については"やむをえない"、"叱られたって仕方ない"と考える、ある種の胆力が必要ではないでしょうか(決して甘えてもOKという話ではありません)。

 失敗に際して、先輩の顔色を窺うことに気を回すのではなく、誤った出来事への対処に注力すること。失敗に動じて、ミスにミスを重ねないこと。二次災害の防止に努めること。「まずは」そのようにして、一つずつできることを増やすように心がけ、 失敗しないようになっていきましょう。

 なお、同じミス(いわゆるケアレスミス)を幾度も繰り返すことは許容されないと心得なければなりません。周りの若い人を見ていると、ケアレスミスが常態化し、もはや小さな失敗とは呼べない状態になっているケースがあります。「小さなことだから気にするな」と言っていいのは周りの人間だけであって、本人は、小さなところにこそ本質がある、これは重大なことである、と真摯に受け止めることが必要です。

 また、エラーの際の振る舞いや佇まいも大切です。プロ野球界で名将と呼ばれた野村克也元監督は、次のように述べています。

その選手の将来性を判断する基準のひとつとして、私が注目していることがある。 三振したり、KOされたりしたとき、どんな顔でベンチに引き上げてくるか、である。(野村克也『負けかたの極意』講談社)

 仕事に失敗はつきものです。誰でも必ず失敗します。ぼくだってたくさんします (今も)。しかし、失敗の仕方には個人差が出ます。まずは若者ならではの清々しさで、それを素直に受け止める。失敗を認め、潔く謝る。そしてきちんと対策を講ずる。そのようにして仕事を覚え、信頼を築いていきましょう。







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神吉直人(かんき・なおと)

1978年兵庫県姫路市生まれ。京都大学経済学研究科修了。博士(経済学)。専門は経営組織論。神戸大学、香川大学を経て、現在は追手門学院大学経営学部経営学科准教授。研究の傍ら合気道にも足しげく通い、フットサルもお酒も(麻雀も)たしなむ。

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