コラム道

今さらご紹介の必要もありませんよね。小田嶋隆先生のご登場です。
2010年5月8日、寺子屋ミシマ社のスペシャルゲストとして来ていただき、ミシマガ連載でおなじみの「コラム道」をライブで披露していただきました。
三回に分けて、誌上公開いたします。

第1回の今日は、「編集者って何だろう?」。気鋭のコラムニスト小田嶋先生ならではの視点から「編集者論」が語られています。
編集のことを知らなくとも楽しめる、「仕事の話」でもあります。小気味いい小田嶋節を、たっぷりとご堪能くださいませ。
(聞き手:三島邦弘)

第8回 「コラム道」番外編・その1

2010.06.24更新

編集者はもういらない?!

―― 今日は「コラム道」の番外編ということでいろいろお話を聞いていきたいと思います。よろしくお願いします。

最近、ウェブや電子書籍とかで、著者がひとりでものを書いてメディアに発表できるようになっています。そんななか、出版社や編集者はもういらないといういわれ方もしていますが、小田嶋さんにとって編集者との関係とはどういうものなのでしょうか? 編集者と書き手の関係はどれくらい重要なのか、少しうかがえたらとお思います。 

小田嶋確かに、いらないといえばいらない場合もあるんですよね。ただ、私も30年近くライティングをしてきて、いろんなタイプの編集者と仕事をしてきましたが、やっぱりいらないというわけにはいかないと思います。だんだん編集者の関与の余地が少なくなってきていることには危機感を持っています。

というのは、編集者ってもともとは、ものを書く人間のあらゆるサポートをしていたわけです。それこそ、電車の切符の手配からお弁当を買うことまで。要するにマネージャー、プロモーター、プロデューサー、ディレクター、アシスタントと召使いを全部やっていたわけです。

―― そうですよね。

小田嶋それこそ、菊池寛の時代なんかは、大作家には専属の編集者がついていて「この人はこの編集者じゃないと書かないぞ」みたいな関係がありました。それに、総体的に見ると大きなお金が動いていたので、例えば、編集者が作家の原稿をとりに来ても、まだ書けていないとする。そうすると「君、僕の名前で新橋で飲んできたまえ」と、そういうことがあったんですね。あったらしいです。伝説ですけど(笑)。私の時代は全然そんなことありませんでしたけど。

―― 今では考えられませんね。

小田嶋しかも、当時はFAXも電子メールもなかったので、手書きの原稿をとりに行くしかなかった。だから、その時代の編集者さんは、担当できるライターもせいぜい3、4人くらいしかいなかった。軽井沢に作家さんがいれば、そこまで電車に乗って一泊かけてとりに行くわけです。「あの先生の奥さんはおっかない人だから注意しなさい」とか、いろいろなことがあったりした。

奥様に手みやげを持って、たかだか連載小説の原稿をひとつとってくるためにホワイトボードに「○○先生 軽井沢 2泊3日」なんていうスケジュールで動いていた。言ってみれば仕事を大してしてなかったといえばしてなかったわけですけどね(笑)。

―― 奥ゆかしいですね。

小田嶋私が書きはじめて2、3年するとFAXが比較的一般化してきました。私はすぐFAXや電子メールも使うようになりましたが、その頃はまだ大家の先生方は「冗談じゃない。そんなもので原稿の魂というものが伝わるものか」という人もいたんですね。それこそ迷信じゃないですけど「FAXでピザを送って、相手が食えるのか」というようなことをいって、使わない人たちもたくさんいたんです。

必ず手書きの原稿で、編集者がとりに来ないと納得しない人たちもいました。しかも、髪の長い女の子が来ないと原稿は出さない。そういう人たちもいたんですよ。

―― それは、ひどいなぁ・・・。

小田嶋そういう時代の編集者とライターの関係というのは、一種のもたれあいといえばもたれあいだし、馴れ合いといえば馴れ合いの関係でもあった。けれども、いいことがなかったわけでもありません。

偉い編集者はよくどなる?

小田嶋例えば、私が20代でライターをしていた頃は、偉い編集者さんもいたわけです。偉いというかいばり散らしている編集者さんですね。私が原稿を出すと「なんだこれは? 意味がわかんねーぞ」と、赤を入れるという問題じゃなくて投げ返される。そういうことをする編集者さんもいたんですよ。

今でも新聞社系の出版社なんかは、デスクが下っ端の記者を怒鳴り散らしたり小突き回したりする風土はあるかもしれませんが、そういうやり取りは、いま編集者とライターとの間で比較的行われなくなっていますよね。

昔は、それが不愉快だったり余計なことだったりはしたんですけど、20代の若いライターは、そういう経験をしなきゃいけない部分もあるような気もするんですね。30、40過ぎると誰も言ってくれなくなりますから。言ってくれる場合もありますが、非常に遠慮がちに丁寧に言ってくる。一段落抜かしていた、とか「松田聖子ってまだ30代っていうことはないと思うんですけど・・・」とか、そういう明らかな間違いでもすごく低姿勢なんですよね(笑)。それだけ、ライターと編集者の距離が遠くなっているということでもあると思うのですが。

―― 確かにそうですね(笑)。

小田嶋週刊誌の編集者さんなんかはひとりで20人くらい担当していたりしますからね。そうなると、プロデューサーの役割なんて言ってられません。とにかく受け取って電話するのでやっとですよ。

ひとつの雑誌をつくるにも、昔は編集部に30人くらいいたのが、いまは5人で出してたりしますからね。編集者とライターの接点は電話で締め切りを確認するだけというものになってしまう。しかも、ライターからメールで原稿があがってきて、それをネットでさばくというようなことになれば、編集者ってほとんど何をする人になるんでしょうかね? ということですよね。難しいところです。

―― 編集者って何をする人・・・。確かに、今それを見つめ直すいい時期なのかもしれないです。

小田嶋ただ、いまでも漫画雑誌なんかは編集者が重要だったりしますよね。漫画家さんによっては、アイデアやプロット、キャラクターの設定は編集者がつくっている場合がある。編集者がほとんどネタ拾いをして、景色の風景写真から資料集めから、何から何まで全部やって「あとは描き起こしてください」というような分業体勢ができていたりする。なので、漫画の編集者さんは言ってみれば出版プロデューサーみたいなことになっています。そういう意味での編集者はいるにはいるんですよね。

言ってはいけないこともある

―― 小田嶋さんも「日経ビジネスオンライン」で連載されていますが、ネットでの編集者とのやりとりというのは、どれくらい記事に影響していますか?

小田嶋「ネットだから」とか「紙だから」ということはあまり関係ありません。結局、編集者と私と媒体があって、編集者の個性と私の能力の相性とかいろいろあるので、仕事のしかたはその都度いちいち変わってきます。ただ受け渡すだけというタイプの編集者さんもいますし、すごくやりとりの多い編集者さんもいます。

なかには、まだうまく落ちてなかったりする原稿を、とりあえずタイトルをつけてもらうために送ったりすると「こんな落ちをつけてみました」なんて返してきたりする編集者さんもいましたね(笑)。はじめのうちは遠慮して「この辺はこういうことでしょうか?」なんて聞いてきたのが、だんだん「こういうことだと思ったので補足してみました」なんて、けっこう大胆になってきたりするんですね。しかも、私が書きそうなことをちゃんと書いてくるんですよ(笑)

―― すごいですね。

小田嶋それが採用になったことも2回か3回くらいあります(笑)。
ただ、ちょっと間違いを指摘しただけで猛烈にへそを曲げるライターさんも少なくないですから、そこの見極めは大事だと思いますね。私の場合は、すごくラフに書いて編集者さんが間違いを見つけてくれるのを待ってる場合もある。だから、指摘した方がよい人か、そうじゃない人なのか、編集者さんはそこの見極めをしなくてはいけないたいへんな仕事なのかなと思います。

―― 僕は新人のとき、本の装幀で、仕上がりはすごくよかったんですが「色使いが・・・」って言ってしまったことがあるんですね。そうしたら「そういうことは言うもんじゃない!」と猛烈に言われまして、すごく説教を受けたある大装幀家の方がいます。

小田嶋それは、ダメですよね。ライターも調子が良いときと悪いときは必ずあって、調子が悪いときは自分でもわかっているわけです。指摘してもらったからといって直るわけではないんです。

「ここの文脈がちょっと飛躍してる気がするんですけど・・・」と言われても、それはよくわかっている。自分自身、文章が全然つながってないのはよくわかっている。けど、どうつなげてよいかわからないからここに断層があるわけで「そこに断層があるよ、とキミが指摘したからといってオレは書き直せないよ」と。そういうところはあるわけです(笑)。

―― わかります。

小田嶋経験の問題なら直るんですよ。若いライターさんが、能力はあるけれど手続きを踏んでないという場合は指摘して直る場合もある。ですが、そうじゃないところがある。そこらへんの微妙なところは私くらいになるともう直らない(笑)。

本当にそうなんですよ。だから、「小田嶋さんの原稿に欠点があった場合、その欠点は直らない」から(笑)。

―― 編集側もそう思っておけと(笑)。

小田嶋だけど、何回かやりとりしたうえで「小田嶋さん明らかに手を抜いていらっしゃる」ということがわかった場合には、少しプレッシャーをかけた方がいい場合もある。けど、精一杯やってるんだけど、この人の力量ではこれ以上にはならないということが文芸の場合にはあるんですね。だから、そこは是非とも指摘してほしくないところですよね(笑)。


次回「プロと素人書き手を分けるもの」について小田嶋先生に教えてもらいましょう!

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小田嶋隆(おだじま・たかし)

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)
『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)
『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)
『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)
『サッカーの上の雲』(駒草出版)
『1984年のビーンボール』(駒草出版)

日経オンラインで連載中。
『ア・ピース・オブ・警句』(日経オンライン)

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