演劇と氷山

第1回 劇団について書いていきます。

2016.04.28更新

 ミシマガジン読者の皆さま、初めまして。あるいは以前「本屋さんと私」のコーナーでインタビューしていただきましたので2回目かもしれません。京都で「ヨーロッパ企画」という劇団をやっている上田誠と申します。ご存知の方はありがとうございます。

 ここでは劇団のことを書いていこうと思います。演劇って「作品」のことや「作家」「演出家」については語られますし、「役者」についても語られはするけど「劇団」のことってあまり語られなくて。「作劇術」「演出術」「役者術」の本はあっても「劇団術」の本は見かけません。語法が違うとでも言いましょうか、急にリアルな話が多くなるといいますか。理念の話よりも現実的なことの集積がつまりは「劇団をやる」ということなので、そんな台所事情みたいな話をあんまりするのもね、ということなのかもしれません。

 とくに最近では劇団も減ってきてまして(と、これは僕の感覚かもしれませんが)、どちらかというと「プロデュース公演」と呼ばれるスタイルのほうが隆盛な感じです。プロデューサーの指揮のもと、演出家や役者やスタッフが「その公演のために」集まって、劇を作って公演して、終わったら解散する、っていう一期一会のやり方ですね。商業演劇でもそうだし、小劇場でもこういう「劇団を持たずに、その都度人を集める」やり方が目立ってきてる気がします。劇団であっても2〜3人というコンパクトなサイズだったり。そのほうが身軽にやれるし、作品に合わせたキャストやスタッフを集められたり、集団の継続的な運営をあまり考えなくてよかったり、メリットも多いのでそうなってきてるんでしょうが。

 僕も外部ではプロデュース公演に呼ばれて演出もしますが、主には自分の劇団で作・演出をします。ヨーロッパ企画は役者が9人、スタッフも合わせるとその倍ほど、というそれなりのサイズでして(もっと大きな劇団もありますが)、なので相応に苦労もあり、公演や作品性の前にまず「運営」のことを考えないといけないような局面が多々あります。経営のことやモチベーションのこと、人間関係の煮詰まり、空気を入れ替えようにも顔ぶれは決まっていて、客演さんをお呼びする余地もそんなにはありません。作品的にも、同じメンバーで何度も劇を作るというのはそこそこの枷だし、お客さんに対しても同じ顔ぶれで飽きられないように手を変え品を変えやりつつ、まだ見ぬお客さんと新たに出会う努力だってしなくてはなりません。長くやってれば時代の潮目だって変わるので、それも睨みつつやらないと流れが淀んで立ち行かなくなったり。

 そんなふうに、「崇高な芸術的理念」みたいなこととは一見程遠い、そこには現場的なあれこれが絶えず横たわっていて、それらを除け除け劇を作りつづける、ということを宿命づけられているのが劇団です。除け除けというか、向き合ったり機嫌をとったり、ときには利用しながら作品を作る感じですね。そして裏を返せばそれこそが劇団で劇を作る醍醐味だとも思っていて、僕はそうやって現場の事情を取り込みながら作品を作るということがそもそも嫌いではないし、演劇自体が生身の体の上にファンタジーを立ち上げるものだし、劇団はまさにそういう「白いキャンバスではない、ごつごつした壁面や岩肌に絵を描く面白味」みたいなことがいつも味わえて、それにストレスを感じずに面白がれるかどうかが、劇団をやるやらないの分水嶺なのかも、と今思いました。僕はそう、好きなんですよねやっぱり。

 バンド。バンドの感じに似ていると思います。オーケストラの演奏者とかスタジオミュージシャンって徹底的にうまいその道のプロみたいなイメージがありますが、そうではない、たまたまウマが合った、あるいは家が近かった仲間で集まって、初めて音を出した時は興奮するものの、そのあと技術の壁みたいなことにぶつかったり音楽性の違いが出てきたり、徹底的にうまい人たちに打ちのめされたりして「なんでうちのバンドはこんななんだろう」ってお互い思いあったりしながらも、まあこの顔ぶれで始めたことだしな、って渋々やっているうちにいつしかそのバンドにしか出せない固有のグルーヴが知らず知らず出ている、みたいなことが、僕が思っているバンドの歩みのある望ましいイメージなんですが、劇団もそれに近いです。そして僕はやっぱりバンドも好きで、バンドから出る「事情にまみれたサウンド」のようなものが好きなんです。長年続けているバンドは短所を補い合ったり長所にすり替えていたりとかね。

 思わずバンドの話になりましたが、それでいうと僕らはバンドを始めて18年、みたいな劇団かもしれません。学生のころ「ヨーロッパ企画」を旗揚げてからもう18年になるんです。そして自らをバンドになぞらえるなどという厚かましいことをしましたが、バンドほど劇団ってシュッとはしてませんし(まず人数が多い)、もっと泥臭いですけどその分やれることだって多いぞ、っていうのが劇団のいいところだと思っています。そんな「劇団」にまつわるあれこれを、ここでは書いていけたらと思っています。どうぞよろしくお願いします。

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上田誠(うえだ・まこと)

1979年京都生まれ。1998年、大学入学とともに同志社小劇場に入団し、同年、劇団内ユニットとしてヨーロッパ企画を旗揚げ。ヨーロッパ企画の代表であり、すべての本公演の脚本・演出を担当。外部の舞台や、映画・ドラマの脚本、テレビやラジオの企画構成も手がける。

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