演劇と氷山

第4回 「ヨーロッパ企画」という名前

2016.06.08更新

 「ヨーロッパ企画」という名前の由来を聞かれることがよくあります。もちろん引っ掛かりを狙って付けた名前なので、気にしてもらえるのは嬉しいことです。言ってしまうと響きで付けた名前なんですが、僕らは今でもこの名前に導かれて活動しているなあ、とよく思うので、今回は劇団名について。

 付けたのは1999年の年明けでした。僕らは当時「同志社小劇場」という学生劇団にいて、そこの劇団内ユニットとして前年秋に初めて公演を打ち、ただならぬ手ごたえを感じて「これはぜひ活動を続けよう、なんなら劇団にしよう」と言い出した、もっとも希望に満ち、初期衝動に火照っていた頃でした。バーミヤンに集まって劇団名を決める会議をしたんですが、当時は「猫」の付く劇団名が多く、ならば僕らは「犬」を付けようか、みたいな安直なところから始まったと思います。そうして「犬」のつく冴えない造語をポツポツと言いあっているうちに、メンバーの諏訪からポロっと出たのが「犬ヨーロッパ」でした。

 「ヨーロッパ、いいですよねえ」「『ヨ』も『ロ』も『パ』も、気が抜けてる感じで」「僕らに何にも似つかわしくないのがいいですね」「カタカナですよねやっぱり」「ああ、ヨーロッパいいなあ」「犬いらなくて、ヨーロッパでいいんじゃないですか」みたいにして、前提の「犬」があっさりいなくなるほどの好評を博し、晴れて「劇団ヨーロッパ」という名前にその場では決まりました。が、後日冷静になってみると、劇団内で劇団を作るというのはちと剣呑ではないか、というセンサーが狡猾にも働き(学生劇団って割とそういうことにセンシティブなんです)、「もうちょっと小ぢんまりした装いでいきましょうか」と自粛を込めて付け直したのが「ヨーロッパ企画」でした。僕らがやることはあくまで一回性のある「企画」であり劇団ではないですよ、というメッセージを纏ったんですね。結局はそれでも剣呑になったんですが。

 そうして付けた「ヨーロッパ企画」が今でも屋号であり続けていて、18年たった今でも気に入っているし使いべりしている感じもないのは、当時の僕たちに喝采を送りたい気分です。「こんな名前の劇団があったらさぞ素敵だろうし面白い劇をすることだろう」と当時の僕らなりに知恵とセンスを絞って付けたのが「ヨーロッパ企画」で、今でもその名前は僕らよりちょっと先にあって、その名前に追いつくべく邁進しているような感じです。ちなみにこういう名前の付け方は本公演のタイトルでも同じでして、「こんな劇があったらさぞ面白そうだし想像もつかないぞ」というタイトルを先につけて、そのタイトルに追いつく中身を後から考える、という。

 いちど10年以上も前ですが、ある演劇評論家の方から「続けていくならヨーロッパ企画という名前は変えた方がいいかもしれないよ。海外に行くとわけが分からなくなるから」とアドバイスをもらってギクッとしました。そんなこと考えたこともなかったからです。僕は海外に疎く、ヨーロッパ企画という名前ももちろん日本のお客さんを目がけて付けたもので、どこもヨーロッパじゃない人たちが「ヨーロッパ」を堂々と名乗っているふてぶてしさといいますか、そもそも「ヨーロッパ」というカタカナ表記自体がいかにも日本的で愛おしいし(僕はだからカタカナの言葉が好きで、タイトルにもよく付けます)、そんな矛盾を孕んだ劇団名がコメディをやるのにもってこいだぞ、と思って付けました。

 つまりハナから射程は日本語圏内にしかなかったわけで、それが劇団名にはしなくも現れていたわけです。もちろん日本語でコメディをやると決めた以上、言葉の壁はいかんともしがたいものがあるので、いずれにせよやむなしなんですが。そしてその人が予見された通りというか心配以前にといいますか、僕らは海外公演とはいまだに縁がありません。別に劇団名のせいではないと思うけど、もしかすると名前の呪いかなあ、とも少し思います。劇団名って志向性を持つと同時に、表現の射程を規定しもするんだなあ、と。考えてみれば世には色んな劇団名があって、アナーキーな劇団名、パロディックな劇団名、ある世代に強く響く劇団名、それらは自らにかけた「呪い」と引き換えに熱狂を獲得しているとも言えますね。「こんな劇団名じゃ不自由するだろうなあ」みたいな劇団名や芸名ってすごくグッときますからね。自分では中々できませんけど。

 「ヨーロッパ」の作用はそんな風ですが、「企画」のほうは、ある種消極的に付けた二文字にもかかわらず、これが思いのほかよく働いてくれてます。僕らは演劇をやりながら、イベントやテレビやラジオ、映像を作ったりDVDやパンフを自作したり、地元の祭りから企業の仕事までをよろず守備範囲としてますが、それってきっと「企画」の二文字がそうさせたことです。「劇団○○」だともう少し節操ある活動ぶりだった気がしますが、「○○企画」ってカジュアルだしちょっといかがわしさもありますからね。そうして舞い込んだジャンルレスな仕事たちが、ゆくゆく劇へとフィードバックされて、異分野をあれこれ消化した未踏のコメディが作れたらいいな、と夢見ています。あと「企画」という言葉は最近ことさら好きになってきていて、今では「企画性コメディ」と呼ばれるシリーズを連続上演するほどに「企画」という言葉に寄りかかっています。

 そんな「ヨーロッパ企画」という名前に導かれし我々です。劇団名は呪いでもあり祈りでもあるなあ、と。劇団なんてもう劇団名がすべて、とさえ言えるし、これからもヨーロッパ企画の名前に追いつくような活動をしてゆく所存です。犬には今や足を向けて寝られません。

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上田誠(うえだ・まこと)

1979年京都生まれ。1998年、大学入学とともに同志社小劇場に入団し、同年、劇団内ユニットとしてヨーロッパ企画を旗揚げ。ヨーロッパ企画の代表であり、すべての本公演の脚本・演出を担当。外部の舞台や、映画・ドラマの脚本、テレビやラジオの企画構成も手がける。

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