演劇と氷山

第7回 年表の次の色へ。

2017.04.06更新

 ご無沙汰しております、上田です。
 前回「もうじきこの人たちがみんな出る本公演の季節です」。などとかっこよく締めくくったまま、季節が3つほど過ぎ去ってしまって今です。『ヨーロッパ企画の本』をミシマ社さんから出してもらい、一区切りついた気になってしまったんですね。すみません。歯医者ならもうこのまま行かなくなってしまう僕ですが、演劇の航路はまだまだ果てしないですし、やはり日誌は付け続けねばと思い、保健室登校のようにおずおずと戻ってきました。氷山にぶつかるまでは続けていきたい気持ちですので、どうか気長にお見守りください。

 さて、もう半年も前のことになりますが、僕らヨーロッパ企画の本公演「来てけつかるべき新世界」が、無事に初日を迎え、9都市ツアーを巡り終えました。こってりした関西弁の劇だったので反応が心配でしたけど、おかげさまで各地でご好評をいただき、しかも先日には「第61回 岸田國士戯曲賞」という脚本の賞までいただきました。願ってもないことです、ありがとうございます。これらすべてが連載の一回のうちに起こったことだと思うと、時の流れの速さに驚きを禁じ得ません。

 そんな失われた時間を求めるべく、「来てけつかるべき新世界」のことを書いていきます。これは僕らの第35回公演で、「新世界コメディ」と銘打った、大阪は新世界の古ぼけた串カツ屋の界隈に、ドローンやロボットやAIやら、文字通りテクノロジー的な意味での「新世界」が到来するという、言うなれば「サイバーパンク人情喜劇」のようなことを目指して作った作品です。

 舞台写真はこんなです。「ど」が付くほどの大阪喜劇的な設えの中で、おっさんオバハンたちが大阪弁をまくしたて、そこへドローンが飛び交い、野良ロボットがうろつき、炊飯器のAIが電光掲示板を介して話しかけます。そうして機械と人間がなし崩し的に融和していき、やがてはイタリアンレストランチェーン「サイバーゼリヤ」の社長のマインドアップロードから、宇宙はシンギュラリティの急流へと...。という、あらすじを書くと要素多いなという感じですが、これが全5話構成で、主人公の女の子によって軽妙っぽく語られていきます。公演前の取材のときに、記者さんたちに「じゃりン子チエ+ブレードランナー」みたいな感じですかねえ、と喩えたら、皆さんとてもヒザを打ってくださいました。ので未見の方はそういうイメージでいてください。いいように言ってはいますが。

 自作を語るのって照れくさいですけど語ってしまいますと、この劇は僕らにとって、年表の色が変わった1作目、のような作品です。これまでは5年くらい「企画性コメディ」シリーズというのをやってきまして、詳しい説明は省きますけど、「迷路コメディ」では舞台上に迷路みたいな構造物を建てたり(「建てましにつぐ建てましポルカ」)、「ゲートコメディ」では延々とゲートを開けてビルを登り続ける構造の劇をやったり(「ビルのゲーツ」)、「文房具コメディ」では小人の宇宙人たちが文房具を観光する話にしたり(「遊星ブンボーグの接近」)、そういう「企画性」がなにより先立つ劇のことです。


「建てましにつぐ建てましポルカ」



「ビルのゲーツ」



「遊星ブンボーグの接近」

撮影:清水俊洋

 写真を見てもおわかりのとおり、見た目からけっこう奇抜なことになりがちでして、「普通はその仕掛けを劇の真ん中に持ってこないだろう」「それをやったら劇の展開に色々制約がでてくるのは目に見えているだろう」というぐらいの企画性をこそ、どんと真ん中に据えるのがミソです。そうしないと馬鹿馬鹿しさは出ないし、珍しい企画性ありきで劇を作ることでたどり着ける劇性だってあるんです。何より誰もが思いついても本気ではやろうとしないようなことなので、いざやると痛快ですし作っていて愉しさしかありません。

 なのでこれからもずっと企画性コメディをやり続けよう、と思っていたんですが、なんとなく次のフェーズにそろそろ進まないと、メンバーもお客さんもちょっと停滞しかけているぞ、という空気をそこはかとなく感じ始めたんですよね。こんなのって思い込みかもしれないし、お客さんだってそれぞれ思っていることは違うんですけど。新しいお客さんだっているし。でもやっぱりなんとなく新しいところへ進んだ方がいいな、っていう雰囲気のときってあるんです。不足はないけど、ここしばらく同じ年表の色だよな、っていう。そうなるとやっぱり、次の色に進む方が雰囲気はよくなるもので。

 とはいえ、「企画性コメディ」はやりたいことですし、もう少しいうと、僕の心がけとしては、「前にやってきたことはできるだけ引きずったうえで、次の成分を足したい」って思っています。企画性コメディをやめて新しいことをやる、のではなく、企画性コメディはこれからもやっていきながら、プラス新しいことをする、みたいなイメージ。なぜか初期からずっとそうしてきました。
 劇団を始めたころは「SFコメディ」をやっていて、何年かごとに「地形やモノと生っぽく絡む劇」「舞台の高低差を使う劇」「企画性コメディ」と、フェーズが変わってきてるんですが、それは「前のを引っ張りつつ新しいのを足す」というふうにしていて。つまり次にやるのは「SFコメディであり、地形やモノと生っぽく絡み、舞台の高低差を使った、企画性コメディであり、プラスなにか」ということになります。これはけっこうな縛りのようですけど、長年やってる作り手の方で、僕が好きな人はみんなこれを実践してる気がしていて。いやもちろん守り切れないときもありますし、ときには引き算だってしたほうがいいんでしょうけど。

 長くなってきましたが、そんな局面だったので、「来てけつかるべき新世界」では、とりあえず新しい成分を3つぐらい足すことにしました。向こう何年かのテーマにもなり得ることなので、どれを追いかけていくべきかまだわからなかったし、とりあえずいろいろ思いつくことは全部乗せしてみようと思って。

 1つ目はストーリー。劇にストーリーがあるのって当たり前の話ですけど、「企画性コメディ」のころは、ストーリーをわざと最小限にしたりしていました。それは企画性を強調するために。企画性コメディってよくいうとコンセプトカーのようなところがあって、コンセプトを立たせるためには余計な飾りがない方が際立つんです。という誰も喜ばない尖り方をしていましたが、やっぱりストーリーの起伏とか、各キャラクターのバックボーンだってある方が観ていて楽しいし、なので今回は久々にお話の展開をがんばることにしました。

 2つ目はテクノロジー。今回はドローンやらロボットが出てくる劇だったんですが、なるべくハリボテでなく、ちゃんと電気仕掛けで動くガジェットを使うようにがんばりました。僕は理系でそういうのが好きだし、これを今回限りの企画性にするんではなく、今後も映像技術とかARとか、あまり分からないですけどメディアアートみたいなこととか、そういうテクノロジー成分を毎回入れていくことが、劇団の得意技にできないかな、と。継続的にやるのは劇団の体力的にかなり大変かもなんですが。

 3つ目はローカル性。地方のことをやる、という意味もありますが、それよりは局所性、具体性、ドキュメンタリー性のあることをやる、ようなニュアンスです。これまではけっこう記号的な設定が好きで。星新一先生の「エヌ氏」のような世界観ですね。それもグッとくるんですけど、なんだかもう少し、手触り感のあるテクスチャのことをやってみたいと思いました。今回でいうと大阪・新世界の固有名詞や名物を使ったり、もっと踏み込むなら大阪のおっちゃんにインタビューしたことを盛りこんだり、とかですね。「企画性」を骨組みにはしつつ、皮膚のところはローカル性があるといいなと。

 4つ目もありました。4つ目は劇団性。「上田コメディ」ではなく「ヨーロッパ企画コメディ」を作る、みたいな感覚です。企画性コメディってけっこう前者の感じが強くて、僕が考えたコンセプトをブレなく実現する、ような志向だったんですけど、そうではなく、もっとメンバーやスタッフの個性がそこここで同時に光っていたり、なんなら今回は僕でなく他のメンバーのカラーが強かったり、そんな流れの公演を作っていけないかなあ、と。とりあえずこの劇では、役者であり工作好きの酒井くんに大活躍してもらい、ラジコンを改造してロボットを作ってもらったり、演歌歌手の頭の飾りのビリケンさんを電子制御で動かしてもらったりしました。

 と、1から4は重なるところがありますし、別に目新しいことでもなかったりしますが、年表の新しい色のところのタイトルはなにか、みたいな感じです。こんなふうに新作「来てけつかるべき新世界」を作りまして、さて結果はと言いますと、まだどこへ進めばいいかよく分かっていない、というのが本当のところです。が、なんにせよいろいろたくさん乗せたのはよかったなあ、という身もフタもない感想が今はあります。とにかく和音がたくさん鳴っている劇、を作ったような手ごたえだったので、いただいた感想もバラエティ豊かでした。人情物語にぐっときた、という人もいれば、ドローンが飛んでてよかった、という人もいて。ローカル性の観点から飛田新地のことも少し入れたんですが、下ネタ下手ですね、とアンケートに書かれたのはショックでした。そんなわけで新しい年表の色は、ピンクが薄めの玉虫色です。次回公演もどうぞお楽しみに。

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上田誠(うえだ・まこと)

1979年京都生まれ。1998年、大学入学とともに同志社小劇場に入団し、同年、劇団内ユニットとしてヨーロッパ企画を旗揚げ。ヨーロッパ企画の代表であり、すべての本公演の脚本・演出を担当。外部の舞台や、映画・ドラマの脚本、テレビやラジオの企画構成も手がける。

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