5年後、

第3回 即効薬

2015.09.22更新

毛のない生活』(ミシマ社) を書いた頃は、私はガンの原因が私自身の編集者生活にあると考えていた。過食やストレス、バランスを欠いた時間とお金の使い方が、私自身を追い込んだのだと。それがなかったとは言わないが、時間が経ったいま、あらたな考えも私の中に生まれている。もっと過去へ、さかのぼり、時代を検証する必要がある。
自分が生まれ成長した時代は、高度経済成長のあとの日本の繁栄期と重なっている。戦後急速に浸透した欧米食と医療が、私たちの親世代の意識を、それ以前のものと大きく変えた。ポイントは「即効薬」の登場である。ものや人を育てる速度が変わり、人びとは「待てなく」なった。すぐ効く薬、すぐ大きくなる作物、すぐ使える物・・・便利で速くて美味しいもの、しかもそれらをたくさん、求めるようになった。それらが容易に手に入り、実現されることを当然と思い、実現されなければ不満に思った。そうした時代をみんなで作り上げ、その恩恵も受けたが、「即効」「高速」は人体に無理を強いるものでなかったか。私たちはある段階で参ってしまう。「もうお手上げ」を、心より体が、先に訴え始めた。問題の根は深い。
そもそも私たちやその親、さらに先人が、そこへ導かれたのはなぜか?
私たちが穏やかにきちんと暮らすことができ、真面目に仕事へ打ち込めるためには、どこに軸足を置けばよいのだろう?
本来、日本人の心の置きどころはどこにあったのか? 見失い、分かりづらくなってしまったそれをいまいちど見つけ、いまの時代に生かすためには何を学べばよいのか?  闘病の苦しみから解放されたとき、私の中の深いところで、それらを探究したいという欲望が、発生した。

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山口ミルコやまぐち・みるこ

東京都生まれ。専修大学文学部英米文学科卒業後、外資系企業を経て、角川書店雑誌編集部へ。94年2月1日から2009年3月末まで幻冬舎。プロデューサー、編集者として、文芸から芸能まで幅広いジャンルの書籍を担当し数々のベストセラーを世に送る。幻冬舎退社後はフリーランス文筆業、クラリネット奏者として活動。2012年2月に『毛のない生活』(ミシマ社)を上梓。その他の著書に『毛の力 ロシア・ファーロードをゆく』(小学館)がある。

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