5年後、

第5回 すべて不要だった

2015.10.06更新

抗ガン剤をやめて、毛が生えたところまで『毛のない生活』(ミシマ社) に書いた。
歯もボロボロ、内臓も血管もボロボロ。
けれど命はあるのだから、あとは生きるだけだ。
私は回復に努めた。
回復期に行なった重要なことは、従来の生活習慣の徹底的な見直しである。世間一般で体に良いとされているもの、生活に当然必要だと言われているもの、それらがほんとうに自分に必要かどうか?
以前は必要だったがもう要らないというものもあるだろう。抗がん剤中には不要であっても社会復帰したら必要なものもあるかもしれない。私の再出発はその検証から始まったが、結論を言うとすべて不要だった。
たとえば肉食は抗がん剤中からやめており、やめてみてわかったが私には合わなかった。肉を消化するには体力が要る。
次にビタミン剤・健康食品、これらは抗がん剤中に使用をやめており、やめてみてわかったが私には合わなかった。
シャンプー・リンス・ボディソープ・歯磨き粉の類い、これらも抗がん剤中に使用をやめており、やめてみてわかったが私には合わなかった。どれも塩や酢で代用できる。
身体を締め付ける下着や化学繊維の衣類 ( 抗がん剤中には同じ服ばかり着ていた) 、これらもやめてみてわかったが私には合わなかった。
・・・こうして挙げていくと、どれも私世代の成長期に普及したものばかりで、 私の祖父母の時代には関係の薄かったものと思われる。
「どんどん食べて、胃がもたれたら薬を飲もう。健康食品を摂っているから太らないし、太ったとしてもスマートに見せてくれる下着もあるよ。動物性食品の過食でカラダやアタマが臭っても、すごくいい香りのシャンプーやボディソープをたっぷり使えば大丈夫!」日本の経済が成長期から成熟期に差し掛かり、内需の伸びが停滞を始めた頃にも国民は依然、市場の要望どおりに消費を続け、そしていまなお意識はおよそ変わっていないと思われる。私の場合は、ガン・ショック~抗がん剤パニックによって、変わらざるをえなかった。
やめてみてわかったが私には合わなかったもの、「会社」があったことも付け加えておく。これについては別途、くわしく書く。

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山口ミルコやまぐち・みるこ

東京都生まれ。専修大学文学部英米文学科卒業後、外資系企業を経て、角川書店雑誌編集部へ。94年2月1日から2009年3月末まで幻冬舎。プロデューサー、編集者として、文芸から芸能まで幅広いジャンルの書籍を担当し数々のベストセラーを世に送る。幻冬舎退社後はフリーランス文筆業、クラリネット奏者として活動。2012年2月に『毛のない生活』(ミシマ社)を上梓。その他の著書に『毛の力 ロシア・ファーロードをゆく』(小学館)がある。

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