5年後、

第6回 誰も私に用がない

2015.10.13更新

いろんなものをやめたついでに、人に気をつかうのもやめた。
したがって人間関係も切れた。
会社をやめてわかったのは、誰も私に用がないということだ。
毛のない生活』(ミシマ社) を出したとき、さまざまな感想を読者の方から頂戴したが、その中にいくつか、
「ミルコさんはたくさんの友人に恵まれていますね」とあったのだが、正直、本に書いた人との付き合いはいまはほぼない。
『毛のない生活』は、元が「日記」なので固有名詞がたくさん出てくる。
社長のミシマさんから、本にしてくださるとのお話を頂いた時には、ほんとうに嬉しかった。私は元編集者なので、原稿を本にするということがいかなることか、よくよく知っていたので、その重みをありがたく受け止め、本作りにはいっさい口を出さないと決めた。
そしてミシマさんと担当のホシノさんが作ってくださったのは、治療中の私をまんまパッケージしたような、ライブな本だった。
したがって、固有名詞も生きていた。本を読むと当時の自分を支えてくださった人びとと再会できる。感謝で胸が熱くなる。これは幸せなことだが、いまもって私がたくさんの仲間と交流することはない。
私は会社をやめた人間である。
そしてガン治療の終了とともに、東京を離れた。
後悔はしていない。けれど、すっかり変わり果てた自分のライフスタイルに、ふっとおどろくことがある。

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山口ミルコやまぐち・みるこ

東京都生まれ。専修大学文学部英米文学科卒業後、外資系企業を経て、角川書店雑誌編集部へ。94年2月1日から2009年3月末まで幻冬舎。プロデューサー、編集者として、文芸から芸能まで幅広いジャンルの書籍を担当し数々のベストセラーを世に送る。幻冬舎退社後はフリーランス文筆業、クラリネット奏者として活動。2012年2月に『毛のない生活』(ミシマ社)を上梓。その他の著書に『毛の力 ロシア・ファーロードをゆく』(小学館)がある。

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