5年後、

第10回 お金

2015.11.10更新

ガン治療にはたいそうお金がかかる。
私はガンになる気がまったくしなかったので、ガン保険に入っておらず、フルに払った。
ちょうど退職金がまとまって入ることがわかっていたので、高額治療を考えたこともあった。胸を傷つけることや抗がん剤による脱毛を避けたかったためだが、いまにして思えば一般治療でよかったと考えている。

高額治療とは重粒子線などによるもので、精神的な負担が少なく、きっと効くのだろうと思うが、現在の私のガンに対するイメージから言うと、あまりピンとこない。なぜなら私の中では、ガンは固まりではなく、全身に散らばる無数の細かい粒であるからだ。ピンポイントで仕留められる気がしない。固まりをやっつけたとしても、細かい粒たちによる反撃がこわい。政権幹部より民衆の力である。

重粒子線などに比べればましとはいえ、一般治療も高くつくことには変わりない。しかも乳ガン治療は長期戦である。治療のあいだに離婚されたり、退社を促されたという友人の話も耳にした。お金が続かず、治療をあきらめた人もいた。なのでガン保険に入っていて助かったという人は多かったと思う。私がいいなあと思ったのは、入院へのサポートだ。私は放射線治療を一カ月半にわたって受けたのだが、1日1分の照射のために毎日病院に通うのが辛かった。入院して受けている人たちは、保険に入っていた。

だからといって私はガン保険をとくにおすすめしているわけではない。ガンになるときは、なる。ならないときは、ならない。まずは食養生、そして経済優先型ライフスタイルの見直しが肝心だ。
それにしても病院にあふれる人を見るにつけ、会社だったらこの国はとっくに倒産しているよと思ってしまう。医療と保険。私たちの病いが、今日も巨額のお金を、動かしている。

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山口ミルコやまぐち・みるこ

東京都生まれ。専修大学文学部英米文学科卒業後、外資系企業を経て、角川書店雑誌編集部へ。94年2月1日から2009年3月末まで幻冬舎。プロデューサー、編集者として、文芸から芸能まで幅広いジャンルの書籍を担当し数々のベストセラーを世に送る。幻冬舎退社後はフリーランス文筆業、クラリネット奏者として活動。2012年2月に『毛のない生活』(ミシマ社)を上梓。その他の著書に『毛の力 ロシア・ファーロードをゆく』(小学館)がある。

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