5年後、

第16回 病後鬱

2015.12.22更新

どん底から這い上がるようにして、必死で回復につとめた
努力はむくわれ、病院を出たものの、すでに会社はクビになり、夫には離婚され、子どもたちも出て行った
誰も待っておらず、何もすることがなかった
こんなんだったら病院にいたほうがよかったではないか
治っても、仕方がなかった
自分が治ることなど、誰一人望んでいなかったのだから
目の前にやることがあり、それに必死で向かっていた治療中はまだ救われていたのだ
どれほど治療がつらくとも
病院の内側にいて、あらゆるものに守られ、みんなに優しくされて、共に病魔と闘う仲間といた
あれはじつは夢のような時間――

治療は苦しかったはずなのに、病院の中にいたほうがよかったと、せっかく必死で治療につとめ病院の外へ出ても、また病院に舞い戻ってしまう。ガン治療のためではなく、鬱病患者として、である。そうした"病後鬱"のようなケースはけして少なくなかった。闘病が長ければ長いほど、病後鬱に苦しめられるようだった。
病院から出ても、どこにも迎え入れられなかった自分。誰にも求められていなかった自分。それに向き合うのが「治療後」である。
私自身をふりかえってみても、病院の外の世界は、以前と違って見えた。
たったひとりで歩いていくことを、そういえば倒れる前に決意したのだった、それをまともに受け入れて生きていく、本番はこれからなのだと、病院を背にした。

~お知らせ~

年明けに、山口ミルコさんがラジオに出演されます。
1/10(日)、1/17(日)文化放送「キャンサーカフェ」(朝8:00~8:30)
「乳がん体験」で得た教訓、それ以前に遡って編集者時代の話、術後の自分再生、近況などを語られます。
番組のパーソナリティは、門田守人(もんでん・もりと)先生(2011年から「公益財団法人 がん研究会」理事で、現在は「がん研有明病院」名誉院長厚生労働省「がん対策推進協議会」の会長)と石川真紀アナです。


お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

山口ミルコやまぐち・みるこ

東京都生まれ。専修大学文学部英米文学科卒業後、外資系企業を経て、角川書店雑誌編集部へ。94年2月1日から2009年3月末まで幻冬舎。プロデューサー、編集者として、文芸から芸能まで幅広いジャンルの書籍を担当し数々のベストセラーを世に送る。幻冬舎退社後はフリーランス文筆業、クラリネット奏者として活動。2012年2月に『毛のない生活』(ミシマ社)を上梓。その他の著書に『毛の力 ロシア・ファーロードをゆく』(小学館)がある。

バックナンバー