5年後、

第20回 救急病院

2016.01.18更新

救急病院に、久しぶりにお世話になった。

ある日の夕方、とつぜん痛み出した胃は激しい収縮を繰り返しているようで、一定のリズムにのって断続的に私を苦しめた。
はじめは身をかがめ、こらえていたが、しだいにがまんができなくなった。

塩湯を呑み呑みするうちに吐き気が込み上げてき、痛みが始まってから1時間くらい経って、ようやく吐くことができた。
吐いて吐いて吐きまくった。こんなふうに吐くのはいつ以来かと思えば、抗ガン剤治療期である。私は吐くことがとても苦手だ。

今回の胃痛の原因は、ほかならぬ私自身にある。
古いソースをかけて野菜を食べたせいだ。少々痛んでいると予想はできたが、そのソースの美味しさに捨て去ることができなかった。
「私にもっと思い切りのよさがあればなあ」
これは万事について思うことなので、私のダメな所なのだろう。

しかしかつてガン治療でさんざん痛めつけられた私の内臓も、ちゃんといい仕事をしてくれていたことに、感謝の念を禁じえない。確実に我が身が回復していることを知り、あらためて細胞たちの壮大な旅に、思いを馳せている。

夜の救急病院は混んでいた。夜勤の先生はとても忙しそうであったが、ていねいに私の腹を触診し、腸整剤と痛み止めを出してくれた。
家のトイレではあまり吐けなくとも、真っ白く冷たい病院のトイレではよく吐けるのである。そういえば病院とはこんな所だったと、思い出した。

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山口ミルコやまぐち・みるこ

東京都生まれ。専修大学文学部英米文学科卒業後、外資系企業を経て、角川書店雑誌編集部へ。94年2月1日から2009年3月末まで幻冬舎。プロデューサー、編集者として、文芸から芸能まで幅広いジャンルの書籍を担当し数々のベストセラーを世に送る。幻冬舎退社後はフリーランス文筆業、クラリネット奏者として活動。2012年2月に『毛のない生活』(ミシマ社)を上梓。その他の著書に『毛の力 ロシア・ファーロードをゆく』(小学館)がある。

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