凱風館日乗

第23回 番外編 バリ島ふらふら日記 後編

2014.02.25更新

 2月19日(水曜日)
 バリ島三日目。
 朝ご飯のあと、小雨が降って来たので、プチ仕事。晴れ間が見えたのでプールサイドへ。 今度の部屋はプールに一番近いところだったので、徒歩40秒ほどでプールサイドです。
 しばらく泳いでから、雨に追われてレストランに逃げ込み、光嶋くん、はるちゃんとお昼ご飯。
 今回はクラブハウス・サンドイッチとコロナ。
 お腹がくちくなったので部屋に戻って昼寝。
 2時間ほど寝てから、小田嶋夫人とご一緒に、3:00からスパでバリ・マッサージ。1時間20分、ここでも半睡半覚でオイルを練り込んで頂きました。ぼおっとして部屋に戻り、すこし虫除け防備を固めて、小田嶋夫妻、光嶋夫妻と5人でタクシーをチャーターして、西海岸の寺院のケチャへ。

 ここは前回お寺にお参りして、部長がサルに眼鏡をとられたところでした。サルを警戒しつつ屋外劇場へ。西の海に日没するところが見えるロケーションなのですが、あいにくの雨模様。ケチャが始まることから、ぽつりぽつりと雨粒が落ちて来て、1時間の演目が終るころに少し雨足が強くなってきました。ケチャは前回見た劇場よりはだいぶヴァラエティ化していて、ちょっと残念。
 芝居の登場人物が英語を話したり、客をいじったりしちゃダメです。面白かったのは白人の観客が途中で三々五々と席を立ったこと。
 やはり彼らには「エキゾチック」過ぎるのでしょうか。
 僕と小田嶋さんはケチャの音調のうちに「相撲甚句」や「夕焼け小焼け」を聴き取って、やはり同根の音楽ですねえとひとしきり感想を述べ合いました。
 雨の中をまたホテルまでもどって、総勢8人そろってはじめての「社員旅行晩ご飯」。今回はSeafood sampler とMixed grillを頂きました。ワインはメルロー。
 さすがに連日のご飯で、いささかお腹が張ってきました。
 Old Parrを一口飲んで、就寝。

 2月20日(木曜日)
 早めに起きて、AERAの原稿書き。
 8:00に朝ご飯。さすがにもう朝からお肉は食べられず、野菜サラダとお粥。ひさしぶりに「お醤油」の味で、ほっとしました。
 部屋に戻って、プチ仕事。それからプールでひと泳ぎ。
 少し早めに上がって、着替えてからバリ島在住日本人のみなさんとの会食におでかけ。
 ウチダのバリ島訪問を知った読者の浜島さんの手配で、だいぶ前から企画されていたものです。ウブド在住の方、デンパサール在住の方、ヌサドア在住の方、6人が集まってくださいました。
 お仕事もいろいろ。
 バリ島教育事情、言語事情など興味深いお話を伺いましたが、圧巻は「憑依系」のお話。
さすがバリ。
「おりてきた」人の話。マントラや聖水の効果のお話。風水の話など、ウチダの大好きな「そっち系」の話題で盛り上がりました。
 参加者のおひとり今野さんはいまご自宅を建設中なので、毎日建設現場に顔を出すのですが、先日現場に行ったらただならぬ様子。訊けば若い大工に「おりてきて」しまっているとのこと。たしかに白目を剥いて、口から泡を吹いている。今野さんが抱きかかえると跳ね飛ばされる(今野さんは僕より一回り大きく柔道と空手を嗜んでいる方です)。同僚もまじって3人で抑え込んだけれど、全員弾き飛ばされてしまった。
「スーパーマンですよ、あれは」とのことでした。
 その若い大工さん、翌日けろりとして現われ、前日のことはなにも記憶していないんだそうです。

「ほら、バリの人たちって、みんなだいたい温和だけど、たまに眼が飛んじゃってる人いるでしょう?」「いるいる」「そういうときは近づかない方がいいよね」「『おりてきやすい人』って、うちの近所だけで何人もいますしね」
 影絵の中で聖水にマントラを練り込む場面があって、観客としてそれを見ているときにすごい波動を感じたというのはダンサーの小谷野さんのお話。結婚式の日に花婿が式場に持参する聖水はそうやって影絵で演じられる「物語の中で」作られるのだそうです。
 ウブドの成瀬さんからは竹の楽器を使った演奏会のあと、無人の庭で「おじいさんの木」と呼んでいる巨木のそばに立ったら、木がなんとなく熱を持っていたようなので、「背中を向けたら仙骨あたりからびびっと熱いものが入ってきた」という話をうかがいました。
 大きい木とか岩とかは、そういうことよく「ある」よね、という話に全員深く頷いておられました。そうですか。
 
 お迎えくださったこの6人は実は全員が揃うのはこの日が初めて(半分くらいはお互い初対面)ということで、「バリ島在住者話あるある話」で盛り上がりました。
うかがってみると、それぞれまったく違うきっかけでバリ島に住むようになった方々。でも、たしかに共通するものがありますね。
「引き寄せられるようにバリに来てしまいました」とこちらに来て2年の今野さん車の中でうかがった言葉がたいへん印象的でした。
 僕もよく数えるとバリに来るのは6回目。出不精の僕もまた「引き寄せられるように」ここに来てしまうのでした。
 何が惹き付けるのか、これまでうまく言葉にはできませんでしたが、バリ島在住の方々とお話ししていて「この人たち、僕と同じ人種だ・・・」という感じがしました。
 どこが「同じ」なんでしょうね。
 舞踏家の小谷野から「自我を消して、身体を踊りに委ねる」というお話を聴いているうちに、たぶん山田うんさんや島崎徹先生や安田登さんと、「どこか」でつながっている人なんだろうなという気がしました。
 またバリに来たときには、今度はウブド在住のみなさんをお訪ねすることにします。
 今日の出会いの意味を言葉にまとめるためには、まだもう少し時間がかかりそうです。でも、今書いている「日本の身体」の「まえがき」には何らかの影響が出そうです。
 4日間の愉しいバリ旅行でした。
 ご一緒してくださってみなさん、どうもありがとうございました。とってもおもしろかったです。

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

内田樹(うちだ・たつる)

1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。 現在、神戸市で武道と哲学のための学塾「凱風館」を主宰している。 神戸女学院大学名誉教授、多田塾甲南合気会師範、合気道七段。

著書に、『街場の現代思想』『街場のアメリカ論』(以上、文春文庫)、 『私家版・ユダヤ文化論』(文春新書・第6回小林秀雄賞受賞)、 『日本辺境論』(新潮新書・2010年新書大賞受賞)、 『街場の教育論』『増補版 街場の中国論』『街場の文体論』(以上、ミシマ社)など多数

バックナンバー