「働くからだ」のつくり方

第11回 ぴったりの靴を求めて、288種のサイズから試し履き

2017.08.04更新

この連載から生まれた書籍『長く働けるからだをつくる ――ビジネススキルより大切な「立つ」「歩く」「坐る」のキホン』が、7月14日発売になりました。「人生100年。からだが資本!」。体調管理のキホンのキは「立つ」「歩く」「坐る」。自分のからだのこと、本気で考えてみませんか? ミシマ社とインプレスが立ち上げたビジネス書レーベル「しごとのわ」より発刊。どうぞよろしくお願いいたします!


 靴を見直すことは、「長く働けるからだ」を維持するためにとても重要である――これも、リハビリ経験から学んだ大事な教訓です。
 前回お伝えしたように、合わない靴が腰痛や膝痛を引き起こし、外反母趾などの原因になりうる。開けてしまったパンドラの箱。それを知った以上、以前のようにブカブカの靴を履き続るわけにはいきません。そこで、あちこちのデパートや靴屋でぴったりの靴を探したのですが、納得できる一足は見つからないのです。
 というのも、店頭に並んでいる靴は「EE」や「EEE」の幅広サイズのものばかりで、わたしには幅が大きすぎるのです。『長く働けるからだをつくる ――ビジネススキルより大切な「立つ」「歩く」「坐る」のキホン』にも書いた「靴探しの旅」は、その後も続いています。

 最大の問題は、細い幅の靴が普通に買えないことでしょう。
「日本人の足は幅広甲高」というのは"古い常識"。現代日本人の足は細くなっているのに、市場はそれに対応していない。セミオーダーの細幅靴をつくってくれる店やオンラインショップもありますが、その数は極端に少なく、値段も割高です。
 靴業界は、この状況に気づいていないのか、あるいは見て見ぬふりをしているのか......。
 疑問に思って調べてみると、日本皮革産業連合会のウェブサイトに、こんな記述を見つけました。「日本人の足のプロポーションは昔と比べると、長さの割りに太さが細くなり、相対的に幅が狭く甲の厚みも薄い足へと変化している」。やはり業界は、日本人の足の変化に気づいているのです。

 靴売り場には限られたサイズのものしか売られていませんが、JIS規格によれば、女性用の靴には144のサイズがあるとか。足長は19・5から27センチまでの16段階、ワイズ(足の太さや幅)は「A」~「E」、「EE」「EEE」「EEEE」「F」の9段階。両者の組み合わせで、計144というわけです。
 しかし、実際に店頭に並んでいるのは、ごく一部の"売れ筋(だとメーカー側が思っている)サイズ"だけ。ワイズに関しては、消費者の選択権はなきに等しい。さらに言えば、左右で足のサイズが異なる人もいるのに、ほとんどの既製靴では左右同じサイズのものしか売ってくれません。
 それに、同じ「23センチ」の靴でも、メーカーやデザインが違えば靴の大きさやフィット感も微妙に異なります。試し履きがどうしても必要になるので、「靴だけはネット通販で買えない」と思っている人も多いのではないでしょうか。

 実は、現状の靴のサイズは、わたしたち消費者が考えているほど厳密に定められているわけではないそうです。靴のもとになる靴型もメーカーによってバラバラなので、同じサイズが表示されていても、履いたときのサイズ感がかなり違ってくる。
 そこで立ち上がったのが、「革靴基準品質」認証事業という産官学によるプロジェクトです。
「履き心地がいい」と感じるパンプスの靴型を研究・開発。その靴型を正確に反映させた製品(靴)に、全日本革靴工業協同組合連合会が認証を与えるというもの。規格が統一されれば、どの靴を買ってもフィット感が一定になり、「同じサイズでも、メーカーによって足に合う靴と合わない靴がある」という心配がなくなる。オンラインショッピングで靴を買っても安心、というわけです。
 さらにうれしいのは、サイズ展開がきめ細かいこと。JIS規格による144のサイズそれぞれに、甲が薄めで足の内側がストレートに近い人向けの「ストレート・タイプ」と、土踏まずがしっかりあり足の内側がカーブしている人向けの「カーブ・タイプ」が用意されている。つまり、144×2で288の靴型があるのです。
 国産の上質革素材を使う、大きめのヒールカウンター(芯)でかかとをしっかり支える、歩行を安定させるため靴底の接地面を縦に広げるなど、クオリティを追求したこだわりも随所に。決められたガイドラインに従って製造され、基準に合格した商品だけが、認証マークをもらえるのです。

 画期的な試みですが、参加する靴メーカーはまだ少ないらしく、この認証マークを付けたパンプスをデパートなどで見かけることはほとんどありません。
 東京・大手町にある「パンプスメソッド研究所 i/288」(http://www.pumps288.jp)では、その認証パンプスを試せると聞いて、早速、予約を取りました。ここは、「革靴基準品質」認証事業の普及、PRのために、全日本革靴工業協同組合連合会によって運営されているスペース。オープンしたのは2015年12月。「研究所」といっても、ゆったりとしたサロンのような雰囲気です。
 試し履きのときに十分歩けるよう、広めの空間をとってあるとか。なんと言っても目を引くのは、壁面を覆うように置かれた白いキャビネット。小さな引き出しが288個整然と並び、各サイズの靴のサンプルが納められているのです。このなかから自分にとってベストな履き心地の「シンデレラの靴」を見つけ出せるのか。ちょっとワクワクします。

 まずは受付。足の状態や靴の悩みなどの質問に答えたあと、精巧な3Dスキャナーで足のサイズや立体形状を計測します。これまで何度か足の計測をしてきましたが、ここまで凝ったものははじめて。以前、体験したシンプルな3D計測(測り方もけっこういい加減で、出た結果もかなりアバウトなものでした)とは、まったくの別物です! 
「少しの汗でも誤差が出るから」と、足裏の汗や汚れを拭き取り、扇風機で念入りに乾燥。細心の注意を払いながら、スキャナーに足を載せて......。計測するスタッフの方々も真剣な表情。みなさん白衣を着ているせいか、こういう場面では、なるほど「研究所」という感じです。ちょっとでも動くと正確に測れないそうで、こちらも緊張してしまいました。

 計測結果は、0.1ミリ単位ではじき出されます。左の足長が24.37センチ、右が24.57センチ、サイズで言えば「24.5/B」という結果に。足囲はもちろん、かかと幅、指の角度(外反母趾などの目安)、足裏にかかる圧力の分布など、ほかにもさまざまなデータが表示されます。
 こうして集まった足に関するデータや消費者の生の声を、さらに履き心地のよい靴の開発につなげたいと、同連合会のフィットコンシェルジュ、高宮幸代さんは話します。
「わたしたち、革靴製造メーカーは、問屋経由でデパートなどの小売に商品を卸すことが多い。なので、小売の現場やお客様の声は、わたしたちのところにはなかなか届きません。この『研究所』を通じてお客様のご意見を直接うかがえることは、とても貴重なことなのです」
 例えば、百貨店の店員は「足の幅が狭く、靴選びに苦労する人が増えている」という実情を把握していても、供給側であるメーカーにはその声が届きにくく、従来通り幅広の靴ばかり製造することになるのだとか。
 消費者のニーズとかけ離れた商品をつくっていては、国産革靴のものづくりが衰退してしまう――そんな危機感から、このプロジェクトが立ち上がったそうです。"細幅さん"の声が集まり、ワイズBやAの靴が当たり前のように店頭に並ぶ日が、早く来てほしいものです。

 さて、フィッティングに話を戻しましょう。まずはデータに従って「24.5/B」の靴から。同じサイズで「カーブ」と「ストレート」の両方を試します。土踏まずがしっかりあるので、「カーブ」のほうがしっくりくる感じ。24センチも試してみましたが、やはり24.5のほうがよさそう。ただし、ワイズ「B」は大きくて、ワイズ「A」のほうがフィットする。「A」よりもさらに幅が狭くてもいいくらいです(ぜひ「AA」をつくってほしいです!)。
 これまでの実績では、計測の結果通りのサイズで「ぴったり!」と感じた人は約2割だとか。機械の計測結果に頼らず、実際に履いて歩いてフィット感を確かめることが肝心なのです。

 ここで試せるのはベーシックな形の6センチヒールのパンプスだけ。歩行に不安のあるわたしにはちょっとヒールが高めですが、履いてみるとものすごく安定感があり、靴が足に付いてくる感じ。事故以来しばらく忘れていた、背筋がピンと伸びるような、この感覚......美しいハイヒールを履くと、やっぱりテンションが上がります。
 でも、股関節のことがあるので、ヒールは低めがいいということで、4.5センチヒールの試作品も履かせてもらうことに。開発途中の靴型ということもあってか、残念なことに、こちらのパンプスは履くと変なところにシワが......。「今後さらに手を入れます」とのこと。今回のベスト・フィットは「24.5/A/カーブ/ヒール6センチ」ということになりました。
 ちなみに、今までわたしが履いていたのは23.5の「EE」や「EEE」。幅広靴しか売っていないので、かかとが脱げないよう、かなり小さめの靴を選んでいたということ。そういう足に合わない靴を履いていると足裏にタコができる人が多いそうですが、わたしの足裏はつるりとしているので、「すごいですね~」と驚かれてしまいました(でも、指にウオノメはあるので、あまり単純に喜べないのです......)。

 この「研究所」の利用は無料。認証ブランドの靴を気に入れば、購入もできます(税込¥29,160)。履き心地に不具合が出たら、調整に応じてくれるのも心強い。また、左右が別のサイズでもOKで追加料金なし。左右でサイズ違いを選んだ人は45%もいるそうです。
 わたしの場合、今回は計測だけで、最後にデータの写しやカルテをもらって終了です。288のサイズが揃っていても、ぴったりの靴は見つかず。ほんとうに靴探しは厄介です。


今回試した靴。こうして見るとやっぱり靴の幅が細い!

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

かじやま すみこ

ノンフィクション作家。神戸大学卒業。テレビ局制作部勤務を経て、渡米。ニューヨーク大学大学院で修士号取得。アーティストや企業経営者の人物ルポのほか、女性の生き方・働き方、ソーシャルビジネスなど幅広いテーマを追いかける。書評家や放送作家としても活動中。
2014年秋、交通事故に遭ってから、からだについて深く考えるように。歩くこと、座ること、車椅子の座り心地……。見過ごされがちな、だけど大事なあれこれを掘り下げる日々。
主著に『紀州のエジソンの女房』(中央公論新社)、『そこに音楽があった 楽都仙台と東日本大震災』(文藝春秋)、『トップ・プロデューサーの仕事術』(日経ビジネス人文庫)、『35歳までに知っておきたい最幸の働き方』(ディスカヴァー21)など。

バックナンバー