「働くからだ」のつくり方

第1回 人生100年時代の「働くからだ」

2017.03.17更新


 「人生100年」の時代が間近に迫っているようです。
 60歳か65歳で引退して、20年ほど老後を過ごしたあと天寿をまっとうする――いま、現役世代が漠然とイメージしている未来図が崩れ、70代、80代になっても働かなければいけない時代が来る。

 「好きな仕事を続けられるのはうれしい」と前向きに捉える人もいれば、「高齢になっても働き続けるなんて苦痛だ」と考える人もいるでしょう。どんな状況で、どんな仕事に就いているかで、心持ちは大きく変わってくるわけですが、ひとつはっきりしているのは、「(働ける程度に)健康であること」が求められるということです。

 70を過ぎても、「元気に働けるからだ」を維持できるのか――。
 「自分は絶対に大丈夫だ!」と自信を持って言い切れる人は、果たして、どれほどいるでしょう。

 終わらない残業、絶え間なく感じるストレス、荒れる食生活。慢性的な腰痛や肩こりに悩まされ、女性たちは婦人科系の病に苦しんで......。心身を酷使し、30代、40代のうちから疲れ切っている人たちが少なくないはず。50代ともなれば、何らかの不調を抱えているのは当たり前で、年齢を重ねるにつれて、病気のリスクはさらに高くなる。

 と、まあ、連載第1回のしょっぱなから気の重くなる話で恐縮ですが、悲しいかな、それが現実ではないかと思うのです。

 「100歳まで生きる時代」の人生戦略を説く『LIFE SHIFT』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著、東洋経済新報社)に、こんな一節があります。

 「100年以上にわたりマルチステージの人生を生きるためには、健康を維持することがきわめて重要だ。不健康の代償は、経済的な面でもそれ以外の面でも、甚大なものになりかねない」

 健康はいつの時代でも重要ではあるけれど、「人生100年」の世の中では、健康であることがさらに大きな意味を持つということ。

 「長く働けるからだ」をキープすることは、幸せに生きるため、充実した仕事人生をまっとうするために欠かせないことなのです。

 若いうちから「長く働けるからだ」を意識して生きることは、小手先のビジネス・スキルを身に付けるよりも、はるかに大事なことかもしれません。

 最近はやりの「マインドフルネス」で心を整えても、気力だけではどうにもならないこともある。からだがついていかなければ、能力を発揮できないばかりか、周囲にも迷惑をかけてしまうのです。

 そこで、この連載では「からだ」について考えてみようと思います。
 といっても、さまざまな病気について医学的に語るわけでも、「〇〇健康法」を勧めるわけでもありません。

 当たり前すぎて普段は意識しない「歩くこと」「座ること」といった日常の動作を見直すことからスタートして、長く働けるからだを維持するために必要なことを考えます。

 専門家を訪ね、その意見を聞きながら、基本のキホンをじわじわと掘り下げていければと思っています。

 「歩くこと」も「座ること」も、単純なことに思えますが、実はとても奥が深いのです。
わたし自身、姿勢を正して歩いたり、体幹を意識して座るようになったおかげで、長年悩まされてきた肩こりがずいぶんラクになりました。整形外科での診療はもちろん、マッサージ、鍼灸、カイロプラクティック......。これまでいろんな方法を試しても根本的によくならなかったのですから、まさに目からウロコです。

 きっかけは何かというと、交通事故に遭って大腿骨頸部を骨折し、股関節を人工のものにそっくり置き換えたこと。そのとき、「働くからだ」を一時的に失ったことで、皮肉なことに、自分のからだと生き方を見つめ直すチャンスをもらったのです。

 股関節はからだの要ですから、自然に歩けるようになるまでには、かなりの時間と努力が必要でした。入院、通院を合わせて、リハビリは1年以上。その過程で、理学療法士や作業療法士の方々の助けを借りながら、自分のからだをつくり直したのです。

 おかげで、素人目には人工関節だとはわからないほど、普通に歩けるようになりました。それでも、以前とまったく同じように動けるようになったわけではありませんし、靴をはくのにも苦労するほど。ジョギングなどのスポーツもできません。

 ですが、100年ライフを生きるとすれば、人生の時間はまだまだある。不自由なこのからだと上手につきあって、仕事を続けていくしかないということ。事故に遭ったことは不運でしたが、得たもの、気づいたことも大きかったと考えるようにしています。

 リハビリは、自分のからだと向き合って、その問題点を改善する絶好の機会になりました。「もっと前に知っていたら......」と感じたこともたくさんあります。

 腰痛も肩こりも、からだのSOSのサイン。30代くらいから姿勢や歩き方に気を配るだけで、将来の深刻な関節疾患が予防できるとか。そんな、あれこれを紹介しながら、元気なうちはどうしても見過ごしがちな「長く働けるからだの育み方」をいっしょに考えていければと思います。

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かじやま すみこ

ノンフィクション作家。神戸大学卒業。テレビ局制作部勤務を経て、渡米。ニューヨーク大学大学院で修士号取得。アーティストや企業経営者の人物ルポのほか、女性の生き方・働き方、ソーシャルビジネスなど幅広いテーマを追いかける。書評家や放送作家としても活動中。
2014年秋、交通事故に遭ってから、からだについて深く考えるように。歩くこと、座ること、車椅子の座り心地……。見過ごされがちな、だけど大事なあれこれを掘り下げる日々。
主著に『紀州のエジソンの女房』(中央公論新社)、『そこに音楽があった 楽都仙台と東日本大震災』(文藝春秋)、『トップ・プロデューサーの仕事術』(日経ビジネス人文庫)、『35歳までに知っておきたい最幸の働き方』(ディスカヴァー21)など。

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