「働くからだ」のつくり方

第8回 腰痛持ちのみなさん 骨盤の傾きにご注意!

2017.06.23更新

 前回は、千里リハビリテーション病院に入院したところまでお伝えしました。
 前の病院では、パジャマを着て、ほぼ一日中ベッドに横になっていましたが、こちらでは起きたまま。服装もカジュアルな部屋着です。
 入院生活というと、何もすることがなくて退屈、というイメージがあるかもしれません。ですが、リハビリが3時間もあり、レストランでの食事も3回(レストランと病室との往復も、リハビリの一環です)。これだけでけっこう忙しいのです。のんびりテレビを見る、読書をするといった時間はほとんどありませんでした。

 リハビリは、内容によって理学療法士さんか作業療法士さんが担当してくれます。ここの病院の場合、専用のリハビリ室があるわけではなく、あるときは廊下の隅、あるときは階段、またあるときは掘りごたつのある和室と、敷地の中のあらゆる場所がリハビリの場になります。〝病院という特殊な空間〟ではなく、退院後の日常生活に近い環境で訓練を行うということでしょう。
 最初のうちは脱臼の恐れもあるので、マッサージで筋肉をほぐしたり、軽い筋トレをしたり......。痛い、つらい、というような訓練はそれほどなく、膝や腰が痛いときは、そのケアもしてもらえます。腰痛持ちの身としては、これはたいへんありがたい。専属の整体師がいるようなもので、「ずっと入院していたい!」と思ったほどです。
 リハビリ時間が増えたせいでしょう。入院後わずか数日で目に見えて歩行が安定したことに、自分でもびっくりしました。

 日が経つにつれて、人工関節が入っているほうの足に少しずつ体重を載せたり、階段を昇り降りしたり......。何と言っても、立つ、歩く、といった基本的な動作が、まだまだ問題だらけなのです。手術をしたほうの右脚がまっすぐに伸びないことは、特に気になっていました。寝ているときも膝が少し曲がったままで、歩くと膝に痛みが出るのです。右脚をかばうせいか、あるいは筋力不足のせいか、左側の骨盤がヘンな動きになるのも改善すべき点でした。

 もうひとつ注意されたのは、立ったときの姿勢です。
 「骨盤前傾」といって、腰が反りすぎているというのです。
 ハイヒールを好む女性や腹筋が弱い人に多いらしく、腹筋に代わって背筋ががんばりすぎた結果、腰が反ってしまう。一見するとしゃんとしたとてもいい姿勢なのですが、背中の筋肉に過剰な負担がかかって、腰痛になりやすいそうです。
 「正しい姿勢」について解説している本を見ると、「骨盤を後傾させない。前傾しているのがよい姿勢」などと書いてあるものが目に付きます。日本人には骨盤が後傾した猫背が多いため、それを前提にしているのだと思いますが、これは少々説明不足。前傾しすぎているのもいけないのです。

 わたし自身、腰痛とのつきあいは長く、ぎっくり腰で寝込んだことも数回。腹筋が弱いことも、背中の筋肉がガチガチなのも、十分自覚していました。腰痛でマッサージや整体に行くと、「肩から背中にかけて張ってますね~。ものすごくこってますよ」と驚かれることも珍しくない。こりをほぐしてもらうと、直後はラクにはなりますが、しょせん対症療法で根本的な治療にはなりません。「腰痛を治すには、腹筋と背筋を鍛えなければ」。ずっと、そう思ってきたわけです。
 ついでに言えば、街の整形外科に行っても大差はなし。「骨に異常はないですね」と湿布を処方されるだけ。あるいは、首から腰まで何十枚もレントゲンを撮られ、やれコルセットをつくれ、首の牽引をしろ、痛み止めの薬を飲めと責め立てられ、辟易したことも。注射をしたり、電気や赤外線をあてたりと、ありとあらゆることを試したような気がしますが、たいした効果はありません。「このままでは手術をしなければいけないようになりますよ」などと言われた(脅された、と言ってもいいかも......)不安やストレスで、痛みがひどくなりそうなこともあったのです。

 腰痛をなんとかしたい気持ちはあっても、いわゆる「腹筋運動」は大の苦手。スポーツクラブに通うのも億劫です。「腹筋を鍛えることは大事なんだろうけど、わたしには無理かな」と、半ばあきらめていたのですが、なんと着目すべきは骨盤の傾きだったとは! 
 もともと腹筋と背筋のバランスが悪いため骨盤が前傾していたわけですが、骨盤の位置を直せば「反り腰」の姿勢も改善され、腰への負担は軽減されるとか。特に手術後は、骨盤の傾きがひどくなっていたこともあって、腹筋を鍛え、骨盤の正しい位置をからだに覚えさせるためのトレーニングが必要だったのです。

 といっても、たいしたことはしていません。
 膝を立てて仰向けに寝て、お腹のあたりに力を入れる。そして腹式呼吸でできるだけゆっくり息を吐きながら、お腹を床に押し付けるようにする。骨盤の傾きが変わることを確認し、そのまましばらくキープ。それだけです。

 コツをつかめば、ほんとうに簡単。ピラティスを習ったことがある人なら、おなじみの動きです。正しくできているか、リハビリではいつも細かくチェックされましたが、お腹の上に手を載せてやると、お腹のへこみを感じやすいのではないでしょうか。
 これを繰り返すことで、お腹の深いところにあるインナーマッスル(腹横筋)が鍛えられ、体幹もしっかりする。インナーマッスルにはからだを支え、姿勢を安定させる働きがあるため、それが自前のコルセットになり、腰痛予防にもなるというのです(内臓や腰椎などに問題がなく、筋肉の痛みによる腰痛の場合)。
 ところが、いわゆる「腹筋運動」で鍛えられるのは、からだの表面の筋肉(腹直筋)なのだとか。上っ面の筋肉を強化しても腰痛にはあまり効果がないと知り、「なんだ、そうだったのか!」と。筋トレが苦手なわたしでも、この程度の運動なら続けられると、一気に気持ちが軽くなったのです。

 この運動は「ドローイン」といって、適正にやれば、ダイエットにも効果があるようです。慣れてくると立ったままでも、椅子に座ったままでもできる。ぽっこりお腹も引っ込むなど、いいことだらけです。
 効果が出るまでにしばらくかかりましたが、骨盤の傾きや腰痛もある程度改善されたように思います。普段から腹式呼吸を心がけ、歩くときに体幹を意識していることも、相乗効果を生んだのでしょう。
 寝っ転がってテレビでも見ながら気楽にできるので、今も習慣にしています。こんなラクチンな「ながら腹筋」トレーニングがあるなんて......。

 お腹にぐっと力を入れて骨盤を立たせると、お腹がキュルキュルと鳴って、内臓が広がる感覚があるのもおもしろいところ(わたしだけかもしれませんが、特に最初のうちはそうでした)。そのせいかお通じもよくなり、長年の便秘から解放されたのはうれしいオマケです。「入院して、規則正しい生活を送っていたせいかな?」と、当初は思っていたのですが、不規則な日々に戻った今も快調なので、運動が効いているのでしょう。

 骨盤の前傾は、ぱっと見ただけではわかりません。
 壁にもたれて、頭と肩、お尻、かかとを壁にぴったりと付けて立ってみてください。そのとき腰が反りすぎて、腰椎のあたりに拳が挟めるくらい隙間が空いていたら要注意。
 特に女性は、一度、自分の姿勢をチェックしてみることをお勧めします。

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かじやま すみこ

ノンフィクション作家。神戸大学卒業。テレビ局制作部勤務を経て、渡米。ニューヨーク大学大学院で修士号取得。アーティストや企業経営者の人物ルポのほか、女性の生き方・働き方、ソーシャルビジネスなど幅広いテーマを追いかける。書評家や放送作家としても活動中。
2014年秋、交通事故に遭ってから、からだについて深く考えるように。歩くこと、座ること、車椅子の座り心地……。見過ごされがちな、だけど大事なあれこれを掘り下げる日々。
主著に『紀州のエジソンの女房』(中央公論新社)、『そこに音楽があった 楽都仙台と東日本大震災』(文藝春秋)、『トップ・プロデューサーの仕事術』(日経ビジネス人文庫)、『35歳までに知っておきたい最幸の働き方』(ディスカヴァー21)など。

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