「働くからだ」のつくり方

第12回 パリコレ・モデルが指南する"健康ウォーキング"とは

2017.08.18更新

この連載から生まれた書籍『長く働けるからだをつくる ――ビジネススキルより大切な「立つ」「歩く」「坐る」のキホン』が、7月14日発売になりました。「人生100年。からだが資本!」。体調管理のキホンのキは「立つ」「歩く」「坐る」。自分のからだのこと、本気で考えてみませんか? ミシマ社とインプレスが立ち上げたビジネス書レーベル「しごとのわ」より発刊。どうぞよろしくお願いいたします!


 体幹を意識して、からだの軸をまっすぐに保ち、骨盤から前に踏み出すようなイメージで歩く。ごく簡単に言うと、それがわたしがリハビリで教わった、膝や腰に負担のかからない「正しい歩き方」です。
 とはいえ、歩くという動作はほんとうに奥深く、「正しい歩き方」に関する考え方もさまざま。わたしの新刊『長く働けるからだをつくる ――ビジネススキルより大切な「立つ」「歩く」「坐る」のキホン』でお伝えしたことは、そのほんの一部分といえるでしょう。

 リハビリ中に歩き方を指導してくれたのは理学療法士さんでしたが、ほかの専門家はウォーキングをどんな視点で捉えているのだろう。自分の歩き方にとり入れられるテクニックがあれば、ぜひ教えてもらいたい。そんな想いから、ウォーキングディレクターの髙木真理子さんを訪ねました。
 髙木さんは、パリコレでも活躍したファッションモデル。現在は、キャリアを通じて確立した独自のウォーキング・メソッド「Perfect Walking」を、モデルはもちろん、ビジネスパーソンやシニアなど、幅広い層に対して指導しているそうです。
 わたしが髙木さんと知り合ったのは事故に遭う前。ある食事会の席でした。当時は「歩くこと」に対して特別な思い入れもなく、「モデル以外の人にも、健康ためのウォーキングをレッスンしている」「社員研修でウォーキングを教えることもある」などというお話を聞いても、「へぇ~」という程度。髙木さんの華やかさと圧倒的な存在感は印象に残っていたものの、「歩き方を見直す」ことの重要性に目覚めたわけではありませんでした。
その後、リハビリで歩く訓練をしていたときも、ただただ「自分の足で立って歩く」ということに一所懸命で......。ごく最近になって、美しい歩き方、あるいは健康増進のためのウォーキングといった、プラスアルファの部分に目を向けられるようになったわけです。

 プロのモデルが教えるウォーキングというと、一般向けの"健康ウォーキング"とはまったく別次元のものを想像してしまいがち。でも、髙木さんによれば、ショーに出演するモデルに対しても、一般のシニアの方々に対しても、「教えることの根本は同じ」だとか。
「足の親指をしっかり使って地面を蹴り、腰を押し出して歩く。大事なのはおなかに力を入れて、お尻の穴をキュッと締めること。そして、内転筋(内腿の筋肉)やハムストリングを使い、ふくらはぎの筋肉にも力を入れる。それをベースに、モデルに対しては、表現力やパフォーマンス力といった要素をつけ加えていくのです」
 なるほど、ベーシックな部分は、わたしがリハビリで習ったものとほぼ同じ。「体幹を意識する」という表現の代わりに、髙木さんは「お尻の穴を締める」という言い方をしているようです。というのも、下腹部、特にお尻のあたりに力を入れてお尻の穴をキュッと締めると、背中もまっすぐになって(つまり骨盤が立つ)胸も開く。要するに、体幹を意識した場合と同じ状態になるのです。
 「そういういい姿勢だと、肩も自然に下がって、ジャケットもきれいに着こなせます。歩き方が変わると、選ぶ洋服、着る洋服も変わってきますよ」と髙木さん。胸を張ってかっこよく歩けば、洋服も映えるし、自分に対する自信も生まれる。女性の場合は、おしゃれをすることで気分が上がること間違いなし。また、ビジネスパーソンは、それが仕事のパフォーマンスにもつながるというのです。
 「仕事でも外見は重要。接客業の場合は特にそうだと思います。例えば、営業職の人だって、第一印象で『この人にもう一度会いたい』と思ってもらうことが大事ですからね」

 「美」の側面に着目するのはさすが。もちろん、正しいウォーキングが「健康」に絶大な効果を発揮するのは、言うまでもありません。
 「日本人は膝を曲げたまま、猫背気味に前のめりで歩く人が多いんです。内腿にも、ふくらはぎにも力が入っていない。内側の筋肉が使えていないと、親指ではなく小指に力が入り、からだのバランスが外側に偏ってしまう。まるでゴリラみたいだから、『ゴリラ歩き』はやめましょうと言っているんですよ(笑)。それに、からだが丸まっていると、肺などの内臓が圧迫されて呼吸も浅くなる。こういう歩き方では、十分な酸素や血液をからだに送ることができないのです」
 日本人には猫背で骨盤が後傾している人が多いことは、拙著でも指摘したとおり。それが関節を痛める要因になっているのです。髙木さんはさらに、O脚の人や内股歩きの若い女性が増えていることも気になると話します。「しかも、かかとが抜けてしまうような足に合わない靴を履いて、パタパタと歩いている。そういう若い女性を見かけると、『この人、将来は杖をつくようになるんだろうな......』と思ってしまいますね」

 老若男女を問わず、姿勢や歩き方のせいで、気づかぬうちに「ロコモ予備軍」になっている人は、かなりの数になるのではないでしょうか。片足立ちをするとすぐにグラつく場合は要注意。筋力不足はもちろん、歩くときに足の指がうまく使えず、指が浮いたバランスの悪い状態になっている危険性があるのです。
 しかも、若い世代の筋力の低下は、意外な部分でも進んでいるようです。髙木さんのメソッドを広めるべく活動している「Fashionista」の代表で、自身もウォーキングの指導にあたる佐藤雅臣さんによれば、「お尻の穴をうまく締められない若い人が増えている」というのです。
 「レッスンのときに『お尻の穴を締めてください』と言っても、どうやっていいかわからない、うまく力が入らない、という人がけっこういるんです。(運動不足で)尿道括約筋が衰えて、尿モレに悩む若い男性も増えてきているのです」
 尿モレというと中高年、とりわけ女性の悩みかと思っていたら、なんと若い男性にも広がっていたとは! 正しいウォーキングの実践で内腿などの筋肉を鍛えることは、尿モレ防止にもつながるというのですが、いやはや、ロコモに尿モレと、日本の若い世代はどんどん"老人化"しているようで......。そんなからだで「人生100年時代」を乗り切れるのか、心配になってしまいます。

 でも、歩き方を変えるだけで、さまざまなリスクを回避できるのなら、こんなありがたい話はありません。ウォーキングで健康を手に入れるために、髙木さんのメソッドでは、基本のほか、いくつかのポイントを重点的に指導しているそうです。
 まずは呼吸。歩くときに腹式呼吸を心がけることは、インナーマッスルを鍛えるなどさまざまなメリットがあります。でもこちらで教えているのは、腹式呼吸ならぬ"横隔膜式呼吸"。
 「おなかに力を入れてへこませながら、鼻から息を吸う。『肋骨の内側、横隔膜のあたりに空気を入れるようなイメージで』と、言っています。そうやって呼吸をすると姿勢もよくなるんですよ。胸郭が開いて、肩のラインも自然に下がります」(佐藤さん)
 次のポイントは、肩甲骨を動かすこと。筋力アップのためにも大きな歩幅で歩くことは重要です。そこで、歩く前に肩甲骨まわりのストレッチをして、腕を大きく振れるようにする。うしろに引くイメージで腕をしっかり振ると、歩幅も大きくなるからです。
 「『歩くために、どうして上半身のストレッチが必要なんですか?』と聞かれますが、肩甲骨が動かないと歩幅が広がらないんですよ。だから"肩甲骨はがし"は入念にやります。『わたしは背が低いから、歩幅が小さいんです』とおっしゃる方も多いのですが、背の高さは関係ない。腕を振ることで、歩幅は大きくなるんです。股関節の可動域を広げるなど、歩く前のストレッチは30種類くらい用意しています」(髙木さん)

 歩くことは誰もがやっている日常の動作だけに、それを修正するのは難しい。そこでこのメソッドでは、「お尻の穴を締める」「横隔膜式呼吸」などと表現を工夫していることが伝わってきました。
 「歩き方を変えたことで『腰痛が軽くなった』『すぐに疲れて1時間も歩けなかったのに、歩けるようになった』と言ってくださる方も多い。ウォーキングの効用をもっとたくさんの人に知ってもらいたいですね」と、髙木さん。
 活力が出る、前向きになれるなど、心理面でもプラスの効果が見込まれるウォーキング。シニアだけでなく、現役世代も「正しい歩き方」をぜひ身に付けたいもの。学校や自治体で「歩き方講座」が当たり前のように開かれるようになれば、健康寿命を延ばすことや医療費削減にかなり貢献するのではないでしょうか。

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かじやま すみこ

ノンフィクション作家。神戸大学卒業。テレビ局制作部勤務を経て、渡米。ニューヨーク大学大学院で修士号取得。アーティストや企業経営者の人物ルポのほか、女性の生き方・働き方、ソーシャルビジネスなど幅広いテーマを追いかける。書評家や放送作家としても活動中。
2014年秋、交通事故に遭ってから、からだについて深く考えるように。歩くこと、座ること、車椅子の座り心地……。見過ごされがちな、だけど大事なあれこれを掘り下げる日々。
主著に『紀州のエジソンの女房』(中央公論新社)、『そこに音楽があった 楽都仙台と東日本大震災』(文藝春秋)、『トップ・プロデューサーの仕事術』(日経ビジネス人文庫)、『35歳までに知っておきたい最幸の働き方』(ディスカヴァー21)など。

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