本屋さんの遊び方

ジュンク堂書店 池袋本店 大内達也さん

第1回 ジュンク堂書店池袋店 大内さんに聞きました

2009.07.14更新

「本屋さんを待ち合わせ場所にしてほしい」

本屋さんの遊び方 ジュンク堂池袋店 大内さん 250ピクセル

―― こんにちは。今日は「本屋さんの遊び方」というテーマで、ただ本を買うだけではない、本屋さんの楽しみ方というものをお伺いできればと思います。

大内うん~...、難しい質問だよね。

―― 難しいですか。

大内僕は本屋で遊ぶという発想はあまりないんですよ。でも「待ち合わせ場所」としては、本屋は非常に優れていると思います。その理由は、まず、待っている時間を無駄に使わずに、本や雑誌を眺められる。そして、お互いに何階の何売場と約束しておけば、間違いなく落ち合える。

―― なるほど。

大内やっぱり人間って、ただ待っていると、イライラしてくるんですよ。
「まだかな」「おせーな」って。でも本を読んでいれば、そんな時間もあっというまに過ごせる。そうすると、相手が来たときにも「おせーな!」って言わなくていいから、人間関係も良くなるし、心が重くならない。待つほうも、待たせるほうも、そういうことに気を使った方が良いという意味では、ぜひ本屋さんを待ち合わせ場所にしてほしいと思います。

―― 確かに。そのとおりですね。

「フロアごとに待ち合わせしても、10回は大丈夫」

本屋さんの遊び方 ジュンク堂池袋店 大内さん 画像 250ピクセル

大内それも玄関とかじゃなくて、売場にしてほしいですね。「今日は岩波新書の前」とか、「旅行書売り場にしよう」とか。毎回、違った売場にしてほしいと思います。
なぜかというと、普段全然行かないような売場に行くと、手持ち無沙汰で本を見てしまいますよね? するとそこで、"発見"があるわけですよ。「あっ、こんなのあるんだ」といった具合に。
ジュンク堂書店の場合は、地下1階から9階までありますから。フロアごとに待ち合わせしても、10回は待ち合わせられます。そういう意味では、なかなか面白いと思います。

―― なるほど。ものすごく意外なお話です。でも、本当におっしゃる通りですね。

大内待ち合わせる場所は喫茶店だけじゃないよ、ということです。

―― 喫茶店でも、コーヒーを一杯飲んだら終わっちゃいますもんね。

大内終わっちゃいますよ。そして、邪念が湧いてきます。もちろん、何もなくても、心を平静に待てる人は良いですよ。でも、"待つ"って苦しみと楽しみの両方がありますから。イライラしたり、焦ったり、心が苦しくなる方は、ぜひ本屋で本を読みながら待ってほしいと思います。

―― 先ほどのお話で、「発見がある」とおっしゃったじゃないですか。私はなんとなく、本屋さんという場所で得られる重要なことのひとつは、"発見"ではないかな、と思います。

大内まさに、その通り。それはものすごく大きいことですね。私が本屋に勤めているひとつの理由は、毎日新たな発見があるからなんです。これだけの本を毎日見ているのですが、一度レジカウンターに立つと「おっ、こんな本があったのか」「これは面白そうだな~」ということが、一日に何十回もあるんですよ。それを覚えておいて、後で買ってみたりね。でも全部買っていたら、お金がいくらあっても足りないですよ。まさに嬉しい喜び。
あっ、間違えた。"嬉しい悲鳴"ですよ。

―― これだけの本が全部頭に入っているということは、タイトルだけでもありえないですもんね。

大内それに、毎日何十冊と新刊が出ますから。古本屋さんの場合はすでに出ている本を把握するのが仕事ですけど、新刊書店の場合はそれだけではなくて、新しい本をどのように位置づけ、どのように紹介するか、ということも非常に大きな面白みのひとつなんです。我々書店員がそうやって楽しんでいれば、その雰囲気はお客さまにも自然と伝わると思いますので、新しい出会いを求めに来て欲しいと思いますね。

「スタッフが楽しんでいるお店は、お客さまも絶対楽しくなる」

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―― 「働いている人自身が楽しんでいれば」という言葉は、ありふれた言葉のようで、久しぶりに聞いた気がしました。私の個人的な感覚ですが、いつもこちらのお店に来ると、スタッフの皆さんがとても楽しそうに働かれているように感じるんです。それはお店の力だと思いますし、そこにいらっしゃる読者の方にも強く影響するのかな、と思います。

大内私も本当にそう思います。昔、フロイトが無意識を発見してからずいぶん経ちますけど、意識上のことというのは全体の中のごく一部であって、無意識の部分の方がものすごく大きいから、「なんとなく伝わる」ということのほうが、人に与える影響は大きいと思うんです。だから、スタッフが楽しんでいるお店は、お客さまも絶対楽しくなるし。逆に、嫌々やっているお店に行くと、こちらも沈んできますしね。

―― 確かに。そういうことってありますよね。

大内ジュンク堂書店の場合は、基本的に「ジャンル担当者が好きなようにやっていいよ」というシステムになっているんです。本屋っていうのは販売業だから、普通は、ある程度管理したくなるんですよ。「棚効率」、「売り上げ比率」とか、「前年対比」とかね。そうなると、「この売れ筋商品をこれだけ売りなさい」という話になるわけですよ。でも、そういうことがたくさんあると、どんどんやる気がなくなってくるんです。「結局、売れって言われたものを売らなきゃいけないのか」と思ってしまうし、意欲が減退していきやすい。ジュンク堂もそれがゼロではないんですけど、基本的には「好きなようにやれ」という方針なんです。

―― なるほどなぁ。

大内そういうふうに言っておくと、「好きなようにっていうのは何なんだ?」というところから始まって、みんなが探しはじめるんです。「何をやればいいんだ?」って。例えば街に出るとか、旅に出るとか、映画を見るとか、友達と話すとか。その中で「これが旬じゃないか?」とか、「これをみんな欲しがっているんじゃないか?」ということをつかんでくる。そして、それを売場に出していくから、そこに共鳴してくれる人が集まってくるんです。そういう循環をなくしちゃいけないし、そのほうが面白いと思うんです。

―― 狙いがはずれてしまうことはないんですか。

大内最初ははずしてもいいんですよ。「これは反響がない」ということがわかるだけでも非常に重要なことですから。何もやらなきゃ、何もわかりませんから。反響があるかないかもわからず売っている状態から、「これを売っても反響がない」ということがわかるようになる。そして「じゃあ、こっちかな?」とやると、少し良くなったり。だんだん良くなってきたと思ったら、今度は大きくはずしたり。駄目だろうなと思ったけど、出版社の人に薦められてやってみたら、びっくりするくらい売れたり。その繰り返しなんです。そして、ベテランになるとあまりはずさなくなるし、はずせなくなる。だから、若いうちはどんどんはずしていいと思います。そういうことをやってる人が少ない本屋は、やっぱりつまんないですよ。

「いわゆるマーケティングとはちがう」

―― そういうことって本屋さんに限らず、販売業で働く人の面白みとしてすごく大きいですね。

大内うん、とても大きな部分だと思いますね。でも、間違ってもらっては困るのが、いわゆるマーケティングとは微妙に違うんですよ。マーケティングというのは、顧客の販売データからある結論を導き出すやり方です。例えば、週末の夕方、夏の暑い日の売れ筋商品はこれとこれ、といったように。それを置けば確かに数字は上がるんです。でも、それをしてても進歩がないんですよ。発見もないし。みんな同じようにやってるから、面白くもない。だから自分でつかみに行って、はずしてでもいいから何かやってる人は面白いんですよ。マーケティングが好きな人はたくさんいますけど、そういうのがつまんないって思う人もけっこういるんです。社会が成り立っているのは、それだけじゃないですから。

―― 自分に合った書店や、信頼できる書店員さんを見つけるために、見るべきポイントというのはあるんでしょうか。

大内ポイントは、自分の一番得意なジャンルの棚を見に行くことだと思います。自分の好きなジャンルであれば、そのお店がどういう品揃えをしているのか、どういう本をオススメしているのか、そこの書店員がどういう考えを持ってやっているのかが、少しわかると思うんです。別に専門的な目じゃなくてもいいので、色々と想像しながら見てみる。
それから、フェアとかイベントなんかを色々なところでやってるじゃないですか。そういうのに、どんどん入り込んでみる、というのもひとつの手だと思います。そこで自分がどの程のれるかがわかりますから。

2、30年前の話ですけど、僕の場合は、なによりPOPを見て判断していましたね。POPを見れば、担当者のやる気がはっきりとわかりましたから。例えば、出版社から渡されたものではなく、自分の手作りのPOPをつけているか? とかね。僕の好きな本屋さんは、絶対出来合いのPOPは使っていませんでしたから。必ず、そこの担当者が、自分の言葉で推薦文を書いていました。それができないのだったら、POPはつけるな、という感じだったんですよ。だからこそ、信頼できました。

「書店員には話しかけないようにしている」

―― 私たちが本屋さんを利用するときに、そこで働く書店員さんとどのように関われば、より本屋さんを楽しめると思いますか。

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大内僕は、書店員とお客さまとの関係というのは、基本的に「サイレント・コミュニケーション」だと思っているんです。要するに、無言の対話。じゃあどこで対話をするのかというと、やっぱり「棚」なんですね。我々書店員には、棚にこういう本を置いている、こういう展開をしている、こういう品揃えをしている、というとこでしか表現する手段がなくて、お客さまもそれを見ることでしか、書店員と対話できない。だから、ものすごく誤解を恐れずに言うと、書店員にはできるだけ話しかけないでほしいんです。そして要望がある場合も、棚を通してだけ話しかけてほしいんです。
例えば、ある本がものすごく売れる。それは、「これは良い本だよ」とお客さまがアピールしてくれているのではないか。じゃあ、それをもっと仕入れてみようとかね。逆に、売れるはずのものが売れない。それはお客さまが、「買わない」ということで無言のアピールをしているのではないか。なぜならば、この本はもう古くなっていると。それはボロボロになっているという物理的な面もありますし、世の中の話題としてもう古くなっているという面もあります。だから、お客さまは無言のプレッシャーをかけて買わないんだと。書店員はそういうやり方で、お客さまの気持ちを見ているんです。だから、そこに集中したいわけですよ。そして書店員は、常に棚を通して、お客様に話しかけているんですよ。

―― なるほどなぁ。そういうコミュニケーションがあるんですね。

大内だから僕も、書店員さんにはできるだけ話しかけないようにしています。自分で選び、自分で見に行く。その本屋さんがどういう性質の本屋で、どういう並べ方をしていて、どういう買い方をしたらいいのかは、何回か通わないと分からないですから。検索の仕方とかも自分でやってみて、ある程度理解した上でその本屋を利用するのが一番良いと思うんです。
棚をまったく見ずに、いきなり書店員に聞くようなことをしていると、本屋さんの使い方としてはつまらないと思うんです。棚の変化もわからないし、その本屋の書店員が、何を売りたいのかとか、どういうことを考えているのかとかが全然見えてこないですから。

―― 確かに。お店の人に聞いたら、そこで終わっちゃいますもんね。

大内だから、「持ってこなくていいから、棚のところまで案内して」というお客さまも結構多いんですよ。ご自分で、ちゃんと把握したいんでしょうね。
そしてそれができると、今度は「本屋を使い分け」できるようになるんですよ。

―― 本屋を使い分けする?

「サイレント・コミュニケーションをもっともっと」

大内やっぱり読書人は使い分けをしていますね。一番分かりやすいパターンは、駅前の坪数の少ない本屋と、ジュンク堂書店のような専門書が豊富な本屋。普段使いの本屋としては、駅前の本屋で十分なんですよ。新刊をチェックするだけだし、わざわざジュンク堂まで行っても、広すぎてとても見切れないし、どこに何があるかわからないですから。それよりは、近くの50坪くらいの本屋を、ざーっとひとまわりしたいわけですよ。

―― なるほどぉ。

大内駅前の本屋は、いま話題の本を、的確に、非常にうまく並べていますから。でもジュンク堂っていうのはあまりそういうことはやっていないし、世間的な流行とは少し距離がありますから。必ずしも、ジュンク堂だけじゃなくてもいいんですよ。それぞれの特徴をとらえて、うまく使い分けして欲しいと思います。

―― 今日、お話をお伺いして、本屋さんという場所は、そこで働いている人次第でどんな風にも変わっていくものなんだなと思いました。

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大内そうかもしれませんね。本屋は双方向コミュニケーションなので、書店員の提案に対してお客さまが何らかの形で答えていけば、両方の意見が集約されてすごく良い本屋になると思うんです。だからお客さまもちゃんと反応してほしいし、書店員も次々に提案してほしいと思います。たぶん、それをずっと続けるしかないんだと思うんです。逆に、書店員が当たり障りのない売れ筋商品ばかりを置いて、お客さまもなにも期待せずにやっていると、いつまでたってもつまらない本屋のまんまなんですよ。だからこそ、サイレント・コミュニケーションをどんどんやっていきたいですね。だって、口で話したってしょうがないでしょ。「何か買いたいものはありますか?」って。そんなことやれるわけがないんですから。

―― ありがとうございました。

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