本屋さんの遊び方

ブックファースト渋谷文化村通り店 岩崎靖治さん

第2回 ブックファースト渋谷文化村通り店 岩崎靖治さんに聞きました

2009.08.18更新

「意図せぬ出会いをつくりたくて」

本屋さんの遊び方 ブックファースト渋谷文化村通り店 岩崎靖治さん

―― 本日は、「本屋さんの遊び方」というテーマで、ご自由にお話しいただきたいのですが。テーマ広くて恐縮ですけど(笑) パッと言われて今、どんなことが浮かびますか?

岩崎やっぱり「目的じゃないもの」をどうやって見るか? とかそっちじゃないですかね。欲しい本が決まってて、それだけ買うんだったら、正直ネット書店でもいいわけで・・・。

―― 確かに。

岩崎だからあえて興味のないジャンルだったりとか、あるいは興味のあるジャンルだったとしても、実は考えていたものよりも、もっと面白そうなものが見つかるとか・・・。自分でまったく意図してなかったものとの「出会い」、そういうところが本屋さんに足を運ぶ意味じゃないかと。私が一読者として本屋さんに行く場合でも、そういう所を意識して売場を見ますね。

―― 確かになあ。そういう、売場での「発見の体験」って、面白くてワクワクしますもんね。私なんて、本との出会いにうれしくなっちゃって、いつだって衝動買いですもん。出会いすぎちゃってもう、買い過ぎで。

岩崎それがリアルの本屋さんならではの面白さだと思うんです。だから、せっかく足を運んでくださったお客様に、楽しんで帰ってほしくて、品揃えとか日々試行錯誤しながら・・・。いつもそんなことを考えてやっています。

―― 岩崎さんは現在「ビジネス書」のご担当ですが、ブックファースト渋谷文化村通り店にいらっしゃるお客様の「目的」ってどんなところにあるとお考えですか?

岩崎旧・渋谷店(*注1)の時から継続して足を運んで下さっているお客様もいらっしゃるとは思うんですけど、今はその時の立地に比べて駅に近くなっているので、通勤や通学の途中だったり、何かのついでで、別にうちの店でなくて良かったけれども来店くださったお客様も相当数いらっしゃるとは思うんです。

―― 何となく、そこに本屋があったから、「ふと、ちらっと寄ってみた」みたいな。

岩崎ええ。そういうお客様が何を求めていらっしゃるかっていうのは、千差万別だとは思うのですけれども、例えば最近だと、村上春樹の『1Q84』売っているかなあ、とか、何か面白そうな雑誌はないかなあ、とかかもしれないし・・・。でも、そういうお客様にこそ、その時、何かひとつだけでも興味を持ってもらえるようなものを提供して、また次回も、同じお客様にうちの店に来てもらえるようにしていきたいって思っています。

―― そういうのって、売場のレイアウトや、商品の置き方、見せ方などに関わってくるお話ですよね。

岩崎今の店は、地下1Fと地下2Fの2フロア構成なのですが、ちょうどこのあいだ改装をして、例えば地下1Fの雑誌コーナーにあったビジネス系雑誌を、地下2Fのビジネス書コーナーに移動させたばかりなんです。

―― そうですよね。売場の雰囲気が明らかに変わりましたもん。

岩崎このことで、例えば、月曜発売のビジネス系週刊誌(*注2)をお求めに来てくださるお客様にも、これからは、ついでにぶらりとビジネス書や新書なども気軽に見ていっていただけたら、と考えています。

「ビジネス書売場の私服率は高いですよ」

本屋さんの遊び方 ブックファースト渋谷文化村通り店 岩崎靖治さん

―― ビジネス系週刊誌って、毎回メインの特集記事のお題を表紙にバーンと出してくるじゃないですか。あれを定点観測してて思うのは、その時その時の「旬なテーマ」とかっていうのがありますでしょ、世間的なものも個人的なものも。今の私だと、「太陽電池」と「電気自動車」だったりするわけですが(笑)。

岩崎ええ(笑)。例えば、お客様が棚を眺めながらお店をぐるりと一周するだけで、そういう自分の「アンテナ」に何か引っかかるものを、パッと素早く見つけてもらえるような、そういう売場であったりとか品揃えだったりとか、お客様の反応を見ながら、そこを試行錯誤してすすめているところです。

―― なるほどなあ。今のお話で出てきた、「お客様の反応を見ながら」っていうところが、すごく気になります。お客様の反応っていうのは、本のお問い合わせですとか、商品の売れ方や立ち読みされているお客様の姿とか、売場の本の乱れ方などからそれを見いだすわけですよね。

岩崎そうですね。お客様がどんな本を問い合わせてこられるか、どのように手に取られたか、何を求められたのかというのは、今後の品揃えの部分で最も参考になります。もちろんお店として売りたい本、おすすめしたい本っていうのはあるのですが、結局、自分ひとりで各メディアから情報収集しようとしても限界がありますし、自分の感性だけで売りたいなって思う本ばかり並べたとしたら、品揃えは絶対に偏ってしまう。

―― 確かに。なんて言うんでしょう、岩崎さんは、自分のこだわりを全面に出すということよりも、もっと割とフラットに構えてらして、お客様とのそういう細かい「キャッチボール」とでも言いますか、そういう部分で売場を作りあげていくっていう・・・。まずは置いてみて、お客様に問いかけてみて、そこでのちょっとした反応から、次の展開を見いだしていくという・・・。

岩崎例えば、うちのお店でいうと、ネットで紹介された本ですとか、メディアに関係した本ですとかは、お客様の反応が早いです。あとは渋谷の場合ですと、ビジネス書で言うと、例えば「ビジネスマン」とひとことで言っても、細かく見るといろいろな方々がいて。いわゆる大企業のビジネスマンという感じの方よりも、ベンチャー系にお勤めの方が多くいらっしゃったり、デザイン会社など、クリエイティブな職種の方が多かったりとか、あとは、そういう職種を目指していらっしゃる学生の方もビジネス書売場によく来て下さいます。

―― うわー何かわかります。他の地域の書店さんと比較すると、一見するとバリバリのビジネスパーソンには見えないようなお客様が、経営系の棚前で、ものすごく時間をかけて本を選んでらっしゃったりとか。

岩崎ビジネス書売場のお客様の「私服率」は高いですよ。あとは、昔と比べると、女性のお客様からビジネス書のお問い合わせを受けることがとても多くなりました。例えば、仮に、見た目がいわゆるギャルっぽいお客様がいたとします。普通はビジネス書売場にはあまり来ないお客様かもしれません。でも、その方はファッションビルのとあるお店の店長さんなのかもしれない。もしかしたら、売上の目標管理や、適正在庫金額の算出や、スタッフのマネジメントなど、なにかビジネス上の課題解決のヒントが欲しくてご来店されたのかもしれない。だとしたら、そういう方なら、どんな本を手に取りたいだろうか? などと考えてみたり・・・。

―― そうですよね。そのたとえ話、リアルにありそうですよね。しかし大変ですよね、「ビジネス書」のお客様像だけでもそこまで多様だと、お店全体で見た場合、お客様それぞれの「目的」や興味関心もホント多様にあるわけで。そこに対して、何か心掛けていることってありますか?

岩崎そうですね。本をきっちりジャンルごとに区分けするのも大事なのですが、少しは、「遊び」もあったほうがいいんだと思います。既存の棚分類には収まらないような新しい概念の本もどんどん出てきますし、あとはやっぱりビジネス書を見に来たお客様にもせっかくだから、たまには、例えば人文社会系の本なども見ていってほしい。文芸にも実用書にも面白い本がたくさんあるし、文庫や新書もチェックしていってほしいんです。なので、ジャンルをまたぐような領域の本を橋渡しにして売場に「遊び」をつくって、それを導火線に、他ジャンルにも足を運んでもらえるような売場にしていきたいです。旧・渋谷店よりもお店のサイズがギュッと小さくなったので、逆に小さくなったが故の良さをもっともっと出していけたらいいと思っています。

「元々はレコード屋で・・・」

本屋さんの遊び方 ブックファースト渋谷文化村通り店 岩崎靖治さん

―― パッと目には見えないコミュニケーションを通じて、お客様の興味関心に、よりフィットするお店へ、どんどん進化していっているんだなあ。

岩崎試行錯誤の連続です・・・。

―― そういえば話は変わるのですが、こないだ営業の際にちらっと聞いた話、もうちょっと詳しくお伺いしていいですか?

岩崎はい。何でしょう。

―― 岩崎さん、元々はビジネス書にほとんど興味がなかったという・・・。

岩崎あー、今の仕事をする前は、レコード屋で働いてて。映画や音楽、アートなど、文化系の方が元々は好きなんです。今の仕事を始めて、旧・渋谷店ですが、法律書をやることになりまして。もう、チンプンカンプンで。

―― 法律書ですか。あれ、どの本が売れ筋かとか、素人目にはパッと見、全くわかんないじゃないですか。どうされたんですか?

岩崎まず、棚でちゃんと回転している本を調べたり、法律の勉強している同僚にどんな本を使っているのか聞いてみたり、本の問い合わせを受けた時にお客様に「なぜこの本をお使いになられるのか」理由を聞いてみたり・・・。とにかく、お客様の方が絶対的に知識もあって詳しいわけです。だからある意味、お客様に教えてもらいながら、品揃えをすすめていきました。

―― そういうことだったんですね。今のスタイルの原点は、その時に出来上がったと。いやー、私も、いっつもお客様に教えていただくことがものすごく多くて・・・。だからすごい共感しました。岩崎さん、本日は、どうもありがとうございました。


*注1 「ブックファースト渋谷店」は、1998年オープン。売場は6階層で約70万冊の在庫数は当時渋谷駅周辺で最大の大型書店として親しまれたが、ビルの立て替え工事に伴い、2007年10月14日に閉店。その4日後、「渋谷文化村通り店」が現在の地にオープンした。

*注2 月曜日には、『週刊ダイヤモンド』『週刊東洋経済』『週刊エコノミスト』など、ビジネス系週刊誌が揃って発売される。

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