本屋さんの遊び方

書店の店長を務めながら、『本の雑誌』のウェブサイト「WEB本の雑誌」に「店頭POP製作所」という連載を持つ内田さん。そこでは毎日、内田さん自作のPOPが紹介されています。1日1枚、365日POPを書くという内田店長にお話を伺いました。

第3回 三省堂書店成城店 内田剛さんに聞きました

2009.09.08更新

「書いたPOPは3,000枚」

本屋さんの遊び方 三省堂書店成城店 内田剛店長 

『POP王の本! グッドセラー100&POP裏話』(新風舎)

―― 昨日、改めてこの本を読みましたけど、ほんと良い本ですよね。

『POP王の本! グッドセラー100&POP裏話』POP王(著)新風舎
(内田店長の「店頭POP製作所」の連載を1冊にまとめた書籍)

内田いやいや。それは幻の本になっちゃいましたからね。新風社さんが倒産されたので、もう手に入りませんよ。

―― 残念ですね~。確か、店長のお店にはまだ残ってましたよね?

内田それが、もうほとんどないんですよ。気がつけば売れてましたね。第2弾を出してくださる出版社さんが出てくればいいんですけどね。

―― そうですよね。じゃあ、もうこれはプレミア本なんですね。貴重だな。
今回は、店長にどうしても聞いておきたいことがあるんです。

内田なんでしょう。

本屋さんの遊び方 三省堂書店成城店 内田剛店長

―― そもそもなぜ内田店長は、毎日POPを書こうと思ったのか? それをお伺いしたいと思いまして。

内田あー。POPを書こうと思った理由ですか。

―― いままでに書いたPOPは何枚くらいですか?

内田ん~、たぶん3,000枚は超えていると思いますね。

―― 3,000枚! すごいですね。書店員になったときから始められたんですか?

内田いやいや、最初はやってなかったですよ。今は手書きのPOPもいろんなお店で見かけられますけど、昔はそんなに話題にならなかったですし。力を入れて書く、ということもなかったですね。
ただ、なにかコメントを付けることで、なんとなく、お客さまが手に取る回数が増えるな、という思いはありました。

―― なるほど!

内田例えば、在庫僅少の本を出版社の方からいただいたときに、「在庫出ている限り!」みたいなことを書くと、やっぱり他の本よりも売れていくんですよ。あとは新聞書評の切抜きをつけてみると、お客さまが立ち止まって見てくださったりとか。
POPにのめり込むのはもう少し先なんですけど、その頃から、POPには力があるんじゃないかな、という思いはありました。

「へこたれそうになってしまった」

―― それは入社してどれぐらいの時期ですか?

本屋さんの遊び方 三省堂書店成城店 内田剛店長

内田ん~だいたい5年目ですね。僕は最初の3年が本社の勤務。その後1年間、神保町の本店のビジネス書担当をやって、そのまま右も左もわからずに、都庁の店舗に異動になった。ちょうどそのころですから。
都庁店にいた5年間は、ある意味ではぬるま湯だったんですよ。当時は景気も良かったですし、都庁職員の数もどんどん増えていましたから。本は置いておけば売れるといった感じでした。しかも土日祝日は職員の方がいないので、書店も休みですし、通勤も往復1時間で便利な場所でしたから。

―― 仕事は楽だったんですか?

内田そうなんですよ。だからその次に、そごう千葉店に係長として行ってくれと言われたときには、「これは転機が来たな・・・・・・」と思いました。
でもね~、そのあとですごくへこたれるんです。

―― どうしてまた?

内田それまでは社員3人、アルバイトを含めても10人のお店だったんですけど、今度は全部で60人~70人の大所帯ですよ。それを現場で仕切る立場でしたから、やっぱり色々とぶつかるんですよ。しかも、休みは月曜と金曜で連休は無し。当時、練馬に住んでいたので、通勤は片道2時間、往復で4時間。そして、仕事はきつくて、きつくてたまんない。それで、へこたれそうになってしまったんですね。
「なんでこんなしんどい思いまでして・・・・・・」って思ったりもして。他にやれることもあるんじゃないかって、履歴書を持ち歩いていた時期もありましたよ。

―― は~、店長にもそんな時期があったとは。

「POP王を生んだ運命の2冊」

内田でもそんな時に、ある2冊の本に出会うんですよ。1冊は上野創さんの『がんと向き合って』(晶文社)、もう1冊は佐野眞一さんの『だれが「本」を殺すのか』(プレジデント社)。

―― どんな本なんですか?

本屋さんの遊び方 三省堂書店成城店 内田剛店長

『がんと向き合って』(上野創著、晶文社)

内田『がんと向き合って』は、僕より若い朝日新聞の記者の方が書かれた本です。闘病生活の中で今日とも明日とも知れぬ命をけずって、強く生きている生き様が書かれていて、「自分はなに甘えてんだ」って、すごく思いましたね。その中で一番印象的だったのは、上野さんは癌が再発してしまうんですけど、それからプロポーズをしてご結婚されるんです。一緒に病気と闘っていこうって。

―― すごい勇気ですね!

内田この本と出合って、本当にまわりに見える景色が一変しましたよ。同じ空気、同じ空を見ていても、「これを愛おしまないで、なんのために生きてるんだ!?」って思いました。それくらい、力をもらいましたね。
それで、一生懸命売りましたよ。初めて「この本を売りたい!」と本気で思って、POPを書いたんですよ。

―― お~! これが第一号だったんですね。

内田それまでもPOPを書いたことはありましたけど、「この本は読者の皆さまにお届けしないといけない」っていう、書店員の使命感を感じて書いたのは、この本が初めてでしたね。おそらく日本一売ってると思います。

―― 日本一!? すごい。

本屋さんの遊び方 三省堂書店成城店 内田剛店長

『だれが「本」を殺すのか』(佐野眞一著、プレジデント社)

内田もう一冊の『だれが「本」を殺すのか』は、出版業界のことを書いた本で、当時業界の中ではとても話題になりました。その中に書かれている、ある書店員さんの話がとても印象に残ったんです。

―― どんな話なんですか。

内田その書店員さんは僕とは逆で、自宅から遠いお店から近いお店に異動になってしまうんです。それまでは通勤電車の中で本を読んでいたんですけど、近くなったせいで本を読む時間を取れなくなっちゃうんですね。
それでどうしたかっていうと、本を読む時間を作るために、その人はわざと遠いところに引っ越したんですよ。

―― え!?

内田それで、新潮文庫の「あ」から順番に読み始めたっていうんだからすごいですよね。

―― 確かにすごいです(笑)。

内田僕は同じ書店員として衝撃を受けましたよ。同じ時間を、「こんな遠くに飛ばされて・・・・・・」ってぶつぶつ文句を言いながら、無駄に過ごすか、自分の肥やしにするために使うのか、自分はどっちにするんだ!?って真剣に思いましたよ。
この2冊は、自分の人生の中で衝撃でしたね。

―― 運命の2冊になったんですね。

本屋さんの遊び方 三省堂書店成城店 内田剛店長

『白い犬とワルツを』(テリー・ケイ著、新潮文庫)

内田しかも、同じ時期に、『白い犬とワルツを』(テリー・ケイ著、新潮文庫)という本が、千葉の津田沼の書店員さんが書いたPOPをきっかけに、大ベストセラーになるんですよ。これはワイドショーとかでも取り上げられて、すっごく話題になりました。

―― あっ! そういえば、ありました。

内田それまでは、デパートでは印刷したPOPのみで、手書きPOPは使えなかったんですけど、それ以来、逆に「そごう」の方に「手書きPOPを書いてください」とお願いされるようになったんですよ。あと、ちょうどその時期に「そごう」の経営者が変わった、という理由もあったんですけど。

―― 手書きPOPが認められたんですね。

「とにかくPOPをつけまくった」

本屋さんの遊び方 三省堂書店成城店 内田剛店長

内田それでなんていうか、ひらめいたんです。自分にできることはこれじゃないかな?って。本を読み、自分が良いと思ったものを読者のみなさまに伝える。そして、そのための手がかりとしてPOPを書く。僕はそういうことをやってみようと。

―― そこから店長のPOP人生がはじまったんですか。

内田それで、どうせやるなら徹底的にやろうと思いまして。当時は文芸、ノンフィクション、新書を担当していたんですけど、もう、とにかくPOPをつけまくったんです。読んでは書いてをひたすら繰り返して、気づいたら1日1枚のペースでPOPをつけていましたね。

―― すごいペースですね!

内田そうすると、だんだんお客さまが面白がってくれて。POPを読んでくださったり、まじまじと見てくださったり。それを楽しんでくださる方が増えていく実感がありました。それはお客さまだけではなくて、出版社の方や、著者の方もそうで。それで、だんだん人が集まるようになってきて、「なんか本屋って面白いな」って思うようになってきたんです。

―― 最初から1日1枚を目標にしたわけじゃなくて、自然とそうなったんですね。

内田そうそう。最初から1日1枚書けって言われてたら、書けなかったと思いますよ。続けていくうちに、だんだんそうなっていったんです。

「POPは『田植え』と一緒」

本屋さんの遊び方 三省堂書店成城店 内田剛店長

―― すごいターニングポイントだったんですね。

内田そうですね~。いろんなきっかけがあったんですよ、そこで。いい本にも出会えたし。津田沼の書店員さんにも出会えたし。POPを書く面白さにも出会えたわけですし。

―― お客さまがちゃんと気づいてくださるっていうのがすごいですね。

内田ほんと嬉しいですね。地道なことですけどね。
なんかね~、POPを立てていると、田植えをしてるみたいな気分になってくるんです。

―― 田植えですか(笑)。

内田POPは生き物ですから、やっぱり鮮度が大事なんですよ。ほおっておくとすぐに古びてしまいますから。だからある程度増えてきたら、1本立てたら1本はずすって感じになるんですよ。あとは場所を変えてみたり、1回はずしてみたり。やっぱり、ずっと同じ場所に立っていると飽きがきますから。
書店の棚作りは、園芸と一緒だって言われますからね。毎日、耕していくことが大事なんですよ。手が入っていない棚は、お客さまも気づきますしね。

―― 棚って生き物みたいですね。

内田そうですね。本も、棚も、お店も、人と同じだと思います。喜怒哀楽があり、いろんな表情を持っています。それを知るということは本屋の楽しみ方のひとつだと思います。ごきげんで鼻歌を歌っているような棚か、シクシク泣いているような棚か、それはよく見ればわかるんですよ。

―― どうせなら、そういう生き生きしている場所で本を選びたいですね。

本屋さんの遊び方 三省堂書店成城店 内田剛店長

内田いや、ほんとそうですよね。生き生きしてる棚を見つけるのって楽しいですよ。そこでは、面白い本に出会うことができますから。そして、そういうお店の担当者は、間違いなく生き生きしてますしね。

―― 確かにそうですよね。そういう本屋さんが増えてくれると楽しいですね。
今日は色々なお話をありがとうございました。すごく楽しかったです。

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