本屋さんの遊び方

第4回目をむかえる本屋さんの遊び方。

今回は、複合型の専門書店を広島県下を中心に九州、そして首都圏へとチェーン展開しているフタバ図書さん。そこで専門書のエキスパートとして働いている芝健太郎さんにお話を伺ってきました。

第4回 フタバ図書TERA南砂町店 芝健太郎さんに聞きました

2009.10.06更新

「なぜ書店員という仕事に?」

 (腕を組んで)「本屋さんの遊び方」ですよねぇ。

―― はい。一応そういうテーマなんです。

 何でまた、わざわざ僕なんかに(苦笑)。

―― いやいやいや。

 前回の内田店長の記事、読みましたよ。以前「東京国際ブックフェア」で内田店長のお話は聞いていたんですが、「ああ、すごいなあ」と思って。毎日POP書くわけですよねぇ。

―― ええ。それをずっと続けてらっしゃって、累計3,000枚超えているそうです。

 ちょっと真似できないなあ、って。もうねー、そういう凄い人を見ると、僕なんてぜんぜん仕事してないなって思うんですよ。だから、こういう所に自分はまだ登場しちゃいけないんじゃないかと・・・・・・。

―― いやいやそんなこと言わずにぜひ。私、今日は芝さんにお伺いしたいことがあったんです。

 え、何ですか。

―― 芝さんは、なぜ書店員という仕事に就かれたんですか?

 ふむ。

―― 常々、芝さんからは、「本を愛する気持ち」みたいなものを感じていたんですよ。で、ぜひお聞きしたいと思いまして・・・・・・。

「春樹にハマった学生時代」

 そうですねぇ、元々、高校のときくらいから本は好きでしたけど、本格的に読むようになったのは、大学の頃で。まあ、あんまり友だちがいなかったんで(笑)。

―― あれ?(笑)、そうなんですか? そうは見えないですけど。

 まあ、で、何でそう思ったかはよくわからないのですが、「毎日一冊本を読む」と決めまして。

―― 一日一冊ですか!

 いや結局、毎日一冊はずっと続けることはできなかったのですが、それでも、一年間くらいは集中して読みましたよ。まあ、200冊ぐらいは読んだと思います。大学に入ってからは、周りの友だちが「こういう本が面白いよ」と色々教えてくれて、そこでまた「自分は全然本を読んでいないなあ」と痛感したりして。それで、「こりゃ読まなきゃ」って思った。

―― ほぉー。

 一番大きかったのは、村上春樹との出会いですね。僕、元々は、本屋に勤める気なんて、さらさらなかったんですよ。学生時代は映画が好きで、映画館でバイトしていて、「将来は映画業界に行きたいなあ」なんて思ってた。ところが、ハマりやすいタイプで、村上春樹に出会ったら、ハマってしまったんですね。

春樹さんが聴く音楽、観る映画、すべて押さえとかないと気がすまないぐらいハマって。まさに、村上春樹が僕のメンターだったんですね。それで、彼にならって「古典系も読まなければ!」と思ったり、わかりもしないのに外国文学なんかも読むようになったり。
とにかく村上春樹に関連する本は片っ端から、出ているものは全部読んで。まあこんなこと、あんまり大きな声で言うもんじゃないけど、もう、大好き(笑)。

―― 大好き(笑)、なるほど。ちなみに「毎日一冊」は、小説系だけですか? 人文社会系とかは?

 ジャンルは別に、何でも良かったんです。新潮文庫の「夏の100冊」に入っている本に、丸印をつけながら読んでいった。その頃はお金もないので、古本屋に探しに行ったりして。あと、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』なんかもその頃に読んだんですけど、「うわー、ドストエフスキーってむちゃくちゃ面白い」と思いました。まあ、ドストエフスキーは、みんなが通る道なんでしょうけど。

―― ええ、そうですよね(やべ、俺読んでないや・・・・・・、と思いつつもポーカーフェイス)。えーと、そういった本を多読して、周りの友だちとは、読書体験を語り合ったりしてたんですか?

 いやぁ、独りで(笑)。

―― あれ?(笑)、孤独だったんですか、大学時代は。

 うん、孤独というか、まあ、あんまり友だちは多い方じゃなかったなあ......。うーん、まあその、音楽や本について教えてくれる友だちはいたんですよ。でもたまに、「こんな本、読んでちゃだめだ」みたいな、そういう時代錯誤的なことを言う心の狭い人もいたんですね。そういうやつと友だちになっちゃうとですね、「下手なものには手が出せないな」とか思っちゃうわけなんですよ。

―― ええ、ええ。

 それで僕は、「人間は寛容じゃなきゃだめだな」と、そう思った(笑)。本を読むのはいいことだけど、教養主義的なものを人に強要するのは、よくない傾向だと思います。ただ、本をたくさん読むのは、自信にはなりますよね。たいして理解はしてなくても「一応読んだよ」というのは残る。いま小熊英二さんの『1968』を読んでいるのですが、昔の学生は「本を持っていることがファッション」だったそうですけど、僕の学生時代もまさにそんな感じでしたね。

―― なるほどですね。なんかイメージが沸いてきましたよ。その頃の読書体験が、芝さんの自我形成につながっていったわけですね。

 そうなんですよねぇ。結局読書って、「自分を鍛える」ことじゃないですか。でもその逆に、ショーペンハウアーか誰かが、「読書をする人間はあまりよくない」みたいなことを言っていて。「著者の意見をそのまま鵜呑みにして、ものを考えない人間になってしまう」という危険もある。

―― たしかに。

 読書には、そういう面もありますよね。自分の話す言葉なんて、いろんな人の受け売りばっかりだし。でもそれはそれで、いいんじゃないかなあとも思うんですよね。ところがですね、うちの奥さんは、そんなにたくさん本を読むタイプではないんですけど、僕が本を読んで、知ったかぶりなんかをすると、「またそんなこと言っちゃって」とか、「また天狗になってんでしょ?」なんて言ってくるわけですよ(笑)。それで僕は、さーって冷えちゃう。

―― ははは。わっかるなあそれ。なんでいつも「妻の言うことが、結局は正しい」んですかねぇ。

 まあでも、そう言われたら、確かにそうなんですよね。おっしゃる通りなんですよ。そう言われると、自分がどれだけちっさい人間かっていうのが、わかるじゃないですか(笑)。でもまあ、それでもやっぱり読書っていうのは、得難い体験の一つだと思ってます。昔の人の考えを知ることもできるし、小説を読めば色んな登場人物を通じて人間の理解も深まる。読書を通じて鍛えられた部分っていうのは、奥さんとの一件も含めて、確実にありますよね。

―― がはは。まあ、「本屋さんの遊び方」とはほとんど関係のない感じになってきましたけど。

 あはは。こんなんでいいんですかね。

「売り手の想いが見える本屋を作りたい」

―― 最近、お店のほうはどうですか?

 まだまだこれからです。今、僕、お店のスタッフの一人一人と面談してるところなんですよ。それで、思ったんですが、僕、どの人ひとりとして、憎めないというか、嫌いになれないんですよ。たとえ周りに「あいつはダメだ」みたいに言われてる人でも、「いやいや、何とかなるだろう」って思うんですね。で、話してみると、そういう人には何か、「わだかまり」みたいなものがあるわけなんですね。

―― ええ、ええ。

 その人の心に火をつけてあげたいんだけれど、なかなか火をつけられないっていうもどかしさがある。基本的には僕、「人は、誰しもいい人だ」って思ってまして。

―― おぉ。芝さん性善説だ。

 「人は誰でも変われるし成長できる」と思っていて、それはあんまり年齢とか関係ない。多少、資質に問題があっても、本屋の基本的な仕事だったら、誰だってできるよね、って。だから、成長させてあげられない僕のほうが悪いと思っちゃう。それにそういう人って、すごく話してて面白いんですよ。「僕、この人に、なんて言えば、火をつけてあげられるかなあ」みたいなことをいつも考えている。

―― なるほどなあ。

 僕、以前、宮本常一が好きだって言ったじゃないですか。

―― ええ。

 常一さんって、心に火をつける天才だったんですよ。

―― へぇー。

 いろんな人に、「あれやれ、これやれ」みたいなことを言って、焚きつけちゃう。本の中ではそんなことひとつも書いてないんですけどね。全然、偉そうじゃないし、強制的に「やれ」みたいなことは言わないけれど、常一の話を聞いた人は、やってみたい気になっちゃう。

で、それが僕の中では、村上春樹にも通じるんですよね。たとえば春樹を読んでると、なんだか無性にビールが飲みたくなるでしょ(笑)。そういう、「原動力」みたいなものをある種の人々に感じて、自分もいつか、そういう人間になりたいなーと思ってるわけなんですよね。

―― なるほどなぁ。自分がそばにいることで相手に考えが伝わって、相手が自分のこととして、何かに気づいたり、いい変化がもたらされるような感じでしょうか・・・・・・。

 そうそう。「一緒にやる」みたいな。僕ね、仕事で一番うれしかったのは、以前一緒に働いていた人間に、「また芝さんと一緒に働きたい」っていってもらえたことなんですよね。

―― うわーそれ、最高ですね。

 もう、最高ですよね。こんな有り難い言葉はないなあって、思いましたね。一緒に働いていて「楽しい」って思ってくれたら、多少辛い仕事でも、楽しくできるじゃないですか。本屋は力仕事が多いし、本が好きなのに本を眺めてる時間も取れなかったりする。楽しい作業もあるけど、そんなときばっかりじゃあないから・・・・・・。まあ、これは皆さん言われることだと思いますけど、「お店の人が楽しんでなかったら、お客様は楽しむことはできない」んですよね。辛い顔しながら働いてても、仕方がないわけなんですよ。

―― そうですよねホント。

 だからとにかく、「自分が買いたくなる売場を作りましょうよ」って、みんなには言うんですよ。「自分が買いたくない売場だったら、お客様も買ってくれないよ」って。僕、今の書店で問題だなって思うのは、売場が八方美人になっちゃってるところがあるでしょ。「本を並べました、さあ皆さんどうぞ買ってください」みたいな。

―― はいはいはいはい。

 でも、「そりゃあ、誰も買ってくれないよ」、って思うわけですね。そうじゃなくて、自分自身でもいいし、自分の恋人でもいいから、その人に向けた売場作りをしたほうが、よっぽど売れるお店になるよ、って言いたい。もし自分が買いたい本だったら、追加発注もかけるだろうし、自分がいま気になるテーマだったら、面白いブックフェアだって組めるだろうし。そういう、自分の好みと結びつけて仕事ができるかどうかって、すごい大事だと思うんですね。まあ、それだけで動かれちゃ困る部分もあるんですけど。でも取っ掛かりとしてそういう気持ちで働けば、仕事はきっと楽しくなるんじゃないの? っていう話は、みんなとするんですね。

―― うんうんうん。

 本屋がお客様に見てほしいなあって思うのも、そこなんですよね。「想いが感じられるかどうか」っていうところ。「あ、この本、こんなに積んだんだ」とか、「これは、そうか、あんまり売りたくないんだろうなあ」とか(笑)。そういう売り手の想いを感じるお店が、僕は好きなんです。例えば、千駄木の往来堂さんとか見てると、これは偉いもんだなあ! と思うし、オリオン書房さんなんかも見に行くと、本好きがいるなあ! と思っちゃう。よっぽど、気持ちが伝わってくるんですよね。

「『自分のお店』と思えるのがいいお店」

―― 私、今、芝さんのお話をお伺いして、一冊の本を思い浮かべたんですよね。

 え、どんな本ですか?

―― 西村佳哲さんの『自分の仕事をつくる』(晶文社刊、筑摩書房から文庫もあり)です。

 ああ、いい本ですよね。

―― これ私もう、すごい大好きな本なんですけど、そのなかに「他人事の仕事と自分の仕事」とか「仕事を自分の仕事にする」とか「自分を掘り下げることで他人とつながる」とかいうフレーズが出てくるんです。そんな言葉を不意に思い出しながら、お話をお伺いしていた次第です。

 僕、以前、入社して間もない頃に上司から言われた言葉があって。

―― うわ。それ、教えてくださいよ。

 お店に配属になって、その人から、「ここは、お前の書店だからな。」って言われたんですよ。その時は、その言葉を聞いて正直、「いやいや、そんなことないよ、僕の書店なんかじゃないよ」って思った。意味がわかんなかったから。

―― ええ。ええ。

 でも、今思うと、そうなんですよね。「自分の書店」としてやらないと、自分の色が出ないし、お店が良くなるイメージが湧かなくなっちゃうんですね。ただ、作業をやってるだけになってしまう。だから、「ここはあなたの書店ですよ」「自分の書店ですよ」って、働いている従業員も、来てくださるお客様も、みんながそう思ってくれた時に、すごくいい書店ができるのかな、って今は思ってます。

―― 確かになあ。

 よくわからないままに配本された本が入ってきて、その本を並べて、売れていくだけの本屋というのは、やっぱりつまらないと思うんです。逆に、人の想いが詰まっている書店というのは、いつ見ても「面白いなあ」って思うんですよね。

―― ホント、そうですね。

 書店をやっていて思ったのは、「これは、人とのつながりができる仕事だ」ってことです。元々は、本屋になる気なんてまったくなかったけど、僕は今、そこに縁を感じるわけなんですね。僕なんて、人とのつながりだけで生きてるようなものですから。だから思うんですよ。本屋さんこそ、どんどん外に出ていったら面白いのに、って。

―― ですよね。そうやってみんなで力を合わせて、一緒に、書店をどんどん盛り上げて行けたら嬉しいなあ! うわーなんだか、元気が出ましたよ。

 (笑)。

―― あれれ、私もしかして、芝さんに火をつけられちゃったかも(笑)。話は尽きませんが、今日はこの辺で。色々お話しいただき、本当にありがとうございました。

 こちらこそ、ありがとうございました!

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