本屋さんの遊び方

第6回 新潟市の古町十字路に店を構える老舗書店・北光社の佐藤雄一店長に聞きました

2009.12.15更新

社史に新撰組が

本屋さんの遊び方 12月北光社佐藤店長

―― 佐藤店長とは、普段は電話のやり取りばかりで、直接お会いするのは、今日がはじめてなんですよね。それなのに「本屋さんの遊び方」を突然、取材させていただくということで、いきなりですみません。ひとつお手柔らかに、よろしくお願いいたします。

佐藤これ、時間制限とかあるの? 普通にしゃべるだけでいいんでしょ?

―― はい大丈夫です、多分。いやぁ、自分でもどう転がるか全く見えていないんですけど、ハハ。ところで、お店に飾ってあるハッピ、とっても年季が入った風情でしたけれども、北光社さんは、商売をはじめてから、歴史的にはずいぶん長いのですか?

佐藤創業は、えーと、1820年。

―― えっ、1820年......。江戸時代じゃないですか。

佐藤だから創業してから、来年で190年。それで、古町に進出してきたのが1898年だから、今年で111周年ですね。

―― それは......、すごいですね。

佐藤なにげに、すごいよね。出は、水原(すいばら)というところ。社史を読んでいるとこれが面白いんだけど、新撰組とか出てくるの。

―― !!

佐藤ペリー来航の方が、創業より後でさ、2代目は頼山陽の家で死んだとか書いてあったりして。あと、山岡鉄舟とか色々な人が出てくるの、社史に。

―― これは、すごい話ですよ。私、歴史が好きなので、興奮してきました。

佐藤でしょ。面白いよね。

―― 北光社さんは当時からずっと書店だったのですか? それとも版元(昔の出版社)を生業にしていたのでしょうか?

本屋さんの遊び方 12月北光社佐藤店長

佐藤それが最初の頃は違うようで、化粧品とか医薬品と一緒に、書物を売るという感じだったらしい。ただ、大概の資料がもうないんですよ、焼失しちゃって。明治以降、新潟大火っていうのが何回かあって、北光社も3回、全焼してるの。

―― え、3回も......。凄まじいですね。本なんて、火に包まれたらどうしようもないですもんね。

佐藤だからね、ハッピもあれ1着っきりだしね。本当はもっといっぱいあったんだろうけどね。

いつの間にか店長に

―― 佐藤さんて、おいくつなんですか? ちなみに私は昭和51年生まれの33歳ですが。

佐藤私は、36歳。昭和48年生まれ。3つ違いですね。

―― 本屋さんでの仕事をはじめてからは、何年くらいなんですか?

佐藤北光社で働き始めたのが96年だから、本屋歴13年。その前はね、バンドやってたのよ。バンドやりながら、バイトして。北光社に入った頃も、まだやってたんだけどね。

―― へー。

佐藤でも、昼間に働きたいなーと思って本屋に入って。だから、本が好きで、本屋やりたい! という純粋な気持ちじゃなかったんだよね。行き当たりばったりで。

―― そうなんですね。

佐藤それでまあ働いてたんだけど、そのうち周りが一人辞め二人辞め......って、気づいたら、先にいた人みんな、いなくなってて。いつの間にか店長になっていた。

―― え、いつの間にか店長って。

佐藤アハハ。まさか自分が店長やるなんて思ってなかったから。

―― 店長になるまでは、どういう業務を?

佐藤入ってしばらくずっと、雑用全般。売れ残った雑誌の抜き出しや、入れ替え書籍の返品をひたすら手書き伝票に書き写すなんて作業をずっと毎日。当時は、無伝返品(注1)じゃなかったから。

―― あ、そうか。しかし、ずっと手書きなんて、重労働だったのでは? というか、飽きませんでした?

佐藤バックヤードが返品でこんな山のようになってた。でも、なんか飽きもせず、毎日やってたんだよね。そしたら、やってくうちに、「あれ? これを返品しちゃうの?」なんて思う本が目につくようになってきて。「返しちゃうのもったいなくない? この本」なんて、こっそり棚に戻したりね。

―― ははは。いつのまにか目利きが。

佐藤そうなんだよ。あと、山ほどある出版社の名前も、手で実際に書いたら、覚えるじゃない。

―― 単なる苦役のように見えても、役立つ側面があったと。

佐藤だから、計画性なんて一切ないのだけど、ちゃんといい風に、全ジャンルの商品知識が身に付く手順を踏んでいた。

―― なるほどなあ。

佐藤そうやって延々と返品をやっていたんだけど、そのうち2000年頃かな、文庫担当が辞めちゃって。その後、自分が担当に。

―― 次は文庫ですか。これまた「色々覚える」っていう意味ではまた、いいですよね。

佐藤そうなのよ。ほら文庫って、作業の流れにパターンがあるじゃない。出版社の一覧注文書を使って、売れ筋ランクを頼りに欠本チェックしたり、新刊の動きは売上スリップ(注2)をチェックしながら補充注文かけたり。スリップ見て何が売れたかチェックする習慣は、いまだに続けてるよ。

―― POS(注3)データ見るより、スリップをチェックする方が、お客さんの買う姿がより見えてくるんだって、他の本屋さんからも聞いたことありますよ。

佐藤俺もそう思うな。そうそう、あとは、文庫をやってよかったのは、大概のものが頭に入るじゃない、作家の名前とか、古今東西あらゆる古典や名作が。そういう、一通りの知識が。

―― 文庫って基本的には、版元別に著者名で50音順陳列ですから、棚いじってたら著者の名前はどんどん覚えちゃいそうですよね。

佐藤どんな作家がいて、どんな本を書いているのか、その時にかなり覚えたよね。ホントいい手順を踏んでたんだよ。いき当たりばったりなのに。

―― それで、店長になったのも行き当たりばったりだったんですか?

佐藤まあ。文庫担当になって3年経った頃に、当時の店長が辞めることになって。それで、自分が他のジャンルも含めて、お店の棚を全部やるっていう状況になっちゃってさ。

―― 全部ですか!

佐藤その時は、さすがに慌てふためいたけど。でも、初めてやるジャンルも、なんとか対応できちゃったんだよね。下積みで商品知識の蓄積があったから。

―― うわー。いい悪いは別として、佐藤店長が経験されたような知識の積み上げは、もはやできない時代になっちゃってますよ。

佐藤このごろは、何でもかんでもデータでやろうという流れだよね。責任販売制(注4)とかね。

―― ここ10年ちょっとの間に起こった流通サイドの効率化は、売場作りの面にも、実は大きな影響を及ぼしてきたのかな。そんなことを思った次第です。

ちょっとずつ、つながって

本屋さんの遊び方 12月北光社佐藤店長

―― そうだ店長、この前お電話した時に、古町近くの古い建物を使ったイベントに出店した、って言ってたじゃないですか。

佐藤ああ、「にいがた空艸舎(くうそうしゃ)」のこと。

―― はい。私、お店でお客さんがくるのを待っているだけじゃなくて、外に出ていった、という所にすごく興味を持ったんです。

佐藤「にいがた空艸舎」っていうのは、この古町エリア近くの南浜通に、「北方文化博物館新潟分館」という場所があって、その空間の、今後の利用方法を模索するなかで生まれたイベントなんですね。

―― はい。

佐藤去年からはじまって、年に1回、10月に2日間だけ行われるイベントで、2回目となる今年は、北光社も参加させてもらった。

―― 今年からなんですね。「にいがた空艸舎」へは、どういう経緯で加わることになったのですか?

佐藤もともとは去年、単純に客として訪れたのがきっかけ。第1回は、エフスタイル(注5)の仕事を紹介する、っていうのがメインテーマ。ちょうど去年の8月にアノニマ・スタジオさんから『エフスタイルの仕事』という本が出て。

―― アノニマさんですか。ミシマ社も仲良くさせてもらっているんですよ。

佐藤そうなんだ。俺、もともとエフスタイルのことは知ってたけど、「こんな本出すんだ、すげー」って思って。それでお店で手厚く展開してたら、エフスタイルの2人が反応してくれて、お店に挨拶しにきてくれて。

―― それで知り合ったと。

佐藤そう。で、彼女たちから、「今度イベントやるので来てください」って教えてもらって、何日かしてイベントスタッフの方がリーフレットを持ってきてくれて。

―― ええ。

佐藤それで「ふーん」って思ってぶらっと見にいったら、「なんじゃこれ、すげー」って。感動して。

―― へぇー。

佐藤で、アノニマさんもそのとき出張ブックフェアを出店してたんだけど、その時にエフスタイルから、アノニマさんを紹介されて。

―― 面白い。つながりの連鎖だ。

佐藤そうやって、ちょっとずつ、つながっていった。その後お店で、彼女たちにオススメの本を教えてもらって、「エフスタイルの本棚」っていうフェアを企画したの。そこにアノニマさんの本も並べた。それが、去年だよね。

―― その出会いが、今年につながっていくんですね。

予定調和に狂いを

佐藤そう。そしたら「今年のにいがた空艸舎は、"仕事"をテーマに考えているんだけど、一緒になにかできないですかね」って話になって。

―― はい。

佐藤で、まあ、全然問題ないから引き受けて。「ハロー・ライフ・ワーク」という正式なタイトルも決まって。

―― ええ。

佐藤じゃあ私は、どうしようかって考えて、「空艸書店」という名前で本屋をやろう! となったんだけど......。

―― ほぉ。面白そう......。

佐藤これがさ、めちゃめちゃ大変だったよ。準備が。3カ月くらいの間。だって私、お店ではコミック以外、全部担当なんだよ。

―― あー、そっか。

佐藤そっか、じゃないよ(笑)。本当に全部、自分が担当なんだよ。店長といえば聞こえはいいけど、要は何でも屋だからね。お店の仕事と並行しての準備は、さすがにできないよ。

―― 確かに(笑)。準備は、いつすすめたんですか?

佐藤3カ月くらい毎晩、お店が終わってからの作業だったよ。まずは、選書から入って。その次に、陳列する空間をイメージしながら、ディスプレイを考えるのだけど。基本、平台だけなんだけどね。8畳くらいのスペースに、壁に沿って机を置いて。

―― ええ。

佐藤そしたら、お店で使っているアルミのブックエンドとか、既存のものが使えないということに気づいて。雰囲気に合わないから。だから、何とかならないかなって考えたんだけど、結局、ブックエンドを、自分たちで新たに作っちゃったよ。

―― そこまでしたんですか。すごいですね。

佐藤どうせやるなら、空間まるごと、ちゃんと演出しないとな、って思ってね。他にも、目録を作成したり、ブックカバーも今回のために作ったり。

―― 時間ないのに。選書するだけでも大変そうなのに。

佐藤そう。やっぱり選書が一番大変だった。こだわりだしたら300アイテムくらいになっちゃって。そんなに置けないだろ! ってことで、そこから削る作業に入って。

―― 選書、私もほんの少しだけやったことありますが、難しいですよね。

佐藤難しかったよ。ある程度、そこにくるお客さんの好みっていうのは、日々お店でやっているからだいたいわかるんだけど。普通に考えたら、おしゃれで装丁もきれいな生活雑貨系の本を並べたら、そこそこは、売れるじゃない。

―― ええ、ええ。

佐藤で、そこで考えたんだけど、私は北光社だから、北光社の看板持って乗り込んでいくんだから、そういうのを裏切ろうと思った。来てくれた人に、なにか引っかかりを残したくて。

―― ある種の予定調和の居心地の良さを、崩したいっていう。

佐藤そうそう。それって、セレクトショップの居心地の良さなんだよ言ってみれば。カフェでお茶飲んで、素敵な本もありますよっていう。うん、それは、俺の中ではコスプレなんだよ、ちょっと。「お洒落なことを客観視しているな」って。だから俺は、そういう所にちょっと狂いを生じさせたいの。

―― おもしろいなあ。確かにコスプレかも。

佐藤だから今回は、テーマが仕事っていうこともあって、仕事の本も選んだのだけど、一見、「なんでこれが仕事の本なのかな?」っていうのも混ぜたいなって思って。そこをめちゃめちゃ考えた。

―― なるほど。

佐藤それでも、売上げが一番よかったのは、やっぱり生活雑貨系の本だったという。そっちが売れるのは、まあ当たり前なんだけどね。

―― あはは。ところで結局、2日間、8畳のスペースで、どのくらい売れたんですか?

佐藤正味8時間くらいでさ、30万。

―― 30万! すごい。

佐藤でしょ? 俺、感動したもん。ちゃんと準備してさ、そこに来る人を想像して、妥協しないで本を集めてさ、空間も自分たちで作ってやる。そこまでやれば、こんだけ反応があるんだな、って思ってさ。

―― ホント、そうですね。すごいなあ。

佐藤坪単価最強書店だったね、あれは(笑)。こんな売れる本屋ないだろって。びっくりしたよ。

―― しかし店長、「予定調和に狂いを」とかって、まるでロッカーの発想ですよ。

佐藤ハハ。それ、エフスタイルにもたびたび突っ込まれます。「佐藤さんパンクだから。本屋さんていうか。」って。うーん。まあ確かに、俺はいつも行き当たりばったりだけどさ。

ライフとワークがこんにちは

―― 私もこの間、出張販売イベントをやったんですよ。終わってみれば楽しかったと思えるのですが、準備が大変で。時間がなくって。

佐藤そうだね。自分も、もともと時間なんてないのに、よくやったなあって思うよ。あの時はちょっと、何かに取り憑かれてたかもしれない。うん......、でも、エフスタイルの2人も半端じゃないんだよ。妥協がないからさ、一切。

―― ええ。

佐藤できちゃったのは、多分、空艸舎だったから、だと思うんだよ。エフスタイルはじめ、空艸舎スタッフの方たちとの出会いとか、去年、客として見た時の感動とか、それからはじまった付き合いとかがあったから。単なるイベントだったら、あそこまでのことは、できなかっただろうな。

―― ......、すごいな。

佐藤今回の「ライフワーク」っていうテーマで、本屋ってどうなんだ? って考えたら、まあ、「ワーク」だけじゃないじゃんやっぱり。完全に「ライフ」な部分があるから。うん。だから恐らくそれを切り離してたら、多分僕ここに来てませんよ、って話だから。空艸舎が終わって、最後にミーティングで、そういうことを言ったんだけどさ。

―― ええ。

佐藤こっからここまではお仕事、こっからここまではプライベート、っていう、そういう時間術とかは一切ないから。境目はないよ。

―― 確かに。あんまり境目を決めつけないほうがいいんでしょうね。

佐藤そうだね。お店のことを色々やっていると、あっちをやればこっちができず、こっちをやればそっちができず、「あー」って、「うわー」ってなっちゃう。で、まあ俺の場合、イライラして考える。でも、何言ったって、これはしょうがないから。どっちみち自分でやるしかないんだから。もうダメなもんはしょうがない、みたいな。言い訳じゃないけどね。

―― そうか。できることなら全部やりたいけど、って、私なんて、いつも悩んでますよ。

佐藤要は、感情が全開になってるかどうかだよ。喜怒哀楽だよ。

―― 喜怒哀楽かー。なんか、いいな。佐藤店長、本屋を、遊んでますよね。

佐藤まあね、そういうのも、スタッフの支えや、家族からのダメ出しに支えられてこそ、なんだけどね(笑)。奥さんに「あんた、毎日遅くまで仕事してるのに、飲みに行く時間だけはあるのね」なんて、いっつも。

―― うわあ、私と一緒じゃないですか(笑)。

佐藤ハハ。家族の厳しさがあるから、なあなあにならずにやれてるのかもね。

―― それでは最後に、お店の将来的な方向性とか、今考えていることがあれば教えてください。

佐藤うーん。先のことはあんまり決めてないんだけど、でも、一度も満足してないんだよね、お店の現状に。「ああしたい、こうしたい」って不満だらけで、そこにちょっとでも追いつきたいって思ってる。

―― あーわかります、その気持ち。何とかしたいって。

佐藤俺、毎日、不満だから、そこを解消していきたいということで。結局さ、細かいことなんだよ。このジャンルとこのジャンルの陳列を隣接させたいとか、ここを削って、かわりにこっちを増やしたいとか、もっといい空間にしたいとか、そういうことばっかり、考えてるからさ。それ以上のことは、あんまり考えてないかなあ。まあ、この規模の本屋が、あとどれだけやれるのか、ってことはいつも思っているけど。

―― 日々、自分への不満と闘っている、と。

本屋さんの遊び方 12月北光社佐藤店長

佐藤まあ、そんなところで、まとめといて。

―― ははは。ロックだなあ。佐藤店長、今日はお休みだったのに、わざわざすみませんでした。でもおかげで私、「面白い仕事がしたい!」って改めて思いましたよ。ホント、楽しかったです。

佐藤また新潟来たときは、寄ってくださいよ。飲みにいきましょう。

―― 是非是非! 今日はホント、おもしろかったです。ありがとうございました!

注1:無伝返品......取次が返品の受け入れ窓口でバーコードから単品データを読み取ることで、書店が返品伝票を付けずに返品できるシステム。書店の作業が省力化される。(『どすこい出版流通』ポット出版 108ページより)

注2:売上スリップ......書店で販売されている本に挟まれた短冊状の紙。短冊とも言う。片面がその本の補充・追加するための「注文書」。片面が出版社に返送するための「売上カード」など、の組み合わせが多い。「売上カード」は、書店の売上データとして出版社に返送され、マーケティングや配本などの基礎資料として活用されていたが、近年はPOSにその機能が置き換わりつつある。(『どすこい出版流通』ポット出版 13ページより)

注3:POS......販売時点情報管理(Point of sale)。売上実績を単品単位で集計すること。(『どすこい出版流通』ポット出版 14ページより)

注4:責任販売制......注文=仕入れ時に、書店が販売に責任を持つシステム。売り残した場合「返品をしない」「返品できる数を制限する」「返品するときは仕入れ額より少ない額にする」などという方法が考えられている。(『どすこい出版流通』ポット出版 51ページより)

注5:「エフスタイル」は、新潟生まれの五十嵐恵美(1978年生まれ)と、星野若菜(1979年生まれ)の2人が、2001年に開設したデザイン事務所の名称。新潟の地場のモノ作り産業を中心に、デザイン提案から販路の開拓までを一貫して行ない、伝統産業が次世代のライフスタイルに溶け込むようなデザインと、高い品質の商品を提供している。

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

ミシマ社営業チーム

(聞き手 渡辺佑一)

バックナンバー