本屋さんの遊び方

本屋さんの遊び方 文星堂さん

再開発著しい東京・大崎副都心の地で書店を営む文星堂さん。2007年竣工のビル、「Think Park」内に出店したこのお店は、テレビドラマ「ブザー・ビート」で女優の北川景子さんが働く書店の舞台としてロケに使われるなど、地元密着でありながらも、同ビルで働くビジネスパーソンも多数訪れる、お洒落な雰囲気のお店です。

そこで働く礒田店長は、いつもニコニコ笑顔です。なぜそんなにも笑顔なのか? 営業・渡辺が、その秘密を探りに突撃取材を敢行しました。

第7回 東京・大崎の文星堂 Think Park店、礒田直樹店長に聞きました

2010.02.09更新

―― 礒田店長、そういうわけで、よろしくお願いいたします。

礒田確かに、みんなから「いつも笑ってる」って言われてますけど(笑)。

―― 売場に立っている店長、雰囲気が、いつも清々しいです。営業でお伺いさせていただく度に、元気をいただいてるんですよ、実は。

礒田でもオレ、経営者モードのときは暗いよ(笑)。

―― いやいやいや、そんな話は聞きたくない(笑)。

日商6万で3世帯

―― 文星堂さんが大崎で商売を始めたのは、いつ頃からですか?

本屋さんの遊び方 文星堂さん

礒田もともとは、親戚がこの地で文星堂という屋号で商売していたところに昭和30年代、山口県出身の祖父が始めました。それ以前の祖父は、日配で経理をやった後に神田で中取次を商んでいたそうです。めちゃめちゃ数字に強かったらしい。

―― 日配ですか。今のトーハン・日販の前身だった会社ですね。

礒田はい。当時の文星堂は、本と文具で20坪くらいの店舗に、外商もやって、日商6万くらいだったそうです。そんなお店に、じいちゃん夫婦、オレの親父の夫婦、専務だった叔父さん夫婦、この3世帯が、仲良く暮らしていたという。

―― へー。20坪に3世帯。なんだか、今のお洒落なお店からは想像しにくいですね。

礒田で、その後に、大崎に再開発の波が来て、支店を出店したり、閉店させたり、自分が入って代替わりしたり、いろいろあって、現在は、2店舗体制(ゲートシティ店、Thinkpark店)に落ち着きました。

―― 再開発という大きな変化にさらされながらも、ずっとこの地で本屋さんを続けてこられたのですね。すごいなあ。

最初はサラリーマンをやっていました

―― あの、礒田店長は、おいくつですか? 私は33歳ですけど。

礒田37歳です。昭和47年生まれですね。

―― 本屋さんでの仕事は、すぐにはじめられたのですか?

礒田いや、大学出て最初はサラリーマンをやっていました。普通に面接を受けて、紙の商社に入社しました。たまたま行った合同説明会で知った会社なのですが、その会社のブースだけ、なぜか社長がいたんですよ。どうやら、大卒採用を始めてすぐだった時期らしく、その社長が、「自分の目で見て、気になった人を採りたい」と、やたら気合いが入ってまして、意気投合してしまった。

―― へー。本屋さんの跡継ぎの方だと、別の本屋さんで修業するとか、取次とか出版社に入るとか、そういう場合が多いですよね。そういうことは、あまり意識していなかったのですか?

礒田その会社に入ったのは、すごく偶然というか・・・。自分は長男ですから、無意識に「いつかは継がなきゃ」と思っていたはずなのですが。まだそこまでちゃんと考えてなかった。自分の遠い未来のことなんて、予測できないからね。

―― 確かに。サラリーマンの後は、どんな流れで?

礒田で、4年ほど勤めて、親父から「そろそろ戻って来い」というような話がちらっとありまして、それなら本屋の仕事をどこかで学ぼうと思い、とあるTSUTAYAのフランチャイズ店に転職しました。

―― へー。TSUTAYAさんに。

礒田そこの会社は商売のやり方が上手で、社員は少数精鋭で業績も良く、活気があって、支店が広がっている時期でした。そこも結局4年くらい働いた。本を売る楽しさを感じながら日々働いていましたが、そのうち上司から「ここのお店に関しては、君に任せたい」という話をいただき。でも、それを受けたら「もう戻れないな」と(笑)。なので、その方に「実は私の家は大崎で文星堂という・・・」と事情を説明し・・・。

―― あれ? 最初に伝えてなかったんですか。

礒田いや、そこはコネではなくて、普通に職探しをして入ったので。修業するのにコネで入っても、と思ってね。そんな経緯で、やっと文星堂に入ることになりました。

経験からはだんだん導けなくなってきている

本屋さんの遊び方 文星堂さん

礒田文星堂に戻って、まず、やるからには責任を持ってちゃんとやろうと思いました。親父と話し合いをして、文星堂のことは、全部自分が引き継ぐことにしました。その上で、駅前店、ニューシティ店、ゲートシティ店と3店舗あった支店のうち、売上げを伸ばしていたゲートシティ店と商圏が重なっていたニューシティ店をたたむことに決めました。

―― なるほど。最初にやったのが、撤退戦。

礒田常に撤退戦ですからボクは(笑)。まあでも、僕らの世代は、上の世代と違って、出版がイケイケドンドンだった時代を知らないじゃないですか。

―― そうですね。働き始めてから業界全体の売上規模は、ずっと右肩下がりですからね。

礒田出版のバブルが弾けたあとなので、景気がいい頃を見ていない。我々そういう世代なので、常に「消耗戦」みたいな(笑)。

―― いやいやいや、どうしたんですか急に(笑)。

礒田言ったでしょ? 経営者モードのときは暗いって(笑)。最近、景気の浮沈とは別の部分で感じるのは、「お客さんの層が変わってきている」ということですね。本や雑誌をたくさん読んでいた世代が、だんだんいなくなってきているという。そういう変化を、特にここ2~3年、強く感じています。

―― なるほど。

礒田何かを勉強するには、「まず本から」という人がかつては多かったのですが、近頃は、本当に減ったと感じます。日々売場に立っていると、そういう変化を肌で感じます。ですから、これから先、「こうした方がいい、ああした方がいい」ということは、経験からはだんだん導けなくなってきていると思っています。

―― 経験が、むしろ何かの邪魔をするかもしれない、と。

礒田そうですね。実はある時期、2店舗きっちり回していくことを考え、書店経験が豊富な方に入社してもらおう、と考えたこともあった。最後まで本当に悩んだのですが、結局、今いるスタッフでがんばっていこうと思い直しました。こういう生き物のように変わる世の中になって、まあ経営は別ですけれども、売場づくりにおいて、それまでの経験は、はたしてどれだけ役に立つのだろうか? 本に対する経験値は、これから先、どれだけ役に立つのだろうか? 

もちろん、積み重ねてきたものは大事です。けれども、新しいものに変化していく流れの中では、逆に組織に経験者がいない方が、今いるスタッフの子たちにとっては、いいんじゃないか? この子たちは、伸びてくれるんじゃないか? と考えたんです。

―― なるほど。

礒田今までの概念も本屋として必要です。でも、うちの規模では、どちらにせよ、徹底的に商品を網羅するっていうことはできないですから、限られたなかで、いつもお店に来てくださるお客様の目がいくような商品を集めていかなければいけないんです。

―― 確かにそうですね。

礒田そうであるならば、他店で経験を積んだ人のセオリーっていうのも、どれほど有利に働くのかがわからない。それよりも、毎日、売場で元気にお客様と接してくれているスタッフの子たちが伸びてくれるのを待ちたいな、と。一生懸命やってくれているスタッフの皆と日々話し合って、「世間では今、何が面白いのかな?」とヒントを探しあって、やっていこうと。そうやって結果が出せれば、それが一番面白いですから。

―― 店長は、すごくスタッフ思いですよね。

礒田もうね、スタッフの皆といられることが、楽しくてしょうがない(笑)。お店に立っているときは、ホント、最高ですよ。お客さんとのやり取りも、ホント楽しくて。お問合せでね、「礒田さん、本を探してるんだけど。こないだテレビでやってた、あれよ、4文字のやつ。」って聞かれて。

―― わ、わからねぇ・・・(苦笑)。

礒田「どんなクイズだよ」って。何とか調べて書名がわかったのに、「あぁ、うちに在庫しておりません、これ。」みたいな。取寄せじゃないか、みたいな。

今だからできることを、笑顔でやる。

礒田会社としてやっている以上、私が一番やっていかなければいけないと思っているのは、大好きなスタッフのみんなに、「1年後の自分」「3年後の自分」「5年後の自分」を見せてあげることです。07年に、Think Parkへの出店を決めたのも、スタッフの子たちに将来を見せてあげたい、というのが大きかった。景気がどうあれ、会社としては、しっかり回していかなければいけない。だから、少しづつでもいいから、今までのやりかたを変えていかなきゃいけないのかな、と思っています。

例えば、この間、トイザらスですごくいいおもちゃを見つけたのですが、これをうちでも販売できないかな、と思って、今調べているところです。うちの店、雑貨みたいな商材をちょこっと置いてみると、けっこう売れるんですね。お客様が喜んで手にとってくださいます。なかにはまとめ買いしていかれる方もいたり。だから、「面白いと思ったものがあれば、自分たちで調べて取り扱えるようにしてもいいんだよ」と、スタッフの子たちには伝えています。そういう、自分たちでやればいいんだ、という気持ちを持ってほしくて。

―― そういうの、いいですよね。私、ふと思うのですが、本屋さんは、本屋さんである以前に、「商店」なわけですよね。

礒田そうなんですよ。基本は本ですけど、私たちがやっているのは、商売ですから。そういう意味では、今だからできることを、笑顔でやる。自分たちでやる。そう、今じゃないとできないことって、絶対あると思うんですよ。そういうことをスタッフのみんなと模索していくなかで、3年先が見えたり、5年先が見えたりしていくのかもしれない、と思っています。道、半ばです。

―― あの、最後に、家庭はどうですか? なんて、余計なことも聞いてみたり。

礒田今、奥さんも一緒にがんばってくれてるから、家にいるときも、ホント楽しい。家にいるとき、奥さんに「何笑ってるの?」ってよく言われて、笑ってないから「いや、笑ってないよ」って言うんだけど、そしたら「うそだ、笑ってるよ」だって。オレ笑ってるつもりないんだけど(笑)。

―― また笑顔でそういうこと言う! しかし、家でも笑ってるんですね、店長。

本屋さんの遊び方 文星堂さん

礒田ボクはだらしない、メンドクサイ、ガサツな人間なんですが、それでも一緒にやってくれている奥さんには、本当に感謝しています。

―― 私、今日は、礒田店長の笑顔の秘密が、分かった気がします。この想いが、このお店のいい雰囲気を作っているんだなあ。近所に、こういう本屋さんがあると、とてもいいなあと思いました。今日はありがとうございました!

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