本屋さんの遊び方

第8回目をむかえる本屋さんの遊び方。
今回のお店は、ジュンク堂書店新宿店。著名な学者をよく見かけ、また雑誌の書籍ライターさんからイチオシのお店としてその名を耳にすることの多い本屋さんです。こちらで理工書を担当されている、入社3年目の野口さんにお話を伺ってきました。

第8回 ジュンク堂書店新宿店 野口悠さんに聞きました

2010.03.23更新

―― 今回は弊社刊『未来への周遊券』をガッツリ展開いただきありがとうございます! 著者の最相葉月さんと瀬名秀明さんにも見て喜んでいただけて嬉しかったですよね。

野口わたしもこんなに大きなフェアを作ったのは初めてで、楽しかったです。こちらこそありがとうございました。

―― フェア棚のそばに添えられていた、野口さん直筆の手紙が、本当に素敵でした。

「『未来への周遊券』
科学の世界では日々新しい発見があり、私たちの住む世界の現象を解き明かす。
私たちの住む世界を深く理解することが、まるで全く別の世界を旅することのように感じられるのはなぜだろう。
新しい世界の扉を開ける時はわくわくするが、不安や怖れもついてまわる。
そんな旅の途中に安心できる場所があれば。
この本にはふかふかのベッドのような言葉もあたたかいスープのような言葉もある。
旅の途中、ふと見あげた夜空に広がる、きらきらした星のような希望の言葉。
さあ、この本を常宿にして、考えることと知ることのあいだで旅をしよう。」


本屋さんの遊び方ジュンク堂書店新宿店野口悠さん

―― この本は小説などを好んで読む、いわゆる"本好き"の方からとくに「良い本だね」といった言葉をいただくのですが、フェアを仕掛けよう、と思ってくださった野口さんは、やはり普段読まれるのは文芸系ですか?

野口そうですね。

―― 本を好きになったきっかけは、何でした?

本屋さんの遊び方ジュンク堂書店新宿店野口悠さん

野口わたし、小さなころ母方の祖父の家に遊びに行くのが好きだったんです。木造の家で縁側があって、日焼けした本がたくさん並んでいて。そばに祖父と祖母が並んで座っていて、すごく温かい空間でした。だからそういう本のある空間が好きになったんだと思います。よく覚えていないのですが『人魚姫』が好きだったようです。

図書館の本もたくさん読みました。山形の出身なのですが地元には小さな本屋さんしかなくて、小、中学校ぐらいのときには、そこにある自分が好きそうな文庫はもう読み尽くしてしまいました。

―― 生粋の本好きですね。

野口「これについてもっと知りたい」と思ったときに"もう一歩深い本"を置いている本屋さんが近くになくて。だから就職活動で東京に来て書店の棚を見たときは、衝撃でしたね。「こんなに世界が広がるんだ」って。なかでも一番感動したのが、ジュンク堂池袋本店7階の理工書売り場でした。

―― どんな売り場でした?

野口めちゃくちゃやってたんですよ。理工棚なのにぬいぐるみ置いてたり、目黒の寄生虫博物館のすごい気持ち悪いポストカードがいっぱい置いてあったり。

―― 楽しい棚ですね。あれ、でも先ほど普段読まれるのは文芸系とおっしゃってましたが、理工書棚を見たときの感動は、今、職場として希望するジャンルに選ぶほど衝撃的だったのですか?

「一番知らないジャンルを担当したいと思った」

野口自分が知らないことが、まだこんなにたくさんあるんだ! と気づかせてくれたのが、理工書の棚だったんです。その感動が強かったからだと思います。

―― ・・・なるほど。

野口文芸だと自分が好きな著者は決まっているし、そこに目が行きがちになりますよね。でも理工なら、お客さんの方が知識のある分野なんです。「知らないことがあるところの方が面白い」って、何かで読んだ気がします。だから日々勉強で、お客さんが何を求めているかを感じとろうとするわけで。

―― よくわからないことのほうが楽しい! と、まったく知らない世界に飛び込んだのですね。

野口あと、理工書の知識は人が生きていくときに必要な知識なんです。

―― ・・・たしかに。自分の話で恐縮ですが、この前ですね、洗剤で手が荒れるな・・・と思ったときに商品の裏の成分を見て、ナントカ剤、とか書いてあるじゃないですか。だから界面活性剤が少ないものを選んだりとか、自分の体がどういう状態かキチンと把握して、それに対して具体的にどうすべきか、と思ったときに必要なのは、気合いとかじゃなくて・・・。

野口そうなんです。そういった知識をきちんと支えている人がいて、それを支えていきたいと思って勉強している学生さんもいて、というその大きな繋がりを、次の世代に残したいです。その分野の知識が残らないと、わたしも生きていけないな、って思うので。

―― すごい大きな視点から、理工というジャンルに使命感というか、誇りを持ってらっしゃるんですね。

野口だから今回フェアをした『未来への周遊券』みたいな、科学の知識を倫理的な面から話したりしている本を、もっと知ってほしいなと思うんです。著者が前に出てくる理工棚があったらいいなと思うし。

―― この先もっと楽しい棚になりそうですね。

野口わたし、すごく尊敬している先輩がいるんです。その人は本当にすごくて、常連さんと名刺交換して毎年必ず年賀状書いたりしているんです。

―― お客さんとですか?

野口えぇ。もともと関西にあったジュンク堂が東京に来た当初は、まだ認知度もなくて「ジュンク堂って何?」という状態だったらしいんです。昔からの理工の専門書を扱う出版社は、正直書店に卸さなくてもお客さんが直接買うので売れるんですよね。

そういう出版社に対しても「本を置かせてください」って何度もお願いしたり、そうやって繋がった出版社や編集者との繋がりを切らさず、そこからみんなが今何に興味があるかということを常に考えているので、いつも表面的じゃない、深いフェアをするんです。

―― 素晴らしい方ですね。

野口ネットで検索したキーワードでヒット件数が多いから、とかじゃないんです。そういうものからはわからない繋がり、こことここが繋がってたんだ! みたいな深さまで落としこんでフェアをすると、同じ本が並んでたとしても思考の厚みというか、人に与える影響も違うんです。売り上げも全然違う。

―― 尊敬できて、自分もこうなりたいと思える目標となる人が近くにいると。

野口やっぱり売れ筋の本は面にしなくてはいけないんですけど、もっと勉強して、普段の棚は玄人好みというか「読みたいな」って思ってもらえるような棚づくりを目指したいですね。その先輩は棚を持ちつつ、実質ジュンク堂全体の人事も見ていて「いつ休んでるの?」って思うくらいのすごい人なんです。

たまに「最近しんどくて・・・」といったことを言うと「じゃあご飯食べに行こっか」とすぐ話を聞いてくれるし、ほんとうに恵まれています。やっぱり各ジャンル、上にいる人はみんなそういう人で、みんなのこと見ていてくれているんです。

「仕事をしている気がしないくらい自由」

―― 素敵ですね。ほかのジャンルも、いつ来てもほんとうに楽しい棚です。

本屋さんの遊び方ジュンク堂書店新宿店野口悠さん

野口みんなすごい遊んでますよね。ここまで自由にやらせてくれる会社には、本当にありがたいと思っています。今回のフェアも、100冊仕入れるときとか、ふつう店長のハンコもらって・・・とかいろいろあるらしいんですけど、一切ないんです。そういうの全部吹っ飛ばして「やっちゃいました」という事後報告だけ。

うまくいったら「良かったね」って言われて、失敗したら「なんとか売り切って」って、それだけ。売上の数字に関して、会社から1回も言われたことないんです。好き勝手にやりすぎて「わたし、仕事してるのかな」って不安に思うくらいです。

―― みんながそれで成り立ってるとしたら、えらいめでたい会社ですね(笑)。

野口フェアは余剰の仕事なんです。普段の棚をしっかり作るのがメインで、フェアは自分で時間をつくらないとできないんですよね。でもそれをキッチリやったうえで、各ジャンルでフェア台を取り合ってる状態ですからね。新宿店は同じ階にいろんなジャンルの本があるので、自分の担当していないジャンルの新刊だとか、売れ情報を自然と見ることができたり、書店員同士で話したりできるのも、いいところだと思います。

―― たしかに。ジャンルを超えた、横断的な発見ができますよね。

野口たぶん、望めば同じジャンルをずっと担当し続けられる環境というのも大きいと思います。そのジャンルで尊敬できる先輩がたくさんいるし、わからなかったら教えてくれる人がいますし。そのときだけの安心だけでなくて、そういう現場の声をキチンと聞いて応えてくれる会社なんだ、という安心感があると、目の前の仕事に集中できて、ありがたいですよね。

―― 心置きなく、全力を出せますよね。

野口だからここにいて、学びたいことはまだたくさんありますね。

地元にある、狭くて薄暗い理想の本屋

―― 月並みの質問で恐縮ですが、将来の夢はありますか?

野口老後に個人商店みたいな本屋さんをやりたいな・・・と思っています。

―― どんなお店にしたいですか?

野口地元山形に、わたしの好きな「香澄堂書店」という古本屋さんがあるんです。そこの店主さんが50代くらいの方で、しゃべったことはないんですけど、いつも行くと、常連さんと話してるんです。「今日こんな本が入ったよー」とか、すごい情報交換をしていて。お客さんは、もちろん本があるからそのお店に行くと思うのですが、その人と話すためにも来てるんだろうな、と思って。

―― 温かいやりとりが目に浮かびますね。

野口置いてある本のセンスが好きだし、なにより値段のつけ方がピッタリなんです。自分の好きな本が安すぎてもガッカリするじゃないですか。そんなことがないし、高すぎもしない。本当に丁度いいんです。薄暗くて狭いんですけど、あのお店が都会でなくて山形にあるというのも嬉しいです。あのお店が理想ですね。

―― なんだか野口さんは実現される気がします。

野口でも、新刊書店に入って知ったのですが、まだ知られていない本を自分で選んで置く、ってすごいことだと思うんです。古本屋なら好きな本を集めて店を「作る」って感覚が生まれると思うのですが、新刊書店だとその日その日が勝負ですからね。自分でどんどん価値を決めて店を作らないといけない。

青山ブックセンターとか見に行くと、信じられませんもん。「新刊書店でこんなに店を作りこめられるなんてすごいなぁ」って。だって新刊だと入れたい冊数も入らないこともあるし。(注:取次経由だと書店が出した注文数より少ない冊数しか入らないことがあるため)

―― そうですよね。

野口今回のフェアでも思いましたが、入れたい本に限って品切れとか絶版なんですよね。そういうときは「なんでもう刷らないんだろう?」と、不思議だし、本当に残念に思います。本好きの人が紹介する本って結構重なるんですよ。フェアのたびに「またこの本入ってる」って気づくんです。きちんと読み継がれようとしているのに、肝心の本がない。さびしい限りです。

―― 本当に、ゆゆしき事態ですよね・・・。ちなみにジュンク堂新宿店でここを見てほしい、という場所はありますか?

本屋さんの遊び方ジュンク堂書店新宿店野口悠さん

野口環境の棚にある『地球の上に生きる』(アリシア・ベイ・ローレル著、深町眞理子訳、草思社)ですね。スローライフの暮らし方の本です。全部手書きで2500円もするんですけど、石けんを使わない洗濯の仕方や自然を利用した病気の治し方など、人間本来の力を生かして暮らせる技がたくさん書いてある、すごくいい本なんです。

帯で谷川俊太郎さんが「この本にしるされたことを、かたっぱしから自分の手で試したい、せめて試すことを夢みたい。それだけでも私の人生は、きっと根本から変わるだろう」と書いてるんです。人にそういう影響を与えられるのが本の力だと思っていて、これは売れなくてもずっと面で置きたい本です。あと数学者、岡潔の本も読んでほしいですね。文章がすごい上手ですし、そんな理系の人がいるというのを知ってほしいですね。

―― 今後もジュンク堂新宿店の理工棚からは、目が離せませんね。今日はお話聞かせていただき、本当にありがとうございました。

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