本屋さんの遊び方

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今回は、西荻窪駅北口で、「旅」をテーマにした書店を営む「旅の本屋 のまど」の店主・川田正和さんにお話を伺ってきました。

新刊本と古本を区別せず、国・地域ごとに本が陳列されていたり、「旅」がテーマなはずなのに、政治や文化、歴史、料理、思想などさまざまなジャンルの本が隣り合って並んでいたり、思わず気になる仕掛けが満載の店内には、旅心をくすぐる空気が満ちています。

そもそも、「旅の本屋」って何?
どうして「旅の本屋」を始めたの?
本はどうやって選んでいるの?

「旅の本屋」未経験の方も常連の方も、気になるところをたっぷり伺ってきました。

(聞き手:萱原正嗣)

第11回 旅の本屋 のまど 店主・川田正和さんに聞きました

2010.07.27更新

「旅の本屋」は、「旅への思い」に浸る本屋です。

―― 本日はよろしくお願い致します。まず、「旅の本屋」というスタイルについてお聞かせください。

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店主そのままですが、「旅」をテーマにした本屋です。旅に役立つ情報を入手するのはもちろんのこと、旅から戻って来た後に旅先を思い出したり、この店に来たことがきっかけで旅に出たくなったり、「旅への思い」や「旅のきっかけ」を感じてもらえるような場所でありたいと思っています。

―― 新刊本と古本、両方を扱っていると聞きました。

店主そうです。両者を区別することなく同じ棚に並べています。アジア、中南米、ヨーロッパというように、地域別に棚を作って、そこに新刊も古本も一緒に並べています。文庫本、単行本という分け方もしていません。
「旅」をテーマにしていると言いながらも、文学や音楽、映画、思想、料理、スポーツに政治に宗教など、「旅」とは一見無関係なジャンルの本も並べています。

私自身がそうなんですが、例えば、映画や音楽がきっかけで、ある国に行ってみたいと感じることがあると思うんです。ある国や地域への関心・興味をきっかけに、「旅」に思いを馳せてもらいたいと思っています。そのとき、新刊と古本、文庫と単行という区別は意味を持たないだろうと考えています。

「旅の本屋」を始めた理由は、「とても一言では話せません(笑)」

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―― 続いて、「旅の本屋」を始めた理由というか、経緯というか・・・、なぜ「旅」で、なぜ「本」なのか、というところを教えていただきたいと思います。

店主うーん、それは難しいですねぇ。とても一言では話せないんです(笑)。長くなりますが、それでもよければ・・・。

―― ぜひお願いします!

店主(笑)まず「旅」ですが、純粋に子供のころから旅行が好きでした。沢木耕太郎さんの『深夜特急』を読んで、学生のころにはバックパックであちこち行きました。日本国内はほぼ行きましたし、海外は40カ国行きました。
「旅」に関する仕事に就きたいと思って、旅行代理店への就職も考えたんですが、「旅」を商品として扱うことにどうにも馴染めず、就職先として考えるのはやめました。

一方で、「本」も好きでした。正確に言うと、「書くこと」が好きでした。「旅」と「書くこと」をあわせて、旅行系の出版社でガイドの編集や旅行本のライターになる道を目指そうと思いました。
新卒では、念願かなって某出版社に就職したんですが、いろいろあってすぐにやめてしまいました。それからしばらくはモラトリアムで、やりたいことも定まらず、バイトしてお金が貯まったら旅に出る、という生活を何年かしていました。

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そんなある日、海外で「旅の本屋」というスタイルの書店があることを発見しました。20代半ばのことです。ニューヨークに、変わった書店が集まる地区があるんですが、その地区にある「Travel Book Store」が、私の「旅の本屋」との最初の出会いです。
その後も「旅の本屋」が気になっていて、行く先々で探してみると、あちこちにあるんですね。ロンドンやパリのような大都市はもちろんですが、小さい街でも「旅の本屋」が街の一部になっているのを見かけました。

モラトリアムの間も、ライターになりたい思いはずっとありましたが、ライターというのは自分をさらけ出さないといけない職業だと思っていて、自分にはそこまでできないだろう、という思いもありました。
あるとき、ふと思ったんです。「本屋というのも、旅に関する表現の一つの形じゃないか」と。「旅の本屋」をやろうと思ったきっかけです。

日本では、欧米とのライフスタイルの違いがあって、「旅の本屋」というスタイルのお店は非常に少ないんですが、私が旅先で見た「旅の本屋」のイメージに近い、特徴のある書店を探しては突然店を尋ねて、「将来『旅の本屋』をやりたいからここで経験を積ませてほしい」と突撃アポを繰り返しました(笑)。

もちろん、どこにも雇ってはもらえなかったんですが、そのうちの一つの「アジア文庫」の店長さんから、「うちでは雇えないけれど、本気でやりたいんだったら、書店業界で経験を積んでノウハウを身につけた方がいい」と温かいお言葉をいただいたんです。
それで、書店で働くことを決心して、リブロに就職したのが20代後半のことでした。
それからしばらく書店員を続けましたが、7~8年くらい経って、30代半ばにして、初心を忘れて日常のルーティーンに埋もれていた自分に気づきました。

「年齢のことも考えたらそろそろ本気で動かないとまずい」と思って、「旅の本屋」をやるためにまず情報を集め始めました。そうしたら、「旅の本屋 のまど」でちょうど店長の募集をしていたんです。当時、「のまど」は吉祥寺で営業していました。
すごいタイミングだったので勢いで応募したらなぜか採用されました。雇われ店長を4年続けたところで、オーナーが突然、「店を閉める」と言い出したんです。その頃には、自分で「旅の本屋」を切り盛りするイメージができつつあったので、頼み込んで暖簾を引き継がせてもらって自分でやることになりました。

吉祥寺は、私の感覚としては街として大きすぎました。店の立地も今ひとつでした。「自分でやるなら吉祥寺より手前の中央線沿線のどこかで・・・」と思っていたところに、ちょうど今の場所で営業されていた「ハートランド」というブックカフェが店を閉めるという話を聞きまして、「これはここでやるしかない」と、今の場所に移転して独立したのが3年前の7月15日です。ちょうど、3周年になるわけです。

―― すごいですね。壮大なドラマが・・・。ところで、日本と欧米ではライフスタイルに違いがあって、それで日本では「旅の本屋」は成立しづらい、という話がありましたが、その状況で、こちらのお店を成り立たせるための工夫というか、作戦というか、そうしたところをお聞かせください。

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店主そうですねぇ。私も、吉祥寺で店長をし始めたときは「自分でやるのは難しい」と思っていたんです・・・。

――そうなんですか!? それがどういう風に変わっていったのでしょうか?

店主吉祥寺の「旅の本屋」に来店されるのは、旅の準備をしている旅行者がほとんどです。売れるのはガイドブックと地図が大半、旅のエッセイや紀行文の類は全然売れませんでした。店長をやっているとお店の数字も全部見えますし、「これだと正直厳しいだろう」と・・・。

とはいえ、このままではいけないという思いもあったので、月に一度、旅行ライターさんやカメラマンさんをお招きしてイベントを開催するようにしました。すると、少しずつお客様の層が変わってきたんです。「旅の本屋」というスタイルのお店があることを知らない人が、イベントがきっかけで来店してくれるようになって、「旅」のきっかけの場になったり、いろんな発見を楽しんでもらえるようになりました。イベントを通じて、作家さんやカメラマンさんとのつながりができていったことも大きかったと思います。

もう一つは、本の仕入れを工夫しました。当初は取次を通して本を入れていました。旅行書や地図専門の取次です。いろいろなジャンルの本を仕入れたいと思っても、その取次からは限られた本しか入れられない。他の取次からも仕入れられるよう何社か当たりましたが、結局全部断られてしまいました。

そうした状況で、本をいかに仕入れるか? 直取引してくれるところを増やすしかないと思いました。イベントでつながりのできた版元と掛け合って、直取引してもらえる関係を築いていって、4年で数十社くらいまでにはなりました。
「これなら、店を大きくせずに一人でやれば何とかなるだろう」と思えるようになっていたところに、オーナーの「店を閉める」騒動が起こったわけです。
もちろん不安はありましたが、今の店の場所が空くタイミングといい、天から「やりなさい」と言われているような気がしてなりませんでした。

西荻窪で店を開いて思うのは、「とにかく場所がよかった」ということです。開店前は、「近くに女子大があるから学生が買ってくれるかな」と思っていましたが、その予想は見事に外れて、この街に住む人が買ってくれています。街の文化度が高いというか、この街には、古本屋があったり、アンティーク・ショップがあったり、カフェがあったりと、小さいながらも特徴のある店を温かく迎えてくれる雰囲気があります。そうした街の温かさに支えられているのを日々実感しています。

それから、この街には、土日になると遠方から「本屋めぐり」「アンティーク・ショップめぐり」をする女性が多く訪れます。そんな影響もありまして、吉祥寺では7:3で男性、それも年配の方が多かったのが、今では逆転して7:3で若い女性のお客様が中心になっています。
ある種、全く想像していなかった現象が起きているわけですが、女性のお客様にも喜んでもらえるように、かわいい写真集や、雑貨のお店を紹介する本、ポストカードなども店頭に並べるようにしています。

本を選ぶポイントは「こだわらない」こと

―― 私が初めてこの店に来たとき、旅情を駆り立てられてとても楽しい時間を過ごしました。旅心を誘う本の選び方のポイントをぜひ教えてください。

店主ポイントは、こだわらないことなんです(笑)。

―― こだわらない???

店主もちろん、自分が好きで置いている本もあります。ですが、セレクトショップのような、こだわりを前面に押し出した店構えにはしたくありませんでした。
自分のこだわりを徹底して押し出すスタイルももちろんありだと思いますが、個人的には押しつけがましいというか、ナルシスティックな感じがして、あまり好きになれないんです。自分を前面に出すのが性に合わないというのもありますが、自分の好みにこだわり過ぎて、そこから外れた人が来なくなることがもったいないと思うんです。もちろん、経営的な判断もあります。

ですので、「旅」に引っかかる本は基本置くようにしたうえで、そこから派生して、諸外国・地域の政治や文化、料理、映画、音楽など、「ここではない」場所への興味・関心を持てるような本を選んでいます。言ってしまえば何でもアリな訳でして、最終的な選択は結構感覚でやっています。なので、「どういう基準で選んでいるか?」と聞かれても答えられないんです(笑)。

―― 計算し尽くされているとばかり思い込んでいたので、とても意外でした。

店主こちらとしては、「"旅"にまつわる本を手広く置いていますよ」というスタンスでやっていて、「旅の本屋」というフックに引っかかって来てくれたお客様が、ここで何かを感じてもらえたらいいな、と思っています。旅行先の意外な一面を発見するとか、ここに来たことがきっかけで旅に行きたくなったとか、そういう場として使ってもらえたら嬉しいですね。

―― ありがとうございました。ところで、お一人でやられているとのことでしたが、最近は旅に行かれているのでしょうか?

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店主独立して3年、一度も旅に行けませんでした(笑)。ですが、始める前から3年続けば旅を解禁していいだろうと思っていたので、今年はどこか旅に行きたいと思っています。「旅の本屋」なので、「旅行中のためしばらく休みます」みたいな張り紙を出しても受け入れてもらえるんじゃないかと思っています(笑)。

特に、最近は海外に行ってもケータイがつながるのは当たり前、ネット環境もあるし写真もデジカメで、旅のスタイルが以前と大きく変わっています。私がしていたのは、バックパック一つで通信手段は郵便や電話だけ、というスタイルの旅でしたが、現代の旅事情も体感したいと思っています。

―― 「旅の本屋」3年ぶりに旅に出る、わけですね。ぜひレポートさせてください(笑)。

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聞き手の雑感:「旅の本屋」と聞いて、バックパッカーのパワフルなお兄さん像を勝手にイメージしていました。バックパッカーなことは当たっていましたし、お話を伺う限り大きなパワーを持続されている方でしたが、見た目と話し振りは、物静かな感じだったのが意外でした。そのギャップに魅了された、実に味わい深いインタビューになりました。心地よいひとときをどうもありがとうございました。


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イベントのお知らせ

■「旅の本屋 のまど」8月のイベントが決定しました。
新刊『日本の島で驚いた』&『ちょこ旅 小笠原&伊豆諸島』発売記念
カベルナリア吉田さん×イラストレーター・松鳥むうさん 対談トークイベント
「夏やすみ島旅相談室(島みやげつき!)~島本を読んで南へ旅立とう!~」
日時:2010年8月6日(金)19:30~(開場19:00)
参加費:800円(当日会場にてお支払い下さい)
会場:旅の本屋 のまど 店内
お申込み方法:お電話、ファックス、e-mail、または直接ご来店のうえ、ご予約ください。
TEL/FAX:03-5310-2627
e-mail:info@nomado-books.co.jp
お問い合わせ先:旅の本屋 のまど
東京都杉並区西荻北3-12-10 司ビル1F


■ミシマ社7月新刊『遊牧夫婦』の発刊記念イベントを開催します。
近藤雄生さん スライド&トークショー「旅を暮らしにする方法」
日時:2010年9月3日(金)19:30~(開場19:00)
入場料:800円
会場:旅の本屋 のまど 店内
お申込み、お問い合わせは「旅の本屋 のまど」までお願い致します。

『遊牧夫婦』
近藤雄生(著)
無職、結婚、そのまま海外!
バンバリーでイルカ三昧、アマガエル色のバンで北へドライブ、東ティモール、捕鯨の村・・・二人の新婚生活はどこへ行く!?
「旅が暮らしになる時代」の<新しい夫婦の形>を描いた、異色の脱力系ノンフィクション。
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