本屋さんの遊び方

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静岡県浜松市浜北区中条、ここに今から3年前の11月23日、1軒の「独立系」新刊書店がオープンしました。高林幸寛さんが始めたその本屋さんの名は、「フェイヴァリットブックス」。扱う書籍・雑誌・CD・DVDは全て新品。「個人で本屋を立ち上げる」これこそ、究極の本屋さんの遊び方ではないか? ということで、営業・渡辺が、お話を伺ってきました。

(聞き手:渡辺佑一)



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フェイヴァリッドブックス店内案内図


第14回 フェイヴァリットブックス 高林幸寛さんに聞きました

2010.10.06更新

フェイヴァリットブックス 高林幸寛さんに聞きました

―― 「フェイヴァリットブックス」っていう屋号、いい響きですよね。

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高林小さい店ですが、お客さまに"お気に入り"の本や音楽をみつけてもらえるよう、そういう想いを込めて名づけました。

―― 近ごろはチェーン書店の出店話ばかりですが、店長は、なんと個人で本屋をはじめられて。今日は、『本屋さんの遊び方』というテーマですが、もう、「自分で本屋をはじめる」という選択肢が、究極の遊び方ではないかと思い・・・。

高林いやいや。遊ぶだなんて。運良くというか、なんとか本屋をはじめることができたという感じです。もちろん、好きではじめたことですから、楽しいですけど、趣味でやっていけるほど甘くもないですし。

―― そうですよね。今日は、「店長はどうして自分の本屋をはじめられたのか?」が知りたいです。まず、「自分で本屋」を志したのはいつ頃からですか?

高林かれこれ14、5年前だから、26、7歳くらいからですね。「いつか自分で本屋をやりたい」と思いながら、実家の手伝いや、本屋、CDショップ、コンビニ、スーパーの品だしなどのアルバイトをひたすら続けました。

『ぼくは本屋のおやじさん』

―― 本屋になりたいと思ったきっかけを教えてください。

高林ちょっと長くなりますが、いいですか?

―― ええ。どうぞ(笑)。

高林中学生のとき、「夜のヒットスタジオ」で忌野清志郎に出会って、そしてRCサクセションの「ラプソディー」というアルバムを手にして、もう心を奪われてしまったんです。高校生になってからは、友だちとバンドを始めたりして。

―― うわ、音楽どっぷりですね。

高林音楽雑誌の「ロッキング・オン」、僕にとっては、ロック魂までも教えてもらった特別な雑誌なのですが、このころから愛読していて、もう20年分くらいのバックナンバーが、ウチにあるんですよ(笑)

―― ははは。処分できないですよねそれは。

高林ロックばかりの高校を卒業したあとは、闇雲に東京へ出てきたのですが、暗黒時代というか、なにをやっても全然うまくいかないし、本当に独りになっちゃいまして。19〜21の時期です。音楽だけじゃなくて、読書もするようになったのは、その頃からです。

―― はい。

高林それで当時、「ジャックス」というバンドの音楽を聴いて、そのメンバーだった早川義夫さんという人を知ったのですが。

―― え? 早川義夫さんって、『ぼくは本屋のおやじさん』の。

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『ぼくは本屋のおやじさん (就職しないで生きるには 1)』(早川義夫、晶文社)

高林そうそう! 晶文社さんの「就職しないで生きるには」シリーズの。

―― まあ! そうつながりましたか。

高林この本を手にして、もう、夢中になって読みました。早川さんは、ミュージシャンだったのに、ある日、自分で本屋をはじめちゃうんですね。僕は、小さいころから「お店」が大好きだったんですよ。お店の人とふれあうのが楽しくて。だから、「あ、そうか、自分で本屋をやっても構わないんだ。」って、そう思ったんですよ。「自分もそういう場を持ちたいな」って。当時は孤独で余裕がなくて、自分に何ができるか、どうやって生きていったらいいかがわからない、不安でいっぱいだったから、この本には救われました。

―― なるほど。

高林今、本屋をやっているのは、この本がそもそもの始まりです。『ぼくは本屋のおやじさん』は、今でも僕のバイブルです。

本はいい。腐らない

―― その後、お店を立ちあげるまでの十数年間は、どんなことを?

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高林東京では、結局うまくいかず、22〜3歳くらいで浜松に帰ってきて、ずっと遠距離恋愛だった彼女と結婚しました。さっきレジにいたのが、そのカミさんです(笑)。それから26歳くらいまでは、家業というか、親父とお袋が2人でやっていた仕事を手伝っていました。ヘチマの仕事をしているんですよ。

―― はい。

高林でもやっぱり自分のお店をやってみたい。ただ自分の本屋を開くにしたって、知識も経験もお金もない。そんな状態でした。いろいろ考えましたが、まずは、この地域にある「ブックハウス浜北」という本屋さんに、「こんな歳ですけど、いつか自分で本屋を開きたい。だからアルバイトでもいいので」とお願いして雇ってもらったのが最初の一歩でした。

―― そこからは、いろいろなお店で働いたとのことですが、この間に経験されたことで、印象深いことや、今でも役立っていることはありますか?

高林そうですね。全部自分の糧になっていますし、もはやたくさんありすぎて選べないのですが(笑)、しいて挙げると、コンビニ時代ですかね。5年くらい、夜間バイトをやりました。夜7時頃から朝の6時頃まで。

―― 夜間ですか。キツくなかったですか?

高林それが、多分、生き生きと仕事していたと思うんですよね。家族が朝ごはんを食べている席で、僕は朝なのに晩酌するような毎日だったのですが、本当にいろんな面白いことがあって。夜は、来るお客さんも風変わりな方が多いので、楽しかったというか鍛えられたというか(笑)。あと楽しかったのは発注ですね。バイトでしたがオーナーに発注を任されるようになったんですね。

―― 発注ですか。本屋の仕事にも通じそうですね。

高林そうなんです。特にパンが一番面白くて、どうすれば売上目標をクリアできるか、毎日夢中になりました。このときの経験は、今のお店でも仕入れを考える上で、とても役に立っていますね。

―― パンの売上げを伸ばすには、どういうことをやるといいのですか?

高林POSデータがあるので、過去の単品データや前年比などが見られるんです。売れ筋の定番商品や新商品のデータをちゃんと見さえすれば、「その日に何がどれだけ売れるか?」を予測して仕入れをするのは、そんなには難しくないんです。でも、それだけでは、売上げは変わらないじゃないですか。

―― あ、そうか。売上げを伸ばしたい分だけ、余計に仕入れないと。

高林そうなんです。売上げを伸ばすということは、例えば「売れているパンをもう2個余計に売らなきゃいけない」ってことなんですよ。だから、まずは発注をして、どう陳列したら、お客さんがもっと買ってくれるか、ここを工夫するんですね。パンの場合は、他の商品よりも、並べ方が重要なんですよ。

―― なるほど。売上げをUPするということは、実際の需要より余分に仕入れて、その余分をどう買ってもらうか工夫することなんですね。それ、本屋さんの仕事にもそのまま通じますよね。雑誌やコミックには、似ているかもしれませんね。

高林ただ、雑誌やコミックは、自分で仕入部数を決められないじゃないですか。そこがね・・・。ところで実は僕、このコンビニでは、オーナーに「このまま社員になって店長になるか?」って言われるまでになったんです。その誘いには、ちょっと揺らぎました(笑)。結局、断りましたが。

―― 断った理由はなんですか?

高林それはですね、好きな仕事をやっていても嫌だなーと思うときってあるじゃないですか。コンビニの仕事は楽しかったですが、賞味期限の過ぎた食べ物を捨てなきゃならなかった。僕、これでも結構厳しく育てられたので、小さい頃から、食べ物を粗末にしちゃいかん、バチがあたるゾとおじいちゃんやおばあちゃんに言われてきたんですよ。もちろん自分の本屋を開くのが最終目標であることに変わりはなかったのですが、コンビニの店長にならなかったのは、それも大きな理由でした。

―― なるほど。

高林ふと思ったんですよ。「本はいい。腐らない。いい本ならなおさらだ。時を経てもずっと残る」って。やっぱり自分で頑張って本屋をやって、そんな本を売りたいなと思いましたね。

仕事が腐るほどある。だから腐らないうちにやるのだ

―― 本は腐らない。良い言葉だなあ。そして高林店長の想いも腐らなかった・・・。

高林ある時期、色々なきっかけが重なって、あと同時期に実家を建て替える話が浮上して、これを逃すとお店を構えるタイミングがわからなくなってしまうと思って、そこを店舗にしようと決心しました。そこから、ついに立ち上げに向けて走り始めました。ただ、問題は、本の仕入れ先でした。どうすればいいのか悩んでいた。そうしたら、以前アルバイトさせてくださったブックハウス浜北さんが、取次のトーハンさんを紹介してくださったんです。僕が昔から本屋をやりたいことを知っていたとはいえ、地域が一緒なので商売上はライバルになりかねない。なのに、そこまでしてくれて、とても感謝しています。

―― それは有り難いですね。しかし、大手取次が新規取引を始めてくれるなんて、すごいと思いますよ。オープンしてからは、どうですか?

高林店をはじめた時、「これからはこの仕事のことだけ考えて生きていけばもう大丈夫だ」って思ってました。が、そんなに甘くない。これから先どうなるかわからないという不安は、いつまで経ってもつきまとってくるのだと思いましたね。

―― そうなんですね・・・。

高林いや、毎日、売場に立ってると、すごく楽しいんですよ。子どもからおじいちゃんまで色んな方がお店に来てくれる。色んな想いを抱いて。お客さんとは、売り買いの関係だけでも、ちょっと話しをするだけでも、心が通い合えばいいなと思いながら仕事をしています。

―― ええ。

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高林本屋の仕事が好きだ、って毎日思いますもん。でもバタバタしている毎日を、もうちょっと落ち着いて過ごせるようにしたいですね。これしかできなかった、やり残したことがたくさんある、そんな気持ちで一日が終わっていきますね。

―― あー、何かわかりますその気持ち。

高林でもやりたいことがたくさんある、やるべきことが腐るほどあるのは、ある意味、幸せなことなのかもしれないですよね。「仕事が腐るほどある。だから腐らないうちにやるのだ」って、そんなふうに自分に言い聞かせています。

金もうけのために生まれたんじゃないぜ

―― 最後に、これからの想いをお聞かせください。

高林本屋をはじめる前から思っていた、「ここにくればホッとする」ような店になれるよう、これからもやっていきたいですね。フェイヴァリットブックスらしい本を探し、音楽を紹介し、棚づくりをしていこうと思いますね。焦らず、じっくりと。

―― そういうお店が近所にあると、客としては最高ですね。

高林でも、やっぱり商売ですから、趣味で店をやっている訳ではないし、これで家族みんな食ってかなきゃならない。お金がなきゃ生きて、生活していけない。だったら仕事して稼がなきゃいけない。

―― そうですよね。

高林でも僕は、「金もうけのために生まれたんじゃないぜ」とも思うんですよ。どかーんと仕入れてどかーんと売る。売れなかったらそんなのどかして、はい次、みたいな量販店の売り方にはもう嫌気がさしているんです。そういうやり方とは闘っていきたいですね。できれば本一冊一冊、CD一枚一枚、丁寧に愛情をもって売りたいです。でも、こんなことを考えているようではきっと金もうけには向いていないんだろうな、と思います。

―― そこのバランスが難しいですよね。

高林でもいいや。金もうけのために生きている訳じゃないんだから。僕がやりたいのは、やっぱりお客さんが喜んでくれる店を創ることだって思うんですよ。ひどく難しいことのように思えますけど、色々なアルバイトをしていた頃からそれが理想だし、それが僕にとっての「本屋さんの遊び方」だと思います。だから、答えはなくても、試行錯誤の連続でも、逃げないで頑張ろうと思います。

―― はい。

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高林幸運にも僕はやりたかったことを始められたのだから、日々の努力を怠らないこと。お客さんが来てくれるから店をやっていられるのだということ。それだけは忘れないでいようと思います。

―― ・・・なんか私、熱い気持ちになってしまいました。自分も、自分の仕事を頑張ることが「遊び」なのかもしれない、そんな気がしてきました。高林店長、今後ともよろしくお願いいたします。今日はお忙しいのに、ありがとうございました!

高林ありがとうございました。今度、飲みに行きましょうね。

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