本屋さんの遊び方

2年前、突然いただいた「境港に書店を開きました。御社の本を置かせてくれませんか?」というお電話。それをきっかけに、鳥取県境港市にある本屋「一月と六月」さんとのお付き合いが始まりました。 個人での新規開業がとても少ない書店業界のなかで、あっさりと(?)個人書店をオープンさせた店主・阿部さんの存在は、ミシマ社にとっても、とても気になる存在でした。 今回は、阿部さんからの「東京に行くので遊びに行ってもいいですか?」という嬉しいお電話をきっかけに「本屋さんの遊び方」のお話をお伺いさせていただくことになりました。

(取材・文:窪田篤、松井真平)

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第15回 一月と六月 阿部義弘さんに聞きました

2010.11.09更新

この本を誰かに手渡していこう

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―― 今日はよろしくおねがいします。
まず、どうして本屋をやろうと思ったのか、その経緯からお伺いしたいと思います。

阿部もともと本が好きだったので、家のなかにたくさん本を積み上げていたんですね。でも、50代も後半に差し掛かり、ふと「この本どうしようか?」と思いましてね。
そこで「せっかくだから、この本を誰かに手渡していけるようなことをやっていきたい」と考えるようになりまして。「じゃぁ古本もやりながら、そういうお店を考えよう」と思ったのがきっかけです。

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それで、2008年の11月に思い切ってかみさんとふたりで開店しました。さすがに古本だけで成り立たせるのは難しいと思ったので、雑貨も取り入れ、それと一緒にお茶でも飲んでいただければと思いカフェを。
そして、当初はあまり具体的に考えていませんでしたが、ギャラリーも一緒にやろう、というようにして始めました。

1階が書店と雑貨関係で、2階がカフェとギャラリーです。それぞれ5坪もないくらいですが、借りた建物がちょうど4部屋に分かれていたので、そういうスペースをつくろうと思いました。

―― 雰囲気の良さそうなお店ですね。

阿部昭和35年につくられた建物で、雨漏りもして大変ですけどね(笑)。直せばきりがないくらいです。でも、やっぱり古い雰囲気はいいですね。

―― この場所はたまたま見つけられたのですか?

阿部以前、この建物の前に居酒屋があって、そこでよく飲んでましてね。行き帰りに見ながら、昔からなんとなく「いいなぁ・・・」と惹かれていました。ですが、大家さんは壊して駐車場にしようと考えてらしたみたいなんです。それで「それはもったいない」と思い、借りられないか聞いてみたんですね。そうしたら、割とこころよく「いいですよ」と言っていただけまして。

―― へー。タイミングといいますか、何といいますか。

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阿部だから、お店が借りられることが決まってから、ばたばたばたと動いていった感じです。「借りられるなら店をやってみようじゃないか」と踏ん切りがついたといいますか。物件が決まり、そこから古物営業許可を警察に申請して、カフェの営業免許をとって、店の改装工事をして・・・。

だから、ひとつずつ手順を踏んで準備していったわけではなかったです。準備期間も半年なかったと思います。商品の仕入れも、店が決まってから始めましたしね。古本をメインに考えていましたが、開店までに古本の整理もつかなくて。だから本棚もすかすか。開店当初は、ぽつぽつと少しずつ物が置いてある感じで、本当に閑散とした状態でした(笑)。

本屋さんでパン屋をやってみる

―― HPを拝見しますと、いろいろなイベントを開催されて楽しそうですよね。

阿部今年は安西水丸さんの版画展を開いたり、去年は大橋歩さんの原画展をやらせていただいたり、そういう展示をやることで、いろんな方に来ていただけたらいいな、と考えています。

―― 作家さんや音楽家の方たちとは、どういうご縁でつながっているのですか?

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阿部松江でギャラリーをやっている知人に聞いたり、大阪の知人のツテをたどっていったりしています。続けているとだんだん広がっていくので、とりあえず気になった人には声をかけようと思いながらやっています。
断られてあたりまえだから。
そう、この仕事をしてからは、断られても「それはそうだろう」と思うようになりました。だけど、そこで付き合ってくださる人がいれば、それはうれしい。

こないだは「パン祭り」という催しをやったのですが、すごくお客さんが来てくださって、1階はパン屋さんみたいになりました(笑)。
鎌倉のパン屋さんや京都、米子、大山や地元のパン屋さんに協力していただいたのですが、開店して1時間ですべて売り切れて、すごく好評でした。

―― カフェも日替わりでいろいろな方が日替わりで店長をされているんですよね。

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阿部はい。いまは少しお休みしていますが、土曜日にはあの方が入るとか、日曜日にはこの方が入るとか、そういうふうに使っていただいたらいいかなと思っています。お店を持ちたい、カフェをやりたい、でも、実際には自分でなかなかできない。そういう人に貸りていただいて、経験を積める場として使ってもらえたらいいかなと。うちで何回かやってくれた方が、こないだ松江で店を持ちましたが、そういう話はうれしいですね。

売れなくても入れておきたい本がある

―― 阿部さんと本屋さんとの最初の出会いについて教えてください。

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阿部私は生まれも育ちも境港市です。このあたりで本屋さんというと今井書店さんです。「本屋」という存在を意識するようになったのは、小、中学生くらいになってからですね。北杜夫さんの『どくとるマンボウ航海記』や『楡家の人びと』が出版されたころです。柴田翔さんが出てきたのもそのころでした。その頃から、本を読み出して、だんだん本屋さんにいるのが楽しくなってきました。

単行本以外では『話の特集』(話の特集社)というミニコミ誌の草分け的な存在の雑誌がありました。いまでいう『本の雑誌』(本の雑誌社)のような感じでしょうか。立木義浩さんや和田誠さんが参加されていて、自分にとって本当にバイブルみたいな雑誌でしたね。小沢昭一さんの『私は河原乞食・考』(三一書房)といった、性をあつかったルポ的なものも入っていて、いろいろバラエティに富んだ雑誌ですごく影響を受けました。高校生くらいのときによく読んでいましたね。

―― 名前の由来はどういったところにあるのでしょうか?

阿部この「一月と六月」というのは単純に、かみさんと私の誕生月なんです。たまたま『四月と十月』という美術同人誌がありまして、なんか真似したみたいですよね。だから、発行人の牧野さんに「使ってもいいですか?」と聞いてみました。そうしたら「別にいいよ」と(笑)。

―― もしかして、関係あるのかなと少し気になってました。

阿部なので、うちも美術関係の本とか写真集をよく入れてました。けど、お客さんの層的によく売れるのは、料理本とか生活本ですね。個人的には美術関係の本や写真集ももっと売っていきたいので、いろいろな特集とかフェアもやってみようと思っています。こないだは、漫画家の杉浦茂さんのちいさなフェアをやりました。

―― 「一月と六月の遊び方」といった場合、どんな楽しみ方がありますか?

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阿部そうですね。本屋って自分が目当てにしている本じゃない本に惹かれていくからおもしろい場所なんだなと思います。そして、本を読むということは、そういう広がりを経験することなんだと思っています。そんな本と出会える場をつくりたいですね。いまは古本だけではなく、新刊も多くなってきました。あと、うちの場合は雑貨と本が一緒にあるので、そのあたりとの兼ね合いも楽しんでいただけたらなと思っています。

―― ジャンルもあまり偏らないようにはしているのですか?

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阿部もちろん偏ってはいますが、その偏っているなかで、なるべく広げていこうと心がけています。最初、店を始めたときは「『食と旅』の本屋」というコンセプトでいこうと思っていたんですね。青山にある「BOOK 246」という本屋さんをなんとなく参考にしていました。ただ、最近その「食と旅」辺りが少しぼやけてきていたりしますけどね(笑)。

あと、売れなくても入れておきたい本というものもあります。うちは開店してから2年目なのですが、ずっと置いていて、先日やっと売れた本もあります。そういう本が売れるとうれしいです。

「自分がやりたかったらやれるんだよ」

―― 阿部さんは、もともと工務店も経営されていると伺いました。本屋さんと両立するのは、大変な面もあると思いますが、そのモチベーションはどこから出ているのですか?

阿部どうなんでしょうね。単純に私はいま、年が58歳なんです。あと元気に動ける時間って決まってるじゃないですか。どこかで病気になるかもしれない。だったら、自分のやりたいことをやらなかったら損じゃないかと。死ぬまでに「これやりたかったけどできなかったな」と思うよりは、やっぱり「まずはやってみよう」と思うところがあります。

それと、本屋を始める前、いろいろな方たちと話しているなかで「自分がやりたかったらやれるんだよ」ということを教えてもらえた気がしました。結局は「自分ができると思うか思わないかだけなんじゃないか」と。確かに、もし私がいま20代、30代の年齢だったとしたら、将来の不安も生活のこともありますし「できる」なんて思えなかったかもしれません。

ただ、何でもそうですが、やっていくと人とのつながりって広がっていくんですよね。必然的にいろいろな問題も出てきます。ですが「やろう」と思えれば、そういうものはクリアしていけるものなんじゃないかなと。

―― 今後はどういった企画を考えていらっしゃるのですか?

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阿部6月に「あまぐらし」というイベント(海士の食材を生かした「AMA ランチ」café、海士の野菜と『海士の塩を使ったこだわりのパン』の朝市、ナチュラル音楽家入江規夫さんの「あまライブ」&Slideshow)をやりまして、その延長で、隠岐ツアーはどうかなと考えています。

他には、生活系の雑誌や食にかかわってらっしゃる高橋みどりさんとのおしゃべり会ですとか、手芸作家の横尾香央留さんの展覧会、米子市で革や帆布を使った鞄や財布を製造しているMintchuchuLeather(ミントチュチュレザー)さんの『色を選ぶ革の小物展』なんかを企画しています。他にもいろいろ考えているところです。

―― いろいろと広がっていますね。

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阿部よくばりなんでしょうね。やらずに悩むよりはやってみようと思うたちなんだと思います。それこそ、総合商社をつくろうと思ったら大変でしょうけど、もっといろいろなかたちの本屋ができてきてもいいのかなと思いますし。それに、本屋をはじめたことで、いままでつながりがなかった人たちと酒を囲んでワイワイいいながら、一緒に何かできるのは単純に楽しいです。

―― 鳥取のお店にも行きたくなりました。今度は「一月と六月」でお話を伺えたらと思います。今日は本当にありがとうございました!

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