本屋さんの遊び方

J STYLE BOOKSの大久保亮さんはかつては大企業のサラリーマン。そこから留学してMBAを取得、次ぐ転職先でも大企業の経営にまで関わるほどのビジネスセンスを発揮していた。

ところがある日、自分から人生をドロップアウトして(本人はドロップアウトとは思っていないのですが)、裏原宿(神宮前2丁目)で書店を開業した。ツテなし、金なし、ノウハウ・・・なし。でも、神宮前2丁目はそんな人たちばっかりだった。本当に人生を楽しんでいる人たち―無駄と寄り道を心より愛し、不幸にも偉大な一冊で人生を変えてしまった、美しき愚か者たちが溢れている。

「人生を変える一冊」ってよく耳にするけど、本で人生を変えて、さらに本屋になってしまった書店員の語る言葉は、重みが違う。

(聞き手:渡辺佑一・森オウジ、文:森オウジ)

第19回 J STYLE BOOKS 大久保亮さんに聞きました――カッコいい人生のための、"ドロップアウト・ガイド" 置いてます

2011.03.22更新

出発点は、神宮前2丁目、誰かの思い出

第19回本屋さんの遊び方 J STYLEBOOKS大久保さん

―― 神宮前2丁目といえば、原宿でも少し異質ですよね。

すごいお金持ちが住んでいたり、少し尖ったファッションのお店がひっそりあったり。そのなかで本屋を営むきっかけは何だったのでしょう?

大久保中学生の頃からこのあたりが好きなんです。千代田区の中学校に通っていたのですが、そこには校庭がなかったので、国立競技場で運動会をやってたんです。その帰りにこのあたりに迷いこんで、なぜか「いいなあ」と思ったのです。完全に直感、雰囲気です。

―― 人生の再スタートなのに、それだけだったんですか!?(笑)

大久保38歳で、会社はお店の場所が決まる前に辞めました。だから、何も決まってなかったのです。考えれば考えるほどに決められないので、自分の好きな場所を当たってみようと思って、今の場所を見つけました。

大家さんはただの土地持ちという感じではなくて、原宿で8畳一間から始めて、ビジネスに成功した女性のデザイナーでした。「自分の若い頃を思い出したよ」ってほとんど僕の言い値で貸してくれたのです。「若いひとがチャレンジできる街だというのが原宿のいいところなんだ。家賃を高くすると、その入り口を閉じてしまうようなもの」と言って、不動産屋さんも大家さんにかけあってくれて。嬉しかったですね。この辺りの人はみんなそうです。何か自分の熱い思い出を、僕に重ねてくれている。

―― 大久保さんは大企業に勤められていて、さらに留学してMBAまで取得している。変な話ですが、抜群のビジネスセンスで本屋もやってきたように思ったのですが、違うのですね。

大久保MBAをとって、経営の知識を身につけて、その知識を生かす実績を会社でつくり、社会で生かせたということに手応えはありました。でも、そこがゴールでいいのかな? と思ったのです。自分が一番したいことをできる環境を自分でつくって、動かせて、はじめてビジネスなんじゃないかな、と気づいたのです。

大企業のなかでのビジネスは、お金の心配もないし、すでに出来上がった環境のなかでのことです。多少損してもやるんだという、自分らしさを貫ける環境、そこに自分で挑みたかった。それができなかったら、今までの自分のキャリアなんてウソだ! と思って、自分で自分のハードルを上げてしまった感じでしたね(笑)

―― なぜまた本屋さんだったのでしょう? 他の可能性はあったのですか?

第19回本屋さんの遊び方JSTYLEBOOKS大久保さん

『ハーレムの熱い日々』(吉田ルイ子、講談社文庫)

大久保本に自分の人生をよくしてもらったという原体験からですね。その体験を共有したいという思いが根底にあります。僕は大学を出て、会社に勤めて3年で留学しました。MBAの取得もありましたが、カメラマンになりたいという目標もありました。そのときに影響を受けたのが、吉田ルイ子の『ハーレムの熱い日々』だったのです。

ハーレムに住みついて、黒人のリアルな日常を切り取った女性カメラマンの、熱いお話です。これを手にしていなかったらカメラマンになろうなんて思っていなかったし、留学もしていなかったかもしれない。そうすると結局、本屋もやってなかったかもしれない。読んでいたかいないかで、本当に人生が変わってくる。それが面白くてたまらなかった。

「半年先はない」で一年経ったら、「億万長者の息子」に?

―― どんなお客さんが来るのでしょうか?

第19回本屋さんの遊び方 J STYLEBOOKS大久保さん

大久保このあたりは「自分からドロップアウトする」ってお客さんのなかでも使われるんですが、やっぱり好きで人生踏み外して、そのまま楽しく生きている人が多いですね。

匂いをかぎつけて、そういう人が来てくださる。本は買わないんだけど、夜8時の閉店間際に焼酎とグラス持ってきて、レジカウンターが、勝手にバーカウンターにされるんですよ(笑)。ロンドンで8年間もDJやってて、ジャミロクワイが葉っぱを運んでいた下積み時代知っているひともいましたね。なんで本買わないお客さんとこんなに親しくて楽しいんだろ? といつも思います。

―― 5周年ということですが、経営は順調だったのですか?

大久保開店した当初は正直、半年先はないと思っていました。周囲も全員そう思っていました。「ないない。あるわけない」言わずもがな、お客さんと話すたびにそういうムードでした。原宿時間はそういうものです。お店ができても、半年後になくなるなんて普通のことです。原宿で稼いでるのって、内装の施工業者だけなんじゃないの? なんて思いますよ。できたお店潰して、またつくることの繰り返しですから。大儲けですよ。

それで半年続いたら、今度は「あの本屋は億万長者の息子がやってるらしいよ」って噂になったのです。湯水のごとくお金使っても大丈夫な人が道楽でやっているんだ、って(笑)。ひとって面白いですよね。それくらい難しい場所なんです。一年間はなんとか乗り切った感じで、3年目くらいからようやく少し安定期に入ったかなというペースでした。

―― さっきも話すだけで帰って行かれましたけど、ああいうお客さんは多いんですか?

大久保本買わない人もなかにはいますよ。顔出して「元気?」って言って帰ってくだけのひととか、「今日は具合悪いでしょ」って健康観察してくれるおばさんもいるし。店にほとんど入らないけど、「田舎からりんご届いたから」ってくれるひともいる。カウンターでひとり、「青森かな?」とか産地を考えている自分がいたり。ここ何屋なんだよっていう話ですよ(笑)。

でも、「がんばれよ」じゃなくて、気をつかわせない言葉でさっと元気づけてくれたり。人間が"練れている"人に囲まれていると感じることが多くて、とても幸せです。やっぱりみんなこんな不況で、しかも本屋で、さらにひとりということで、「かなり危ない橋渡ってんなー」って思ってるんでしょうね。そしてそのなかの多くのひとが、多分自分の若いころと重ねてくださっていることも、少なくないです。この街は。

第19回本屋さんの遊び方 J STYLEBOOKS大久保さん

本を好きになるか、嫌いになるかは本屋にかかっている

―― 本の選び方については、どんな考え方でやっておられるんですか?

大久保僕が一番気をつけているのは、本自体を好きになってもらえるような本棚づくりですね。

僕が本を読まなくなるときは、つまらない本を買ったときです。面白い本を読むと、どんどんそこからイメージが湧いてきて、その本に出てきた本とか、それにまつわる本を読んでみたりできる。どんどん繋がるんです。そしてそういう時に限って、いい本が見つかります。本屋にふらっと行って、何冊か買って、どれも面白いなんてことになると「うっわー! 本って面白い!」って本の世界が大きくなる。この体験すべてがいい本で、いい本屋の役割ですね。

―― あります。それこそ本だけの体験ですよね。

第19回本屋さんの遊び方 J STYLEBOOKS大久保さん

大久保でも逆に、一冊集中して読んだのに、値段高い上につまらないとなると、「ああ、もう本つまらない。本ってなんだよ」って、本自体の存在を呪いたくなる。本を読まなくなる、嫌いになる一番のきっかけは、そういう時です。

いいサイクルを生み出すためには、自分が面白いと思っている本を置くというのが僕の場合一番やりやすかったんです。万人にとってそれが正解だとは思わないけれど、僕が薦められる本しかない本棚、というのがひとつの答えです。

それにお客さんに、「客にこびてるだけだったら、あんたの店にならないよ」と教わったこともきっかけでした。本棚の作り方は、そうして読み手にも教わっていった感じでした。なかには自分で並びを変えていくお客さんもいましたね(笑)。棚を変えると「前のほうがよかったのに」とか言うひともいますし、逆にその変化を楽しんでくれるひともいたり。もう自分の本棚だと思われているんですね。いろいろで楽しいですよ。
 
―― いい書店員の条件は?

大久保書店員は本だけ見ていてもだめだと思います。読む方もそうですが、本から生まれる人の繋がりとかのほうが夢があるし、それを先に考えたとき、本はすごく生きてくると思うのです。

たとえばさっき話に出ていた『ハーレムの熱い夏』ですが、とあるお客さんと「60年、70年代のニューヨークの女の子って、オノ・ヨーコだったり、草間弥生なんかもいたりしてかっこいいですよね」という話をしていたら、その人も読んでて、裸一貫からビジネスを立ち上げて成功された方なんですが、ご自身の体験と本を重ね合わせて色んな面白い話を聞かせてもらえる。たった420円くらいの本が、そんなに面白いひとと、僕を繋いでくれた。これを素晴らしいと言わなくて、何と言うんです? サイコーですよね。

本はただのプロダクトじゃない。なかに人間の感受性を揺さぶる何かがあるわけです。それが一冊の本として形にされていることで、共感して、人と繋がる。そういう特別な商品だと思います。人とも、世界とも繋がれて、人生がどんどん楽しくなる。いくら売ったとかはオマケです。
 
でも、買っていってね(笑)。

第19回本屋さんの遊び方 J STYLEBOOKS大久保さん
 

良い書店員は、客の自慢話に飢えている

―― 本屋さんの遊び方ってどういうものでしょう?

大久保店員に、そのときに自分の一番の自慢話をすること。まずそれでいいんです。「昨日カッパドキアいってきた!!」とかそういう話ききたいですよね。いきなり。こっちはひとりで寂しいし(笑)。

―― 初対面でその破壊力はいい味出してますねぇ。

大久保「あの本に載ってた紅茶専門店は紅茶より抹茶のほうが美味しかった。ウソ書いてるよ!」とかを、初対面でやりたいです。本ってそういうものですよ。自分が本と出会って、その体験をわかちあう、それも読書のうちです。だからもう買わなくてもいいから、そういう話をしていってくれって思います。リンゴを置いていくだけでもなく(笑)。

―― 読書のお話が出ましたが、大久保さんにとっての読書の在り方を教えてください。

大久保知らない面白さを知るのが読書であり、その出会いをつくれるのが書店員の楽しみです。書評とかのアングルなんてつまらないですよ。読めばわかるんですから。本屋で何感じて何見つけたか。それが本のすべてです。

それに、活字から飛び出さないと本を読んだ価値はないと思います。部屋にこもってただ読むのではなく、本をきっかけに街に出て、世界に出て、いろいろ出会ってまた本に戻る。そんなアウトドアかインドアなのかよくわからない読み方がいいのです。本から出て、また戻るまでに繋がった人が、次に読む本をどんどん生かしていってくれる。

やっぱり人生は、引き出しを多く持って、何より楽しまないといけない。

―― 同感です。本が人生を変えてゆく。それを地で行って、さらに本屋になった。とても素敵なお話でした。本の素晴らしさ、楽しさを、全身で感じられるこのお店へ、ぜひ足を運んでみてくださいね!

第19回本屋さんの遊び方 J STYLEBOOKS大久保さん

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大久保亮(おおくぼ・あきら)

日本の美意識をキーワードにした書店「J STYLE BOOKS」店長。建築、デザイン、文芸、さらには絵本までもを並べ、話しだすと止まらない。

第19回本屋さんの遊び方 J STYLEBOOKS大久保さん

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