本屋さんの遊び方

第21回本屋さんの遊び方ガケ書房さん

ガケ書房遠方販売のページ

ガケ書房は謎めいている。

遠方販売(ネットショップ)のことば書きで、こんなことを語っている。
「たぶん、ガケ書房には目的の本はありません。しかし、目的外の本がそこにはあります」
かと思いきや、別のところで「ガケ書房は"究極の普通の本屋"」だとも言う。

「目的の本がない」本屋が、どう「普通」なのか?

そして、そんな言葉を引っ張り出すまでもなく、その外観からして常識を越えている。
塀からクルマが飛び出している本屋なんて見たことがない。

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つかみどころはないけれど、なぜだか気になって仕方がない。
でも、だからこそ、ガケ書房にしかない「遊び方」があるような気がする。
ミステリアスなものに惹かれてしまうのは、人間の宿命なのかもしれない。

店主の山下賢二さんに、ガケ書房の秘密を聞いた。






ガケ書房
ホームページ: http://www.h7.dion.ne.jp/~gakegake/
遠方販売:http://gake.shop-pro.jp/

(聞き手・文:萱原正嗣)



第21回 京都編・ガケ書房 山下賢二さんに聞きました――ガケ書房は、あなたが知らない世界をお届けします

2011.04.18更新

はじまりは「出版社ごっこ」から・・・

―― 本日はどうぞよろしくお願いします。店先のクルマ、実物で見るとインパクトすごいですね。クルマの話も気になりますが、まずは、ガケ書房をはじめるまでの流れをお聞かせください。

山下よろしくお願いします。私は、京都の南の方の出身なんですが、高校を卒業後、家出して関東に行きました。小さい頃から、高校を出たら家も出るものだと漠然と思っていたんです。
21歳のとき、音楽がきっかけで仲良くなった友人と、「何かしよう」と盛り上がり、『ハイキーン』という雑誌をつくることになりました。雑誌をつくりながら、「版元なんだから名前をつけよう」ということになって、架空の版元として「ガケ書房」を名乗りました。結局それがいまの書店名になっています。

―― 『ハイキーン』はどんな雑誌だったんですか?

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『ハイキーン Vol.4』の表紙と裏表紙。『ハイキーン』創設者の手になる設立時のものがたりが、こちらにつづられています(未完ですが・・・)。

山下大きく言えばアングラ系ですが、毎号内容が変わっていました。あるときは写真集、あるときはレポートもの、あるときはコンセプトを前面に打ち出したもの、という具合です。しばらく『ハイキーン』は活動を休止していましたが、ガケ書房開店のときに復活させて、4号をフリーペーパーとして配布しました。幻の4号です。店舗のガケ書房のオープンを告知する内容になっています。

―― 架空の版元っていう発想も面白いですね。

山下言うなればふたりのチーム名です。いま思えば、「出版社ごっこ」をしたかったんだと思います。ですが、それがきっかけで出版社に勤めて編集の仕事をするようになりました。人生何があるかわからないなと思います。

出版社では、情報誌やらティーン誌やらをつくっていましたが、働き始めて2、3年で編集部が解散になってしまいました。そのあと印刷所に勤めましたが、2、3年したら今度は内紛みたいなものに巻き込まれて、辞めるざるをえなくなってしまいました。

それで、次に勤めたのが古本屋だったんです。まったく意図していたわけではなかったんですが、本をつくって→刷って→売る、その流れを仕事ですべて経験することになりました。古本屋では、次第に店づくりを任されるようになりまして、空間をつくる面白さに目覚めていきます。自分が手掛けた場所で、人が喜んでくれるのを見るのが面白くて仕方ありませんでした。

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山下さんは、小さいころから本屋さんが大好きでした。

もともと、小学生のころから本屋さんが大好きでした。間違いなく子どものころの一番の遊び場でした。本屋さんにはいろんな情報が溢れていて、面白くて仕方なかったんです。一度本屋さんに入るとなかなか出てこないので、親や友人は、僕と一緒に本屋に行くのを完全にいやがっていました。親と友人だけじゃないですね。

買わずに立ち読みしかしないから、本屋さんも煙たがっていたはずです。近所のお店の人には完全に顔を覚えられていました。親は、僕が家にいないと見ると本屋さんに電話して「うちの息子まだいますか? 帰らせてください」と頼むほどでした。

勢いで、思わずはじめてしまいました。

山下店づくりの面白さを知るにつれ、「自分でお店をやってみたい」と思うようになってきました。はからずも本に関する仕事にずっと携わってきたこと、小さいときから本屋さんが大好きだったので、書店をやりたいと思うようになったのは自然な成り行きだったと思います。

ガケ書房では、僕が小さいときに本屋さんで感じていた興奮を再現したいと思っています。未知の世界への入り口がたくさんあって、わくわくするような空間をつくりたい・・・。それも、立ち読みでは満足できないぐらいに面白い場所にしたいと思っています。

そうこうしているうちに、家の事情で京都に帰らなければならなくなってきました。勤めていた古本屋は全国チェーンの店だったので、京都支店での勤務希望を出しましたが、なかなか希望が通らなくて、仕方がないので辞めて京都に戻ってきました。それが、2001(平成13)年ごろです。

京都に戻ってからは、新刊書店で働きました。古本屋で働いていたときは、古本屋を開こうと思っていましたが、新刊書店を経験してみて、新刊の方がいいかもな、と思うようになりました。

―― それはどういう理由でしょうか?

山下在庫の問題です。古本屋は、主に買い取りで本を仕入れるわけですが、お客さんが売りにくる本というのは、店としては必ずしも欲しい本とは限りません。そうやって増える一方の在庫をどうするかが常に悩みの種で、返品ができないのもしんどいです。

その点、新刊書店は、店が本を選べるし返品もできるからその方がいいなと思ったんです。開業資金やらなにやらで新刊書店はなにかとお金がかかるので、いまからすれば浅はかだったと思いますが、そのときは思いと行動力で始めてしまいました。普段はあまり動かないくせに、ときどき激しく行動するんです。

―― なるほど、普段はエネルギーを貯めてるんですね。それで、ある日突然火山みたいに爆発すると・・・。

山下そんな感じです。新刊書店で働く間も、構想として少しずつ出店計画を進めていました。2003(平成15)年の暮れに、いまの場所を見つけられたのがきっかけで、勤めを辞めて2カ月後に新刊書店のガケ書房を始めちゃいました。おかげで、いまヒイヒイ言っていますが・・・。

スリルのない本は、相手にされません。

―― 伺っていて面白いなと思ったのは、仕入れと在庫をコントロールするという同じ理由で、古書店を始められた方がいらっしゃることです。「本屋さんの遊び方」で以前紹介した「しまぶっく」さんという本屋さんです。「しまぶっく」さんは、個人で新刊書店を始めても、取次との関係で仕入れたい本が仕入れられないだろうという理由で、古書店を始められました。ユニークなのは、買い取りをしないで、毎日ご自分で古書を仕入れにいっていることです。

山下面白いですね。でも、個人の新刊書店を始めてみた感想としては、本が入ってこないということはありません。担当の取次会社がすごく理解があるので、恵まれているのかもしれませんが・・・。

一口に新刊書店と言っても、個人書店と大型書店では役割に違いがあるように思います。いわゆるベストセラー本は、確かに小さい書店になかなか回ってきませんが、個人書店は小書店としての棲み分けというか、役割があるように思います。実際、ガケ書房では、タレント本やダイエット本、映画になって話題になった本を頑張って仕入れて並べても、お客さんからはまったく見向きもされません。

ガケ書房に来てくれるお客さんは、「自分が知らない情報」を求めているので、すでに知っている情報は「どこでも手に入るし、もうええわ」ってなるんです。本にスリルがないと相手にされないんです。

―― スリルを求めてくるというのは、何だかジャングルに探検しにくるみたいですね。

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店内の様子。並んでいるのは「スリルのある本」ばかり。

山下それはもう本当にはっきりしていまして、もともとスリルがあった本でも、何かのきっかけで話題になっちゃうと、途端に反応が悪くなってしまいます。

たとえば、本が映画化すると、「映画化決定!」みたいな帯コピーが入るのが普通です。世間一般では、その方が売れるんでしょうが、ガケ書房ではまったく逆の反応になります。「映画化」という単語を見るだけでスルーされちゃうんです。なので、うちの店ではそういう帯は必ず取るようにしているんです。

帯を外しても、大きな話題になってしまうと、どうしようもないです。そうなると、「消費された情報」だと思われて、とたんに存在感がなくなります。

ガケ書房ではCDも扱っていますが、CDの場合も同じです。タワーレコードでフォローしきれないようなものも置いています。大型店で埋もれてしまうようなものを届けてこそ、個人店の意義があるのではと思っています。

ガケ書房は「究極の普通の本屋」です。

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「普通」な本屋さんには、雑貨もCDも置いてあります。

―― いまの場所でお店を出された理由についてお聞かせください。京都の中心・河原町か、学生街の左京区か、という二択で最終的に左京区を選ばれたということですが・・・。

山下そうなんです。若者が多い場所で店をやりたいという思いが漠然とあって、それで思いついたのが、中心街の河原町か、学生が多く住んでいるこの辺りか、でした。出店場所を探すなかで、どちらもいろいろと見て回りましたが、このふたつの地域は、明らかに違うことに気づきました。

河原町の若者は流行を追い求めている人が多いのに対して、左京区の若者は、自分ならではの生活スタイルを追い求めている人が多い。そんな感じがしました。
店は、その場所を訪れる人が求めているものに応えていけなければ成り立ちません。自分がどっちをやりたいか、どっちに向いているかを考えたときに、「自分は流行を追い求めるタイプじゃないな」と思ったんで、左京区での出店を決めました。

―― ところで、以前のインタビューで、「ガケ書房は"究極の普通の本屋"」ということを仰っていますが、そのことについて詳しく伺いたいと思います。店先のクルマといい、スリルのある本を求めてくるお客さんが多いところといい、「普通」というのはなかなかしっくりこない気もするんですが、どの辺りがどう「普通」なのでしょうか?

山下「普通」に込めているのは、「小売業としての普通」という意味です。

何か店をやるとしたら、店が品物を選んで自分で売るのが「普通」です。チェーン店や大型店であれば、大量に仕入れて安さで勝負したり品揃えの多さで勝負したりすることもできますが、個人店が同じ土俵で勝負しても絶対に勝てません。となると、個人店は、人の味わいとか店主の顔とか、そういうところで勝負するしかありません。店主が何を選んでどう売るかが、大型店以上に重要になってきます。

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棚の見た目は案外と「普通」です。

一方で、新刊本の世界には「配本」という制度があって、書店が発注せずとも取次から本が送られてきます。それで、本の世界では店が商品を選ばないことが「普通」になっていますが、小売の世界で、卸売業者が商品を選んで小売店に送るというのは、かなり特殊な状態だと思います。

こういう本の世界のなかで、書店が書店の責任で発注すると、何か特別なことをしているように見られます。ガケ書房は、本の世界では特殊かもしれないけれど、小売業として「普通」な形で勝負していきたいと思っています。

―― なるほど・・・。業態としての「普通」を追求していたら、外観やら品揃えやらサービスやら、いろいろユニークなお店になっていったということなんですね。

ガケ書房はセレクトショップではありません。

山下ひとつ誤解してほしくないのは、こういう話しをすると、「本のセレクトショップですね」とよく言われますが、それはちょっとニュアンスが違います。ガケ書房は、決して僕自身の趣味やセンスで本を選んでいるわけではありません。この場所が求めているものを感じとって、それにあう本を選んでいるだけです。いまのガケ書房のスタイルは、この場所だからこそこうなるんであって、違う場所でやれば、まったく別の店になるはずです。

―― 「この場所が求めているもの」を具体的に表現するとどうなりますか?

山下本のジャンルで言えば、オールジャンルということになります。ガケ書房で扱ってないジャンルをあげた方が早いぐらいです。扱っていないのは、ビジネス書、参考書、時代小説あたりです。イメージとしては、ネクタイを締めた人たちが読むような本は、少なと思います。株の本とか、お金持ちになる方法の本とか・・・。

―― 確かに、この辺りではネクタイされた方を見かけることはほとんでないですね。この辺りの住人はどういう層の人が多いんでしょうか?

山下すごい富裕層とすごい貧困層と、右寄りの人と左寄りの人と・・・。上下左右振れ幅が大きいです。そのなかで、世間一般では真ん中にいるはずのネクタイを締めた人たちだけがいないイメージです。住んでいる人の幅が広いから、店に置く本の幅も広くなります。

―― 若者を意識してこの場所で店を出したら、幅広い層に受け入れられたということですね。

山下そうなります。ただ、この辺りの人が自分のスタイルを求めている、持っているという、当初抱いていたイメージは当たっているんじゃないかと思います。
この辺りの人は、あまりテレビを見ていないんじゃないかと思います。実際は見ているのかもしれませんが、テレビに影響されずに自分の軸を持って生活している人が多いように感じています。

『ワンピース』は置いてませんが・・・

―― それだけ幅広いお客さんがいる中で、ガケ書房ではお客さんにどんな風に「遊んで」ほしいと思われていますか?

山下直接答えになっていないかもしれませんが、昨年末に、ガケ書房の斜め向かいにあったいわゆる「一般的な」新刊書店がつぶれてしまいました。もともと店の前の白川通りには新刊書店が少なかったんですが、斜め向かいの店がつぶれてしまって、新刊書店がほぼうちの店だけになってしまいました。それ以来、それまでその書店が応えていた、「一般的な書店」へのニーズが、ガケ書房にも来るようになっています。

もともと、老若男女のお客さんがいるなかで、小学生から高校生までの層は、ガケ書房でカバーできていませんでした。昨年末以来、その世代の子たちが、この店にも来てくれるようになっていますが、探している本が見つからないとすぐに帰っちゃうんです。「『ワンピース』置いてへんわ」って・・・。

この年代の子にとっては、テレビがまだまだ大きな情報源で、そこから得られた情報でしか反応できないようなんです。テレビで見て知っている情報以外はシャットアウトしてしまって、大人が子ども向けにパッケージしたわかりやすい情報や商品を消費させられている印象があります。

その年齢で、自分の意思で情報を取捨選択するのは難しいと思うんですが、意識や関心を広げるような楽しませ方をしたいな、というのがいまの課題です。人気のあるマンガを単純に並べる形ではなくて、個人店なりの、ガケ書房なりの楽しませ方があるはずだと思っています。

未知の世界への入り口、置いてます。

―― 本の選び方や棚のつくり方についてはいかがでしょうか? 「スリルのある本しか相手にされない」という話でしたが、具体的な本の選び方、つくり方をお聞かせください。

山下ディープな本を扱っているように見られがちなんですが、僕のイメージとしては、いろんな世界への入り口をたくさんつくっているんです。普段本を読まない人も含めて、その先にある世界に興味を持ってもらえるような初歩の段階の本を選んでいます。本がきっかけになって、その人の世界が広がっていってほしいと思っています。
それがディープに見えるのは、幅広いジャンルの本を置いているからだと思います。自分が知らないジャンルについては、ディープに見えるんです、きっと・・・。

本当にディープな研究書や専門書は、そんなに大勢の人が読むものではないので、置いていてもなかなか動きません。となると、新刊本としては取扱いにくい。そういうディープでコアな世界の本は、古本の貸し棚でカバーしています(貸し棚について後で詳しく出てきます)。
新刊で幅をカバーして、古本で奥行きをつくる。それで、来てくれた人が楽しんでもらえればいいなと思っています。

―― 幅と奥行きですか・・・、三次元的ですね。古本は時間軸もあるから四次元かもしれないですね。実際に本を選ぶときの基準をもう少し具体的に教えてください。

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山下さんはシャープでクールな感じに見えるかもしれませんが、やわらかくてふわっと包みこんでくれるような語り口です。小池徹平似?

山下本を仕入れるときは、自分がお客さんになったつもりで、「棚から手にとってレジに持って行くかどうか」を基準に本を選んでいます。

書店では、まず棚から本を手にとってもらえるかが重要です。なので、タイトルや表紙でまず「グッとくる」かどうかが最初のハードルです。その次のハードルは、本の中身です。書店では立ち読みができますから、「グッと」きた本を開いてみて、タイトルや表紙のイメージとあうかどうか、買って読むに値するかどうかを値踏みします。立ち読みしてみて「いまいち」と思われたら、棚に戻されてしまいます。立ち読みからレジまで本を持っていってもらうには、本には内容が伴っていないといけません。

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まさしくこれと同じことを、仕入れの段階でやっています。出版社から毎日届く新刊案内を見て、タイトルと表紙を直感で注文します。実際に本が届いたら中身を見て、直感でイメージした内容と違ったり劣っていたりしたら返品する。自分が本を買うつもりで、一番ミーハーな気持ちになって、本を選んでいます。

誤解のないようにお伝えしておくと、このときも僕のセンスや趣味で本を選んでいるわけではありません。「これまでにお客さんの反応があった本」の傾向を何となくおぼえていて、お客さんの残像を思い浮かべながら、自分がお客さんになりきったつもりで選んでいます。なので、感覚としてはお客さんの代理で仕入れているというのが近いです。

ガケ書房がセレクトショップではないというのも、具体的にはこういうことです。

―― これまでたくさんの本を扱われてきていると思いますが、予想以上に反応が大きかったとか、予想していなかった層に反応があったとか、印象に残っている本があれば教えてください。

山下最近だと『アーミッシュ』と『もしリアルパンクロッカーが仏門に入ったら』の2冊ですね。

どちらも面白そうと思ったから仕入れているわけですが、意外なほど大きな反応がありました。後者の方は、タイトルそのままの本です。意外な切り口が受けたんじゃないかと思います。

『アーミッシュ』の方は、アメリカで文明に頼らずに暮らしているキリスト教の共同体についてまとめた本です。現代の暮らし方に疑問を持っている人が多いということなのかもしれません。

「貸し棚」は、一期一会を楽しめます。

―― 先ほど「貸し棚」の話が出ましたが、このサービスは、善行堂の山本さんから持ちかけられて始まったという話を伺いました

 * 貸し棚:そのままずばり、棚をいろんな人に貸し出すサービス。貸し出しの条件は、絶版本の古書であるということと、ガケ書房っぽさと自分の色を出せるということ。詳しくはこちらで。

山下そうなんです。山本さんがある日お見えになって、「ここで蔵書を売らせてほしい」って・・・。何の前触れもなかったので驚きましたが、面白そうだと思って、その場でOKしました。

―― 貸し棚を利用しているのはどういう方たちなんでしょうか?

山下プロで古書店を経営されている方もいれば、副業的に古書の販売をされている方もいますし、ガケ書房以外では営業していないアマチュアの方もいます。いまは全部で25コーナーあります。だいたいみなさんご自身の蔵書から出品されています。

「古書で棚の奥行きが広がる」という話を先ほどしましたが、本当に広がるんです。一人ひとり人生が違うように、一人ひとり集めてきた本も違う。僕とはまったく違う文脈の本が棚に並びます。絶版本ばかりですし、ここで逃したら次いつ出会えるかわからない本ばかりです。そういう一期一会の本が棚に並ぶのは、僕自身が楽しいんです。実際結構人気があって動きはいいですし、来てくれた人も楽しんでくれていると思っています。

第21回本屋さんの遊び方ガケ書房さん

『佐藤泰志作品集』。佐藤泰志は、かつて村上春樹と並び称され、芥川賞にも何度もノミネートされた「幻の作家」。その著作が収録された本書は、2007年に図書出版クレイン社より出版された。

―― 山下さんご自身はどういう本がお好きなんですか?

山下昭和の小説が好きです。最近のお気に入りは佐藤泰志の小説です。買うのは基本的に古本ばかりです。

―― 新刊書店の店主なのに・・・。

山下職業病なのか、新刊は目の前にあるから「いつでも買える」と思ってしまうんです。絶版本の方がどうしても優先順位が高くなってしまいます。
それに、僕は昭和が大好きなんです。なので、平成に出た本は後回しになりがちです・・・。

―― 昭和はどの辺りがお好きなんでしょうか?

山下昭和は全面的に支持しています。
『三丁目の夕陽』的な昭和30~40年代のレトロな感じだけではなくて、ギラギラした昭和50年代も、バブルに突入し始めた昭和60年代も、みんな好きです。本だけじゃなくて、戦後の昭和20年代の和製ジャズとか映画も大好きです。

第21回本屋さんの遊び方ガケ書房さん

気になる仕掛けいろいろ

―― 他にも、いろいろユニークなサービスを展開されていますよね。玄関先を貸し出して自由に使ってもらう「もぐらスペース」とか。これはどうやって始まったんでしょうか?

 * もぐらスペース:マッサージや占い、カフェなど、自由に使える貸しスペース。詳しくはこちら

山下もぐらスペースは、スタッフから「あのスペース使わないのもったいないよね」という話が出て、だったら使いたい人に使ってもらおうということになりました。ほかには、「リアルBBS」というのもやっています。

―― リアルBBS? インターネットのBBS(掲示板)のリアル版ということでしょうか?

山下そうです。駅の掲示板みたいに、好きなことを書き込んでもらえる場所をつくりました。

―― みなさんどんなことを書かれるんでしょうか?

山下本の感想やイベントの告知、足あと、絵、友だちへのメッセージなんかもあります。「誕生日おめでとう」みたいな。メッセージを送られた方がこの店に来ているのかはわかりませんが・・・。でも、うちのBBSは荒れる心配がありません。みんな見てますから・・・。

―― 面白いですね。これもどなたかの発案ですか?

山下確か常連さんだったと思います。何かにつけて、僕が自分で考えてやるというよりも、スタッフやお客さんからアイデアをもらって、それで形にしていることが多いです。貸し棚ももぐらスペースもリアルBBSも・・・。

当人が楽しんでいますし、それでお客さんも楽しんでもらえます。それを見ている僕たちも楽しい。ガケ書房は、そうやってみんなで遊べる場所であり続けたいと思っています。

壁から飛び出るクルマの秘密

―― 気になるオモテのクルマですが、これはどうしてこういうものをつくろうと思われたんでしょうか?

山下クルマは、店を建物として覚えてもらいたいというのがひとつの理由です。これだけインパクトがあれば、映像として覚えてもらいやすいだろうと・・・。

第21回本屋さんの遊び方ガケ書房さん

インパクト大のクルマの横でパチリ。ちなみに、こちらには、塀とクルマができあがるまでの様子が記されています。

実はその裏には現実的な理由もあります。防犯上の理由で、塀を最初につくったんです。塀の裏側には建物の大きな窓があって、そこを路面にさらすのはちょっと危ないと思ったんです。

でも、塀をつくったら、思っていた以上に閉鎖的な感じになってしまいました。「これではいかん」と、インパクトを出す方法を考えたら、こうなっちゃいました。

―― これをどうやってつくられたかが気になるんですが・・・。

山下あのクルマは、廃車になったものを知り合いから譲ってもらって、半分に切って取りつけました。

―― 本物のクルマだったんですね・・・。ネットでいくつか写真を拝見しましたが、色を何度か塗り替えられていますよね?

第21回本屋さんの遊び方ガケ書房さん

クルマの衣替えの様子。これを見ると、何度も衣替えをしているのがわかります。

山下色も何度か塗り替えていますが、実はこのクルマ2台目なんです。2回事故に遭いまして・・・。

―― 止まってるクルマが事故に遭うということは、クルマが突っ込んできたということでしょうか?

山下そうなんです。1度目の事故のときは、少し凹んだだけだったので、修理もせずにそのままにしていましたが、2度目のときは同じところがさらに派手に凹みました。見た目の問題もありましたが、厄払いの意味も兼ねて「廃車」にしました。

―― 「廃車」を「廃車」にするなんて・・・、はじめて聞きました。ところで、店のなかの、天井の女の子の絵も気になるんですが、これはどなたがどういう経緯で・・・?

第21回本屋さんの遊び方ガケ書房さん

入り口のすぐ上の天井に描かれた女の子。今日もあなたの訪れを待っています。(写真提供:ガケ書房)

山下天井の絵は、知り合いの店に出入りしていた男の子が描いてくれました。本人が「何か描きたい」って言うので、店に描いてもらったら面白いなと思ったんです。

クルマにも天井の絵にも、店づくりのすべてに共通して言えるのは、ここに一歩足を踏み入れることで、自然とテンションが上がるような場所にしてきたいということです。ふっと半音上がるような感じというか、僕が小学生のころに感じていた本屋さんで感じていた興奮を、いろんな人に感じてもらえる場所にしたいと思っています。

京都ってどんなまちですか?

第21回本屋さんの遊び方ガケ書房さん

店主の自著『京都の音楽家案内』。京都で演奏する音楽家を店主自ら紹介しています。飾らない文章は、語り口そのままです。なお、版元は「ガケ書房」。「架空の版元」がついに現実のものに・・・。「ガケ書房ではこれから本を出版していきたい」とのことで、その第一弾でもあります。

―― 最後に、山下さんにとって「京都」ってどんなまちでしょうか?

山下僕の地元は京都の南の方なんですが、そこは、いわゆる一般的なイメージの「京都」とはまったく違う、ただの地方都市という感じです。お年寄りとヤンキーしかいない、特徴のないまちです。もちろん観光客なんて来ませんし、住人も「京都」の観光地には行きません。

僕はいまも地元に住んでいて、店まで車で30~40分かけて通っていますが、店がある左京区は、出稼ぎに来ている感じというか、スイッチがONになる場所という感覚です。
なので、「京都」をすごく客観的に見ています。まちなかに行くたびに「京都って観光地なんや」と思いますし、一言で「京都」と言っても、地域によって表情が変わります。

ガケ書房も、左京区以外でやっていたら、まったく違う店になっていたと思います。どんな店か、想像もできませんが・・・。

―― ガケ書房がこの地になかったとしたら、貸し棚のサービスも、善行堂も生まれていなかったことになりますしね。

山下そういうことも考えると、いまの場所でできてよかったとつくづく思います。

―― 私も、こちらをまた訪ねるのが楽しみです。今日はどうもありがとうございました。


今回のガケ書房訪問は、先の古書善行堂に続く、ミシマ社京都支社設立記念「本屋さんの遊び方 京都編」の第二弾。次回は「恵文社 一乗寺店」を訪ねます。

「本屋さんの遊び方 京都編」書店分布の図。青:古書善行堂、赤:ガケ書房、緑:恵文社 一乗寺店。より大きな地図で表示

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