本屋さんの遊び方

第24回本屋さんの遊び方

みなさま、『Meets Regional』2011年7月号の特集「本屋の逆襲!」は、もう読まれましたか?
京阪神で圧倒的人気を誇る街的情報誌(通称「ミーツ」)の、はじめて(?)の「本屋さん」特集です。本好きの読者はもちろん、書店員さんや出版関係者のなかでも話題になり、京阪神の本屋さんでは一時、どのお店に行っても、入ってすぐの場所に「ミーツ」がドカドカと山積みされている! という現象がおこりました。

そして、この特集のなかで、ひときわ異彩を放っていたのが、和歌山県の山奥にある本屋さん「イハラ・ハートショップ」の井原万見子さんと、東京・青山を拠点に活動する、ブックディレクターの幅允孝さんとのスペシャル対談「本屋は死なない。」です。(ちなみに弊社の三島の記事も掲載いただきました。ありがとうございます!)

第24回本屋さんの遊び方

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しかも、この対談をきっかけにして、なんと! イハラ・ハートショップさんで幅さんのトークショー行なわれるというではありませんか。「え! あんな山奥に本当に幅さんが来るの!?」という気持ちをおさえつつ(井原さん、すみません!)、興味津々、仕事そっちのけで和歌山行きの列車に飛び乗りました。
そこでお会いしたのが、ミーツ・リージョナル副編集長、竹村匡己さんです。「あの記事をこの方が書いたんだ!」と興奮しつつ、「このすごい企画の顛末を、ぜひミシマガジンで書いてください!」とお願いしたことから、まさかの『ミーツ・リージョナル』と『ミシマガジン』のコラボレーションが実現しました。
というわけで、今回はミーツ・リージョナル副編集長、竹村匡己さんによる「本屋さんの遊び方」特別編です。始まります!

第24回 『ミーツ・リージョナル』副編集長・竹村匡己氏による特別編 ――「すごい本屋!」イハラ・ハートショップに幅允孝さんがやってきた!

2011.09.14更新

「井原万見子さんはパワフルな人だ」

第24回本屋さんの遊び方

2011年8月22日、月曜日。晴れ。
この日、和歌山県の山中にある小さな本屋さんに44人もの人が集まった。みんなの目的は、ブックディレクターの幅允孝さんのトークショー。大阪市内からも、電車とバスを乗り継いで数時間かかるこんな場所(と言っては失礼?)で、これほどたくさんの人が集まったのは、ホントすごいことですよ!

数年前に弊社発行のカルチャー情報誌『Lmagazine』(休刊)で本屋の特集をして、その時にイハラ・ハートショップを紹介した。取材自体は別の担当がしたので、僕は行っていなかったが「へんなところに本屋があるなぁ」と頭のカタスミに残っていた。そして、別の取材ロケハンのために和歌山をウロウロしていたときに、今いる場所から近いはずだと、フラリと立ち寄ったのが2年ほど前だろうか。

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『すごい本屋!』(井原万見子、朝日新聞出版)

著書『すごい本屋』を読んでいたこともあって、ある程度想像していたのだが井原万見子さんはパワフルな人だった。一般客として店に入ったにもかかわらず話をしているうちにエルマガの人間であることがバレて(いやバラされたというべきか)、幅さんの話になり、さらに子どものために絵本を一冊買った。ちなみにこの時に買った、こもりまさとの『このおとだれだ?』は、今でも子どもがヘビーローテーションで読んでいるのもすごいことなんだけれども。

何故、幅さんの話になったかというと、当時『Richer』の編集室にいた僕は、幅さんに書評の連載をしてもらっていたからだ。もちろん井原さんは、幅さんのことを知ってたが「オシャレな本屋さんをつくる人やんねぇ」というような感想だった。でもオシャレなだけの本屋っていう訳じゃないと思いますよ・・・と、とりあえず返事したものの、井原さんはピンときていなかった。

「この本の並びの続きを見たい」

話はどんどんずれていくが、そもそも幅さんに書評をお願いしたきっかけは、大阪の阪急メンズ館のブックコーナーをディレクションを担当され、そのオープニングでお会いしたのが始まりだった。もちろん、幅さんのことは知っていたし『情熱大陸』で取り上げられたばかりの頃だったんじゃないかと思う。確かに、僕も最初は井原さんと同じように「オシャレ本屋をつくる人」というイメージだった。とはいえ実際にディレクションした本棚を見るのは、その時がはじめてで、キチンと話を聞いたのもはじめてだった。

本棚を見た最初の感想は、「不思議な並びやなぁ」というもの。けれども、じっくりと棚を見ているうちに、高価なビジュアルブックも小説も実用書も写真集もコミックも、対等な目線で扱っているのじゃないか、と思うように。一見関係なさそうな本の並べ方だが、緩急のつけかたが絶妙なのだ。この時にはもう「オシャレ本屋の人」というイメージはなくなっていて、もっとこの本の並びの続きを見たいと思うまでに棚に引きこまれていっていた。

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そこで、書評をお願いすることに。ただ、一冊オススメを解説してもらってもおもしろくないので、バラバラのセレクトに見えて深部ではつながっている3冊の本をまとめて紹介する連載をしてもらうことになったのだ。毎月打ち合わせをするなかで、イハラ・ハートショップに行った話をすると「『すごい本屋』読みましたよ。行ったことがないので行ってみたいですねぇ」と幅さん。大阪からでも遠いですからねぇ・・・と、そのまま話は流れて行ったように思う。

「なにもかも違うふたりの共通点」

さて、話はまた転換する。昨年の12月に『Meets Regional』に異動した僕は、本屋さんの特集をしたいなぁ、と考えていた。『Meets』という雑誌は、街場に生きる人たちをターゲットにし、旨いもんの店(特に酒場)に関しては少なからず評価をいただいている。そして、カルチャー的な特集をしばらくやっていなかった。でも、本屋さんはどこの街にもあるし、街に住んでる人も遊びに来た人も利用する。そして、買いに来る人の個性が反映される場所なんじゃないか、こんな街場的なネタはないんじゃないか、と特集を企画したのだ。

なにより雑誌や本が売られている、売ってくれているのは本屋さん(もちろん、今はインターネットでの販売も多いが)に違いない。その本屋さんを、雑誌や本をつくっている僕たちがキチンと正面から向き合っているのか、ちゃんと知っているのか、という思いもあった。まぁ、単に個人的に本が好きだし、本屋さんが好きだ、というのもあるけれど。

本屋特集を進めていくうえで、真っ先に思いついた企画が「幅さん×イハラ・ハートショップ」だった。それは、いろんな雑誌の本屋特集でイハラ・ハートショップは出てくるけれど、実際に取材に行っている記事は少ない。ましてや、オシャレ(イメージ)な幅さんがそんな山中の小さな本屋さんに行くなんて酔狂な企画は見たことがないでしょう! とひとりほくそ笑む。 

この時には、井原さんの店に何度か足を運んでおり、電話やメールでもやりとりをしていたし、幅さんとの連載も3年近くなっていた。このふたりは、年齢も性別も、お店の形態もなにもかも違うように見えるけれど、実は同じような考えで、同じようなことをしているんじゃないだろうか、ということをもはや確信していた。それは、「本を伝える」ということに一生懸命ということだ。

ものすごい山のなかにある奇跡の本屋とか、色んな場所でオシャレブックスペースをつくる人、というような派手(?)な一面が取りざたされることの多いふたりだけれど、その実は「この本を、この人に教えてあげたい」という純粋な気持ちでやっている人たちなんじゃないか。だから、このふたりを会わせたらどうなるんだろう? という編集者としての思いもあった。

この企画のことを、実際にイハラ・ハートショップまで足を運んで話すと「ひえぇぇ、そんなオシャレな人がこんな山のなかにくるんかいな?」と、たいそうな反応。結局、井原さんは取材当日まで「ホンマかいな?」と疑っていた。幅さんからは、「是非とも!」と心強いふたつ返事をもらって、いざ和歌山へ。ふたりの対談内容は弊誌に載せた通りだが、結局4時間ほどふたりはずーっと話がとぎれることなく盛り上がっていた。このふたりは話が合うと確信してはいたものの、「もしかしたらまったく考え方が違って険悪な雰囲気になったらどうしようか」という不安もあったが、そんなことはまったくの杞憂に終わるほどだった。

「これがイハラ・ハートショップの力なのかも」

第24回本屋さんの遊び方

この取材が終わって1カ月くらい経ってから、「幅さんのトークショーとかできるんかな?」と井原さんから電話がかかってきた。

それは幅さんのスケジュール次第じゃないですかねぇ、と返事して1週間くらいすると「やることになったんよ!」と興奮気味の電話が。さらに、「東京の事務所まで打ち合わせに行くねんよ!」とこれまた興奮しながら話す井原さんは、本当に嬉しそうだった。取材で「やっぱりこの人はイイ」と思ったらしい。最初は「オシャレな人」と言って、あんなに腰が引けていたのに。

第24回本屋さんの遊び方

それはすごいですねー、と言っているウチに告知が始まり、当日の大盛況に。イベント自体は、なんのお手伝いもしていないので、もうこれは井原さんのパワーによるもの、と言うしかない。そして、イベント前に幅さんと食事をしたのだが、その時も「すごいですよね!」と連発。ほんと、すごいと思いますよ。そして炎天下のなか、オープンスペース(という名の空き地)にブルーシートに座って、汗だくになりながら都市部では考えられないような雰囲気のままトークは盛り上がる。しかも、希少な横尾忠則デザインのマガジンも、ホールアースカタログもどんどん回覧する気前の良さ。

第24回本屋さんの遊び方

第24回本屋さんの遊び方

もちろんサイン会も外。近所の小学生も何事かと集まってくる。なんでしょうか、このゆるい感じ。でも、これがイハラ・ハートショップの力なのかもしれない。参加者も、どんどん幅さんに話しかけるし、撤収ギリギリまでみんなが残って話をしていた。「最終のバスが出るヨー〜!」という井原さんの声で、イベントはおしまい。

本誌の特集記事でも書いたのだけれども、結局「人が好き」であることは、いろんなコトやモノ、そしてヒトも動かすのだ、ということだ。毎月本をつくっていく上で、たくさんの人に出会い、助けられて一冊の雑誌ができていく。読み手、売り手、作り手が集まる機会はそうそうないので、普段はなかなか感じないけれども、雑誌はこうやって読まれているんだというのを実感できるよい体験だった。それはイハラ・ハートショップに限らず、本屋さんの特集をしたことで売っている現場の人とたくさん知り合えたことは、すごくありがたい。

まぁ、最後に言えるのは、山の景色も綺麗だし、井原さんも面白いしで最高じゃないですか。ということで、一度行ってみてください。ぶらり、と。

第24回本屋さんの遊び方

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このたび、台風12号の影響により、井原さんのご主人が経営する自動車修理工場「イハラ・ボディーショップ」の事務所・工場が、1~2メートルの浸水被害を受けました。その復旧のため、現在(9月12日)「イハラ・ハートショップ」は臨時休業中です。

今回の記事の掲載につきましては、一度は延期しようと考え、井原さんにご相談いたしましたところ、以下のようなメッセージをいただきました。

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このタイミングになるとは、奇跡的な偶然です。幅さんとの対談も、トークショーも奇跡的な偶然が重なり、開催できました。水害を経験している今だからこそ、是非に、あす予定どおりに掲載してください。どうも、ありがとうございます。

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今後の状況は、「イハラ・ハートショップ」のHPを通して、随時ご連絡いただけます。ご訪問の際には、事前にHPをご確認いただけると幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

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