本屋さん発!

第5回 恵文社バンビオ店発!

2013.05.18更新

 数カ月前、僕は朝方に突然目が覚める日が続いていた。
 それも、ただ目が覚めるのではない。なにかにせかされるように、がばっと起きる。心臓がバクバクいっている。
 やばい!
 ・・・何が?落ち着け。寝坊はしていない。むしろ出勤にはちょうどいい時間だ。

 店内のリニューアルまでひと月を切り、僕は落ち着きのない日々を過ごしていた。
 これまでの文庫・新書・単行本といったくくりを撤廃し、出版社順の配列をやめる。背が高く視界をさえぎっていた本棚を、見通しのよい、子どもが迷子にならない棚に変える。棚ごとにテーマを設定し、一冊一冊ていねいにセレクトした本を提案する。本だけではなく、本の世界にもっと興味を持ってもらえるような雑貨も並べる。ゆったりと本やイベントを楽しんでもらえるスペースをつくる。

第5回 恵文社バンビオ店発!

 そのためにやるべきことはひとつひとつクリアしているはずだ。
 なのに次々と穴が見つかる。連絡すべきことが伝わっていない。注文したはずの商品が届いていない。届いたはずの書籍があるべき場所にない。依頼したはずの仕事が伝わっていない。さっき言われたことを覚えていない・・・。

 一緒に作業をするスタッフからはひっきりなしに催促がくる。言葉にならないイライラを感じる。
 あれはどうなっているのか。ここはどうなるのか。
 待たせていることはわかっている。報告しなければいけないこともたくさんある。相談したいことも山のようにある。パソコンのメールボックスは未処理のフラグで真っ赤になった。毎日、自分の前に行列ができているような感覚。時間がものすごいスピードでながれていく。自分の体力のなさにびっくりする。周りのスタッフのフォローに改めて感謝する。
 店を閉め、気がつくともう終電の時間だ。あわてて電車に飛び乗ってから、やり残したことをひとつひとつ数えてみる。今日もゆっくり眠れなさそうだ。

 リニューアルの日はあっという間にやってきた。準備ができていようができていまいが関係ない。もうやるしかないのだ。
 古い棚が撤去された。店の半分ががらんとしたただの空間になった。
 なんて広いんだ。この空間をつかって、何ができるのだろう。なにもない空間になってしまうのではないか。
 おなかの底がひやりと冷たくなる。と、同時にわくわくする感情もこみあげてくる。新しい何かが始まるのだ。

 そんな感情たちとは関係なく作業は進む。新しい棚が届き、次々と本の入った段ボールが並べられていく。あとはあらかじめ準備しておいた書籍を図面に従って詰めていくだけだ。
 が、あれ?段ボールがいっぱい余ってるけど。
 なんで・・・?

 よく数えてみると棚が足りない。事前に家具屋さんと打ち合わせていた内容を勘違いしており、図面では棚が一本多かったのである。
 あわてて一本分の本を置くスペースを作ったり、せっかく準備した本を返品にまわしたり・・・。やっぱり抜けていたか。自分のコミュニケーション力のなさにはうんざりしてしまった。僕以上に巻き込まれる周りのスタッフはくたくただろう。申し訳なさでいっぱいになる。
 たくさんの人に手伝ってもらい、なんとか作業は終わった。
 あっという間に一日が終わった。

 みんなが帰ってから暗い店内をくるりと見回してみた。この店はこれからどんな店になるのだろう。

第5回 恵文社バンビオ店発!
 
 僕はこの店がある長岡京市に生まれ育った。休みの日には京都や大阪などに出掛けた。
 おもしろい場所、いい店をみつけるたびに、なぜこんな場所が長岡にはないのか、なぜこんなにおもしろい場所があるのにわざわざ電車にのって出掛けなければならないのかと歯がゆい思いをしてきた。自分の家の近所にもこんな店があったらいいのに。そんなことを思い続けてきた。
 でもそんな店ないよな、とすこしあきらめてもいた。

 いい店とはなんだろう。
 スタッフがマニュアル通りにサービスを提供してくれる店?
 必要なものが全部きちんと揃っていて、すぐに見つかる店?
 欲しいものはないけど店主の好きなものばかりがこれでもか!と並べられた店?
 なんだかよくわからないけど行きたくなる店?

 正直なところ、僕にはまだよくわからない。

 この街に住んでいれば、30分もかければ広大な売り場をもった書店にいける。なんでもそろうショッピングモールがたくさんある。スクリーンがいくつもある映画館がある。欲しいものはすべてそろう。
 けれどそこにいる私たちは、単なる売り手と消費者の関係でしかない。一日に何百、何千と訪れる客の一人でしかなく、何百、何千とある店のひとつでしかない。一人の人間ですらなく、巨大な経済のほんの一部の数字でしかない。
 その店で、その人が買う意味があるのだろうか。ほかのおんなじ店でもいいのでは?

 リニューアルして一週間、そっとお客さんの会話に耳をすませながら仕事をする。
 「きれいになったね」「こんなに広かったんだね」という声。
 「楽しそうな店になった」という声もいただいた。
 でもそれよりも、「前あったあの本が無くなった」「どこに何があるのかわからない」という声の多さ。「がっかりした」というメールも届いた。

 ほめていただく声には、これから期待にこたえなければという重みを感じる。そしてお叱りの声、落胆の声はすべてがこれからの宿題だ。売り上げのデータや商品のランキング順位だけでは見えてこないものを見つけなければいけない。
 当たり前だが、お客様にとってのいい店でありたい。

 これからも、恵文社バンビオ店は変わり続けます。
 大人から子どもまで、気軽に参加できるワークショップやイベントの開催。本の制作の裏側をのぞける原画展やトークショー。本についてのご相談にこたえるスペース。地域の方々が主役となって作るみんなの本棚。まだまだ企画段階のものも、もしかしたら店内では収まらないような、どう進めていいやら見当もつかないプランもたくさんあります。
 もちろん、気になる一冊や話題の本もしっかりと。

 一つだけ僕がいつも考えること。それは、「開かれた場所でありたい」ということ。

 特定の人のためだけの場所ではつまらない。だれでも気軽に楽しめる場所であってほしい。ふらっと立ち寄り、ぼんやりできる場所でありたい。本を読まない人でも楽しめる場所。たとえばジャズの演奏会があったり。たとえば地元のアーティストの方の雑貨を買えたり。

 お店に来てくださった皆さんに、私たちがみつけたおもしろいものや読んでほしい一冊をみつけていただけたら。
 そして、あなたの知っているおもしろいもの、気になることを教えていただきたいと思っています。


第5回 恵文社バンビオ店発!
ミシマ社フェアも開催中!

イベントのお知らせ

『仕事のお守り』刊行記念イベント
「地方で働く人たちにお守りを」

お話:三島邦弘(ミシマ社)
聞き手:堀部篤史(恵文社一乗寺店)
場所:長岡京市バンビオ一番館4階 交流室2
日時:6月15日(土)16時~18時頃終了予定
参加費:1000円(1ドリンク付き)定員40名

恵文社バンビオ店店頭にて整理券をお渡しします。
ご遠方の方はメールにてご予約を承り、当日レジにて参加費をお支払いください。

keibunsh@titan.ocn.ne.jp
ご予約ご希望のお客様は、上記アドレス宛てに、表題を『「地方で働く人たちにお守りを」参加予約』としていただき、お名前、お電話番号を明記の上ご連絡下さいませ。

新刊『仕事のお守り』をはじめ、ミシマ社の書籍には地方で働き、生きるためのヒントが見え隠れします。ミシマ社・三島邦弘さんをお迎えし、姉妹店である一乗寺店の店長・堀部篤史を聞き手にこれからの恵文社バンビオ店のスタンスもまじえてのトークイベントを開催します。車座になり、ご参加のお客様とも意見を交換しながらの和やかなイベントです。


恵文社バンビオ店
〒617-0833
京都府長岡京市神足2-2-1 バンビオ2番館 2F
TEL: 075-952-3421
営業時間:9:30 〜 22:00 ※年末年始を除く
アクセス:JR京都線 長岡京駅前 JR京都線長岡京駅の西口から歩道橋を道なりに

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ミシマ社編集チーム

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