本屋さん発!

第14回 ガケ書房発!

2013.10.27更新

 「おもしろい本屋さんができたらしい」。

 2004年の2月、寒い中、自転車をこいで鴨川から大文字山へ向かってのぼった。京都市内のいちばん東の大きな通り、白川通り沿いにその店はあった。「ほんまや、岩に車がささっとる!」

 その名も、「ガケ書房」は、崖のような岩肌の壁でおおわれたお店だった。
 おそるおそるトビラを開ける。いや、開かない。はじめての人には仕組みがわからない、まるで「一見さんお断り」の"京都"のようなドアなのだ。どうしよう、せっかく来たのになあと思っていると、後ろからお客さんが。オートロックがしまってアパートに入れなくなった人が、後からやってきた住人さんと一緒に入るみたいに、店内へと入る。

 ちょうどその頃は、「感動したら、ちゃんとその人に伝えよう運動」をしていた時期だったので、あと、「感動したら、ちゃんと対価を払おう運動」も連動しておこなっていたので、京阪神エルマガジン社から出ていた旅行のムック本をレジに持っていき、お店の人に声をかける。
 翌月、一乗寺の四畳半の部屋でひとり暮らしをはじめたばかりの友だちの家でみんなで集まっていると、「北白川にへんな本屋できたなあ。行った?」、「いや、行ってない」、「おれ行ったよ、行く?」、「行こう!」となり、みんなで行った。そのとき、店内で田辺マモルさんの『プレイボーイのうた』がかかっていたので、みんなでこの歌ええよなあと口ずさむ。

 またレジへ。「こないだ来たの覚えてますか?」と聞くと、「うんうん覚えてる、名前教えて」と云われ、名刺をいただく。もらった名刺の裏が白紙だったので、そこに自分の名前と連絡先を書き、正月実家に帰ったとき、妹とその友だちと一緒に撮ったプリクラを貼り、そのまま渡し返す。いま思うと、冷や汗ものだ(笑)。
 後日、携帯にメールが。「今度、店でイベントをやるから手伝ってほしい」。行くと、お店のお客さんがミュージシャンで、「ここでライブをやらせてほしい!」と云われたそうだ。そしてそのまま働くことになって早10年。早かったなあ。というか、まさかそんだけもいるとは思わなかったなあ。店長さんや一緒に働くスタッフさんとの相性や空気がよかったのだろう。

 とくに店長の山下さんは柔軟で、はじめて店を訪れたお客さんに、「東京ではいま、ライターや編集者が自分の蔵書を本屋で売っとるのがブームなんや、ここでもどうやろう?」と云われ、古本愛好家やネット古書店が軒を並べる<古本貸し棚>というスペースを作ったり、またあるときは、向かいのラーメン屋さん帰りの庭師のお客さんが、「この入り口の空いてるスペースで何か作らせてもらえませんか?」と云うので、「じゃあ、家の水槽でカメ飼っとるから、ここに池を作ってほしい」と云い、店の窓と外壁のガケのあいだに<カメ池>が登場!
 一方、入り口脇のスペース、通称<もぐスペ>は庭師さんにより整備され、いろんな手作り作家さんやアーティストのみなさんが飲食物や雑貨などの販売、似顔絵や占い、フリマなどを開催、一日レンタルスペースとしてにぎわっている。
 また最近、何をやっていない日にも、そこには写真を撮る多くの人が。今年、「日本絵本賞大賞」を受賞し、TV『情熱大陸』に取り上げられ一躍時の人となった画家で絵本作家のミロコマチコ氏が、2006年冬に描き上げた「もぐらの絵」が壁いっぱいに描かれているからだ。

 

 古本を置かせてくれと云ったお客さんは、古本好きが高じ、50才を過ぎてそれまでやっていた塾の講師をやめ、古本屋さんになった。その店、「古書善行堂」は、古本好きにとって、西の古本屋の聖地となっている。いま、うちで古本を販売しているネット古本屋さんや素人の方も、いつかは自分の店を開き、旅立って行くのかもしれない。店があるということは、ただただ物の売り買いだけじゃなく、人が何かを得、感じ、育っていく場があるということだ。

 私は大学を卒業して、なんにもしていない日々が半年ほどあった。何をしていいかわからなかったのだ。そのとき、月に1回、3つの本屋さんを訪れるようにしていた。昔、京都の繁華街・河原町通りの路面にあった「ブックファースト」と、世界の本屋さんランキングにも登場する左京区にある「恵文社一乗寺店」と、北山にある「ヴィレッジヴァンガード」。そこに行っては、こんなにおもしろい世界がある、自分の知らない世界があると、勇気づけられた。元気をもらえた。

 来月、私は東京からやってきた女の子と一緒に、週末だけのお店を開く。紙と本とものがたり。店名は、「homehome」と書いて、ホムホムと読む。家のようにくつろいで、また駅のホームのように、いろんな人が人生の途中で立ち寄れる場所、ベンチに腰掛け寄りそえるような場所になればと思う。
 場所は、京都の五条楽園。かつてお茶屋さんだった建物だ。そのように店を持つということは、過去からの遺産を受け継いでいくという意味もある。店があるということは、過去があるということだ。過去からいま、現在から未来へと受け渡していくその架け橋に、店を魅せることを通じて、なっていければと願う。

 店を開くということは、自分を開くということ。ガケ店長がそうしてきたように、他者を受け入れ、変っていきたいと思う。そのとき他者は自分になっているだろう。そのように生きれたとき、世界はすべて自分自身なんだということに気づくだろう。崖の下にひろがる大海を眺めながら、いまそんなことを思っている。

(スタッフ うめのたかし)





 <古本貸し棚>のコーナーでは、10/31(木)から11/14(木)まで、貸し棚・古本レギュラー陣による、「『本』気の古本週間」を開催! 「本気」を意識して出品するとどうなるか。ご期待ください。
 またガケ書房近くの百万遍の知恩寺では、京都三大古本まつりである「第37回 秋の古本まつり 〜古本供養と青空古本市〜」が10/31(木)から11/4(月)まで開催。あわせてどうぞ。


ガケ書房
〒606−8286
京都市左京区北白川下別当町33
TEL:075−724−0071
FAX:075−722−9403
営業時間:12:00〜22:00
HP:http://www.h7.dion.ne.jp/~gakegake/

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