本屋さん発!

第30回 定有堂書店発!

2014.06.22更新

本屋というオブセッション

 ある本に、こんなことが書いてあった。
「キリストと一緒にいたい、真理と一緒にいたくない」
 ドストエフスキーの言葉だった。人前に持ち出せない話題がそこでは堂々と語りつがれている、という理由だ。


 本と本屋も狭い場所へと追い込まれてきている。でも考えてみれば、本の世界はもともと地上に占める空間は小さかったのではないだろうか。

 本が好きでよく読んでいた頃、好きな一節があった。
「ハートのジャックとスペードのクイーン/返らぬ昔の恋愛をぼそぼそ陰気に語っている」(ボードレール)
 本に浸っている気分をそのように感じた。
 本をめぐる環境の輪が縮小してきたこのごろ、そんな原風景を意識する。言葉の中にしか本当のことはない、という気分だろうか。このすべり落ちる傾斜を自分では「オブセッション」と呼んでいる。

 定有堂は本屋だけど、定有堂教室というサークルにながくこだわってきた。とくに説明するほどの理由がはっきり語れるわけでもないので、やはり「オブセッション」というほかない。あれこれ10近くあったのだけれど、いまは、人文書の読書会「読む会」と「シネクラブ・テイユウ」という映画の会がそれぞれ30年弱つづいている。

「主題」は本を読む、映画を見るだが、「きっかけ」として「語り合う」ということにこだわるのが特色だ。そしてとくに何もしないというのが、ながくつづいている理由のようにも思える。


 オブセッションというのは、「ゆえなく取りつかれる」ということだろうか。世界は広くなっているのだが、街の中は狭くなっている。街の本屋のたたずまいと、この狭さはよく釣り合っている。変わらず目の前にあるのは、本と本屋が好きな人たちの情念。この情念をオブセッションと呼んでみる。私たちがつながっている一本の糸だ。

 人文書の世界は、「ジャッジ」の行き交う場所だ。本を読んで考えるということは、比較して何らかの方向を定めていくものだ。でも本を売るという世界は、どちらかというと自分でジャッジメントをしない場所だ。真理とともに歩むより、人の心理のすみずみにつき従うのが楽しい。狭い世界に、いつまでも語りつくされることのない話題が交わされる。本のオブセッション、本屋というオブセッションが、定有堂のなかではいましばらくの間、うごめきつづけると思われる。

(定有堂書店・奈良敏行)





定有堂書店

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