本屋さん発!

第44回 イハラハートショップ発!

2015.02.01更新

――まだ、本屋として存在しています。

 こんにちは。紀伊半島のほぼ中央部、和歌山県日高川町(旧美山村)で、住民100人が暮らす地区におよそ20坪の店で存在しているイハラ・ハートショップです。
 ここには、上阿田木神社があります。元々この地のほとんどが神社の山でしたが、3軒の家から開拓されて、1軒、また1軒と増えてひとつの集落になっていったと、聞き及びました。なぜ、こんなことから書いているのかと申しますと、昨年より「場所のチカラ」というものを感じることが多くなってきたからです。


 さて、3年半前に紀伊半島豪雨水害がおこりました。あの当時、とにかく事実を知ってもらいたい、という気持ちでいっぱいでした。和歌山県のなかでも、日高川水害についてはほとんど知られていなかったからでした。当店も本屋ではなくて、自宅が被災しました。事情を知ってご支援くださった皆さんもおられ「何も手伝えなくて」と連絡をいれてくださった方たちのお気持ちにも頭がさがりました。それぞれの形で気遣ってくれた皆様に、深く感謝いたします。

 その後、当店は午後から営業という形で変化をしています。本以外に、地域の人たちの間に合わせになる商品は、品目を検証してお客様の声を見聞きしながらの毎日です。ふと気がつくと、人数は減っても小さかった子たちは成長しました。「アイスクリームは置いてよ」と言いながら、『ONE PIECE』を全巻揃えた棚に、とても感謝されたり「本の注文、お願いします」など言ってくれるようになりました。ほかに本や雑誌の注文、図書館などへ寄贈依頼をしてくださる方もまだ存在するのですから、ひょっとしたら田舎の「何でも屋の山の本屋」は、9年先に伯父夫婦が開いた頃の本だらけの本屋に戻ったりして・・などと、妄想するようになりました。

 そして1年前のことです。京都のガケ書房さんを初めてお訪ねしました。和歌山県熊野川町の廃校になった小学校に新しく誕生するブックカフェに支店をオープンすることを知り、同じく山間地に新しく本を売る場所ができると、嬉しくて好奇心がわき起こったからでした。
「たまたま、本のイベントがきっかけで・・」と、やんわりとお話しするガケ書房山下さん。そうそう、本のイベントという場所から、次へとつながる場合って、あった、あった・・と、自分の中の小さな引き出しが開きはじめます。

 そこへ、ブックコーディネーター内沼晋太郎さんが新聞特集で紹介された同じタイミングで、和歌山市のタウン情報誌アガサスから「ミチシオ祭和歌浦アート&クラフト2014」へ「海の本屋で出店してみませんか?」というお話しがきました。少し躊躇しましたが、『本の逆襲』(朝日出版社)全国ツアー中の内沼さんがトークで来てくれたなら・・と、連絡をとりました。すぐに快託いただきトークイベントとご著書や文庫本葉書を販売、絵本のよみきかせ本屋を無事に終了できたのでした。
 そして、春から夏にかけてはアリス館協力の写真絵本展や並河進さんの詩展。秋には、版元協力で『きみの町で』(重松清著、ミロコマチコ絵、朝日出版社刊)の原画展を開くことになりました。展示期間中には「ミチシオ祭」でトークイベントへ参加した女性や海辺で再会できたサークルの皆さんもかけつけてくれて、またひとつ、自分の中の小さな引き出しが開いた音が聞こえました。


 かつて、当店でこんな光景をみかけました。とても悲しい出来事に遭遇した子が、毎日学校が終わると店にやってきては、漫画に読みふけっていました。そして、夕方5時のチャイムが鳴ると帰っていきました。やがてその子の行動は、きっちり1カ月で終わりました。ミシマ社からもうすぐ発刊する10代におすすめする本『THE BOOKS 2』に、前述の子の姿が思い浮かび、ほかにもこれまで関わってきた子たちにおすすめしたい本を提案しました。本や本のある場所のチカラで、先人が切り拓いてきたチカラもつなげていきたい。そう思います。

 イハラ・ハートショップという名前の本屋は、今年で20年。人間でいえば二十歳(はたち)。
 まだまだ若輩者ですが、どうぞよろしくお願いいたします。

(イハラ・ハートショップ 井原万見子)





イハラ・ハートショップ

〒644-1231
和歌山県日高郡日高川町初湯川213-299
電話FAX:0738-57-0086
営業時間:12:00-17:00
定休日等はこちらをご覧ください

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