本屋さん発!


 京都市左京区・北白川の名物書店・ガケ書房が移転する。それも、「ホホホ座」に名前を変えて。

 店主である山下賢二さんがガケ書房を構えたのが、2004年の2月13日(金)。ちょうどこの2月で創業11年になります。新刊書籍だけではなく、CDや古書、リトルプレスや雑貨などを幅広く扱うガケ書房は、左京区カルチャーの発信地として長く愛されてきました(ガケ書房を開くまでの話や、どういう書店か、というお話はこちらをどうぞ)。
 そんな丸11年の2月13日(金)、ガケ書房は「ガケ書房」ではなくなります。
 でも、完璧になくなってしまうわけではありません。名前を「ホホホ座」に変えて、浄土寺に移転するのです。その移動距離、わずか1km弱。でも、いったいどうして、そんなことを?
 閉店まで1週間を切ったある日、ミシマ社京都オフィスに風のように現れた山下さんに、直接聞いてみました。

(文と写真:新居未希)

第46回 番外編 ガケ書房・山下賢二さん

2015.02.12更新

自分のフンドシでご飯を食べたい

 そもそもどうして、「ガケ書房」をやめて「ホホホ座」にしよう、となったのでしょうか。そう単刀直入に聞いてみると、「それは、本を作ってしまったからですね〜」と山下さんは言いました。

『わたしがカフェをはじめた日。』ホホホ座(ガケ書房)

「2014年8月に、ホホホ座名義で『わたしがカフェをはじめた日。』という本を作りました。これを作ったことによって、ホホホ座という方向性がはっきり見えたんです。それで、もうこっちでやっていきたいなあと思って。売り手ではなくて、作り手側になろうと。
 まあガケ書房を始める前はもともと編集をしていたので、作り手側に戻っただけなんやけどね」

「え、なんの編集をしてたかって? 下っ端で、雑誌とか作ったりしてました。あとは友人と『ハイキーン』っていう雑誌を作ったり。そのときの名義がガケ書房やったんですよね。それからだいたい20年が経って、今年で僕も42歳。20年でひと回りしたということやね」

 作り手と売り手はやっぱり違いますか、と聞くと、「歯痒いね、やっぱり売り手は」と山下さん。

「それぞれ個人が持っている資質があると思うけれど、僕はどっちかと言ったら自分でやりたいほうやってんな、と再確認させられた。あと具体的にいうと、やっぱり自分のフンドシでご飯を食べたい、というのがあって。
 言い方は悪いけれど、いまは人のフンドシでご飯を食べてさせてもらってる、という感じやから......。そうじゃなくて、自分のフンドシで堂々とご飯を食べたいな、と思ったんですよね」

移転先には持っていけないものも。入り口の壁に描かれたモグラ(ミロコマチコ作)もそのひとつ。



俺を見てくれ〜〜!の象徴があのクルマ

 ホホホ座は、山下さんとコトバヨネット(古書や雑貨の販売、webデザインなどをおこなう)の松本さんと早川さん、100000t(古書店)の加地さんのユニットです。このホホホ座は、どういう流れで結成されたのでしょうか?

「いまから2年前に、松本さんと加地くんという、個人店の店主たち3人で飲みながら傷の舐め合いをしてたんです(笑)。そしたらそのうち『3人でなんかやろか』という話になって。その場でホホホ座という名前も決めてしまったんですよ。でも酒場のノリやし、そのときで一回話は流れたはずやった。
 やけど、しばらくしてからあるカフェの店長さんから、僕に『2階のギャラリーで展示会をしてほしい』と言われて。展示って言われてもとくに何か作品を作ったりしているわけやないから、1階のカフェに来た人がなんか喜ぶもん作ろかな、じゃあカフェの本作ろ、と思ったんです。取材や製本というその本ができるまでの工程を展示しよう。最後にその本を置いて、実際に買って帰れるようにしよう、と」

「そうして最初はひとりでやってるうちに、松本さんが一緒にやりたいって言ってくれて、2人で動くようになりました。
 加地くんも制作にはまったく関わってないんやけど、電気グルーヴのピエール瀧みたいな役割でメンバーに加わってもらって(笑)。そして、早川さんという技術者をスカウトして、よしできた、と」

 展示をやってくれと頼まれるのもそうだと思うんですが、なんかいろいろ舞い込んできますよね。ガケ書房にも、山下さんのところにも。

「なんでも、はいと言うてしまうからでしょうね。でもそうやって、ガケ書房は11年間続いてきたから。自分発の企画なんて創業して最初の半年くらいしかなくて、受け身、受け身でやってきました(笑)。自分から働きかけたことなんてほんとになかったもんな。舞い込んできた話をいかにガケ書房風味に料理するかということでしたね」

 そもそもガケ書房を作った当初は、「こんな本屋にしよう!」というようなビジョンは、明確にお持ちだったんでしょうか。

「最初はもう、『どうだ!俺を見ろ!』みたいな感じでした(笑)。それの名残が、あのクルマが突っ込んだ外観なんです。
 自分のことばっかりしゃべる、やたらとアツい奴っているでしょう。僕、それだったんですよ。何かを始めるとき、人ってすごく気負いがちだけれど、例に漏れず僕も気負ってしまって『俺〜〜〜!俺を見てくれ〜〜!』みたいな感じやったの。やからもう最近はあのクルマを見るのが本当に恥ずかしくて、辛くって(笑)」

こちらがその突っ込んだクルマ。

「けど対話と一緒で、相手のこと全然聞かんと自分のことばっかりアピールするような人って、ダメなんですよ。そこで僕自身一回行き詰まって、お金ないし余裕がなかったんやけれどスタッフを入れて、彼らに客観性を入れてマイルドにしてもらった。それでようやく安定してお客さんも来てくれるようになってきましたね。
 それからはどんどん自分のエゴはなくして、ニーズにいかに応えるか、ということに重きを置いていきました」


ホホホ座は「お土産屋さん」。

 ガケ書房はカルチャーの発信地と呼ばれたりするくらい、いろんなお店があの周辺に集まってきたり、街を作っているような感じがありますよね。

「けれどあそこにガケ書房がないとあかんな、とかいうのは、全然感じないです。そりゃ11年も書店やってたら、いろいろ失望することもあった。友だちでも、やっぱり本当にわかりあえる友だちってひと握りだったりするでしょう。そういう感覚は、そのまま店にも当てはまるのかなという気はしていました。
 でもべつに本屋とか本に関して絶望をしているわけではなくて、違うやり方をプレゼンテーションをしないと、自分も買う人も面白くないんちゃうかなと思ったんですよね」

 ホホホ座は、本屋さんと大きく打ち出すわけではないそうで、なんでもテーマは「浄土寺のお土産やさん」なんだとか。

「ホホホ座は本に限らず、オリジナル商品をどんどん増やしていこうと思ってます。雑貨にお菓子、少しずつ増やしていく。本ももちろん続けるし、店頭に置いてるんやけれど、気持ちとしては『浄土寺地域のオリジナル土産屋』みたいな感じです。京都ではなく、浄土寺。あそこに行ったらホホホ座寄って、あれ買って帰ろう、という感じにしたいなと」

「ほんとうのことを言うと、本屋っていうカテゴリを取っ払ってプレゼンしたほうが、もっと気軽に来れるんじゃないかな、という気持ちがあるんです。本屋というカテゴリを取っ払って、『たまたま本が多い店』という感じにしたいな、と思ってる。あえて本屋と謳わずに、入り口のプレゼンテーションをもっと広げるほうがいいかなと。なにが置いてあっても、お土産に買って帰ってもらえたらいいんです」


 ガケ書房でされていたイベントなどは、今後も近所の安楽寺にて開催するそう。
 明日13日(金)に「ガケ書房」の幕は閉じ、4月1日、新たに「ホホホ座」が誕生する。ガケ書房という名前がなくなることに、「後腐れもなんもない、気持ち良いくらいに全部がスムーズに流れていってるんです」という山下さん。
 13日、ガケ書房は1日中お祭り騒ぎです。私たちも最後のガケ書房を見に行こうと思います。

移転先には持っていけないものその2。いしいしんじさんが、イベントで窓に直接物語を書かれたときのもの。


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●ガケ書房のこれから

「ByeByeガケ書房、Helloホホホ座」
2月13日(金)開店から閉店まで(昼12時~夜22時)入場無料、観覧自由、買物自由
5年ほど前に100部限定でガケ書房山下さんが京都で活躍する音楽家について書いたミニエッセイ集 『京都の音楽家案内』の復刻販売もあります。

「ガケ書房の石を欲しい人、全員集合!」
2月15日(日)午後12時~完全撤収まで
11年間、左京区北白川にそびえ立っておりましたガケ書房の石垣。この日をもって解体します。何の価値があるかわかりませんが、思い出グッズとしてこの石を欲しいという方に差し上げます。

「ガケ書房の遺品展」
場所:prinz1Fカフェギャラリー
3月2日(月)~3月14日(土)11時半~23時
11年間、あらゆる形でガケ書房と関わってきた 様々な作家、アーティスト、ミュージシャンなどが ガケ書房に残していった様々な思い出の遺品を特別展示。その他にも掲載雑誌あれこれ、ガケ書房で使っていたモノ、過去のイベントの一覧やスタッフによる回想記などを一挙公開展示致します。


●ホホホ座のこれから

・オープン 4月1日(水)開店
〒606-8412  京都市左京区浄土寺馬場町71 ハイネストビル1F/2F
詳細はこちらから http://hohohoza.com/

・尾道支店オープン 4月下旬(予定)
〒722-0031 広島県尾道市三軒家町3-26 三軒家アパートメント
詳細はこちらから http://kougame-hohohoza.tumblr.com/
※今後も支店は増えていく、かもしれません。

・出版予定
『わたしがカフェをはじめた日。』普及版 4月1日(水)小学館より発売
昨年発売され2カ月で完売した同書が普及版として小学館から発売。全国の書店で手に入ります。

ほか、ミシマ社とのプロジェクトなど何点かの書籍計画が進行中。
書籍以外にもオリジナルグッズも続々発売します。

(左)子どもに大人気のアンパンマンはBRUTUSの切り抜きらしい。(右)最近話題の「オザケン」シールはレジに貼ってます。


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