本のこぼれ話

6月26日(金)、八重洲ブックセンター本店8階ギャラリーにて、
脱「ひとり勝ち」文明論』刊行記念に、著者の清水浩先生による
『脱「ひとり勝ち」社会の作り方』と題した特別講義が開催されました。

今回のイベントのテーマは、昨今のエネルギー問題に対する根本的な解決方法と、電気自動車についてです。先生の落ち着いた語り口に秘めた静かな熱気が会場を盛り上げ、終了間際まで質疑応答が止まらない非常にエキサイティングな講義となりました。

ここでは、その模様を少しご紹介したいと思います。

第1回 脱「ひとり勝ち」社会の作り方(講義編)

2009.07.06更新

脱「ひとり勝ち」社会って何だろう?

こんばんは、清水と申します。
まずは、先月刊行いたしました『脱「ひとり勝ち」文明論』ですが、装丁と文体が好評です(笑)。
皆さん、ぜひ読んでみて下さい。

さて、私が提唱する、脱「ひとり勝ち」文明というのはどういう意味かといいますと、

『20世紀までの、先進国(世界中の約1割の人たち)にとってだけ裕福な生活が送れる「ひとり勝ち」の世界が終わり、21世紀には世界中の人が同じように豊かな生活ができるような時代になる』

ということです。

太陽電池がエネルギー源として素晴らしいのは、「太陽光」という無限のエネルギーを電気に変えて我々に供給してくれることです。

もし太陽電池を、世界の陸地面積の1.5%、あるいは砂漠の面積の7%に張れば、現在のアメリカ人と同じだけの裕福なエネルギーを、世界中の70億人の人たちが使えるようになります。

エネルギーの本命は、太陽電池で決まりです

では、例えば他のエネルギー源、たとえば風力発電、水力発電、バイオマスエネルギーなどはどうか? と思う人もいらっしゃるでしょう。

確かにこれらの技術もあるんですが、非常に大事なことは、
「一つの社会、一つの時代に、一つの目的をもって生き残る技術は一つしかない」
ということです。この理解がどれだけ早く日本中で進むかどうかが、『脱「ひとり勝ち」文明』が実現する大きなポイントだと思っています。

なぜかと言えば、エネルギーの議論では、今言った4つの技術の他にも、「原子力や火力発電をもっと効率よくすればよいじゃないか」という意見もあり、それぞれにお金を投入していたのでは、いつまでたっても本命である太陽電池が大量に普及する時代にならないからです。

実は、2005年の段階では、世界の半分の太陽電池を日本がつくっていました。日本が太陽電池のトップシェアにいたのです。ところが、今は世界のシェアの10数%に減ってしまいました。
日本でも全体の生産量は増えていますが、ドイツはもっとすごい早さで生産量をのばしていますし、さらに中国はもっと速い速度で生産量をのばしています。

地球全体の温暖化の問題だけを考えるのであれば、どこの国が作ろうと、太陽電池が世界中に広まっていけばいい。
しかし日本がこれからどう世界の中で生き延びていけばよいかを考えた時に、太陽電池はものすごく大きな産業になる可能性が高い。
そこを我々が早く気づいて、どんどん投資をするべきではないだろうか、ということが、私がここで申しあげたいことの大きなポイントの一つです。

温暖化は「人間が贅沢しすぎているから」ではありません

ところで、CO2 はいろんなところから放出されているように思いますけれど、環境問題的には、実はたった4つの排出源からしか出ていないんですね。一つは、焼畑や人々の生活での火の使用。それ以外は、自動車、製鉄、火力発電所、この3つしかありません。

ですから、もし太陽電池で電気をおこし、そのエネルギーで自動車が走るようになる。そして、製鉄や生活に必要な熱を得ることも太陽電池によるエネルギーでやるようになれば、温暖化の問題は単純に解決できることなんです。

よく温暖化の議論で言われるのが「人間が贅沢しすぎるからだ」というモラルの問題です。あるいは、「人間の技術が進みすぎたことで温暖化が進むんだ」というような議論がありますが、そんなことはありません。では何が問題なのか。「1800年代に生まれた技術を今でも使い続けていること」自体が問題なんです。

それならば、「その技術はもう使わない時代を早く実現しようじゃないか」というのが、我々がやりたいと思っていることなんですね。そのシンボルとなるのが、この本の中で取り上げている電気自動車なのです。

電気自動車は、まだ普及はしていませんが、技術的にはあと少しの時間で普及できる時代になっています。
それは、良い電池(リチウムイオン電池)、モーター用の良い磁石(ネオジウム-鉄磁石)、インバーター(車の速度をかえるもの)に使われているトランジスタに良いものがでてきたからです。

リチウムイオン電池とネオジウム-鉄磁石は、日本の発明です。そして、インバーター用の非常に強いパワーのトランジスタ、これはアメリカの発明ですけれど、良い性能のものをつくれるのはやはり日本のものです。ということで、電気自動車の基本技術は日本の技術なんですね。

電気自動車はガソリン車よりすぐれもの?

今までの電気自動車というのは、ガソリン自動車のボディをそのまま使って、エンジンの代わりにモーターと電池を載せた車でした。

ですが、ガソリン自動車というのは、ガソリンとエンジンを載せるために都合よく設計されています。そのボディをもってきて、電気自動車用のパーツを載せたとしても、ガソリン自動車より性能が良くなることは決してないんですね。

そこで、現時点で行きついた、電気自動車の特徴をいうと、

・ モーターは車輪の中に入っている。
・ 電池は床下に強いフレーム構造を作ってその中の空いたスペースに置く。
・ 車輪の中に一つずつモーターを入れて、小さな車輪を8つつけた方が、大きな車輪が4つついているよりも、はるかに合理的。

というものになります。ここに到るまで、8台の試作を経験してきた結果、この形に到達しました。そしてある段階で、ガソリン自動車並の性能は確保できました。

では、それ以上に、お客さまが買いたくなるためにはどうすればいいか。
そのためには、「今までのガソリン自動車よりも良い」ということがポイントになっていきます。
そこで、性能面でいうと、私は人が車に求めるものは「加速感」「広さ」「乗り心地」の3つに集約されると考えました。

この3つの価値と値段を比較して、我々は車を買っているんですね。ということで、もし電気自動車を普及させたいのなら、この3つの価値がガソリン自動車以上になれば良いんです。

「加速力」でポルシェを超えました

我々が開発してきた電気自動車「エリーカ」は、車輪にモーターを入れて、床下に電池とインバーターが入っています。車輪も小さくして8つにしました。
その為、床から上のスペースがすべて車内のスペースとして使えるようになり、非常に広くなるんです。

そして、エリーカは最高速度400kmを狙って作っています。なぜ、時速400kmなんていう馬鹿げたことをやろうとしたのかというと、新しい乗り物を見た時、多くの人が最初にする質問は最高速度だからです。

飛行機や船、新幹線の新しいものを見たら「これは最高速度何km?」という質問を必ずされるんですね。

そして「最高速度がものすごく速い電気自動車が出てきた」ということがニュースになれば、電気自動車に対する世の中の見方は一変するだろう、という狙いがあって、最高速度を追求していきました。

加速度も、スポーツカーの中では最も速い車種の一つ、ポルシェの911ターボを超えています。

ギアチェンジなしで、低速から高速まで同じ加速力で加速していきます。この低速から高速まで同じ加速力で加速していくというのが超気持ちいいんですね。私の研究室に来られて、この車に4秒乗っていただくと、大体人生観が変わります(笑) 

その他、モーター出力は640kWあります。馬力にすると約800馬力。これは普通の車の約5倍です。F1の車でも700馬力くらいですから800馬力というのは、ガソリンカーではものすごく大変なことです。でも、電気で動かすとなんとも簡単にできてしまいます。

最大加速度は0.68Gになります。ものが落ちていく加速度は1Gです。それの0.68倍ということですから、ものが落ちるスピードに近いような速さで加速するということです。

そして、1回30分の充電で300km走れます。しかし今ではさらに技術が向上していますので、次にこれと同じタイプの車を作ったら、1回5分の充電で、走行距離450kmくらいになるでしょう。

乗り心地も8輪のタイヤがありますので、とても安定していて気持ちよいです。

わずか「7年」で世の中は変わる

いろいろ過去の結果を見てみますと、世の中になかった技術がその社会に出てきて普及するまでには20年かかりますが、今まであった技術が次の技術に置きかわる(白黒テレビ→カラーテレビ、レコード→CD、カメラ→デジカメ)時には、わずか7年しか時間がかかっていないんですね。 

そういうわけで、もう2、3年頑張って、日本中が太陽電池でいくことを決心すれば、3年後くらいには産業化されて、それから7年でほとんどの電気が太陽電池で発電される時代になることが現実となります。

電気自動車も誰かが世界ではじめて20万台つくって、それが商業的に成功すれば、それからわずか7年でガソリン自動車は消えるということになります。
ですから、いったん壁を越えれば、非常に速い変化が世の中で起こっていきます。

自動車産業は今、電気自動車に対してはそんなにポジティブではありません。それはなぜかというと、過去の蓄積をかなり捨てなくてはいけないからです。

しかし、現実には、例えばレコードからCDに変わった時、市場は約3倍になりました。カメラもデジカメになって3倍ほど市場が増えました。実は、新しい産業が生まれてきたときは、必ずマーケットが広がるんですね。

ですから、これまでの産業にとっても結局はメリットになるんです。
そういう意味でも、早く原理の異なる新しい技術に置きかわることが大事だと思っています。

そして、目指すところは先進国の人間だけではなくて、70億人の世界中の人が等しく豊かな生活が送れる社会をつくるのが21世紀なんだというのがここでの結論ということにしたいと考えています。

長い時間ありがとうございました。

(次回は、「脱『ひとり勝ち』社会の作り方・質疑応答編」を掲載いたします)

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清水浩先生

1947年宮城県生まれ。東北大学工学部博士課程修了。国立公害研究所、アメリカ・コロラド州立大学留学。国立公害研究所地域計画研究所室長。国立環境研究所地域環境研究グループ総合研究官などを経て、現在、慶応義塾大学環境情報学部教授。30年間、電気自動車の開発に従事。2004年、ポルシェ並みの加速力をもつ「未来のクルマ」Eliica(エリーカ)を誕生させる。

著書に、『電気自動車のすべて』(日刊工業新聞社)、『地球を救うエコ・ビジネス100のチャンス』(にっかん書房)、『温暖化防止のために 一科学者からのアル・ゴア氏への提言』(ランダムハウス講談社)、共著に『爆笑問題のニッポンの教養 教授が造ったスーパーカー』(講談社)などがある。

現在、最も注目される科学技術者のひとり。

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