本のこぼれ話

前週の「講義編」につづき、6月26日(金)八重洲ブックセンターさんで行われた『脱「ひとり勝ち」文明論』刊行記念イベントのレポート後編です。 今回は、清水浩先生とお客さまとの質疑応答編。 どんなお話が飛び交ったのでしょう?

第2回 脱「ひとり勝ち」社会の作り方(質疑応答編)

2009.07.13更新

これから自動車はどうなる?

―― 例えば、日立とか川崎重工とかは鉄道の車両などをつくっていますよね。だから、モーターの技術はけっこういいものをもってると思うんですよ。それで、これからは車のメーカー以外のところが車をつくる可能性も十分に考えられると思うんですね。
 その辺の期待や可能性について差し支えない範囲でお伺いしたいんですけど。

清水産業が大きく展開する場合にはいろいろな人にチャンスが出てきます。ですから、今おっしゃったように、電機メーカーが自動車メーカーになるという選択肢もあります。
 大事なことは、それによって産業規模やマーケットが非常に大きくなるので、旧来の自動車メーカーが衰退しても、だれかが路頭に迷うということはあまり考えなくてもよいのではないか、ということです。
 誰にでもチャンスがあるというふうに思っています。

―― 車の魅力として「加速感」「乗り心地」「広さ」とおっしゃっていましたが、加速感が好きな人は、意外と心地よさとは逆のもの、つまり、コクピットみたいに窮屈な乗り心地や、あるいは、むしろ操縦が難しいほど征服欲が強くなるといったことに魅力を感じる可能性があると思うんですね。
 そう考えたとき、この三本軸は矛盾する可能性があるような気がします。そこで、いわゆる商品化というときは、人間の欲望みたいなものに対してはどのように向かい合っていくとお考えでしょうか?

清水音の大きな車が、ひとつわかりやすい例かと思います。音が大きな車というのはエンジンにマフラーをつけずに、そのまま外に出すのでそれだけ加速が良くなるんですね。
 で、人間というのは、音の大きさだけでなく、結局は加速が好きなんです。
 ギアシフトをやるのも加速が好きだからなんです。
 よくよく考えてみると、単純に人間は加速が好きなだけなんですね。
 車に乗るまでは皆さんそういった疑問をおっしゃるんですが、実際に、この車で4秒間、加速を体験すると今の疑問はあっという間に飛んでしまいます。
 というのは、いま、車は何に乗っていらっしゃいますか?

―― BMWです。

清水なぜBMWを選んだのですか? 

―― デザイン性ですね。私の好きなのは、全体のデザイン性です。

清水プラスデザインというのはもちろんのことですが、なぜBMWかというと、軽自動車の加速じゃ嫌だという気持ちがあるからです。軽自動車の広さ、乗り心地じゃものたりないと。だから、軽自動車の10倍もする自動車に乗っている、ということで、結局ここに落ち着くんですね。

―― (会場 笑)

清水BMWに乗ってると聞いて私もほっとしましたよ(笑)。軽自動車に乗ってると言われたらあまりこの論理は正しくなくなってしまうんですけども(笑)
 BMWで、やっぱり最初はアクセルをグッと踏みたいじゃないですか。それって、加速感が好きだからなんです。それで今度はもっとすごいやつがくるんだというふうに思って下さい。

まだまだ広がる「太陽電池マーケット」

―― 先生のお話を伺っていますと、いいことずくめで、タレントでいえば木村拓哉と福山雅治みたいな感じがします。ですが、この世論を広めていくためには、ひねくれ者がたくさんいますので、何かしらウィークポイントがあるんじゃなかろうかという方が、説得力があるような気がするんですが、その辺りはいかがなんでしょうか?

清水私の感覚としては、普及する商品というものは、結局いいものが普及すると考えています。よく欠点はないんですか? と聞かれるんですけど、欠点がないと思っているから人生を懸けてやっているんだということです。


―― 先日、グーグルで「エリーカ」をビデオ検索したところ10件でした。アルファベットの「eliica」で検索しても100件くらいしかサーチできませんでした。これからは、メディアにもっと露出していけば良いんじゃないかと思われますが、今後どうされて行こうと思っていらっしゃいますか?

清水メディアへの露出が少ないのではないか、ということについてはその通りかもしれません。ですので、例えばこのような本という形で少しずつ出していきたいなと思っています。そういう意味で、私なりになんとか努力をして広めていきたいというのはあります。

―― いまは、トヨタのプリウスといったハイブリッド車が好調ということになっています。他にも、三菱自動車アイミーブ(電気自動車)なんかが今年の夏発売されます。そこで、こういった今までのハイブリッド車ですとか、アイミーブをどうやって出し抜こうと思っていらっしゃいますか?

清水毎日、ハイブリッド車やアイミーブを出し抜くために、どうしたらいいかということを考えています。そのためには次の新しい車をつくって、また驚かせるというのが一番いいと思っています。
 たくさんの方に、「エリーカはすごい」とご理解をいただくということで、それもできるということを期待しています。


―― 僕はまったく環境の専門家ではないので、風力、原子力、バイオといろんな選択肢がある中で、まだ実際にはどれが良いかわかっていません。そこでお聞きしたいのは、本音ベースで研究者や学者、関係者の間で「太陽電池が最も有効だろう。これで間違いないだろう」というのは共有されているものなんでしょうか? 

清水日本人は多少ひねくれ者で、こないだ太陽電池の専門家の人と話をして、同じような話をしたら「それは困る」と。そんなに早く普及させたら俺の仕事がなくなるということを言っていました。そういうことなので、まだ一枚岩ではないというのが本音です。
 ですが「いや、太陽電池って本当に良いものなんだ」ということを多くの方が理解すれば、そっちの方向に世論は向いて行くと考えています。


―― 僕はいま就職活動中です。先生の話を聞いて、久しぶりに「環境」ということで高揚感を感じ、この業界で働いてみたいと思いはじめているのですが、全くの門外漢から「これからは太陽電池がいける」と踏んで、この業界に入るための入口ってどこにあるんでしょうか? 

清水いま日本で生産されている太陽電池の量は、日本で必要な量のわずか1万分の1なんです。ですから、それだけのマーケットがまだあります。
 さらに、世界的に見ると、もう1桁、2桁大きなマーケットがあります。
 じゃあ、その中でどの分野に新しい入り口があり得るかと言いますと、太陽電池のセルをつくる分野、それをモジュールにする分野、それを運んで建物あるいは砂漠に張るという分野、電気を起こして送電する分野、といったように、いろいろな仕事が出てきます。
 さらにこれからは、日本でつくられた太陽電池をどうやって発展途上国に根付かせていくのかということも、大きなビジネスのチャンスだと思います。

電気自動車が社会を変える

―― 道を見ていると、世の中の半分以上の車はもしかしたら貨物自動車なんじゃないか、と思うんですね。それで、トラックなど貨物自動車も電気自動車で実現することは可能なんでしょうか?

清水可能です。そのこともこの『脱「ひとり勝ち」文明論』に書いてありますが、私は、車はこれから2つ大きな変化をすると思っています。
 1つは車が電気自動車になるという単純な変化ですね。
 私どもの概念で車をつくると車高が超低い車になります。ということは、荷物がたくさん積めるようになるわけです。それと、燃料費が約10分の1になります。 
 いま車から出ているCO2の6割が乗用車で、残りの4割はバスとトラックです。ですから、バスとトラックも電気自動車に変わっていきます。

―― 少し調べたんですが、トラックくらい大きなものを動かそうとするとリチウム電池の重さが非常にネックになってしまうんじゃないかと思うんですが。

清水この質問に答える例として、携帯電話が出てきたとき、電話の機能だけかと思っていたら、そのうちいろんな機能がついてきましたね。1つの変化が起こるとあらゆる変化が起こるのが電子関係の技術のポイントです。
 それで、車が電気に変わると、そのうち自動運転という時代がやってきます。
 そうなると、物流が圧倒的に変わっていきます。いまは大きなトラックでものを運んでいますが、それは、運送会社の支出の中の6割がドライバーの人件費だからなんですね。ですから、一回でたくさん運ばざるを得ないんです。
 ですが、皆さんの身のまわりを見ていただくと、畳一畳のスペースに入らないものってほとんどないですよね。そうなると、将来のトラックというのはせいぜい畳一畳サイズのトラック。トラックとも言えない箱が自動的に動いていくというようなものになっていきます。
 ということで、いろいろなトラック、バスというのも大きく変化していくと思っています。

―― 皆さま、たくさんのご質問をありがとうございました。質問がつきないんですが、時間がまいりましたので、これで本日は終了させていただきたいと思います。清水先生本当にありがとうございました。

参加者のアンケートから

終了後、参加者の方々から多くの感想を頂戴いたしました。 その一部をご紹介いたします。

「非常にわかりやすい説明でした。理系オンチで車にもほとんど詳しくない私でしたが、清水先生のお人柄から伝わってくる優しい話し方に非常に興味深く集中してお話を聴くことができました。日本の未来のため、全世界の幸福のためにも電気自動車がはやく普及する日を願っています」(女性)

「久しぶりに前向きで確度の高い未来が見える話が聞けて、楽しい気分になりました。ロジカルな流れも非常に頭に入りやすかったです。今日のお話、広めていきたいと思います」(男性)

「BtoBの仕事をしていますが、太陽電池、電気自動車に関わるビジネスを見つけたい気持ちが生じました。エリーカ、乗ってみたいです」(男性)

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清水浩先生

1947年宮城県生まれ。東北大学工学部博士課程修了。国立公害研究所、アメリカ・コロラド州立大学留学。国立公害研究所地域計画研究所室長。国立環境研究所地域環境研究グループ総合研究官などを経て、現在、慶応義塾大学環境情報学部教授。30年間、電気自動車の開発に従事。2004年、ポルシェ並みの加速力をもつ「未来のクルマ」Eliica(エリーカ)を誕生させる。 著書に、『電気自動車のすべて』(日刊工業新聞社)、『地球を救うエコ・ビジネス100のチャンス』(にっかん書房)、『温暖化防止のために 一科学者からのアル・ゴア氏への提言』(ランダムハウス講談社)、共著に『爆笑問題のニッポンの教養 教授が造ったスーパーカー』(講談社)などがある。 現在、最も注目される科学技術者のひとり。

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