本のこぼれ話

本のこぼれ話 大原健一郎さん

この度、ミシマ社の編集部がプロデュースするビジネス書専門の出版チーム「ビジパブ」がリニューアルして、第一弾『語学力ゼロから「世界で成功する!」人になる グローバル・コミュニケーター入門』が発行されました。
そこで、今回はロゴや装丁など「ビジパブ」ブランド全体のデザインを担当されたデザイナーさん、NIGNの大原健一郎さんにお話をうかがいました。本に隠された秘密や、大原さん自身の非言語コミュニケーション体験を聞いてきました!   
(聞き手:松井真平)

第6回 語学力ゼロから「世界で成功する!」人になる

2010.01.25更新

カバーをとったとき、真の姿が現われる

―― 今日はよろしくお願いいたします。ではまず、ビジパブのリニューアルデザインを担当することになった経緯からお話しいただけますか?

大原経緯はですね、とある雑誌のなかでミシマ社さんを知って、とにかく面白そうな出版社だから何か仕事で関わってみたい! と僕が手紙とポートフォリオをお送りしたんですね。 そしたらそれを見た三島さんから、会いたいとご連絡頂いて、数日後にお会いしました。

その初めて会ったときに、「実はビジパブというものをやっていて、過去何冊か出しているけど統一感がない。そこで、リニューアルしたいと思っているんですよ」という感じの話が出たんですね。 ただ、僕はその時はちょっとした雑談だと思って、「そうですか」という感じで聞いていたんですね。けど、それから2カ月くらいだったのかな。「本当にこないだの話の件なんですが・・・」みたいな感じで話をいただきまして。

―― なるほど。そのときはどんなお気持ちでしたか?

大原「なぜ僕?!」と。びっくりしましたけどすごく嬉しかったですね。それほど話してないのに「どうしてだろうか」と不思議な感じでね。

―― それまで、ミシマ社の本のデザインに関して、気になったところはありましたか。

大原もちろん見てました。寄藤(文平)さんがデザインされてる本が多いじゃないですか。やっぱり、中身をきちっと伝えられて、しかもミシマ社のキャラクター(社風)にあったところでデザイナーを選ばれているところは共感していました。

―― なるほど。では、実際ビジパブのデザインを担当されることになったとき、全体を通したデザインのコンセプトはどう考えていかれたのですか?

本のこぼれ話 大原健一郎さん

大原実は僕、ビジネス書にはそんなになじみがなかったので、いろいろ調べてみたんですね。そしたらまぁ、印象として情報量が過剰だなと思ったんです。例えば、文字以外の装飾要素(記号・罫・色ベタ・アミがけ)が多いとか、使われている書体の種類が多すぎて構造が複雑に見えるとか。

で、普段自分の思考の癖として、まず取っ払って行こうとする傾向があるんですね。まずいろんなものをなくしてから、一番必要な要素を構成して行くというか、どうしても脳みそがそういう動きをしてしまうんです。そこで、じゃぁ、ビジパブもそういう思考でビジネス書を捉えなおしたらどうかな、というところから考えていきました。

フリークライミングのボルダリング(2mから4m程度の岩や石を確保無しで登るスポーツ)でたとえると、ホールド(手でつかむところ)が無造作に目の前にたくさんありすぎると、目移りして逆に登りづらい。実際は色や番号にあわせて登って行くんですけど、そんなに煩わしくしないで、程よい場所にホールドがある状態がいいなと。なので、根幹には過不足のないデザインを目指しています。

―― なるほど。

大原それで、当初はどんどんなくしていこうと思っていたので、カバーとか帯もなくしてしまおうと思ったんですね。けど、カバーをなくすのは流通の関係上ちょっとできなくて、それで帯をなくしてカバーと帯が一緒になりました。

―― なるほどなるほど。だからこういう表紙になってるんですね。 ところで、この本は横組ですよね。横組を選んだ理由はなんだったんですか?

大原これは単純に英語がたくさん出てくるからです。文章としても出てくるし。だから、どう考えてもやっぱり横組かなと。

―― じゃぁ、次の本が別の内容だったら縦組になる可能性があると。

大原はい。実際、次の本は縦組です。その次にくるものもその本のキャラクターに合わせて、本文の書体も文字の大きさも変化していきます。

―― そこは統一しないんですね。

大原しないです。一冊一冊のキャラクターにあわせて、全く違った印象になってもいいくらいで考えています。ただ、唯一それを結ぶ要素として何があるかというと、このカバーをとった状態。これがシリーズとして唯一統一されていくものになっています。

具体的に言うと、その本のキャラクター合った一番印象的な色を表紙と裏表紙に配し、そこにのせる文字の書体と大きさなどのルールは統一していきます。背は可読性を考慮して、白地にスミ文字。

―― なるほど。カバーをとった内側が揃っているんですね。

本のこぼれ話 大原健一郎さん

大原要は、カバーは本当にカバー。ちらし。広告なんですね。ですから読者の手元ではカバーを外した状態で使って頂くことを想定して、表紙にはPP加工し必要な強度を持たせています。 そういう考え方であればかなりフレキシブルで自由度を持ったカバーをつくれるし、本体は本体で統一して行こうという意思もきちんと継いで行けるかなと。

―― なんかしっくりきますね。この本を読まれてどんな感想を持たれましたか?

大原実は、このタイトル聞いただけではあまりピンとこなかったんですよ。でも、読んでみたら実際にその国の文化に触れなければ分からないようなエピソードがたくさん載ってたので、非常に参考になりました。 語学ができなくても、好かれる人っているじゃないですか。そういうのは、やっぱり語学力ではないところで繋がっているんだろうなと。

―― この本を読んで、新しい発見はありましたか?

大原新しい発見というか、なんか納得しましたね。それはやっぱり、どんなコミュニケーションも、人に何かしら伝えようとするところで一歩踏み込む勇気というか、パンツを脱ぐ勇気というかね、そういうものが多かれ少なかれ必要だと普段から思ってるんですよ。それの、様々なバリエーションが載ってる感じがしました。

たとえば、冒頭1日目の課題1「間違いを肯定する」とか。これってもう、語学力どうとか関係ないじゃないですか。心がけというか。「パンツを脱げ」とは言わないまでも、「気にしないでどんどん行け」みたいな。いや、もっといろいろと役に立つ情報が本書には書かれてますけど、そういうのが「あ、いいな」と思いましたね。

―― 大原さんご自身の、「語学力ゼロから」っていう体験はありますか?

大原7年くらい前、かみさんと1カ月間ヨーロッパをまわったんですよ。僕も英語しゃべれないんですけど、かみさんは僕に輪をかけてしゃべれなくて。だけど、たまたま行った先がまず英語圏ではなかったので、すこしくらい間違った英語でもええわ、恥ずかしくない、と思ってけっこう積極的に行動できました。

―― なるほど。

本のこぼれ話 大原健一郎さん

大原そのとき、フランスのパブでは酔っぱらいたちに絡まれたんですね。絡まれたと言っても、日本人だと言ったら「俺は昔、日本に住んだことがある」とかね。いろいろ日本での思い出話を一方的にしてくれるんですけど、あまり何言ってるかわからない状態ですごい時間付き合わされたりとかね(笑)。 断って帰ることができなくて・・・。お酒が入るといろいろありますよね。

―― 確かに、お酒は語学力を超えるところがありますね(笑)。

大原そうなんですよね。あとお酒が入ったほうが言葉って出てくるところもありますもんね。それ不思議ですよね。

メッセージは宇宙人に向けて

―― では、大原さんは、語学を使わないで人とのコミュニケーションをとろうとするときって、何が必要だと思いますか。

大原なんでしょうね。まずベーシックなところでの、例えば、旅行とか絵画とか共通の言葉を見つけることですかね。ここにも出てたじゃないですか。 講師が、何度英語で質問しても日本語でしか答えない人の例。 あれ見てると僕、なんか恥ずかしくなるんですよね。「そこまでされなあかんの?」と。

―― 向こうに気を使われないといけないという。

大原そうそう。その気の使われ方が、ものすごく「あるある」っていう。 自分のすごくわがままになってる状態に対して、相手が2歩も3歩も先を読んで、そこをフォローしてくれている状態を見てる感じ。

あっぷあっぷになってる感じを見て、共通の何かを探してくれる外国人のコミュニケーション能力に気づかずに、「自分のわかる話題になったら、急にちょっと心を許して話す人」みたいな。そういう感じがなんか、すごく恥ずかしいんだけどすごく当たってるなというか。

―― ははは(笑)。

大原後でそういうやりとりをしている自分の姿を映像で見せられたりとか、文字で起こされたりすると、多分相当恥ずかしいでしょう。

―― 例えば、自分がデザインしたものに対して、後で恥ずかしいなと思うものはありますか?

大原それはもう、めちゃくちゃありますよね。絶対にそういうことがないように、今度こそは今度こそはと思うんですけど、やっぱりあります。それでもだいぶ減りましたけどね。でも、それが減ったのがいいことなのかどうかというのも、逆に非常に悩ましいところですけど。

―― というのは?

大原僕の場合、恥ずかしい部分=生理なんですね。知識や技術不足といった未熟さによる恥ずかしさとは別なところで、フラットでつまらないものになってはいないか? というような気持ちは常にあります。

―― 僭越ながら、大原さんのデザインは、幾何学的な模様を使いつつも、物質感が出ているなと思うんですね。

本のこぼれ話 大原健一郎さん

大原そこはやっぱり表現しようと思っているところですね。 なので、今回のカバーで言うと使ってる色はただのベタ塗りではないんですよ。新聞とかを見ると、見出しのところに必ず何かしらの地紋が入っているんです。気をつけてみないと分からないと思うんですけど、銀色の部分も網がかかってる。

新聞は線数があらいんですけど、すこし離れてみると濃いスミ網に見えるじゃないですか。そういう新聞の見出し的な要素とか、そういう意味合いで入れてみたんですね。こうすることで立体感が出たり、インクはやっぱりどうしてもすべて均一にいくわけではないので、何かしら物質として奥行きが出ると言うかね。

―― なるほどなるほど。

大原それは、デザインする際に密かに、誰にもわからないところで仕込んでる部分の一部ですけどね。宇宙人との交信みたいな感じで、そういうところに、ちょっと着目してくれる人ももしかしたらいるかもしれないという感じで。

―― 宇宙人との交信というのは?

大原いるかいないか分からない宇宙人に対して、常にその宇宙人にしかわからない言語のメッセージを送りつづけるというか。 それそのものが主題ではないんですけど、裏側にちょっとだけメッセージを忍ばせるみたいなことですね。

―― そうかそうか。雰囲気ありますもんね。
メッセージで一番強いものは何かというと、メッセージを含んで別の態度で見せられることらしいんですね。だから、直接言わないこと、というのがけっこう強いんだそうです。

大原それをやってほしいのに、やってほしいと言わずにそういう雰囲気を醸しながらイライラした態度をみせるとか、それ一番嫌ですもんね。それ本当にそうですもんね。なるほどな。

―― そんな感じで、物質感がメッセージとして入っているんですね。

大原カバーのデザイン的な物質感もあれば、表紙のピカっとしたPP貼りのシャープな物質感もあるわけですよね。

―― おもしろいですね。では最後に、デザイナーから見て、この本をどういう感じで読んでもらいたいですか。

大原最初に話した、ボルダリングのホールドを少なくしようとしたというのは、受け手の情報量をたくさんつくりたかったからなんですよ。

―― 受け手の情報量というのは?

大原本来、見たり、読んだりするものって、受け手の解釈ではじめて感じるものじゃないですか。だから、こういうふうに読んで、こういう風に感じて下さいよって、そこまでコントロールしてしまうものでは本来ないと思うんですね。ある程度のところまではあると思いますけど。

本のこぼれ話 大原健一郎さん

そういう部分で、あまり装飾を入れたり、導きが多いと読む人の解釈が減る感じがすごくするんですよ。なので、意図してつくった情報量をその人それぞれで拡大解釈したり、そぎ落としたりしながら読んでもらえるといいかなと思いました。

―― そうですね。いろいろな解釈をしてもらいながら、たくさんの人に読んでもらいたいですね。いや、おもしろかったです。今日は本当に長い間ありがとうございました。


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大原健一郎(おおはら・けんいちろう)

1973年兵庫県生まれ アートディレクター/グラフィックデザイナー
工業高校を卒業後、様々な分野の仕事を経験するなか独学でデザインを学び2000年よりフリーランスデザイナーとして活動
2006年11月、(株)ナイン設立
東京TDC、JAGDA会員

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