本のこぼれ話

今回は10月31日に発売した、ミシマ社初の絵本『はやくはやくっていわないで』の
絵を描かれた平澤一平さんにお話を伺いました。
絵本の絵を描かれたのは初めてという平澤さん。
さて、この素敵な絵本は、一体どのようにして生まれたのでしょうか。
制作秘話と平澤さんの世界観のお話を、2回にわたってお届けします。
前編は、平澤さんによるお絵かき教室です!

(聞き手・三島、林)

第10回 はやくはやくっていわないで 平澤一平さん(前編)

2010.11.11更新

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ラフだと思っていたので、ガーッて描きました。

三島今回はありがとうございます。おかげで長く売っていきたい一冊に仕上がりました。

平澤こちらこそ、ありがとうございます。

三島今日は仕掛け屋の林にひとつ、船の描き方を教えていただきたいと思いまして。

よろしくお願いします!

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平澤道具を持ってきたので、出しますね。

えっ! 嬉しい! どんな道具で描かれているのか、すごく興味があったんです。

三島わー、しかもこんなにたくさん。重たかったでしょうに、ありがとうございます。

平澤こういうので描いています。アクリル絵の具と、これ。クレヨンみたいな書き味になるんです。

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このペン! 雑誌で拝見してから、ちいちゃくてよく見えなかったんですけど、気になっていて、もうひとりの仕掛け屋木村と絶対買おう! と話していたところだったんです。間近に見れて、光栄です。

三島サクラソリッドマーカー。へー。

平澤これ、使っていると段々と小さくなっていくんです。

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おっ? あぁー! ダーマトグラフのように、剥いていくんですね。

平澤はい、そうです。描いてみてください。面白いんですよ、クレヨンのようになって。

やわらかいですね。描きやすいです。

平澤世界堂の3階に売っていて、版画のコーナーに置いてあるんです。ほかの色もあるのですが、細いのが黒しかなかったような気がします、たしか。

三島へー、感触いいですね。

平澤描いて5分くらい経つと、ちゃんと乾くんで。

あ、ほんとうだ。描いた直後はにじむのですが、しばらく経つとこすってもつかないですね。・・・木と相性がいいんですかね。

平澤木にもガラスにもなんでも描けるペンみたいで。

すごいですね。

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三島この絵本にも、このペンは使われたんですか?

平澤はい、使いました。色はアクリル絵の具で塗って、黒いところはこのペンです。・・・あとは、ラフって考えていたので、ガーッってあんまり考えないで描きました。

三島そうなんですよね。今回、ラフ案として描いてくださったものが、そのまま本採用になったんですよね。デザイナーの鈴木成一さんのご意見で。

あ、そうなんですね。ではもともとひょっとして、いつも描かれているような木彫りのイラストにされる予定だったのですか?

平澤するのかな、って思ってました。

三島この絵がすでに良かったので、このまま生かそうという話になったんですよね。

実物の絵の大きさも、この絵本の大きさと同じくらいだったんですか?

平澤若干、原画の方が小さいです。B4くらいで描いたんです。

タイトルの手書き文字も、平澤さんですか?

平澤そうです。

三島デザイナーの鈴木成一さんがおっしゃって最終的にこれでいこう、ということになって。

平澤ビックリしましたよ。

深く考えずに、それぞれの船で、それぞれの顔で

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『はやくはやくっていわないで』見開きのラフ

三島この「まっくらで悲しい気持ち」ってページ、このアングルはどうやって出てきたんですか?

平澤感覚的なものだったんですけど、「まっくらで悲しい気持ち」っていう心から、下から見てる感じが浮かんだんです。色彩も暗い感じにしました。下からみたほうが、悲しげかなと思いまして、こんな不思議な構図になりました。

三島悲しい気持ちで描かれたんですか?

平澤悲しい気持ちで描いたかもしれませんね。

三島一つひとつにちゃんと表情があって、そのなんともいえない切ない表情とか、それがグッときますよね。

筆の運びに迷いがなくて、勢いがありますよね。普通はどうしても隅からきれいに、とか、全体にムラなく、などと意識してしまうところを、のびやかに気持ちよく描かれてるので、楽しそうな気持ちが伝わってきます。

平澤深く考えないで描いてもらったらいいと思います。船を描くときも、形にもとらわれずみなさんそれぞれの形にしていただいても、面白いのかなと思います。

なるほど。それぞれの船をつくろうと。

三島そっかそっか。絵本通りの船が答えではない、いろんな船があっていいと。

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平澤はい。

三島そういっていただけると、描こうかなって気になりますね。

平澤そう思ってもらえたら嬉しいですね。描くときはちょっとだけ下書きしてもらっても。

はい。

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平澤で、船の台形の形を描いてもらって、半分より下に赤の線を引いてもらって、あとは顔の四角と煙突部分を描いてもらえれば、あとはスクリューです。で、顔は適当に描いてもらえれば。

三島おぉ! もうできましたね。

平澤で、アクリル絵の具でもなんでもいいので色を塗ると。なければペンや色えんぴつで塗ってもらって。

三島・・・なんか頑固な顔になった!!

あっ、三島さんの顔に似ているかもですね。

三島おもしろいなぁ。

(3人でもくもくと船を描く)

三島・・・楽しいっすね。

平澤そうですか。そう言ってもらえると嬉しいです。

三島あ、全然違いますね。・・・やさしい顔してますよね。

平澤それぞれの顔でいいんです。

三島絵かき歌とか、つくりたいですね。

あっ! いいですね。 

三島最初は台形ですよね。何型って言ったらいいんですかね。

平澤何台形ですかね。小さい子にも描いてもらいたいですね。

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・・・わ、三島さんの船、ひどいですね(笑)。

三島ひどくないよー。おい、なんてこと言うんですか、失礼な。

平澤大好きですよ、ぼく。大好きです。

三島ありがとうございます。平澤さんだけです。

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味がありますよね。だれにも描けない、三島さんの船ですね。私は焦った船くんを描いてみました。

平澤可愛いですね。いいですね。

ありがとうございます。

平澤タコくんやお魚さんも、自由に描いていただければと思います。(サッとタコを描き始める平澤氏)

三島わ、そんな大胆にいきなり描き始めるんですね。

平澤はい、自由です。こんな風に、マジックを2色まぜてもだいじょうぶです。

なるほど。ほしい色がなければ混ぜちゃえばいいんですね。今まであまりやったことがなかったです。

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三島ヒトデに無理やり色塗ってみました。重ね塗り。

意外ときれいですね。

平澤可愛いです。面白いです。

三島ありがとうございます。

平澤何でも自由にやってもらったら、それでいいんですよね。船の気持ちになってもらえば。

つくった全員が、最高の直感でつくった本

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『はやくはやくっていわないで』見開きのラフ

三島平澤さんが絵を描かれるとき、最初に「これ書こう」と考えるよりも、勝手に動き出すって感じですか? 

平澤はい、感覚的ですね。あまり考えてないです。このページの潜水艦のでっかさを比べるときに考えて、あとは考えてないです。半分半分です。

三島この本て、うちにとってもはじめての絵本で、益田ミリさんや平澤さんにとってもそうなんですよね。まずミリさんが詩を思いついて書いて、その言葉にあう絵、ということで平澤さんが絵を描かれて、それをぼくが見た。小さい本とか大人向け、という形ではなくて絵本という形がいいと思って鈴木成一さんにそう伝えたら「それがいい」と。しかもこれをそのまま生かすのがいいんじゃないか、ということで進み、そういう風に全員がはじめての第一印象でつくっていった本、というので、すごい面白い。だからこんな形になったんだろうなって。

平澤そうですよね。

三島第一印象の一番いい最高の直感の積み重ねでできたっていうのが、今回ぼくは本当に絵本の編集はじめてだったので、11年前はじめて本をつくったときの感覚だったんですね。今でしたら例えば四六版の文章の本つくるって言ったら、やっぱりすごく練るんです。もういろんなこれまで読んだ本とかつくってきた本のなかで、こうはどうですかって作家の方と相談したり練りに練る。今回は逆にそこの経験値がゼロだったので、これがいいんじゃないかっていう逆に言ったらヒラメキで勝負するしかなかったんで。例えば絵本の編集者ずっとやっていたらきっと、流行り廃りってあると思うんです。

平澤わかってきそうですよね。

三島たぶんこの5年間で言ったら、例えばキャラクターの見せ方はこんな風なのがいい、とか、わかんないですけど例えば正面に向いた角度の主人公は避けたほうがいいとか、きっとその時代ごとに何か、流行ってあるんでしょうけどぼく全然そういうの知らないんで、「いい!」っていうのをいかに伝えるかだけに集中できたっていうのが、今回編集をやっていてすごい面白かったです。余分な知識がなかったというか、雑音がなかった。だからこそ普通の絵本ではありえない「4色刷りで50ページ」とか。

平澤ビックリされました、何人かに。

三島これがぼくも100冊以上絵本をつくったことのある絵本編集者だったら「絵本てそういうもんじゃなくてね」っていうところから入ると思うんです。「まず半分にして」とかいって。しかも1ページに「だからあのさ」ってこれだけの文章って、実は極めて絵本的じゃないと思うんです。ほかの絵本はもっと文字量あるし。だからそういうこととかもぼくは捕らわれなかったので、ミリさんの詩が良く、平澤さんの絵が良く、実はもうそれだけで完結しているっていう。
ページ数が多くてもいいじゃないか。多いからこそ伝わる作品なんだ、っていう解釈でやって。で、こういう本になったんですよね。

平澤ぼくもやっぱり、ラフ案って考えてたからのびのび描けたし、ぼくにとってもはじめてのことだったから「初心に返った」って気がします。最初の気分になって描いてたというか。同じ意見です。

三島誰かに見せようっていう感じじゃなかったんですよね。

平澤じゃなかったです、最初は。もうガーッて勢いで描いちゃってましたね。「だいじょうぶなのかな」って思いつつ「いいや!」って思いましたね。つくってて楽しかったのもありますし。

最初のミリさんの詩は、ここで切れて次のページにいって・・・といった区切りも、平澤さんが決めて描かれたんですか?

平澤益田さんが「こんな感じかな~」ってラクガキみたいのがあったので、「あ~!」って感じでそれを発展させてました。それはそれで面白かったです。

三島このキャラクターの船は、どちらのアイデアですか?

平澤船は、益田さんの方からです。船って進むからって感じでたしか。・・・覚えてないんですけど、船が可愛いかなって。前から船とか潜水艦みたいなものは描いていたのもあったので、船とかどう? って言われたと思います。

三島これが絶妙ですよね。船、っていうのがいいっすよね。

なんともいえない表情もいいですよね。

平澤さみしい感じですよね。ある種嬉しそうでもあるし・・・。不思議な感じの子ですよね。

三島いろんな表情に見てとれますよね。奥深いです。

今度さっそく読み聞かせ会も決まったので、実際子どもたちがどんな反応してくれるか楽しみですね。

平澤早速ですか。

はい、紀伊國屋書店新宿南店2階で11月13日(土)の15時からと、ブックファースト新宿店で翌週20日(土)14時からです! 

三島子どもたちの反応、見てみたいですね。

平澤楽しみですね。ぼくも行きます!


*****ここで再度『はやくはやくっていわないで』の読み聞かせ情報です*****

●紀伊國屋書店新宿南店2階 11月13日(土)の15:00~
●ブックファースト新宿店で翌週20日(土)14:00~

そのほか本屋さんや図書館、近所のお母さんたちなど、『はやくはやくっていわないで』を読み聞かせてくださった方からの感想、ぜひお聞かせくださいませ。待ってます!

次回はいよいよ、平澤さんワールドに迫ります!

お便りはこちら

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平澤一平(ひらさわ・いっぺい)

秋田生まれ。中央美術学園卒。木彫り作品を主体とするイラストレーター。東京ガスカレンダーコンペグランプリ受賞。第1回TIS公募大賞受賞。
第9回イラストレーション誌チョイス大賞にて大賞受賞。

Tokyo Illustrators Society


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