本のこぼれ話

『書いて生きていく プロ文章論』の発刊記念イベント

『書いて生きていく プロ文章論』


「賢く見せようとしていませんか?」
「『文章』を書こうとしていませんか?」
「形容詞を多用していませんか?」

(『書いて生きていく プロ文章論』より)


2010年12月14日、ジュンク堂書店 新宿店で行われた『書いて生きていく プロ文章論』の発刊記念トークイベント。

今日は、著者のライター・上阪徹氏と、『R25』エグゼクティブプロデューサー・藤井大輔氏の対談録、後編です。

前回に引き続き、対談の模様をお楽しみください!

「稼げるライターになる! R25世代の文章論」上阪徹×藤井大輔 対談録
2010年12月14日@ジュンク堂書店 新宿店

第13回 『書いて生きていく プロ文章論』 上阪徹さん×藤井大輔さん(後編)

2010.12.27更新

上阪さんは、どんなふうに相場観を養っているんですか?

プロ文章論イベント

藤井若かった頃はさっきおっしゃったように素で自分が聞きたいと思うことを質問していた。それは、読者と自分の「相場観」が近いことを意識されていたからできたことですよね。僕は「相場観」といえば、ライターさんにとっては3つの相場観があると思っています。

ひとつが「ターゲットの相場観」。『B−ing(ビーイング)』という情報誌は30歳前後の転職を考えている人たちに向けた視点が必要でしたよね。そういう読者の相場観。もうひとつが「仕事内容の相場観」。一緒に仕事をする編集者のタイプや、書籍と雑誌、広告など、仕事内容によっても相場観はまったく違います。同じ「書く」という仕事でも、人によってプロセスも大事にしているポイントもまったく違う。そういう仕事内容の相場観があります。

3つ目は「ギャラの相場観」。こんなに仕事をしてるのにこれだけのギャラかよ。という仕事や、こんな仕事なのにこんなにもらっていいの? という仕事まで報酬もさまざまです。ギャラが多い分にはいいですが、少なすぎるとその仕事は受けられないという話になると思います。

僕はこの3つの相場観は大事だと思っていますが、上阪さんが「ターゲットの相場観」を磨くために努力されていることって何かありますか?

上阪自分はいま44歳ですが、まだ31、32歳の頃の感覚には戻れると思っています。あの頃自分は何を考えていたか、どんなことをしていたか、そこに立ち戻って質問内容を考えたりします。もうひとつ、いまの31歳が何を考えているのかは探りますね。自分が興味のないものでも、雑誌をたくさん眺めて、見出しをチェックします。

藤井どういう雑誌をよく見ますか。

上阪あまりタイトルは覚えてないんですよね。でも、雑誌の顔つきってありませんか? 表紙のモデルの顔つきで「この雑誌は30代向けだな」ということに気づかないとまずいと思ったりします。号によってターゲットを変えている週刊誌とかもありますし、「この雑誌は誰に向けてつくっているのか」は、常にチェックしています。

書店にも毎日頻繁に通いますね。基本はビジネスマン向けの雑誌をチェックしますが、女性誌も見ます。『VERY』とか『CanCam』も見ますよ。あと、どんな人がその雑誌を立ち読みしてるかも見ます。書店のどの辺にどういう人が滞留しているのか見ますね。

藤井よく思うんですが、ネット書店だとまったく相場観がわからないですよね。

上阪ネット書店はわかりませんよね。売り上げランキングを見ても。

藤井僕も、書店にはよく行くようにしていますが、どういう人たちがどこにいるのかで、社会の縮図がわかるんですよね。

上阪ネットは面で見られないんでね。

藤井最近のネットはamazonはじめ、レコメンド広告が主流になってきているので、自分の検索履歴をもとにオススメ商品を紹介されますからね。僕の場合、写真集ばかりでてきたりします(笑)。

僕の意見はさておき、まずじっくり聞く

プロ文章論イベント

藤井仕事内容の相場観で言うと、雑誌と書籍と広告の仕事で、文章を書くときに意識は変わりますか? 広告の場合は、広告主の代弁者という感じで、キャッチコピーが出るまで考え続けますよね。

コンセプトが大事で、それが出るまで広告主さんにお伺いを立てながら進める。

雑誌の場合は、より瞬発的でダイレクトな感じが大事。ライターと編集者だけでなく、カメラマン、クライアント含めての一体感が重要だと思います。読者はおそらくこういうことが知りたいだろう、というものを記事にしていきますが、まずは自分たちが楽しむことを重視する感覚がある。

書籍は、文章の構成力や展開力、何を伝えたいのかをまず絞る。広告も似ていますが、伝え方として広告のほうがデザインやレイアウトなど視覚的な要素が強かったりします。書籍は文章そのものの構成力が大事だったりして、やりかたが違うかなと思います。

上阪そうですね。つくり方も違えば、何をどう構成するかも違ってきます。ですが、全部に共通しているのは、「効果」が出ないと意味ないでしょ、というところだと思っています。どんなに素晴らしい言葉で「素晴らしい」と語っても、効果のない広告は意味がない。だから、「効果が出る」という軸でディレクターやクライアントと話をします。雑誌の記事や書籍も同じです。狙うのは、あくまで読者からの支持であり、評価です。

でも、広告の場合はクライアントさんに、「僕はこのほうが効果が出ると思います」と言っても納得してもらえない場合は、あきらめます。そういう場合は、広告主の代弁者としてふるまいます。悪魔に魂を売り渡します(笑)。編集者の場合は、企画の方向を確認したり、打ち合わせをしたりしますが、相場観が合わない場合はすり合わせに時間がかかりますね。

だから、最近はできるだけクライアントさんでも編集者さんとでも、相場観が一致する人と仕事をしようと心がけています。相場観が一緒ならたくさん説明しなくてもわかりあえますから。何がおもしろいと思っているのかが一致する、ということです。どんなに優れた仕事をしている人でも、自分とおもしろいと思うものが一致してないと難しいですね。合わない人とはやっぱり合わない。相性とか感覚は随分あると思います。

藤井いい編集者と付き合っていくことはライターにとって大事なことだと思いますが、まだまだ駆け出しだった頃、相場観の合う合わないはどう判別していましたか?

書いて生きていくプロ文章論イベント

上阪僕の意見はさておき、とにかく、編集者がどうしたいのか。クライアントや広告制作者がどうしたいのか。それを必ずじっくり聞きました。聞いた上で僕はこう思います、と言うことが多かったかな。

そこで「上阪君それは違うよ」と言われたら素直に受け入れていましたね。幸運だったのは、ベテラン編集者とよく仕事をさせてもらったことです。ベテランの人は懐が深い。編集の仕事を俯瞰して見ることができるので、僕の的外れな意見も比較的おおらかに見てくださった。そんなベテラン編集者に自分の意見をぶつけてみて、その反応で自分が磨かれていった気がします。

藤井同世代の人とも仕事をしたくなりますよね。

上阪それは意図的にやらないようにしていました。相場観探りは、少し世代が離れた人と仕事をするのがよい気がします。でも、若い担当編集者と仕事をしたときも彼、彼女が持っていた相場観は素直に聞きましたね。「○○さんだったら読者としてどう思います?」みたいなところは素直に聞いて受け入れるようにしていました。僕だけの相場観では動かないです。だから、むしろ下の世代の相場観を大事にするのはいいことだと思います。

ところで、藤井さんは、ライターに仕事を依頼するときは、どういうところで選んでいるんですか。

藤井基本的に締め切りを守ってくれる人に頼みますが、この人は、そこまで変態的な文章を書かないだろうと想定できる安全な方から、この人の書く文章は生ものだな、きわどいなと思う人まで、けっこう幅を持たせます。どうしても安定的な人と仕事をしたくなりますが、それだと冒険がなくなってしまうのでね。

上阪『R25』も最初はけっこう激しい人いましたよね。これはどこからどう見ても絶対に締め切り守らないだろうなという人がたくさんいました(笑)。

藤井『R25』発刊当初は、『噂の眞相』が休刊になる直前くらいだったので、そこで書かれていた方とか、『BUBUKA(ブブカ)』や『サイゾー』などで書いているサブカルに強い人たちを呼んで、メジャーなものをつくりたかったんですね。「800字で書いてくれ」と頼んでも「何で俺が字数守って書かなきゃいけねーんだよ」という方たちばかりでしたが(笑)、こちらの意義を感じてくれて一緒にやってくれました。

上阪『R25』はある種、特殊ですよね。そういうライターさんは、どうやって連れてくるんですか?

藤井僕は飲みとかですね。先輩からの紹介も当然ありますが、単純に飲みにいって、その場にいる人と後々仕事に繋がっていくことが多いです。

プロになるためにすべきこと、ダメなこと

藤井最後に、プロになるために絶対にやったほうがいいことと、お勧めしないことを教えてください。

ちなみに、僕から先に言わせてもらいますと、「締め切りを守る」ほうが得ですね。そもそもこの業界は守らないことがスタンダードなので、締め切りを守るだけでいきなりアドバンテージになる(笑)。
お勧めしないこととしては、職業ライターとして仕事をしていきたいなら、あまり自分の仕事を限定しないほうがいいのかな、と思います。ただ、作家的なポジションを本気で狙うのであれば、地道に得意なジャンルを続けるしかありませんが。

上阪漠然とした答えになってしまいますが、「自分の運を信じる」みたいなことですかね。僕は、今日ここでお話させていただいているのも何か意味があると思っています。誰かに会うことも、誰かに取材することも、その仕事をさせてもらったことも、失敗したことも、転んだことも、全部意味があることだと思っています。そのひとつひとつを自分でどう受け止められるか、感じ取れるかが大事なんじゃないかなと。

世の中に何万人もライターがいるなかでお仕事をもらえているわけですから、仕事をいただけること自体に感謝しなくてはいけないし、すごいことだと思っています。また、そういう受け止め方をすることによって、たぶん世の中が違って見えてくる。

もうひとつ、いまフリーランスのライターを15年やってきて思うのは、無駄なことはひとつもなかったということです。小さなことで「なにやってんだ俺・・・」と落ち込んで暗くなったこともありますが、その状況も全然無駄じゃなかった。40過ぎてからも無駄なことはひとつもなかったし、たぶん一生このまま無駄なことなしに進んでいくんだろうと思う。ひとつひとつのことや毎日をいとしんで生きていこう、と思うようなりました。

藤井ライターという職業だけでなくすべての職業にいえることですよね。

上阪そうかもしれませんね。

藤井ちなみに、かつて書いたメモや文章を読んで過去を振り返ったりすることはありますか?

プロ文章論イベント

『新しい成功のかたち 楽天物語』(講談社)

上阪ないですね。ただ、書いたものをじっくり読み返すことはないけれど「あのときあの本で何言ってたかな?」と見返すことはありますかね。最初に自著で出した書籍『新しい成功のかたち 楽天物語』はまえがきとあとがきに自分の思いのたけを書いたので、それはときおり読んで原点に戻ることはあったりします。

基本的には振り返りませんが、その時の経験、インタビューさせていただいた方の言葉は身体の節々に刺さっています。本当に貴重なものをもらっていたと思います。それは今後、もっともっと伝えていかないといけないと思っています。


上阪さんに質問

Q.下調べ、する? しない? 

上阪事前の下調べは徹底的にやります。でも、インタビューのときは、徹底的に調べました、という顔はしません。

あと、原稿は仕事をいただいたときに相手の意向を聞いた時点で、ゴールの完成型をある程度つくります。取材に行く前には、最低でも原稿の8割方はイメージできている状態にしておきます。その構えがあるので、それ以外のことをたくさん聞けるのかもしれません。

藤井雑誌をつくるプロセスでいうと、その時々の時代感とか空気感が、1カ月、2カ月後にはどうなっているかをまず想像して、なんとなくの落としどころを決めます。その落としどころを決めた後に、この落としどころはどんな人がどんなふうに感じるか考えて、自分の頭のなかの他者と脳内セッションします。

その人たちの反応が、おもしろい、つまらない、いろいろあるときに、頭のなかで8割くらいの人たちが青色を点灯する、おもしろいと感じ始める言葉がある。その言葉を使って、タイトルをつくっていく。

タイトルが決まればあとは、ラフ(仮レイアウト)を起こして、どのライターさんに何をお願いするか、スケジュールを組むだけです。そういう意味では、脳内トークセッションとそのなかのキーワード抽出およびタイトルづけが一番大事にしているところです。

Q.クライアントと意見が異なる場合、どうする?

プロ文章論イベント

上阪ひとつは、原稿を最終形にする前の段階で「おおよそこんな感じになります」ということを見せます。あらかじめ相談しておかないと、広告は絶対にうまくいきませんね。

のっけから最終形のアウトプットをぼーんと見せると「こんなんじゃないんだよね」となってしまいます。ラフの段階で方向性を相談した上で制作を進めていくことが大事です。途中経過で相談する場合は、向こうの脳もやわらかいので、いろいろと話を聞いてもらえます。

藤井そうですね。ただ、本気でクライアントがチェックするのは最終原稿ですし、担当者はいいといっていたのに、その上がダメだと言い始めることがありますよね。そういうときは、そういう運命だったと受け入れるしかないですよね。

上阪そうですね。

藤井広告は、必ず営業がいて、営業の先には代理店がいて、代理店の先にはクライアントの担当者がいて、その上に上司がいますから、全員の顔をたてなきゃいけない。そういう意味では、広告は靴の上から足をかくようなもどかしさが必ずあると思います。

上阪宿命なんですよ。

藤井ただ、調整できることがあるとすれば、自分の意見をまるで相手の意見のように言わせるテクニックがあります。それは直接お会いできた時の話ですが。

上阪もうひとつは、そこで鍛えられておくのがいいんです。そこで一生懸命対応しておくと、例えば、お仕事を出してくださったディレクターさんや編集の方、その先のクライアントさんはちゃんと見ていてくれます。そこでつながっておくと、思わぬところから仕事がきます。辛くても一生懸命やっていると神様はちゃんと見ているので、いつか花が咲く時がくると思います。

司会まだまだ質問もあるかと思いますが、時間が参りました。この辺で締めさせていただきます。みなさんのお仕事、また就職活動などにも今日の話が役立てば大変うれしく思います。上阪さん、藤井さん今日は本当にありがとうございました。

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上阪徹
藤井大輔

上阪徹(うえさか・とおる)
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。 アパレルメーカーのワールド、リクルート・グループなどを経て、95年よりフリー。 経営、金融、ベンチャー、就職などをテーマに、雑誌や書籍などで幅広く執筆や インタビューを手がけている。 インタビュー集に『プロ論。』(徳間書店)シリーズ、『外資系トップの仕事力』(ダイヤモンド社)、 『我らクレイジー☆エンジニア主義』(中経の文庫)。 著書に『新しい成功のかたち 楽天物語』(講談社)、 『600万人の女性に支持される「クックパッド」という ビジネス』(角川SSC新書)、 『「カタリバ」という授業』(英治出版)などがある。

藤井大輔(ふじい・だいすけ)
1973年生まれ。95年大阪大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。 「ゼクシィ」「AB-ROAD」「ダ・ヴィンチ」「都心に住む」などの媒体に携わる。 2004年「R25」創刊に関わり、2005年より編集長。ウェブ、R25式モバイルなどの クロスメディア展開に携わり、2006年「L25」創刊。 現在、リクルートR25エクゼクティブプロデューサー。

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