本のこぼれ話

ミシマ社創業5周年特別記念企画第三弾の詩写真集『透明人間⇄再出発』は、デザイナーの寄藤文平さん、印刷設計(株)さん、製本所さんたちの知恵や技、思いがつまった"世界初"の本に仕上がりました。いったいどんなところが"世界初の造本"なのか? 従来の本の製本方法と比較しながら、本書の造本の秘密をご紹介いたします。

第18回 詩写真集『透明人間⇄再出発』の造本の秘密を大公開!

2011.12.16更新

特殊製本「ENバインディング」とは?

『透明人間⇄再出発』は、実用新案を申請した「ENバインディング」という特殊製本の技術を基本につくられています。

本の綴じ方には、「中綴じ」「糸かがり綴じ」「アジロ・無線綴じ」「PUR綴じ」などがあるのですが、「ENバインディング」とは、「アジロ・無線綴じ」の本を開いたときに、用紙が湾曲することなく、ぱかっとスムーズに開くように考案された製本方法です。

本のなかでも、写真集や絵本などは、本の開きがよい方が好まれるため、「糸綴じ」が採用されることが多いのですが、他の製本方法にくらべて、製本工程が増えるためコストがかかったり、本を開いた際に糸や糸穴部分が見えてしまうのが気になったりするのが難点でした。

「ENバインディング」は、糸を使わない「アジロ・無線綴じ」で、なおかつ、ページ数の多い分厚い本でも180度に難なく開く製本方法なのです。なぜ「アジロ・無線綴じ」でも、ぱかっと本が開くのか? その秘密は、出版業界では常識の「折り」を使わないところにありました。

「折り」を使わない製本方法

本の印刷・製本の工程は、「印刷→折り→綴じ→断裁」という流れになっています。
ふつう、本の本文は、4ページ、8ページ、16ページ、32ページなどの「折り」で構成されています。本文を印刷する際、一枚の大きな紙にまとめて印刷し、ページの順番が合うように折り畳まれて、ひとかたまりの束になったものを「折り」といいます。

例)16ページの場合

従来の「折り」を綴じた製本方法では、本の開きに限界があるため、「ENバインディング」では、印刷した本文を折り畳まずに、一ページごとに断裁し、一枚ずつページ順に揃えていきます(これを「ペラ丁合(ちょうあい)」といいます)。これに柔軟で強力な接着剤を塗布して背を固めることで、「アジロ・無線綴じ」でも開きのよい製本が可能になるのです。

他にも、落丁や乱丁を防ぐために、小口を糊で仮止めしたり、面付け(印刷用紙に各ページを配列すること)を、本の企画に沿ってその都度アレンジしたりするなど、「ENバインディング」は製本の技と知恵を結集させた製本方法といえるのです。

交互に違う用紙が重なりあう"世界初の造本"

さらに!
『透明人間⇄再出発』では、詩のページは半透明の用紙、写真のページは通常の用紙と交互に用紙が変化していくのです。本書が"世界初の造本"と謳うのは、まさに、この点にあります。これにより、写真と詩のページ、詩のみ、写真のみと、三通りの楽しみ方があります。本書のコンセプトである「透明人間と再出発」「詩と写真」「ふたつの視点」「二面性」がきれいに落とし込まれたブックデザインだと自負しております。

また、詩を印刷している半透明の用紙にも、大きなこだわりがあるのです!


左:ろうびきした純白ロールの紙 
右:ろうびきする前の純白ロールの紙

詩のページは、「純白ロール」という包装用紙を使用しています。「純白ロール」は、トレーシングペーパーのような透け感のある紙ではないのですが、「純白ロール」の表面を蝋で加工すること(蝋引き)によって、独特の風合いのある半透明の紙になります。「純白ロール」は、紙の片面がつるつるした質感で、もう片面がざらざらした質感の紙なのですが、本書では、ざらざら面の方に詩を印刷し、つるつる面の方に蝋引きをしています。(ちなみに、このような昔ながらの蝋引きができる機械は、都内に数台しかないそうです)。

なお、蝋引きをした紙は、本の製本で使用する通常の糊では接着しないため、本書の製本では、知る人ぞ知る特殊な接着剤を使用しています。ろうびきした紙が本文用紙として使用されたことが今までなかったので、こちらも世界初の挑戦でした。

"世界初の造本"の製本現場に潜入!

去る12月1日、"世界初の造本"の製本現場をひとめ目にすべく、製本所さんのある埼玉県の朝霞へ向かいました。朝霞台駅からタクシーで製本所さんへ向かう道すがら、出版社の物流倉庫や回送業者さんなどの会社をあちこちに見かけ、朝霞の町が出版社の関連業務と深いかかわりがあることを感じました。

今回、『透明人間⇄再出発』の製本をしていただいたのは、宮田製本所さん。宮田製本所さんは、難しい造本の際には、デザイナーさんから直接ご指名が入るほど、厚い信頼を寄せられている製本所さんです。

仕様書との照合やページ番号の確認など、ふつう印刷会社がチェックすることも、宮田製本所さんではオペレーター、ライン責任者、工場長がトリプルチェックをしていて、事故を未然に防いでいるそうです。

「これはいい企画だね! 製本が難しいから!」
と黒田工場長(趣味はトロンボーン演奏)。

いよいよ製本ラインが始動!
左の写真が製本機にかける前の『透明人間⇄再出発』の本文です。「ペラ丁合」のため、手でひとつひとつきれいに整えてから製本機にかけます。

第15回本のこぼれ話

製本機にかけられた本文は、背に接着剤を塗布され、表紙にくるまれます。今回、非常に特殊な接着剤を使用しているため、通常よりもラインの速度を遅くして、接着剤が乾く時間を多く取っているそうです。

第18回 詩写真集『透明人間⇄再出発』の造本の秘密を大公開!

テストで何冊か製本して仕上がりを見ながら、製本機を微調整していきます。特に、接着剤の厚さが0.3ミリになっているかルーペで確認して、本の開き具合を入念にチェックされていました。0.1ミリ違うだけで、本の開き具合が全然変わってくるそうです。


本の開き具合をチェックする印刷設計の加治屋さん
(ENバインディングの考案者です!)。


ルーペで接着剤の厚さを確認するアダチ。


『透明人間⇄再出発』の製本現場に取材に伺ったので
ぜひ、動画もご覧くださいませ!

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