本のこぼれ話

みなさん、『幻聴妄想かるた』って、ご存知ですか?

『幻聴妄想かるた』は、東京・世田谷区にある精神障害者の就労継続支援B型事業所「ハーモニー」に集まる人たちが、自らの幻聴や妄想の体験をもとにしてつくったかるたです。

このかるた、ふつうのかるたとはひと味もふた味もちがったユニークでシュールな世界が繰り広げられているんです。

「あ!」「ありがとう幻聴さん ありがとう大野さん イライラする」
「は!」「はやくつかまってほしい若松組」
「む!」「むりやり私は天皇にされるところだった」

そのつきぬけた魅力で注目を集めており、各メディアでも続々と取り上げられています。

「(一人一人の自己紹介)これがものすごく面白い。下手な小説よりもはるかに面白い。」(立花隆『週刊文春』「私の読書日記」より)

「自分とのつながりをまったく感じられない世界を、人は笑うことはできません。『笑える』ということが、何よりこのカルタの世界と僕たちの世界が地続きであることを表していると思うんです。」名越康文「夜間飛行」スペシャルレビューより

「幻聴妄想かるたは(与謝野晶子と違って)原因の説明はなく、結果だけがある。この唐突な不条理こそが魅力になっている」(穂村弘『文學界』も詩も詩 第1回「詩の助走」)

「ユーモアなんてものが発生する(脳内の)場所は、実は"こころの病"が発生する箇所のすぐそばなのかも。」(高橋源一郎 『本の時間』「国民のことば」より)


・・・といったように錚々たる方々が激賞している話題のかるたなんです。

『幻聴妄想かるた』を抱腹絶倒しながら遊んで、その世界を堪能したアダチとハヤシ。
「このおもしろい商品の存在を多くの人に伝えたい!」
「これを商品化した医学書院さん、すばらしすぎる!」
そんなふつふつとした熱き思いを抱いて、編集担当の石川誠子さんへ取材を敢行し、『幻聴妄想かるた』の魅力をたっぷりとご紹介します。
さあ、みなさん、ご一緒に『幻聴妄想かるた』の世界に、レッツ・ダイブ!

(聞き手:足立綾子・林萌、文:足立綾子)


*「就労継続支援B型事業所」は障害者自立支援法に基づく就労継続支援のための施設で、「B型」とは、契約を結ばず、利用者が比較的自由に働ける非雇用型の施設のこと。ハーモニーは、精神障害をもつ人たちの地域生活を支援しています。

本のこぼれ話:第18回 みんなで遊ぼう!『幻聴妄想かるた』編集:石川誠子さん

『幻聴妄想かるた』(ハーモニー編著、医学書院)

かるた92枚(絵札・読み札 各46枚)、解説冊子「露地」に加えて、ハーモニーの利用者の普段の姿や制作風景を撮影したDVD「幻聴妄想かるたが生まれた場所」、女優・市原悦子さんによる「読み札音声」CDが付録された豪華版。定価2415円






第19回 みんなで遊ぼう! 『幻聴妄想かるた』編集:石川誠子さん

2012.04.05更新

「ありがとう」なのに、「イライラする」ってどういうこと!?

第18回 みんなで遊ぼう! 『幻聴妄想かるた』編集:石川誠子さん

―― 最初、このかるたが、精神病の方の幻聴と妄想をもとにつくられたものだとは知らずに、解説冊子「露地」をぱらぱらっとめくったら、かるたの読み札のフレーズが、目に飛び込んできまして。

「この言語感覚、なんなんだー!」と衝撃をうけました。解説冊子のタイトルも、またいいですね。

本のこぼれ話:第18回 みんなで遊ぼう!『幻聴妄想かるた』編集:石川誠子さん

解説冊子「露地」
かるたの遊び方、札についての解説のほか、ハーモニーの利用者の自己紹介と体験談、謎の組織「若松組」との戦いの記録など、おもしろさ全開の120ページ。

石川そうなんですよ。

「露地」ってタイトルは、ハーモニーの利用者のひとりである無意識天国さん(仮名)が、自分にとってのハーモニーは「まるで一期一会のお茶をいただくために露地を通り、茶屋へと向かっているような気分のするところ」と語ったエピソードに由来しているんですよ。

―― かるたとして遊んでもおもしろいですし、たとえば、「あ」の札の「ありがとう幻聴さん ありがとう大野さん イライラする」って、ただ読み上げて、声を発するだけでもおもしろい。

石川私もこの「あ」の札、好きなんですー! はじめにこれ見て、やられますよねー!

―― そうなんですよね。

本のこぼれ話:第18回 みんなで遊ぼう!『幻聴妄想かるた』編集:石川誠子さん

「四六時中ある幻聴や妄想は、ありがたいときもありますが、多くの場合はうざったくイライラします。そのような気分を少しばかり投げやりな言い方で表現しています。」(「露地」p.13より)

「ありがとう」ってきて、「イライラする」ってどういうこと!? って、思いますよね。それから、長いフレーズのものもありますよね。

石川「ビルボードトップフォーティー トップの曲 僕が作りました 普通妄想だと思うでしょ 本当だよ」の「普通妄想だと思うでしょ」のところが、またしびれますよね。

―― ほかにも、「新宿の女番長がそんなことは 話しちゃいけないと言ってくれる」とか。

本のこぼれ話:第18回 みんなで遊ぼう!『幻聴妄想かるた』編集:石川誠子さん

「彼は、何者かが自分の頭のなかに機械をそなえつけて、考えていることを傍受していることに困っています。(中略)新宿の女番長は良い人で、人の頭のなかのことに口出しするなと怒っているのだそうです。いわば味方です。」(「露地」p.18より)

石川「女番長」なんて、いまどき言いませんよね。

―― かるたの読み札の言語感覚は、突き抜けているんですけど、「露地」のなかの読み札の解説は、落ち着いたユーモラスな語り口なんですよね。

かるたの札と解説をセットで読むと、『幻想妄想かるた』の世界がさらに鮮やかになって、そこにすっと引き込まれました。

『幻想妄想かるた』の制作の裏側

―― まずは、このとてもユニークな『幻聴妄想かるた』がつくられた経緯を教えてください。

石川『幻聴妄想かるた』は、最初、2008年にハーモニーが独自につくったものです。2005年10月に障害者自立支援法が成立したのですが、その法律は障害者の自立が強調されたものだったんですね。施設の利用者さんの月収をひとり1000円から3000円にあげなくてはならないことになって、かなりの切迫感があったらしいんです。

―― ええーっ! それは危機でしたね・・・。

石川最初、集団精神療法士の藤田貴士さんが「自分たちの妄想を劇にして、老人ホームとかで見せて、お金をもらおう」って言ったんですって。でも、みんなに「それって、誰も見ないだろう」って、即却下されて(笑)。

―― (笑)。みなさん、冷静ですね。

石川じゃあみんなの妄想を資本にして、なにかの商品にしようということで生まれたらしいのです。学生をハーモニーに実習に行かせていた日本赤十字看護大学の先生が、『幻聴妄想かるた』の存在を私に教えてくださいました。

―― 医学書院さんでかるたを出されたのは、はじめてですか?

石川実は昔、『老人ケアかるた』という、ものすごい大不作だったかるたがありまして。本のかたちで、厚手の紙をはさみで切ってかるたにするタイプのものでした。読み札も「老婆は一日にしてならず」とか・・・。

―― ああーっ・・・。

石川そういうオチるようで、オチないかんじだったんですね(笑)。私が、『幻聴妄想かるた』を出すっていったら、うちの会社の人はみんな『老人ケアかるた』が売れなかったことをぜったい思い出すなーと。まず、それが障壁だと思いましたね。だからこれを通してくれた会社もずいぶん勇気があったなあと思っています。

―― 解説冊子「露地」は再編集されたのですか?

石川全体的なレイアウトや構成などに手を加えましたが、基本的にはほとんどオリジナルを活かした形にしました。

―― 「露地」で、ハーモニーの利用者の方々の生い立ちや病歴などが書かれている「ヒストリー」の項目がありますよね。あのなかで、書き出しの一文が「しし座です。」といきなり始まるものがあって、すごく斬新だなと思ったんですよね。

石川そうですよねー!! そういう「持ち味」を殺しちゃダメだとも思っていました。

―― 「ヒストリー」を読んで、病気になる前はごく普通の生活をされていた方が、たくさんいらっしゃることに驚きました。ふつうに就職して仕事を頑張っていた方が、肉親の死をきっかけにものすごくさみしくなってとか、人間関係のもつれでものすごい恐怖感に苛まれて、病気になられたことを知り、私の身近な人が精神病になってもおかしくはないんだなと思いました。

おかしくて笑ってしまうのは、不謹慎ではない

―― かるたの読み札の音声を市原悦子さんにお願いしたのは、どういう経緯があったのですか?

石川かるたを誰に読んでもらいたいかをハーモニーのみなさんで考えてくださって、候補者のリストをくださったんです。水前寺清子さん、歌のお姉さんのはいだしょうこさん、あとは世田谷区長とか、ガンダムに出てくるシャアの声の人とか・・・(笑)。

―― ええっ! シャアですか!? びっくりするほど予想外の候補者の方々ですね。

石川そのなかで、最後のあたりに、「市原悦子(日本昔ばなし)」ってあって、いちばん可能性があるのかなって思いました。そこで、市原さんに「これは、障害者アートです!」って書いた渾身の企画書を送りました。

―― 市原さんの反応はいかがでしたか?

本のこぼれ話:第18回 みんなで遊ぼう!『幻聴妄想かるた』編集:石川誠子さん

20年以上、「若松組という組織に狙われている」という幻聴・妄想に悩まされている亜礼木小僧(あるきこぞう・仮名)さん。若松組は、隣の部屋から、換気扇から、冷蔵庫から、四六時中つきまとっているそうですが、一度もその姿を見たことがないのだとか。

石川収録されたものを市原さんがチェックされているときに、「若松組」とかをご自分で聴かれて、「ククククク」って肩で笑われていて。でも、途中で「あ、笑っちゃいけない」と思われたのか、笑うのをぴたっとやめられていましたね。こちらとしては「いや、おもしろければ、笑ってください!」ってスタンスなんですけれども。

―― そうなんですよね。私も笑っちゃいけない、不謹慎なんじゃないかなって、はたと思ったりしました。でもこのワンフレーズを聞いたら、おかしくてたまらない。痛快ですらあるなあと。

石川笑ってほしいっていうふうに彼らは思っているみたいですよ。固定観念を外して、脱却していただければ。

―― 『幻聴妄想かるた』の雰囲気から、かわいそうでしょとか、そういう変な先入観がまったく入らなかったので、こちらも素直に楽しめましたね。

石川北海道にある、浦河べてるの家ってご存知ですか? 年に一回、べてるまつりってあるんですが、そこで幻覚妄想大会というのがあって、その年でいちばんぶっとんだ幻覚妄想により、行動をおこした人に賞を与えるというものがあるんです。

―― すごいっ! それは毎年チェックしたい賞ですねー。

石川そのべてるの人たちにも『幻聴妄想かるた』で遊んでいただいているのですが、幻聴がふだん激しい人ほど、札を取るという結果が出たと聞きました。

かるたに集中しているときは、幻聴がぴたっととまるのだそうです。「今日は具合悪いみたいだから、"幻かる"一本、入れとくから」とか、新しい処方として使えるのではないかと思っています。

お坊さんも『幻聴妄想かるた』に熱視線!

石川あと、お寺の住職さんが『幻聴妄想かるた』にものすごく反応を示されたんです。自分のお寺の檀家さんに妄想がある方がいて、つらいときは「南無阿弥陀仏」と唱えて、心をそっちに集中させて、妄想にとらわれないことを一生懸命やっているのだそうです。精神病の方を、一方では病院や訪問看護などの医療が支えて、もう一方では宗教や地域が支えているんだなと思いました。

宗教関係者で、精神病の方に接している方もこういう世界への理解という意味で『幻聴妄想かるた』はおすすめですね。

―― 「きみの妄想をかるたにしてみようか」というような対応の選択肢が増えたことも画期的だと思います。

石川「かるたのなかで、あなたの妄想に似ているものはある?」みたいなところから話ができますよね。ハーモニーやべてるの家みたいに、幻覚や妄想をしゃべれる環境って本当に少ないんです。いま、苦しんでいるような方にも届くといいなと思っています。『幻聴妄想かるた』を知っていただいて、自分だけじゃなかった、孤独じゃなかったんだって思っていただけたら、うれしいです。

―― 「露地」のなかで、「わけのわからない行動は、幻聴・妄想に向かっていることで、あなたにではない」と書かれていて、私のことが嫌いでそういう行動をしているのではないんだという理解にもつながるのではないかなと思いました。

石川「露地」のなかの、「かるたにはどんな可能性があるのだろうか?」というコラムに書かれていることですよね。これは、「かるたを商品として売って、生活していくぞー!」って、かるたのキャッチフレーズをみんなで考えたものらしいんです。

―― そういうためになるような言葉もあれば、「音でいえば低音部と高音部で中間がない。」という不思議な味わいのある言葉もあるのがおもしろいですね。

石川偶然にもかるたにするために、短い言葉になったことで、少し謎が残ったり、シュールだったり、おもしろい世界がつくられたんでしょうね。

―― 今日、お話を伺っていて、『幻聴妄想かるた』は、必要とされて生まれた印象を受けました。精神病の方だけじゃなくて、幻聴や妄想の症状がある認知症の方にもよいように思います。

『幻聴妄想かるた』を売る方法を考えよう!

―― ちなみに、石川さんが好きな札はどれですか?

石川「新宿の女番長」は、なかなか好きですねー。あとは「行かされちゃう系」も結構好きなんですよ。「やはりかすかな声 『待っています』『ついて来い』 五反田から江の島まで歩いてしまう」。五反田から江の島まで歩いちゃったというのも、本人にとっては切実なんだけど、わりと好きなんですよね。あとは、「うんこの話が・・・」とか、市原さんの声で聴いてみたかったというのは、ありましたね。

本のこぼれ話:第18回 みんなで遊ぼう!『幻聴妄想かるた』編集:石川誠子さん

「自分が地球連合軍の兵士で、戦車で凱旋するリアルな夢を見ました。人々が自分を救世主だと声をあげて歓迎するのです。」(「露地」p.31より)

―― 「ローレンローレンローレン・・・」も市原さんの声がプラスされると、もうひたすらおかしくて。

石川出版労連(・・)とか思う人いないかなとちょっと心配だったんですけれども。

―― いやいや、だいじょうぶだと思いますよ。この角度の言葉って、なかなかつくれないですよね。

石川詩人さん、作家さんとか、ものをいろんな角度から求めている方の心にくるんじゃないかなーと思っておりまして、そういう方にも知っていただきたいですね。いまツイッターで『幻聴妄想かるた』が、かなり話題になってくれていますね。

―― 書店さんの店頭でDVDを再生して、かるたと一緒に展開したりとか、どうでしょうか。

石川医学書コーナーで、市原悦子の読み札音声が流れているとか。

―― 思わず気になって、立ち止まりますよね!

石川営業妨害だっていわれたり・・・。

―― 書店員さんに何人か集まって、かるたで遊んでいただいて、実際に中身を知ってもらったら、長く売ってくださると思うのですが。

石川医学書院という「堅いっしょ」みたいなところが出すから、おもしろいのかなーと思うんですけどね。NHKがふざけるとおもしろいじゃないですか。

―― 医学書院さんからこういうものが出ると、おもしろいし、しかも信頼感があるから、ものとしてはいいものという印象があるんですよね。

石川これで遊んだら、少しぐらいの鬱なら飛びますよね。

―― かるたをいくつか見本で見せたようなパネルとか、書店員さんの感想が書かれたポップとかがあったら、まだまだ売り伸ばせる可能性があるのではないかなと思います。全国の書店員さん、『幻聴妄想かるた』をぜひぜひ、店頭でご展開ください! 石川さん、ありがとうございました!


~書店トークイベントのお知らせ~

『幻聴妄想かるた』のオリジナル版を作成した就労支援B型事業所ハーモニーのみなさんによる講演が開催されます。制作秘話を直接聞けるこの機会にぜひ、お立ち寄りくださいませ。事前お申し込みは不要、参加費は無料です。

日時:4月20日(金)18:30~(45分間)
場所:紀伊國屋書店新宿南店3階「ふらっとすぽっと
参加費:無料

*ミシマ社のちゃぶ台で『幻聴妄想かるた』で遊んでみました! かるたのフレーズのユニークさ、それを読み上げる市原さんの声の雰囲気がわかると思います。どうぞご覧ください!

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

石川誠子(いしかわ・なりこ) 

医学書院看護出版部4課所属。
医学書院ひとすじ20年。雑誌「精神看護」の編集を約10年、現在は雑誌編集に関わりつつも、おもに書籍編集を担当。「医学書院編集者の最終兵器」「『精神看護』をアサ芸化した女」とは同僚S氏の言。『女って大変。』(澁谷智子編著)などの編集を担当。最近はもっぱら「明けても呉、暮れても呉」。精神病学・医史学の大家・呉秀三先生が90年前に出した本を現代語訳する企画に奮闘中。

*看護師のためのwebマガジン「かんかん!」のなかで、「編集者イシカーさんのまた買っちゃいました」を連載中。「1つあったら4つあると思え」。サプリメント、クッション、コーヒー豆など、イシカーさん、いろいろ大量買いしています・・・。

本のこぼれ話:第18回 みんなで遊ぼう!『幻聴妄想かるた』編集:石川誠子さん

バックナンバー