本のこぼれ話

 益田ミリさんが英語の本を!?
 数年前、ミシマ社メンバーたちも「へ~」「いったいどんな本なんだろう」と驚きの声をあげました。まったく想像がつきません、といった表情で。
 2014年1月30日、日本全国に、同様の衝撃が走ったのではないか。そんなふうに妄想たくましくする私(本書の担当編集者)が、著者の益田ミリさんに、とっておきの制作秘話をうかがいました。
 編集した人間が言うのもなんですが、かなりユニークな方法で本書は練りこまれました。そして、本書の執筆を通して、益田ミリさんが発見された数々は、ぜひとも多くの方々にお届けしたいものばかりです。
 ちなみに、『みちこさん英語をやりなおす』は、ミシマ社では『ほしいものはなんですか?』以来となる益田ミリさんの書き下ろしコミックエッセイでもあります。

(聞き手・構成:三島邦弘)

第28回 『みちこさん英語をやりなおす〜am・is・areでつまずいたあなたへ〜』益田ミリさん特別インタビュー

2014.02.03更新

「2年前私来たことあるんです」が言えなくて

―― 『ほしいものはなんですか?』を持つとよくわかりますけども、薄さが全然ちがいますね。

益田あ、ほんとだ。けっこう違いますね。

―― 2冊を並べると、統一感もあっていいですね。

益田いいですね〜。
 帯を外したときの、先生の「こちらこそ」っていうのが好きなんです。生徒と先生、互いに学び合う感じが出ていますね。

―― 一緒に作らせていただいたのですが、今日はあらためておうかがいさせていただきます。
 当初、どんな本になると思ってらっしゃいましたか? そもそも、どういうきっかけ、どういうタイミングで、こういう本を書いてみようと思われたのでしょうか。

益田もともと本のことはまったく考えていませんでした。
 海外に取材や旅行に行くことが立てつづけにあったとき、いろんな手続きは基本的にチケットを持ってれば、なんでもうまくいくんです。けど、たとえば、スーパーで買い物したときに、後ろにいたおばあさんが、「日本から来たの?」「私は去年日本に行ったのよ」などと言われることがあります。そんなとき、私も「今回2回目なんですよ」って言いたい。言いたいけれど、出だしの単語もわからなくて・・・。せっかく話しかけてくれた人に、「2年前に私来たことあるんです」ということさえ言えず。残念だったなあ、って思うことが何回もありました。

―― そういうとき、かなしくなりますよね。

益田そうなんです。それから英語をやり直したいなあって思うようになりました。
 で、ことあるごとに、「英語ってどうやったら勉強できますか?」って周りに聞くようになって、「同じアメリカ映画を毎日毎日見ると自然に耳に入る」とか、いろんなアドバイスをもらったのですが。あるとき三島さんにも「英語を今やりたいんです」って話をしたら、「僕は英語が得意だ」と言う。では、「教えてください」とお願いしたのです。
ミシマ社で本を書くことになったきっかけは、いろんな人たちに言いふらした結果、やっと先生に会えたから。

―― うー、得意なんて、とても言えるレベルじゃないんですけどね・・・(苦笑)。

益田(笑)。なので、三島さんとも最初のほうは、TOEICで点数が上がることを目標にするとわかりやすいですかね、などと話してました。実際、2人で受けに行ったりして、試行錯誤しましたが、なんか違うなってなったんですよね。

―― はい。徹底的に違いました。いわく言いがたいのですが、TOEICを受けて、これではないことだけははっきりわかりました。

益田もっと基礎が大事だなと思ったんですね。
 おばあさんに「2年前に行ったよ」って言うには、やっぱり英文法がわからないとできない。小さなことがわからないとしゃべり出せない勇気が、ちょっとわかることによって、しゃべれる勇気に変わる。そんな勉強にしたい、と前向きな感じで始めることにしたんですよね。

―― そうです。そう思えるようになったという意味では、TOEICを受けたのは良かったですね。

益田はい、とても良かったと思います。自分に必要なことが明確になりました。それから勉強するようになりました。月に1回くらい、2年間くらいでしょうか?

―― そうですね。


覚えが悪いからできないと思っていたけど

―― 実際に始めてみて、なにか発見はありましたか?

益田英語の勉強ができなかった理由が自分でもわからなかったんです。けど、やっていくうちに、「遠慮があって質問ができない」っていうことに気づいていきました。これは発見でした。
それまでは、私は覚えが悪いからできないって思ってたんです。途中であきらめちゃったりすることも多くて・・・。あとは、わからないことがすごく恥ずかしくて、わからないことがばれないように、わかったフリをする。三島さんに英文法をしばらく習い始めてからも、もんもんとうまくいかなかったんですが、しつこいくらい例題を出してもらって進めていくと、すごく勉強がやりやすいことがわかりました。

―― こちらは、質問されるがままに、考え出してお答えしていただけです。ただ、aやtheにつまずいて、そこをもう1回解釈し直すっていう作業が、どう本につながるのかはまったく・・・。ある程度いったところで、今回ラフをぽろぽろといただくようになって、そこまでは、どういう本になるか想像もつきませんでした。

益田テキストっぽさが出ない本、漫画で読み進められる本にしようということは、決めてました。

―― レッスンの時にいっぱいノートに書き留めてらっしゃいました。で、ノートがどんどんたまっていって、それと絵がこういうふうに結びつけられたのは、どうしてなんだろう、とびっくりしました。

益田そうですね、私も(笑)。結局自分が、あ! わかったって思うまでやると、漫画も進むんです。けど、「なんかあのへんはあんなに先生に教わったから、今さらもう1回聞けないな」ってなると、漫画も進めない。それで、また戻って戻って、となる。
くりかえし訊いているうちに、あ! わかったって自分で思えると、漫画も進む。

―― 益田さんの中で、勉強の途中段階で、これはわかったかなって思い、ラフを描こうとされた時期はあったんですか?

益田あります、あります。描き始めるんですが、止まってしまう。やっぱりわかってないので。それで、戻ってもう一度質問をする。

―― その粘りが・・・、ほんとすごかったです。絶対に、「英語ってそういうもんだから」というふうに流すことはなかったですよね。

益田たとえばtheですけど、theの使い方を勉強して、わかった後に、じゃあTHE MANZAIやThe Beatlesのtheは何なんだって思う。普通は、それは例外だからって言われるから訊かないんですけど、それを訊ける楽しさが今回ありました。勉強につまずいている人って、「例外」と「本道」に戸惑うんだと思います。例外はただ覚えれば良いってなるんですけど、それでは納得いかなくて・・・。

―― そこを流さない、というのが本書なんですよね。そうすると、初級か上級かは関係なく、両者ともに、ほお〜っていう発見が訪れる。

益田そうなんですよ。


*明日は、初級、上級を問わず訪れる「発見」についてのお話です。お楽しみに!

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益田ミリ

1969年大阪府生まれ。イラストレーター。

主な著書に『すーちゃん』『結婚しなくていいですか。すーちゃんの明日』『どうしても嫌いな人』『すーちゃんの恋』などのすーちゃんシリーズ、『週末、森で』『47都道府県女ひとりで行ってみよう』(以上、幻冬舎)、『オレの宇宙はまだまだ遠い』(講談社)、『夜空の下で』『泣き虫チエ子さん』(以上、集英社)、『おとな小学生』(ポプラ社)、『ほしいものはなんですか?』『みちこさん英語をやりなおす』(ミシマ社)などがある。作を手掛けた絵本『はやくはやくっていわないで』(平澤一平・絵、ミシマ社)は、第58回産経児童出版文化賞を受賞。『だいじなだいじなぼくのはこ』(平澤一平・絵、ミシマ社)も大人気。

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