本のこぼれ話


 みなさん「銭湯経済」ってご存じですか?
 ミシマ社の新刊「シリーズ 22世紀を生きる」の第3弾『「消費」をやめる〜銭湯経済のすすめ』の刊行記念イベントが2014年6月26日にスタンダードブックストア心斎橋店で行われました。
 表紙の袖には次のような説明が載っています。

銭湯経済
空虚感を埋め合わせるための消費欲に支配されることなく、職住が隣接した町のなかで、見知った顔の人たちが働き、暮らし、銭湯に浸かる。その落ち着いたリズミカルな暮らしが営まれる、半径3km圏内でめぐる経済。

 大きな反響をいただいたミシマ社刊『小商いのすすめ~「経済成長」から「縮小均衡」の時代へ』の著者、平川克美先生が自身の実体験とともに、暮らしと経済が隣接する新しい社会のあり方を提言します。

 そんな平川先生と対談していただいたのは、シリーズ第1弾である『人生、行きがかりじょう』の著者、バッキー井上さん。喫茶店のマスターでもある平川先生と、漬物屋、居酒屋の店主でもあるバッキーさんが、それぞれ実践する「銭湯経済」を語ります。
 お2人のコミカルだけど深い、噛み合っていないようでいて、実は息ぴったりな名対談をご堪能ください。

(構成:鍋島綾、写真:新居未希)

平川克美×バッキー井上 銭湯経済を語る

2014.07.25更新

*その1はこちら

修繕経済〜機械と僕との由縁

バッキー僕は子どものとき、東山区っていうとこに暮らしたことがあって、そこはわりと職人さんの多い町やったんです。今行くともう商店街はなくなってるし、店もないし、歩いている人もいませんしね。これは何があかんのかといつも思うのはね。あのー・・・エアコンがあかんのちゃうかと。

平川エアコンか・・・(笑)。

バッキー僕はだいたいエアコン嫌いなんですけど。エアコンがあるとやっ ぱ窓閉めますでしょ。窓閉めたらやっぱりなんかこう。窓と戸閉めてる家ばっかりのとこ歩くより、窓と戸開いてる家ばっかりの道歩いたほうがなんか気持ちえぇでしょね。エアコンなんかなかったらええと思うんですよねぇ〜。

平川・・・。

一同(笑)

バッキーいやほんまに! エアコンどうですかね?

平川・・・んーもうバッキーはすごい。

バッキーちょっと銭湯経済につながる・・・?

平川・・・ちがう。

一同 (笑)。

バッキーじゃ平川さんこれはどうですか? あのね、「しゅうぜん経済」!

平川

バッキー僕漬け物屋なんでね、冷蔵庫わりとたくさんいるんですけどね、業務用のやつがまぁ潰れますでしょ? わりとドアが潰れることが多いんですよ。

平川うんうん。

バッキードアが潰れると、メーカー呼ぶとね、その、ユニットごと全部交換しなさいて言うんです。

平川へぇ〜。

バッキーでも僕はヒンジとか、つけてる金具を1から集めて作ったらね、もとに戻るんちゃうかなぁと思うんですよ。でもメーカーから来られる方は、そういうのは受けたらアカンて多分ゆわれてるんだと思うんですよね。

平川うん、交換したほうが安いんですよ。

バッキー安いんですよね? なにもかもね、ユニット交換みたいなことになるんです。前に二層式洗濯機使ってたときも、修繕するんやったら、出張費と修理費で、3万くらいかかって交換したほうが安いっていうわけです。ほな僕が長いこと付き合ってきたその二層式洗濯機との由縁はどうなるんやと。

一同(笑)

バッキーそれをね、やっぱりね。いや、そのほうが得で安いから、ということを言うんで。もう全然話噛み合ないなと。

平川それはね、まさにレヴィ・ストロースのブリコラージュなんだけど。ちょうどね、僕が20年くらい前、ダイムラークライスラーの修繕リペアマニュアルみたいなのを日本語にしたんですけど、車一台にだいたい20万くらいの部品があって。

バッキーへぇ〜。

平川修繕だから、なんか壊れたと持っていくと、ダイムラーは、スタンダード・テキスト・フラット・レートていうものを用意していたわけ。それは何かっていうと、バンパーの脱着交換にいくらって、全世界アメリカでやっても中国でやっても同じ時間、1時間はいくらだと言うように、どこでも一緒と。

バッキーなるほど。

平川ようするに、マクドナルドのフィレオフィッシュが、魚がたくさんとれる所で売っても、山の中でも同じ値段だというのと同じ発想なんです。すべて、修繕というのではなく脱着交換なんです。

バッキー交換なんですね。

平川そう、ユニットごと全部交換すると。ある時期に世界がそういうふうに変わったわけです。これは当然その人件費が部品の原料より高くなった時点で、資本家がそういう考え方を始めたと。だからそこでそのバッキーと洗濯機の由縁とかさ、そういうことは考えてないわけですよ。彼らはね。

バッキーねえ。ほんとに。

平川だからそれに対して、やっぱ対抗していくことはものすごい大事なこと。

バッキーそうですよね。そんで僕あの冷蔵庫の件でね、昔やったら修理できる人が周りにいくらでもいはった気がしたんですけど。

平川いたいた!

バッキー探してみるとなかなかおられなくて。ほんで、ちょっと本気になって探したらお会いできましてね。もう無表情で「あーできるでー。」って。

平川年寄り?

バッキーそうですね。っていうても70代ですけど。ほんとに無表情で。「なにゆーてんの当たり前やん」みたいな感じでしたね。


銭湯の掟

平川全部横に繋がっていくから、同じなんですよね。修繕っていう、この話も銭湯経済に関係あるんですけど。

バッキーあーやっぱそうですか。

平川銭湯には掟があるんですよ。ゼミの学生を温泉に連れていったら、みんなザバーンとそのままお湯に入っちゃう。したら中にいるじいさんが、「おい、ちゃんとキンタマ洗って入れよ!」って言う。あ、そういうことも知らないんだなと。お湯は身体を綺麗にしてから入る、使った桶谷やイスはちゃんと元の場所に戻す、風呂からあがる前に身体を拭いて床をびちゃびちゃにしない......それはなんなのかなと思ったら、銭湯はいろんな人が共有している生活の空間なんです。

バッキーなるほど。

平川僕が子どもの頃はものすごい格差社会だった。地域にはお金持ちもいれば職人も物売りもいてみんな同じ風呂にくるわけです。でも風呂ではそのことは問われないんです。そして全員が基本的なルールはわきまえている。僕はわきまえないガキだったんですけど。風呂に行くときは必ず潜水メガネを持っていく。

一同(笑)

平川風呂は二層になってて、その下はあいてるんだよね。そこをくぐりぬけることをやって、頭バーンってはたかれて。そうやって大人になっていくわけです。

バッキーそうですね〜。 

平川「銭湯は町の学校である」っていう標語を詩人の田村隆一さんが書いていて。みんなで共有する生活の場って今もう銭湯しかないんですよ。昔は用水路のところに洗い場があってそこで野菜洗ったりなんかして。みんなで何かひとつのもの、ひとつの場を共有するって、そのときには必ずそこに一定のルール、つまり「ものを大切にしながら修繕しながら長く使う」っていうのが生まれるんです。この価値観が73年以降、正確には85年くらいに全部ひっくりかえるんですよ。大量生産大量廃棄の時代でまったく逆に、「ものを大切にしてはいけない」って。

バッキーうんうん。

平川だからそういう意味でも銭湯が定常経済の最後の砦だと思うんです。

バッキー漬物もね。


*いかがでしたでしょうか? 修繕経済と銭湯経済がこれからの鍵となりそうです。『「消費」をやめる』、ぜひお手にとってみてください!

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平川克美(ひらかわ・かつみ)

1950年東京生まれ。1975年、早稲田大学理工学部機械工学科卒業。渋谷道玄坂に翻訳を主業務とするアーバン・トランスレーションを内田樹らと共に設立、代表取締役となる。現在、株式会社リナックスカフェ代表取締役。立教大学特任教授。著書に『小商いのすすめ 「経済成長」から「縮小均衡」の時代へ』(ミシマ社)、『ビジネスに「戦略」なんていらない』(洋泉社新書y)、『株式会社という病』(文春文庫)、『経済成長という病』(講談社現代新書)、『移行期的 混乱―経済成長神話の終わり』(筑摩書房)、『俺に似たひと』(医学書院)などがある。


バッキー井上(ばっきー・いのうえ)

1959年京都市中京区生まれ。高校生のころから酒場に惹かれ、ジャズ喫茶などに出入りする。水道屋の職人さんの手元を数年した後、いわゆる広告の「クリエイティブ」に憧れ広告会社にもぐり込む。画家、踊り子、「ひとり電通」などを経て、37歳で現在の本業、錦市場の漬物店「錦・高倉屋」店主となる。そのかたわら、日本初の酒場ライターと称して雑誌『Meets Regional』などで京都の街・人・店についての名文を多く残す。著書に『たとえあなたが行かなくとも店の明かりは灯ってる。』(140B)がある。

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